本作のヒロイン オペラップの本名
出会いー交際
ヒロインの名前
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※今回、ヒロインはPMSの為情緒不安定です。
オペラップの桜色心糸ライブが終わって少し経った頃。
ホークスは、受話器を握りしめながら歌織へチームアップの依頼をしていた。
「こんにちは、オペラップさん。
実は今抱えてる事件、少しばかり心許なくて……また手伝ってもらえませんかね?」
コール音が切れて彼女の声が聞こえた瞬間、思わず声が弾んでしまう。
ホークスは自分の声色が尋常でない熱を帯びているのを悟られないよう、慎重に言葉を選んで紡いだ。
だが——
「……あの、すみません……今日から1週間くらい、私……『良絽鼓舞』が使えないんです……。
頼ってもらったのに、お力に添えず申し訳ないんですが……」
受話器の奥から聞こえてきたのは、いつもの太陽のようなハッキリとした声ではなく、どんよりと湿り気を含んだネガティブな応答だった。
「……どうかしたんです? 体調不良や怪我ですか?」
いつもと様子が違いすぎる歌織に、ホークスは胸の奥がキュッと締め付けられるような違和感を覚える。
すると、彼女は酷くばつが悪そうに口を開いた。
「……いや、その……怪我とか病気の類ではないのですが……
……なんというか、パーソナルな問題と申しますか……
……とにかく、良絽鼓舞は無理なんです。
他のアシストでも良ければ伺えますが……」
言いづらそうにしながらも、彼女はきっぱりと断りを入れた上で代替案を出してきた。
(……とりあえず、様子は見た方が良いだろう)
ホークスはすぐに思考を切り替え、落ち着いたトーンで返答する。
「ええ。
良絽鼓舞が無くともあなたの個性は頼りになる。
どうか力になってください」
「……そういうことでしたら」
歌織はしぶしぶと承諾の意を告げ、電話を切った。
◇
数日後、オペラップは再び福岡の地に立っていた。
「……私、役に立てるのかしら……」
駅前の喧騒の中、一人ぽつりと呟く。
「……最近ようやくヒーローとして花開いてきたとこだったけど……引かれないかな……」
重い足取りで不安が過るが、歌織は意を決してホークス事務所の扉を叩いた。
「……お邪魔しま〜す……」
「……オペラップさん!
今日はお呼び立てしてすみません。ご協力に感謝いたします」
出迎えたホークスは、いつにも増して丁寧に、優しく彼女に接した。
「……いえ、電話でお伝えした様にお役に立てるか分かりませんが……精一杯努めますので、どうぞよろしくお願いします」
暗い表情のまま、ぺこりと頭を下げる歌織。
(……オペラップ。あれからざっと経歴を漁ってみたが……)
彼女のプロフィールを脳内で反芻する。
18歳で歌唱ヒーロー『オペラップ』としてデビューし、2年間サイドキックとして活動。
その後、商業ビルを購入してオーナーとなり『おぺら食堂』を立ち上げた。
食堂の運営やボランティア等の地域活動をメインに行い、ヒーローとしては地元メインで細々と活動。
それが半年ほど前からサポートヒーローとして頭角を現し、プロの間で話題に上がるようになった……。
(……彼女のヒーローとしてのデータが少なすぎて、対して出てこなかった)
事件解決数も平凡で、個人のヒーローとしては特筆するほどの事がないレベル。
公開されている情報は決して多くなかったのだ。
「……ではオペラップ、今回の依頼なのですが」
ホークスが事件の概要を説明しようとしたその時、緊急アラートが鳴り響いた。
『——連絡!
福岡臨海エリアの物流倉庫にて、強盗ヴィラン集団が発生!
