Episode 22
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雨の中、凛は自宅のマンションまで走っていた。
そう、あの後雨は止むどころか本降りとなり、強い雨が街全体を一瞬で包み込んでいた。
久しぶりに全速力で走った足はすぐに疲労が溜まり、呼吸が追いつかずに肺が悲鳴を上げていた。
(・・・あーすんごい身体なまってる。
これくらいの走り込みで息上がっちゃうなんて・・・
運動がてら走り込みーとか思わず、さっさと姿くらましで帰れば良かった。
どこか雨宿り出来そうなところあるかな・・・)
凛はぜぇぜぇと息を荒くしながら、素早く周りに目を向けた。
すると、閉店した店だろうか。
シャッターが閉められた店がポツンとあり、そこに長い屋根があった。
凛はその屋根の下へ行くと、少しの間ここに居ても迷惑にならないかどうか心配した。
(閉店したお店・・・かな?
少しの間雨宿りさせてもらっても大丈夫かな?
ごめんなさい、少し場所をお借りします。)
凛は誰も居ないシャッターに向けて両手を合わせてペコリと軽くお辞儀をした。
頭に被せていたストールは、もはや雨避けの意味を成さず、大量の水を含んで重くなっていた。
凛は頭にある重いストールを取り去ると、ギュッと捻って絞った。
ボタボタと絞られたストールから大量の水が落ちたが、それでもまだ雨水がストールの端からポタポタと落ちた。
続いて雨水を含んだ髪からとめどなく水滴が落ちていた為、凛は軽く髪を絞った。
「はぁ・・・はぁ・・・
やば、肺が苦しい。
酸素の供給追い付いてないし・・・
これが運動を怠った者への洗礼か・・・」
自嘲しながら髪に含んだ水分を絞っていると、ふと目の前に陰が落ちた。
凛が顔を上げると、目の前にはひどく焦った、でもどこか怒っているような表情をした安室が立っていた。
「え・・・」
今ここに居るはずのない人物に、それ以上の言葉が何も出なかった。
すると、安室は手に持っていたタオルを凛の頭に勢い良く被せた。
「貴女は!
どうして周りを頼らないんですか!!」
「わっぷ!
ちょ、待ってよ!」
凛は慌てて静止の声を投げ掛けたが、安室は聞く耳持たず。
問答無用で凛の頭をワシワシッと拭きながら、安室は続けた。
「園子さんに送ってもらうか、蘭さんから傘を借りれば良かったじゃないですか!」
「私如きのせいで、園子ちゃんを遠回りさせるワケにも蘭ちゃんの大切な傘を使うのは忍びないーーーー」
「でしたら、ポアロにある傘を使えばいいでしょう!?」
「いや、他のお客様で傘を忘れた人が居るかもーーーー」
「こんなに濡れるまでに、何故姿くらましを使わなかったんです!?」
「これを機に怠った身体を鍛えようかと走り込みをーーーー」
「また風邪をひきたいんですか!」
「いやっ、冷える前にとりあえずビタビタで気持ち悪かったから髪絞ってから魔法で乾かそうとーーーー」
「ーーーーっ
魔法に頼る前に僕に頼ればいいじゃないですか!」
「すみません!!
ごめんなさい!
禿げそうです!!
毛根から火が噴きそうです!」
優しい拭き方から一変してガシガシッと乱暴気味に拭かれて、凛は涙目になった。
タオルの隙間からチラリと安室の様子を見ると、安室は眉間にシワを寄せながらも優しい拭き方に戻った。
「・・・透、ポアロは?」
「間違えて出勤してきたマスターと代わりました。」
「マスター・・・おっちょこちょいだね。」
凛はふふっと微笑みながら、濡れた白いストールを広げた。
「結構強く絞っちゃったから、シワになっちゃった。」
「僕がアイロンしておきますよ。」
「んーん、お気に入りだから自分でシワ伸ばしする。」
「お気に入りなんですか?」
「そう!」
凛は濡れたストールを羽織ると、その場でくるりと回ってみせた。
「ほら、真っ白で長いから天女様の羽衣みたいで綺麗でしょ?
昔、私のお母さんから聞いた御伽噺が忘れられなくてさ。
今思えば烏滸がましいにも程があるのに、いつか私も天女様になるんだーって小さい頃の私の夢。
だから私もその御伽噺の天女様みたいな羽衣が欲しくて・・・」
自分で言っておきながら、急に恥ずかしくなった凛は次第に声を小さくした。
そして言葉を途切ると笑って誤魔化した。
「ふふ、なーんてね。
アラサーが何言ってんだかって話よね。」
静かに話を聞いていた安室は、濡れてまだ端からわずかに水滴が落ちてるストールを掬い取ると、切なげに微笑んだ。
「・・・羽衣、ですか・・・」
「ん?」
「・・・羽衣が濡れたら、天女は空に帰れなくなると言いますね。」
「透?」
「このまま・・・羽衣が濡れていてくれればいいのに・・・」
あまりにも切なげに話す安室に、凛は何も言えずただ安室の目を見続ける事しか出来なかった。
どこか哀しさを含んだような雨音と雨の匂いだけが二人を包み込んだ。
すると、安室はいつもの優しげな笑みに戻った。
「・・・なんて、ね。」
「ーーーーっ
か、からかったのね!!」
「どうでしょうね。
さぁ・・・帰りますよ。
雨はまだまだ止みません、送ります。」
「ついでにここで姿くらましして帰るからーーーーいや、透に送ってもらいたいな。
すみません、お願いします。」
安室の無言の圧に秒で負けた凛は、慌てて魔法で自身を乾かすと、停めてあったRX-7に乗り込んだのであった。
