本作のヒロイン オペラップの本名
交際 甘々多め
ヒロインの名前
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目まぐるしい一日目も傾き、茜色の夕闇が福岡の街を包み込む頃。
ようやく本日のホークス事務所も終業時間を迎えた。
執務室の隅に置いていた自前のキャリーケースを手に取り、歌織は大きく息を吐き出す。
「はーーっ! 物凄い濃い1日だった……!!
トップ5の仕事ぶりを1日間近で見られて、私も本当に勉強になりました!
ありがとうございました」
腰を折り、ぺこりと丁寧にお辞儀をする歌織。
その姿勢の良さと凛とした佇まいにプロとしての敬意が滲む。
「こちらこそ、オペラップの支援のおかげでいつも以上に捗りましたよ。ありがとうございました」
パッと花が咲くような、メディアでお馴染みの爽やか極まりないトップヒーロースマイル。
間近で直撃を受けた歌織は、ぐっ……と心の奥で唸り声を上げながら、必死に頬の緩みを持ち堪えていた。
「じゃあオペラップ、食事でも行きましょうか」
恭しく滑らかな動作で右手を差し出してくるホークス。
その王子様のようなエスコートに、歌織は少し気恥ずかしそうに戸惑いながら口を開く。
「そうね、確かにお腹ぺこぺこ……。
……とはいえ、このまま行く?
出来れば一度着替えてから出たいんだけど……タイムロスになっちゃうかな」
ヒーロースーツを着たままでは、どうしても周囲の視線を集めてしまうし落ち着かない。
申し訳なさそうに尋ねる彼女に、ホークスはあっさりと頷いた。
「では、先に着替えましょう。俺も着替えてくるんで、少しだけ待っててもらえます?」
「おっけー! じゃあ駅前ぶらついて待ってるよ!」
手際よく約束を交わし、ホークスと一旦別れた歌織は、色鮮やかなネオンが灯り始めた賑やかな繁華街へと足を向ける。
(……福岡に来るときはいつも仕事で慌ただしいから、こうやってゆっくり街を見て回るのって初めてかもなぁ〜)
目新しいショップや美味しそうな匂いを漂わせる屋台に心を躍らせながら、気ままに歩を進める。
すると、ふと足が止まった。
色鮮やかなディスプレイが目に入ったのだ。
看板にはどーんと大きく書かれている。
——『ご当地ヒーロー!ホークス!!』特設コーナー。
ぬいぐるみ、アクリルスタンド、缶バッジ、ストラップにラバーキーホルダー、果てはロゴ入りのタオルやTシャツまで、多岐にわたるオリジナルグッズが神々しいばかりの光彩を放ち、棚一面を埋め尽くしていた。
更には『博多限定』と謳われた愛くるしいミニキャラグッズまでもがずらりと展開されている。
香ばしい焼き鳥のイラストと並んでドヤ顔を決める、「焼き鳥ホークス」。
吹き出し付きで「とっとーと?」と可愛く博多弁を喋る、「博多弁ホークス」。
あつあつの水炊き鍋を湯船に見立て、実に気持ちよさそうに目を細めている、「水炊きホークス」。
怒涛のバリエーションとポップな愛らしさ。
歌織はあまりの眩しさに思わず二、三歩後退りした。
「こ……これがトップヒーローの実力……!!」
慄きながらも、その魅力的なグッズたちから目が離せない。
これまでホークスに対して個人的な興味を持つ機会がなかった歌織にとって、こうした市場規模の差は完全なノーマークだったのだ。
「やっぱり……実力の差を感じずにはいられないなぁ……。
私のグッズなんて、地元にちょっと置いてもらってるくらいだもんねぇ」
自分と彼との絶望的な人気の差をまざまざと見せつけられ、歌織はガックリと肩を落として項垂れる。
そして、棚に陳列されたホークスのぬいぐるみと、じーっと真剣に目を合わせ——ぽつりと呟いた。
「……買おう」
迷いは一瞬で消え去った。
歌織は吸い寄せられるようにぬいぐるみを抱きかかえ、ご当地限定の方言ストラップを手に取ると、ホクホク顔でレジの列へと並んだのだった。
◇
無事に買い物を済ませた歌織は、大切そうに紙袋を胸元に抱きしめながら余韻に浸っていた。
「……お待たせ。何か良い物ありました?」
ふいに背後から、低く甘い声が耳元をくすぐる。
驚いて振り向いた歌織の視界に飛び込んできたのは、あまりにも刺激の強い私服姿の啓悟だった。
着慣れたヒーロースーツを脱ぎ捨てた彼は、身体のラインに程よく沿った黒の薄手ニットに、無骨なカーゴパンツ。
その上に上質なレザージャケットを羽織ったラフで洗練されたコーディネート。
動きに合わせて重ね付けされたゴールドのチェーンアクセサリーが、チャラ……と軽快な音を立てて煌めいている。
スタイル抜群の頭身と、ラフさの中に漂う大人の色気。
私服になっても隠しきれない圧倒的なヴィジュアルの暴力に、歌織の脳内は一瞬でフリーズした。
(ひぃ……なにこれ……格好良すぎて最早存在が暴力では!?)