倉庫内に立てこもり、特殊な硬化・装甲個性を展開中! 至急現場へ向かってください!』
「……行きましょう、オペラップ」
「……はい」
◇
現場の物流倉庫は、重厚な鋼鉄の装甲を纏った大型ヴィランによって封鎖されていた。
弾丸もホークスの剛羽も弾き返すほどの圧倒的な防御力。近寄る者を薙ぎ払う巨腕。
「俺の個性での力押しは時間がかかりますね……裏に回って——」
ホークスが指示を出しかけたその瞬間。
静かに前へ歩み出た歌織の横でイントロが流れる。
その瞳には光がなく、いつもの快活で陽だまりのような彼女の面影は微塵もない。
暗く、底冷えするような声で、彼女は歌い始めた。
『——こちら、幸福安心委員会です』
不気味で無機質なメロディが戦場に響き渡る。
歌織の指先から繰り出された『ヤマアラシ』と『スズメバチ』が、空間を狂気で塗りつぶしていった。
「な、なんだこの糸……ッ!?」
太く鋭い鉄杭のような『スズメバチ』が鋭利な音を立ててヴィランの周囲を穿ち、逃げ場のない「糸の牢獄」を作り上げる。
そして間髪入れずに放たれたのは、細く小さな無数の心糸——『ヤマアラシ』だ。
本来なら、相手を牽制し鬱陶しがらせる程度の手数重視・低威力の針の雨。
しかし今の歌織が放つ『ヤマアラシ』は違っていた。
シュバババババババッ!!!
「ぐああっ!? ひ、皮膚を……突き抜けて……っ!?」
無数に繰り出された細い針の一本一本が、強固な硬化個性を誇るヴィランの装甲をいとも易々と貫通した。
束となって襲いかかる針の豪雨が、相手の四肢に深く、長く沈み込んでいく。
「……幸福なのは義務なんです。
分かってますか? 義務ですよ?」
壊れたテープレコーダーのように同じフレーズを繰り返す歌織。
容赦なく大量の針を降らせ続けるその異様な光景と、攻撃の異常な貫通力に、上空のホークスすら息をのんで圧倒されていた。
瞬く間にヴィラン集団は完膚なきまでに無力化され、静寂が訪れた。
「………ホークス、お疲れ様でした…」
暗い表情のまま、ボソリと呟く歌織。
「……オペラップさん……いつも以上に鮮やかでしたね」
そう、鮮やかだったのだ。
普段、直接的な攻撃技はそこまで冴えない彼女だが、今日は違っていた。
超硬化の個性を誇るヴィランの防御を易々と貫通し、抑止力として申し分ない威力を叩き出していたのだから。
歌織は居心地悪そうに視線を泳がせながら、自虐的に呟いた。
「いやあ……お恥ずかしいです。
良絽鼓舞が使えない代わりに、攻撃技の威力が上がるんです。
……こんなにムラがあると、サポートも声かけにくいですよね……。
今週はこんな感じだと思うので、それでも良ければ……また声かけてください」
じゃあ、と力なく帰り支度を始める彼女の背中に、ホークスは静かに声をかけた。
「ちょっと人のいない所行きません?
……言いましたよね、俺……あなたに興味があるって」
ふわりと微笑むホークスに、歌織は「………はぁ」と短く呆れたような溜息を漏らした。
◇
連れてこられたのは、臨海エリアに聳え立つ高層ビルの屋上。
上空には冷たい海風が強く吹き荒れている。
柵に手をかけ、歌織がぽそりと口を開いた。
「……さっき、心糸出てたでしょ?」
「……ええ」
「……あれも全部……私の本心ですよ。
本心で歌わなきゃ、『心音頭』は発動しないので。
自分の無力も、不甲斐なさも棚に上げて……全部ヴィランのせいにして暴力で押し通す……。
そんな浅はかな本音を吐き散らす人間なんですよ、私……。
誰かのために祈れないから、良絽鼓舞が発動しないんです。
……ふふ、幻滅しました?」
いつもと変わらず口からは言葉がペラペラと出てくるものの、その音色はどれも歪みを帯びている。
自分の中にある歪な正義感が、歯止めも効かずに零れ落ちていく。
そんな彼女を、ホークスはじっと見つめていた。
(……当たり前か。聖人な訳ない。……あなたはただの人間なんだよな)
これまで、嫌というほど色んな人間を見てきた。
汚い裏の思惑を突きつけられ、嫌気が差したことも一度や二度ではない。
清廉で温かい彼女に、無意識のうちに救いを求めていた部分があったかもしれない。
だが、彼女は違った。
個性の性質ゆえなのか、光も闇も、綺麗な部分も汚い部分も、何ひとつ隠さずにさらけ出してしまう。
裏社会の暗闇を生きてきた自分にとって、その隠し事のない生の感情は、何よりも分かりやすく——狂おしいほど居心地が良かった。
「……ふーん。良いじゃないですか?
