Episode 20
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「おっ来た来た!
凛~!こっちー!」
とある居酒屋の店前で待っていた由美は、向こう側から歩いて来た凛の姿を見付けると、笑顔で手を振った。
その由美を見付けた凛は、小走りで店前までやって来た。
「待たせちゃったよね・・・
遅くなってごめんね?」
「全然待ってないから大丈夫よ。」
「良かったー!
由美ちゃんも苗子ちゃんも美和子ちゃんもお仕事お疲れ様!」
この日、凛は兼ねてより約束していた、由美、苗子、佐藤の三人と飲み会に来ていた。
割と最近オープンしたばかりのこの居酒屋は、完全個室でメニューも豊富、盛り付けは芸術のように美味しく、さらにはリーズナブルといった点からとても評判で予約が殺到しているらしい。
「凛もお疲れ様。
じゃあ、入りましょうか。」
佐藤が店のドアを開けて入り、続いて由美たちも店内へ入った。
個室に案内された凛たちは、最初にビールと適当に数種類のつまみを頼んだ。
しばらくして頼んだつまみやビールが個室に届くと、四人はビールジョッキを手に乾杯をした。
「ぷはーっ!
生き返るー!」
「由美ちゃんの飲みっぷり素敵ー!」
ビールジョッキ片手に豪快にビールを喉に流し込んだ由美を見て、カッコイイ!と凛は惚れ惚れした。
その凛に、隣に座っていた佐藤が笑った。
「ちょっと凛?
由美の飲みっぷりはカッコイイとかじゃなく、ただのおじさんよ、お・じ・さ・ん!」
「こらー、美和子!
失礼だぞー!」
「あら、事実でしょ?」
「由美さん、次もビールでいいですか?」
「おねがーい!」
手早く追加の酒とつまみを店員に頼む苗子に、凛は出来る女子、嫁に欲しい・・・と思った。
しばらくお互いの近況報告で盛り上がった後、いくつになっても女が大好きな恋愛話へと変わっていた。
「えーっ美和子ちゃんの彼氏は高木刑事だったの!?」
「そ!」
「職場恋愛って素敵でいいなぁ。」
「そうかしら?
ちなみに三池も同じ職場の人が彼氏よ。」
「はい!
佐藤さんと同じ捜査一課の人です!」
「なんと!
警視庁の美女たちを彼女に出来るとは・・・心底しあわせ者で羨ましい!
てことは由美ちゃんも?」
「由美の彼氏は、羽田 秀𠮷さんよ。」
聞いた事のある名前に、凛は首を傾げた。
「んー?
その名前、どこかで聞いた事のあるような・・・」
「ちょっと、私の事はいいのよ!」
由美はすかさず佐藤を制したが、その顔は赤くなっている。
もちろん、その赤みはアルコールのせいではない。
その由美を佐藤はニヤリと笑みを浮かべながら揶揄う。
「なぁに?
そんなに由美の愛しの太閤名人の話はされたくないって言うの?」
「たいこう・・・太閤!?
まさかっ由美ちゃんの彼氏って、つい最近テレビで流れてたプロ将棋士の人なの!?」
凛の驚きの声に由美は照れながらも小さく頷いた。
「・・・そうよ。」
「きゃーっとっても素敵ーっ!」
「由美はプロポーズもされてるものね。」
「なぬ!?
由美ちゃんはもうすぐ新妻になるの!?」
佐藤と凛の言葉に恥ずかしさに耐えられなくなった由美は、一気にビールを喉に流し込んだ。
「はい!
私の話は終わり!」
すぐさま話の矛先を変える為に、由美はテーブルに肘を着いて前のめりになった。
「ーーーーで?」
由美の前に座っていた凛は、由美からの突然の投げ掛けに目を瞬かせる。
「へ?」
「"へ?"じゃないわよ。
凛は恋人居るの?」
「ななななな何故私の話になるんだ!?
由美ちゃんの話はどうなったの!?
詳しく教えてよー!」
「それはさっき終わった!
美和子と三池と私の話が終わったんだから、凛の話になるのは当たり前でしょー!」
由美は頬を高揚させながら、ビシッと人差し指を凛に向けた。
これは由美ちゃん酔いも入ってる!?と思った凛は、隣に座る美和子に助けを求めるべく視線を移した。
「まぁ、確かに気になるわよねぇ。
凛の恋人の有無。」
救いの手を振り払われた佐藤の言葉に、凛はすぐさま苗子に視線を移す。
「私も気になります!
凛さんみたいな可愛い人の恋人!」
再び救いの手を振り払われた凛は、三人からの熱い視線に根負けした。
「ーーーーこ、恋人は居ません。」
「へぇ、意外!
なら好きな人は?」
由美の言葉に、以前であれば即答出来ていたはずの"それも居ない"という言葉が、凛の口からは出なかった。
「好きな人はーーーー居る。」
何故だか隠そうとはしなかった。
自分ではない誰かに対して少しでも口に出して認める事で心が軽くなる気がした。
次の瞬間、隣の部屋からガラスの割れる音がした。
凛は反射的にその音に釣られて、視線を隣の部屋に繋がる壁へと向けた。
しかし、凛の話を聞いていた三人は、隣の部屋の騒音よりも彼女の話に食いつく。
「誰!?」
「どんな人!?」
「写真とかないんですか!?」
さらに詰め寄ってくる三人に、凛は視線を戻して頬を染めながらポツリポツリと話し始めた。
「誰かはちょっと秘密・・・
どんな人かは・・・えっと、とても優しくて・・・
とても頼りになって・・・
とても紳士で・・・
とてもカッコよくて・・・
とても素敵で・・・
いつも自分の事より周りの事ばかり気にかけてて・・・
写真は、ないかな。」
「へぇ~。
今の凛の顔、すっごく可愛い~!
よっぽどその人の事が好きなんだねぇ。」
由美の言葉に、凛はへにゃりと笑った。
「・・・うん、大好きなの。」
ドンッ!!!
突然隣の部屋から聞こえてきた大きな音に、由美は眉間に皺を寄せながら呟いた。
「さっきから隣は何してんのよ・・・
うるさいわね・・・」
「凛さんはその人に想いを伝えないんですか?」
苗子が首を傾げながら尋ねると、目を伏せた凛が頷いた。
「・・・うん。
彼に想いを伝えると彼の負担になるだけだから・・・
ごめん、辛気臭くなっちゃったかな。
飲み直そっ!」
笑いながら追加で注文している凛の姿に、佐藤たち三人は眉を下げた。