正常な思考能力が完全に停止した歌織は、脳の指令ではなく本能の赴くまま、ポケットからスマホを取り出すと、一切の迷いなく彼にカメラを向けた。
『カシャーッ!』
賑やかな街頭に、虚しく響き渡る高らかなシャッター音。
「…………はっ!?」
己が犯した暴挙の音で正気に戻った歌織は、血の気が引くのを感じながら慌てて撮影画面を彼にかざし、勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめん……っ! 格好良すぎて思わず手が勝手に撮っちゃったみたい……!」
無表情で盗撮(?)したかと思えば、一転して顔を真っ赤にし挙動不審に謝罪してくる彼女の様子に、啓悟の腹筋が限界を迎えた。
「ふ……っ……あっはっはっは! ちょ……ちょっと、歌織ちゃん……! 真顔で写真撮ってから即謝罪するのやめて……! 面白すぎるけん……!!」
お腹を押さえてケラケラと喉を鳴らして笑う啓悟。
その隙のない完璧な横顔と無邪気な笑顔に、歌織は再びぽーっと見惚れてしまう。
(……イケメン過ぎる……!
なんで私、こんなスーパーヒーローと付き合えているんだ……!?)
戸惑いと、胸の奥から押し寄せる尋常じゃない幸福感が混ざり合う。
仕方がないので、歌織はとりあえずこの噛み切れそうにない幸福を全身で噛み締めようと誓うのだった。
「はー、笑った……。で、何買ったんです? お土産?」
ようやく呼吸を整えた啓悟が、興味深そうに歌織の抱える紙袋に目線をやる。
「そうなの! これ!!」
歌織が鼻息荒く指さしたのは、先ほどまで自分が没頭していたショップのホークスコーナーだった。
「さすが地元のトップヒーローだよねぇ!
こんなに多彩にグッズ展開されてて……自分との格差を見せつけられて打ちひしがれてたんだ…!」
「……え? なんかめちゃくちゃ嬉しそうに見えるけど」
どこか話の辻褄が合わない違和感に啓悟が首をかしげる。
すると、歌織は神聖なものを見るような目つきで語り始めた。
「……いや、その……実は私、今彼氏が人気ヒーローで良かったな〜と、噛み締めていました」
「え? このタイミングで?」
歌織はバッと啓悟に向き直り、目を輝かせて熱弁を振るう。
「そう! だって!! こんなに色んなグッズがあるなんて!!
今までオールマイトのグッズはちょいちょい集めてたけど、公式から恋人のグッズが出てるってありがた過ぎない!?
ホークス!! お願いだからずっと人気でいてね!! 私もグッズ買うから!!
新作楽しみにしてるから!!」
(……俺自身じゃなくてグッズ展開にそんな興奮しとると……!?)
彼女の斜め上を行くオタク的歓喜と純粋すぎる熱量に、収まっていたはずの啓悟の笑いの波が再び激しく押し寄せた。
「……っ、ちょっ……うはははははっ! やばいって歌織ちゃん!