そういう日があっても。
俺なんて表に出さないだけで、色々仄暗いこと考えますよ」
フッと軽やかに笑ってみせるホークス。
歌織はそんな彼を、信じられないものを見るような目で見つめた。
「……無理しないでとか、心配されたりはよくありますけど……肯定されたのは、初めてです」
怪訝そうで、けれどどこかホッと毒気を抜かれたような表情で言葉を紡ぐ。
「そうですか? 俺で良ければいつでも話し相手になりますよ」
恭しくお辞儀をするホークスに、歌織は思わず吹き出してしまう。
「……ふふ。この時に私が笑うの、珍しいんですよ。
……君に優しくしてもらって、思いの外嬉しいのかも」
ほんの少しだけ柔らかく緩んだ歌織の横顔。
それを見た瞬間、ホークスの胸の奥が、ぎゅうっと痛いほど締め付けられた。
(……俺にだけ、見せてほしい)
湧き上がる独占欲をぐっと言葉の裏に飲み込み、ホークスはグローブを外して素手の右手を差し出した。
「……じゃあ、レアなオペラップさんを見れた記念に」
戯けた表情を浮かべる彼に、歌織は困ったように眉尻を下げた。
「……ふふ、変な記念」
握手を交わすのだろうと思い込み、歌織も右手を伸ばす。
——だが。
差し出された歌織の手をすり抜け、ホークスの左腕が彼女の腰を力強く引き寄せた。
「……っひゃ!?」
瞬時に間合いを潰され、体温が触れ合うほどの至近距離で体に密着される。
素っ頓狂な悲鳴を上げる歌織の目の前で、ホークスは逃がさないようにその美しい顔を綻ばせた。
「……今日は本調子じゃない様なので、次に会った時仕掛けます。
……逃げないでくださいよ?」
琥珀色の瞳を怪しく光らせ、耳元で熱っぽく囁く声。
ポン、と肩を軽く叩いて拘束を解いたホークスは、呆然と立ち尽くす彼女を残し、風を切って夜空へと滑らかに飛び去っていった。
「……は、はい……??」
腰に残る熱と、耳に残る妖しい予告。
嵐のように去っていった男の残像を見つめながら、歌織は真っ赤な顔のまま、ぽつんと立ち尽くすことしか出来なかった。
オペラップの桜色心糸ライブが終わって少し経った頃。
ホークスは、受話器を握りしめながら歌織へチームアップの依頼をしていた。
「こんにちは、オペラップさん。
実は今抱えてる事件、少しばかり心許なくて……また手伝ってもらえませんかね?」
コール音が切れて彼女の声が聞こえた瞬間、思わず声が弾んでしまう。
ホークスは自分の声色が尋常でない熱を帯びているのを悟られないよう、慎重に言葉を選んで紡いだ。
だが——
「……あの、すみません……今日から1週間くらい、私……『良絽鼓舞』が使えないんです……。
頼ってもらったのに、お力に添えず申し訳ないんですが……」
受話器の奥から聞こえてきたのは、いつもの太陽のようなハッキリとした声ではなく、どんよりと湿り気を含んだネガティブな応答だった。
「……どうかしたんです? 体調不良や怪我ですか?」
いつもと様子が違いすぎる歌織に、ホークスは胸の奥がキュッと締め付けられるような違和感を覚える。
すると、彼女は酷くばつが悪そうに口を開いた。
「……いや、その……怪我とか病気の類ではないのですが……
……なんというか、パーソナルな問題と申しますか……
……とにかく、良絽鼓舞は無理なんです。
他のアシストでも良ければ伺えますが……」
言いづらそうにしながらも、彼女はきっぱりと断りを入れた上で代替案を出してきた。
(……とりあえず、様子は見た方が良いだろう)
ホークスはすぐに思考を切り替え、落ち着いたトーンで返答する。
「ええ。
良絽鼓舞が無くともあなたの個性は頼りになる。
どうか力になってください」
「……そういうことでしたら」
歌織はしぶしぶと承諾の意を告げ、電話を切った。
◇
数日後、オペラップは再び福岡の地に立っていた。
「……私、役に立てるのかしら……」
駅前の喧騒の中、一人ぽつりと呟く。
「……最近ようやくヒーローとして花開いてきたとこだったけど……引かれないかな……」
重い足取りで不安が過るが、歌織は意を決してホークス事務所の扉を叩いた。
「……お邪魔しま〜す……」
「……オペラップさん!
