Episode 20
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マンションに着いてエントランスをくぐり抜けて部屋前まで来ると、凛はようやく降ろされた。
ちなみに部屋前に来るまでに他の住人に目撃され、この上ない羞恥に耐えられなかった凛は始終両手で顔を覆い隠していた。
「恥ずかしすぎて死ねる・・・」
「あれくらいで恥ずかしがるとは・・・
凛は初心ですね。」
凛と同様に他の住人に目撃されていたにも関わらず、何ともない顔で答えた沖矢に凛は遠い目をした。
普通は恥ずかしいものでしょと文句を言いながら、鞄の中から住居の鍵を取り出して鍵穴に差す。
「でもここまで送ってくれてありがとう。
良かったらお茶でもどう?」
「それは嬉しいお誘いですね。
是非いただきます。」
凛は部屋の鍵を開けて玄関ドアを開けると、沖矢を招き入れた。
「どーぞ。」
「ありがとうございます。」
沖矢は玄関で靴を脱いで揃えてから上がると、先を歩いていた凛に続いてリビングへと向かった。
「・・・時に凛。」
「んー?」
凛はキッチンにある戸棚の中から紅茶の茶葉を取り出しながら返事をする。
その彼女の後ろ姿に向かって、沖矢は再度口を開いた。
「以前の来葉峠の時に持ってきてくれていたポリジュース薬と言う魔法薬は、どうやって作るんだ?」
「昴も魔法薬に興味があるの?」
キッチン台に数種類の紅茶の茶葉が入った缶を並べて、沖矢にどれがいい?と凛は尋ねる。
沖矢は並べられた紅茶の缶を順番に見てから、アールグレイの缶を指差した。
凛は了解と言って、アールグレイの缶を開けて、スプーンで中から茶葉を取り出してポットへ入れる。
「調合部屋見てみたい?」
「あぁ、俺が見ても大丈夫であれば。」
魔法薬という物をずっと気になっていた沖矢は、二つ返事で頷いた。
「いいよ。
せっかくだから調合部屋で紅茶飲もっか。」
凛は手際よくポットに湯を注ぎ、置いていた砂時計を反対にひっくり返す。
その間にミルクポットにミルクを注ぎ、レモンを薄切りにして小皿へ添える。
沖矢の好みで飲めるよう配慮してくれているのだろう。
その凛の無駄のない美しい動きに、沖矢は思わず感嘆の声を漏らした。
ティーカップに紅茶を注ぎ入れた凛はトレーにそれと茶菓子のクッキーを乗せると、行こっかと手招きした。
凛に案内されて初めて入った調合部屋は、沖矢が目を見開く程の空間だった。
「・・・すごいな。
まるで本の世界にいる気分だ。」
「そう?」
凛は調合部屋にあるテーブルへティーカップとクッキーを並べると、沖矢をソファへと誘導した。
沖矢は礼を述べて、目に前にあるティーカップを手に取って口を付けると、そのアールグレイの美味しさに自然と笑みが出る。
「相変わらず、凛の淹れる紅茶は最高だな。
とても美味い。」
「お褒めに預かり光栄です。
さて、昴はポリジュース薬をどうやって調合するのか気になるんだっけ?」
「あぁ。
別に他にも魔法薬があるなら、そちらでもかまわない。」
「うーん・・・
魔法薬ならこの部屋にあるほとんどが魔法薬に関するものなんだけど・・・
あそこの棚は、調合された魔法薬が並ぶ棚。
あっちの棚は、魔法薬を調合する為に必要な材料が並ぶ棚。
そっちの棚は、魔法薬を調合する為の本とかその他の参考本とか諸々・・・
あと、そこが魔法薬を調合する台。」
ザッと話す凛に、沖矢は今一度調合部屋を見回した。
彼女と自分の住む世界が違うんだと、改めて実感した沖矢は、感慨深げに魔法薬が並ぶ棚に視線を移した。
「魔法薬を調合するのは楽しいか?」
「うん。
調合が苦手な人も居るけど、私はとても好きだよ。
魔法薬ってね、とっても繊細なものなの。
たった少しの違いで失敗しちゃうし、そのたった少しの間違いで人を殺める毒を作る事にもなる。」
神秘的でしょ?と笑って話す凛に、沖矢の魔法薬に対する興味は湧き上がる一方だ。
「魔力を持たない人間が、魔法薬を調合する事は可能なのか?」
「んー、どうだろ・・・
出来ると思うよ。
魔力が必要な所は私がするし、基本的には自分の知識と手を使うだけだから。
・・・調合してみたい?」
凛の申し出に、沖矢は食い気味で頷いた。
「ふふ、いいよ。
昴は筋が良さそうだから、すぐに成功させそうだね。」
そう言って微笑んだ凛に、沖矢も微笑みかけた。
そしてお互い予定の空いた日にまた連絡をすると決めた沖矢は、紅茶も飲み終えたところで帰る事にした。
玄関で靴を履き、沖矢を見送る為に着いてきていた凛に視線を移す。
「美味しい紅茶をご馳走様でした。」
「いきなり完璧な昴モードで来るのね。」
「・・・痛いところを衝いてきますね。
僕も戻りどころを迷っていたところなんです。」
そんな沖矢の発言に、なんだそれはと顔を破綻させて笑う凛。
その彼女の頭に、沖矢の手は自然と伸びる。
「・・・そんなに私の頭は撫でやすい?」
凛の言葉で、彼女の頭を撫でていた手をピタリと止めて首を傾げる。
「そう言われれば・・・何故か無意識の内に自然と手が伸びて撫でていました。」
「それは何故だろうね。」
「んー・・・庇護欲をそそられるのでしょうか?」
手を口元に添えて考える沖矢に、凛も首を傾げる。
「庇護欲?そそられてるの?」
沖矢は片目を開眼させてチラリと凛を見やる。
そして、フッと口の端を持ち上げて頷くと、再び凛の頭を軽く撫でてから玄関ドアを開けた。
「では、また・・・
おやすみなさい、凛。」
パタンと玄関ドアが締まり、残された凛は自身の手を頭の上に乗せた。
「・・・つまり透さんもそう思ってるって事か?
なるほど、私はゴリマッチョになればいいのだな。」
凛は筋トレをする事を強く決意した。