本音ダダ漏れすぎて面白かっ……ははっ!」
こうして歌織は、立派なホークスオタクとしての輝かしい一歩を踏み出したのだった。
◇
ひとしきりお腹を抱えて笑い、満足した啓悟は、すっと自然な動作で歌織の手から重いキャリーケースを引き取った。
「さ、じゃあ歌織ちゃん。ホテルまで案内するよ。
ここから近いけん、歩こうか」
「あ、ありがとう……!」
歩調を合わせてくれつつ、荷物をさらりと預かってくれるスマートなエスコート。
(……さすが、モテる男は一味違うわ……)
と、妙な感心をしながら彼の隣を歩く。
だが、連れられて来た場所に到着した瞬間、歌織の足がぴたりと止まった。
目の前にそびえ立っていたのは、どう贔屓目に見てもビジネスホテルの類ではない。
重厚で格調高い外観を誇る、最高級ラグジュアリーホテルだった。
「着いた着いた! ここです」
爽やかに振り返る啓悟に、歌織は驚愕のあまり声を裏返した。
「え!? ここ!? 絶対ビジホじゃないよね!?」
あまりの格式の高さに尻込みして後ずさる歌織だったが、啓悟は「ここですって」と悪戯っぽく口元を緩めると、彼女の腕を優しくひいて半ば強引に豪華なエントランスへと連れて行く。
「ええ……っ」と情けない声を上げる歌織は、もはや心ここに在らずだ。
(な、なんでこんな素敵ホテルに案内されてるんだ……!? )
あ然と立ち尽くす歌織をよそに、ピシッと隙のない制服を纏ったホテルマンがすっと美しい所作で近づいてくる。
「ホークス様。お待ちしておりました。
お部屋までご案内いたします」
「お願いしますー」
手慣れた様子でキャリーケースをホテルマンに預け、啓悟は歌織の腰にそっと手を添えて、スムーズにエレベーターへと促した。
最上階フロアの静けさが漂う廊下を進み、案内された重厚な扉が開かれる。
その先に広がっていたのは——広大なリビング、洗練された調度品、圧倒的な解放感を誇る極上のスイートルームだった。
「……っ!? へ!? ……え!?」
一人でキャパオーバーを起こしてパニックになる歌織に目もくれず、啓悟は「ありがとうございます」とホテルマンを丁寧に送り出すと、パタンと静かにドアを閉めた。
「こちらが本日のお宿になります〜」
悪戯が成功した少年のようにニヤニヤと笑いながら、ルームキーをテーブルに置く啓悟。
「いやいやいや!! ちょ……ちょっと待って!
何このすごいお部屋!?
だってビジホって……こ、こんなの、一泊いくらするの……!?」
歌織が目を丸くして部屋のあちこちを見回す。
一糸乱れぬ美しい装飾品、一面のガラス越しに広がる福岡の煌びやかな夜景。
大人二人がゆったりと浸かれる広々としたバスタブ……。
まさに贅の限りを尽くした空間に圧倒されていた。
慌てふためく彼女の愛らしい挙動を心底愛おしそうに見つめながら、啓悟はふ……と表情を柔らかく緩めた。
「……俺の誕生日のお礼です」
「え……?」
「あの日、夜遅くに会いに来てくれたのに……お互い忙しすぎて、ろくに話せないですぐ眠っちゃったでしょ?
翌日もお互い仕事があるからって、歌織ちゃん朝には静岡帰っちゃったじゃないですか」
啓悟はゆっくりと歩み寄り、歌織のすぐ目の前に立った。
その瞳には、普段見せる軽薄なプロヒーローの仮面ではなく、ひとりの男としての深くて温かい情愛が宿っている。
「……あんな短い時間のために新幹線に乗って駆けつけてくれて、本当に嬉しかった。
……俺にとって、最高の誕生日だったんですよ。
だから……俺、お礼がしたかったんです、あなたに。
……こんなことくらいしか思いつかなかったけど、喜んでもらいたかったんや」
(本当は……ふたりきりで、誰ん目も気にせな、最高ん空間で心ゆくまで甘やかしたかった。
俺んために無理してくれた分、それ以上に大事にされとーったいって、ちゃんと肌で感じてほしかったっちゃん)
胸の奥に秘めた重く切ない独占欲を優しい言葉に包み込み、真っ直ぐに注いでくれる啓悟。
その素直で温かい感情をぶつけられ、歌織の胸の奥からどうしようもない愛おしさと熱い感動が溢れ出してくる。
「啓悟くん……こんな素敵なお返しもらえるなんて思ってなくて……びっくりした。
でも、めちゃくちゃ嬉しいよ!