今日はお呼び立てしてすみません。ご協力に感謝いたします」
出迎えたホークスは、いつにも増して丁寧に、優しく彼女に接した。
「……いえ、電話でお伝えした様にお役に立てるか分かりませんが……精一杯努めますので、どうぞよろしくお願いします」
暗い表情のまま、ぺこりと頭を下げる歌織。
(……オペラップ。あれからざっと経歴を漁ってみたが……)
彼女のプロフィールを脳内で反芻する。
18歳で歌唱ヒーロー『オペラップ』としてデビューし、2年間サイドキックとして活動。
その後、商業ビルを購入してオーナーとなり『おぺら食堂』を立ち上げた。
食堂の運営やボランティア等の地域活動をメインに行い、ヒーローとしては地元メインで細々と活動。
それが半年ほど前からサポートヒーローとして頭角を現し、プロの間で話題に上がるようになった……。
(……彼女のヒーローとしてのデータが少なすぎて、対して出てこなかった)
事件解決数も平凡で、個人のヒーローとしては特筆するほどの事がないレベル。
公開されている情報は決して多くなかったのだ。
「……ではオペラップ、今回の依頼なのですが」
ホークスが事件の概要を説明しようとしたその時、緊急アラートが鳴り響いた。
『——連絡!
福岡臨海エリアの物流倉庫にて、強盗ヴィラン集団が発生!
倉庫内に立てこもり、特殊な硬化・装甲個性を展開中! 至急現場へ向かってください!』
「……行きましょう、オペラップ」
「……はい」
◇
現場の物流倉庫は、重厚な鋼鉄の装甲を纏った大型ヴィランによって封鎖されていた。
弾丸もホークスの剛羽も弾き返すほどの圧倒的な防御力。近寄る者を薙ぎ払う巨腕。
「俺の個性での力押しは時間がかかりますね……裏に回って——」
ホークスが指示を出しかけたその瞬間。
静かに前へ歩み出た歌織の横でイントロが流れる。
その瞳には光がなく、いつもの快活で陽だまりのような彼女の面影は微塵もない。
暗く、底冷えするような声で、彼女は歌い始めた。
『——こちら、幸福安心委員会です』
不気味で無機質なメロディが戦場に響き渡る。
歌織の指先から繰り出された『ヤマアラシ』と『スズメバチ』が、空間を狂気で塗りつぶしていった。
「な、なんだこの糸……ッ!?」
太く鋭い鉄杭のような『スズメバチ』が鋭利な音を立ててヴィランの周囲を穿ち、逃げ場のない「糸の牢獄」を作り上げる。
そして間髪入れずに放たれたのは、細く小さな無数の心糸——『ヤマアラシ』だ。
本来なら、相手を牽制し鬱陶しがらせる程度の手数重視・低威力の針の雨。
しかし今の歌織が放つ『ヤマアラシ』は違っていた。
シュバババババババッ!!!
「ぐああっ!? ひ、皮膚を……突き抜けて……っ!?」
無数に繰り出された細い針の一本一本が、強固な硬化個性を誇るヴィランの装甲をいとも易々と貫通した。
束となって襲いかかる針の豪雨が、相手の四肢に深く、長く沈み込んでいく。
「……幸福なのは義務なんです。
分かってますか? 義務ですよ?」
壊れたテープレコーダーのように同じフレーズを繰り返す歌織。
容赦なく大量の針を降らせ続けるその異様な光景と、攻撃の異常な貫通力に、上空のホークスすら息をのんで圧倒されていた。
瞬く間にヴィラン集団は完膚なきまでに無力化され、静寂が訪れた。
「………ホークス、お疲れ様でした…」
暗い表情のまま、ボソリと呟く歌織。
「……オペラップさん……いつも以上に鮮やかでしたね」
そう、鮮やかだったのだ。
普段、直接的な攻撃技はそこまで冴えない彼女だが、今日は違っていた。
超硬化の個性を誇るヴィランの防御を易々と貫通し、抑止力として申し分ない威力を叩き出していたのだから。
歌織は居心地悪そうに視線を泳がせながら、自虐的に呟いた。
「いやあ……お恥ずかしいです。
良絽鼓舞が使えない代わりに、攻撃技の威力が上がるんです。
……こんなにムラがあると、サポートも声かけにくいですよね……。
今週はこんな感じだと思うので、それでも良ければ……また声かけてください」
じゃあ、と力なく帰り支度を始める彼女の背中に、ホークスは静かに声をかけた。
「ちょっと人のいない所行きません?
