Episode 20
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由美たち三人と別れた凛は、暗い夜道を一人で歩いていた。
酒で火照った頬を夜風が撫で、それがとても心地よかった。
(由美ちゃんたちとの飲み会、楽しかったなぁ。
また約束出来たし・・・ふふ、楽しみ。)
鼻歌交じりに上機嫌で歩いていると、ふと背後に人の気配を感じた。
凛が振り返って確認するも、そこにはただ暗闇が広がっているだけだ。
電気の切れかかった街灯がチカチカと明滅し、その場を明暗させる。
何か居るーーーー
直感でそう感じ取った凛は、視界に映らぬ何かに構えた。
しばらく見えない暗闇を睨み付けていたが、何も見付からない事に首を傾げ、再び前を向いて歩き始めた。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
凛の履くヒールが音を鳴らし、静かな夜道に響く。
確かに聞こえる。
彼女のヒールの音以外に、何者かの足音がーーーー
凛は早歩きで道を進むも、その足音も速くなる。
立ち止まり凛が振り向いた次の瞬間、その足音の主はわずか数十cmの距離に居た。
目の前に居る目出し帽を被った男に、凛はすぐさま後ろへ飛んで距離を取ろうとした。
しかし、それは叶わなかった。
なぜなら、凛の腕を掴んだ男によって、喉元にナイフを突き付けられていたからだ。
「ーーーー声を出すな。」
喉元に突き付けられたナイフに、凛の身体はピタリと止まる。
袖口に隠した杖をこっそり出そうと、右手を後ろへ回そうとする。
「・・・動くのもやめろ。
でなければ、今すぐに刺す。」
(・・・あー、マジか。
こりゃ最近の私は平和ボケしてて身体が鈍ってるな。)
凛は目の前の状況に途方に暮れた。
男からとりあえず距離を取りたかった凛は、素直に男の言う通り声を出さず、動かずに居る事にする。
「鞄を寄越せ。」
言われた通りに鞄を差し出す。
男は凛の鞄を受け取ると、彼女の顔から足先をジロリと見やる。
まるで品定めをするかのような視線に、凛はまさかな・・・と嫌な予感がした。
「・・・お前も高く売れそうだな。」
「何でだよ!!」
凛の嫌な予感が見事的中し、盛大にツッコミを入れた。
そんな彼女のツッコミも虚しくスルーされ、男に素早く俵担ぎにされる。
「離せっ!」
「叫べば今すぐに殺す。」
「このーーーーっ」
凛が渾身の力を込めて、目の前にある男の背中を殴ろうと拳を振り上げた瞬間ーーーー
「・・・おや、お取り込み中のようですね。」
見知った声に、凛は男の肩越しにその声の主に視線を移す。
「すっ昴!?」
目出し帽の男に担がれている女が凛だとわかった瞬間、沖矢の目は開眼された。
「誰だお前は・・・
邪魔するようなら殺すぞ。」
「それはそれは・・・
出来るものならやってみればいい。」
沖矢がそう言うと同時に、男の顔に向かって拳を突き入れた。
あまりにも一瞬の出来事に男が理解する間もなくそのまま意識を手放す。
そして、意識を手放した男の腕から凛は落ちそうになった。
「ぅわ!?
ちょ、待っーーーー!」
来る衝撃に備え、凛は受け身の体制を取ったが、いつまで経っても身体に衝撃は襲って来なかった。
恐る恐る目を開けると、目の前には開眼した沖矢の顔があった。
「大丈夫か?」
「・・・あれ?」
沖矢に横抱きにされている事に気付いた凛は、すぐに彼が落ちる自分を助けてくれたのだと理解した。
「あ、ありがとう・・・
本当に助かったよ。」
「まさか誘拐されそうになっていた女性が凛とはな・・・」
「私もまさか自分が誘拐されそうになるとは思わなかったよ。」
沖矢は凛を横抱きにした状態で、器用に男が持っていた彼女の鞄を手に取った。
自分をいつまでも横抱きをしたままの沖矢に、凛は目を瞬かせる。
「・・・もう降ろしてもらっても大丈夫だよ?
鞄もありがとう。」
「凛は危なっかしいからな。
このまま家まで送ろう。」
「・・・何故に?
え、百歩譲って送ってくれたとしても、降ろしてくれて良くないですか?
てか、喋り方が完全に戻ってない?」
「危なっかしいからダメだ。
今は周りに誰も居ないから大丈夫だろう。」
「・・・何故に???」
これ以上頼んだ所で降ろしてくれないと悟った凛は、大人しく沖矢にされるがままでいた。
「そう言えば・・・昴もボクシングしてるの?」
「あれはボクシングじゃない。
截拳道と言うんだ。」
「ジークンドー?」
「あぁ。
中国拳法の一つだ。
特定のスタイルに囚われず、実用性と効率性を追求した武術・・・と言ったところか。」
「へぇ。
すごいなぁ・・・カッコイイね。」
微笑みながら褒める凛に、沖矢は嬉しく思い、自然に微笑んだ。