こんな素敵なところ、私初めて来たもの……!
……本当に、ありがとう」
歌織は照れくさそうに頬を染めながらも、心からの満面の笑みを咲かせた。
その笑顔を見られただけで、事前の準備や手配の苦労など一瞬で吹き飛ぶ。
心底満たされたように目を細めた啓悟は、「じゃあ、なんか頼みましょうか!」とテーブルに置かれたズッシリと重みのあるルームサービスのメニューを手に取った。
「……えっ、ここで頂くの?」
「ええ。外に出るのもいいと思ったっちゃけど、俺ら何かと目立つし、ゆっくり出来んでしょ?
だから……今日はここで、ふたりきりで気楽にご飯しましょ」
(……まあ、本当はホテルん格式ばったレストランのマナーとか堅苦しかとが好きやなかだけなんやけど。
ここでふたりで食べた方が、周囲ば気にせず、ずっと甘えらるーしね)
そんな本音は上手に笑顔の裏へ隠し、啓悟は嬉しそうにメニューを開いて彼女に見せる。
「な、なるほど……!! 確かにその通りだわ!! こんな素敵なお部屋でお食事を頂けるなんて……本当に最高の思い出になるね!」
パッと顔を綻ばせ、ウキウキとした様子でメニューを覗き込んでくる歌織。
(……素直でバリ可愛いっちゃね、本当)
肩が触れ合うほどの距離の近さに耳をほんのり赤くしながらも、楽しそうにメニューを選ぶ歌織の横顔を見つめる。
啓悟は心底毒気を抜かれ、甘く深い愛おしさに全身を満たされていくのだった。
ようやく本日のホークス事務所も終業時間を迎えた。
執務室の隅に置いていた自前のキャリーケースを手に取り、歌織は大きく息を吐き出す。
「はーーっ! 物凄い濃い1日だった……!!
トップ5の仕事ぶりを1日間近で見られて、私も本当に勉強になりました!
ありがとうございました」
腰を折り、ぺこりと丁寧にお辞儀をする歌織。
その姿勢の良さと凛とした佇まいにプロとしての敬意が滲む。
「こちらこそ、オペラップの支援のおかげでいつも以上に捗りましたよ。ありがとうございました」
パッと花が咲くような、メディアでお馴染みの爽やか極まりないトップヒーロースマイル。
間近で直撃を受けた歌織は、ぐっ……と心の奥で唸り声を上げながら、必死に頬の緩みを持ち堪えていた。
「じゃあオペラップ、食事でも行きましょうか」
恭しく滑らかな動作で右手を差し出してくるホークス。
その王子様のようなエスコートに、歌織は少し気恥ずかしそうに戸惑いながら口を開く。
「そうね、確かにお腹ぺこぺこ……。
……とはいえ、このまま行く?