……言いましたよね、俺……あなたに興味があるって」
ふわりと微笑むホークスに、歌織は「………はぁ」と短く呆れたような溜息を漏らした。
◇
連れてこられたのは、臨海エリアに聳え立つ高層ビルの屋上。
上空には冷たい海風が強く吹き荒れている。
柵に手をかけ、歌織がぽそりと口を開いた。
「……さっき、心糸出てたでしょ?」
「……ええ」
「……あれも全部……私の本心ですよ。
本心で歌わなきゃ、『心音頭』は発動しないので。
自分の無力も、不甲斐なさも棚に上げて……全部ヴィランのせいにして暴力で押し通す……。
そんな浅はかな本音を吐き散らす人間なんですよ、私……。
誰かのために祈れないから、良絽鼓舞が発動しないんです。
……ふふ、幻滅しました?」
いつもと変わらず口からは言葉がペラペラと出てくるものの、その音色はどれも歪みを帯びている。
自分の中にある歪な正義感が、歯止めも効かずに零れ落ちていく。
そんな彼女を、ホークスはじっと見つめていた。
(……当たり前か。聖人な訳ない。……あなたはただの人間なんだよな)
これまで、嫌というほど色んな人間を見てきた。
汚い裏の思惑を突きつけられ、嫌気が差したことも一度や二度ではない。
清廉で温かい彼女に、無意識のうちに救いを求めていた部分があったかもしれない。
だが、彼女は違った。
個性の性質ゆえなのか、光も闇も、綺麗な部分も汚い部分も、何ひとつ隠さずにさらけ出してしまう。
裏社会の暗闇を生きてきた自分にとって、その隠し事のない生の感情は、何よりも分かりやすく——狂おしいほど居心地が良かった。
「……ふーん。良いじゃないですか?
そういう日があっても。
俺なんて表に出さないだけで、色々仄暗いこと考えますよ」
フッと軽やかに笑ってみせるホークス。
歌織はそんな彼を、信じられないものを見るような目で見つめた。
「……無理しないでとか、心配されたりはよくありますけど……肯定されたのは、初めてです」
怪訝そうで、けれどどこかホッと毒気を抜かれたような表情で言葉を紡ぐ。
「そうですか? 俺で良ければいつでも話し相手になりますよ」
恭しくお辞儀をするホークスに、歌織は思わず吹き出してしまう。
「……ふふ。この時に私が笑うの、珍しいんですよ。
……君に優しくしてもらって、思いの外嬉しいのかも」
ほんの少しだけ柔らかく緩んだ歌織の横顔。
それを見た瞬間、ホークスの胸の奥が、ぎゅうっと痛いほど締め付けられた。
(……俺にだけ、見せてほしい)
湧き上がる独占欲をぐっと言葉の裏に飲み込み、ホークスはグローブを外して素手の右手を差し出した。
「……じゃあ、レアなオペラップさんを見れた記念に」
戯けた表情を浮かべる彼に、歌織は困ったように眉尻を下げた。
「……ふふ、変な記念」
握手を交わすのだろうと思い込み、歌織も右手を伸ばす。
——だが。
差し出された歌織の手をすり抜け、ホークスの左腕が彼女の腰を力強く引き寄せた。
「……っひゃ!?」
瞬時に間合いを潰され、体温が触れ合うほどの至近距離で体に密着される。
素っ頓狂な悲鳴を上げる歌織の目の前で、ホークスは逃がさないようにその美しい顔を綻ばせた。
「……今日は本調子じゃない様なので、次に会った時仕掛けます。
……逃げないでくださいよ?」
琥珀色の瞳を怪しく光らせ、耳元で熱っぽく囁く声。
ポン、と肩を軽く叩いて拘束を解いたホークスは、呆然と立ち尽くす彼女を残し、風を切って夜空へと滑らかに飛び去っていった。
「……は、はい……??」
腰に残る熱と、耳に残る妖しい予告。
嵐のように去っていった男の残像を見つめながら、歌織は真っ赤な顔のまま、ぽつんと立ち尽くすことしか出来なかった。