出来れば一度着替えてから出たいんだけど……タイムロスになっちゃうかな」
ヒーロースーツを着たままでは、どうしても周囲の視線を集めてしまうし落ち着かない。
申し訳なさそうに尋ねる彼女に、ホークスはあっさりと頷いた。
「では、先に着替えましょう。俺も着替えてくるんで、少しだけ待っててもらえます?」
「おっけー! じゃあ駅前ぶらついて待ってるよ!」
手際よく約束を交わし、ホークスと一旦別れた歌織は、色鮮やかなネオンが灯り始めた賑やかな繁華街へと足を向ける。
(……福岡に来るときはいつも仕事で慌ただしいから、こうやってゆっくり街を見て回るのって初めてかもなぁ〜)
目新しいショップや美味しそうな匂いを漂わせる屋台に心を躍らせながら、気ままに歩を進める。
すると、ふと足が止まった。
色鮮やかなディスプレイが目に入ったのだ。
看板にはどーんと大きく書かれている。
——『ご当地ヒーロー!ホークス!!』特設コーナー。
ぬいぐるみ、アクリルスタンド、缶バッジ、ストラップにラバーキーホルダー、果てはロゴ入りのタオルやTシャツまで、多岐にわたるオリジナルグッズが神々しいばかりの光彩を放ち、棚一面を埋め尽くしていた。
更には『博多限定』と謳われた愛くるしいミニキャラグッズまでもがずらりと展開されている。
香ばしい焼き鳥のイラストと並んでドヤ顔を決める、「焼き鳥ホークス」。
吹き出し付きで「とっとーと?」と可愛く博多弁を喋る、「博多弁ホークス」。
あつあつの水炊き鍋を湯船に見立て、実に気持ちよさそうに目を細めている、「水炊きホークス」。
怒涛のバリエーションとポップな愛らしさ。
歌織はあまりの眩しさに思わず二、三歩後退りした。
「こ……これがトップヒーローの実力……!!」
慄きながらも、その魅力的なグッズたちから目が離せない。
これまでホークスに対して個人的な興味を持つ機会がなかった歌織にとって、こうした市場規模の差は完全なノーマークだったのだ。
「やっぱり……実力の差を感じずにはいられないなぁ……。
私のグッズなんて、地元にちょっと置いてもらってるくらいだもんねぇ」
自分と彼との絶望的な人気の差をまざまざと見せつけられ、歌織はガックリと肩を落として項垂れる。
そして、棚に陳列されたホークスのぬいぐるみと、じーっと真剣に目を合わせ——ぽつりと呟いた。
「……買おう」
迷いは一瞬で消え去った。
歌織は吸い寄せられるようにぬいぐるみを抱きかかえ、ご当地限定の方言ストラップを手に取ると、ホクホク顔でレジの列へと並んだのだった。
◇
無事に買い物を済ませた歌織は、大切そうに紙袋を胸元に抱きしめながら余韻に浸っていた。
「……お待たせ。何か良い物ありました?」
ふいに背後から、低く甘い声が耳元をくすぐる。
驚いて振り向いた歌織の視界に飛び込んできたのは、あまりにも刺激の強い私服姿の啓悟だった。
着慣れたヒーロースーツを脱ぎ捨てた彼は、身体のラインに程よく沿った黒の薄手ニットに、無骨なカーゴパンツ。
その上に上質なレザージャケットを羽織ったラフで洗練されたコーディネート。
動きに合わせて重ね付けされたゴールドのチェーンアクセサリーが、チャラ……と軽快な音を立てて煌めいている。
スタイル抜群の頭身と、ラフさの中に漂う大人の色気。
私服になっても隠しきれない圧倒的なヴィジュアルの暴力に、歌織の脳内は一瞬でフリーズした。
(ひぃ……なにこれ……格好良すぎて最早存在が暴力では!?)
正常な思考能力が完全に停止した歌織は、脳の指令ではなく本能の赴くまま、ポケットからスマホを取り出すと、一切の迷いなく彼にカメラを向けた。
『カシャーッ!』
賑やかな街頭に、虚しく響き渡る高らかなシャッター音。
「…………はっ!?」
己が犯した暴挙の音で正気に戻った歌織は、血の気が引くのを感じながら慌てて撮影画面を彼にかざし、勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめん……っ! 格好良すぎて思わず手が勝手に撮っちゃったみたい……!」
無表情で盗撮(?)したかと思えば、一転して顔を真っ赤にし挙動不審に謝罪してくる彼女の様子に、啓悟の腹筋が限界を迎えた。
「ふ……っ……あっはっはっは! ちょ……ちょっと、歌織ちゃん……! 真顔で写真撮ってから即謝罪するのやめて……! 面白すぎるけん……!!」
お腹を押さえてケラケラと喉を鳴らして笑う啓悟。
その隙のない完璧な横顔と無邪気な笑顔に、歌織は再びぽーっと見惚れてしまう。
(……イケメン過ぎる……!
なんで私、こんなスーパーヒーローと付き合えているんだ……!?)
戸惑いと、胸の奥から押し寄せる尋常じゃない幸福感が混ざり合う。
仕方がないので、歌織はとりあえずこの噛み切れそうにない幸福を全身で噛み締めようと誓うのだった。
「はー、笑った……。で、何買ったんです? お土産?」
ようやく呼吸を整えた啓悟が、興味深そうに歌織の抱える紙袋に目線をやる。
「そうなの! これ!!」
歌織が鼻息荒く指さしたのは、先ほどまで自分が没頭していたショップのホークスコーナーだった。
「さすが地元のトップヒーローだよねぇ!
こんなに多彩にグッズ展開されてて……自分との格差を見せつけられて打ちひしがれてたんだ…!」
「……え? なんかめちゃくちゃ嬉しそうに見えるけど」
どこか話の辻褄が合わない違和感に啓悟が首をかしげる。
すると、歌織は神聖なものを見るような目つきで語り始めた。
「……いや、その……実は私、今彼氏が人気ヒーローで良かったな〜と、噛み締めていました」
「え? このタイミングで?」
歌織はバッと啓悟に向き直り、目を輝かせて熱弁を振るう。
「そう! だって!! こんなに色んなグッズがあるなんて!!
今までオールマイトのグッズはちょいちょい集めてたけど、公式から恋人のグッズが出てるってありがた過ぎない!?
ホークス!! お願いだからずっと人気でいてね!! 私もグッズ買うから!!
新作楽しみにしてるから!!」
(……俺自身じゃなくてグッズ展開にそんな興奮しとると……!?)
彼女の斜め上を行くオタク的歓喜と純粋すぎる熱量に、収まっていたはずの啓悟の笑いの波が再び激しく押し寄せた。
「……っ、ちょっ……うはははははっ! やばいって歌織ちゃん!
本音ダダ漏れすぎて面白かっ……ははっ!」
こうして歌織は、立派なホークスオタクとしての輝かしい一歩を踏み出したのだった。
◇
ひとしきりお腹を抱えて笑い、満足した啓悟は、すっと自然な動作で歌織の手から重いキャリーケースを引き取った。
「さ、じゃあ歌織ちゃん。ホテルまで案内するよ。
ここから近いけん、歩こうか」
「あ、ありがとう……!」
歩調を合わせてくれつつ、荷物をさらりと預かってくれるスマートなエスコート。
(……さすが、モテる男は一味違うわ……)
と、妙な感心をしながら彼の隣を歩く。
だが、連れられて来た場所に到着した瞬間、歌織の足がぴたりと止まった。
目の前にそびえ立っていたのは、どう贔屓目に見てもビジネスホテルの類ではない。
重厚で格調高い外観を誇る、最高級ラグジュアリーホテルだった。
「着いた着いた! ここです」
爽やかに振り返る啓悟に、歌織は驚愕のあまり声を裏返した。
「え!? ここ!? 絶対ビジホじゃないよね!?」
あまりの格式の高さに尻込みして後ずさる歌織だったが、啓悟は「ここですって」と悪戯っぽく口元を緩めると、彼女の腕を優しくひいて半ば強引に豪華なエントランスへと連れて行く。
「ええ……っ」と情けない声を上げる歌織は、もはや心ここに在らずだ。
(な、なんでこんな素敵ホテルに案内されてるんだ……!? )
あ然と立ち尽くす歌織をよそに、ピシッと隙のない制服を纏ったホテルマンがすっと美しい所作で近づいてくる。
「ホークス様。お待ちしておりました。
お部屋までご案内いたします」
「お願いしますー」
手慣れた様子でキャリーケースをホテルマンに預け、啓悟は歌織の腰にそっと手を添えて、スムーズにエレベーターへと促した。
最上階フロアの静けさが漂う廊下を進み、案内された重厚な扉が開かれる。
その先に広がっていたのは——広大なリビング、洗練された調度品、圧倒的な解放感を誇る極上のスイートルームだった。
「……っ!? へ!? ……え!?」
一人でキャパオーバーを起こしてパニックになる歌織に目もくれず、啓悟は「ありがとうございます」とホテルマンを丁寧に送り出すと、パタンと静かにドアを閉めた。
「こちらが本日のお宿になります〜」
悪戯が成功した少年のようにニヤニヤと笑いながら、ルームキーをテーブルに置く啓悟。
「いやいやいや!! ちょ……ちょっと待って!
何このすごいお部屋!?
だってビジホって……こ、こんなの、一泊いくらするの……!?」
歌織が目を丸くして部屋のあちこちを見回す。
一糸乱れぬ美しい装飾品、一面のガラス越しに広がる福岡の煌びやかな夜景。
大人二人がゆったりと浸かれる広々としたバスタブ……。
まさに贅の限りを尽くした空間に圧倒されていた。
慌てふためく彼女の愛らしい挙動を心底愛おしそうに見つめながら、啓悟はふ……と表情を柔らかく緩めた。
「……俺の誕生日のお礼です」
「え……?」
「あの日、夜遅くに会いに来てくれたのに……お互い忙しすぎて、ろくに話せないですぐ眠っちゃったでしょ?
翌日もお互い仕事があるからって、歌織ちゃん朝には静岡帰っちゃったじゃないですか」
啓悟はゆっくりと歩み寄り、歌織のすぐ目の前に立った。
その瞳には、普段見せる軽薄なプロヒーローの仮面ではなく、ひとりの男としての深くて温かい情愛が宿っている。
「……あんな短い時間のために新幹線に乗って駆けつけてくれて、本当に嬉しかった。
……俺にとって、最高の誕生日だったんですよ。
だから……俺、お礼がしたかったんです、あなたに。
……こんなことくらいしか思いつかなかったけど、喜んでもらいたかったんや」
(本当は……ふたりきりで、誰ん目も気にせな、最高ん空間で心ゆくまで甘やかしたかった。
俺んために無理してくれた分、それ以上に大事にされとーったいって、ちゃんと肌で感じてほしかったっちゃん)
胸の奥に秘めた重く切ない独占欲を優しい言葉に包み込み、真っ直ぐに注いでくれる啓悟。
その素直で温かい感情をぶつけられ、歌織の胸の奥からどうしようもない愛おしさと熱い感動が溢れ出してくる。
「啓悟くん……こんな素敵なお返しもらえるなんて思ってなくて……びっくりした。
でも、めちゃくちゃ嬉しいよ!
こんな素敵なところ、私初めて来たもの……!
……本当に、ありがとう」
歌織は照れくさそうに頬を染めながらも、心からの満面の笑みを咲かせた。
その笑顔を見られただけで、事前の準備や手配の苦労など一瞬で吹き飛ぶ。
心底満たされたように目を細めた啓悟は、「じゃあ、なんか頼みましょうか!」とテーブルに置かれたズッシリと重みのあるルームサービスのメニューを手に取った。
「……えっ、ここで頂くの?」
「ええ。外に出るのもいいと思ったっちゃけど、俺ら何かと目立つし、ゆっくり出来んでしょ?
だから……今日はここで、ふたりきりで気楽にご飯しましょ」
(……まあ、本当はホテルん格式ばったレストランのマナーとか堅苦しかとが好きやなかだけなんやけど。
ここでふたりで食べた方が、周囲ば気にせず、ずっと甘えらるーしね)
そんな本音は上手に笑顔の裏へ隠し、啓悟は嬉しそうにメニューを開いて彼女に見せる。
「な、なるほど……!! 確かにその通りだわ!! こんな素敵なお部屋でお食事を頂けるなんて……本当に最高の思い出になるね!」
パッと顔を綻ばせ、ウキウキとした様子でメニューを覗き込んでくる歌織。
(……素直でバリ可愛いっちゃね、本当)
肩が触れ合うほどの距離の近さに耳をほんのり赤くしながらも、楽しそうにメニューを選ぶ歌織の横顔を見つめる。
啓悟は心底毒気を抜かれ、甘く深い愛おしさに全身を満たされていくのだった。
