本作のヒロイン オペラップの本名
交際 甘々多め
ヒロインの名前
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事務所で鳴り響いていた電話が自動転送され、パトロール中のオペラップのスマートフォンが電子音を鳴らした。
無人の事務所から転送されてきた画面の液晶表示には、『ホークス』の二文字。
歌織は一瞬だけ表情を引き締めると、慌てて通話ボタンをスワイプした。
「はい!オペラップです!」
『どーもオペラップさん!ホークスです』
電話越しに聞こえるのは、いつも通りの軽やかで爽やかな声。
お互いに恋人同士だと分かりきっている相手だが、仕事の電話となれば一切の甘えも私情も挟まない。お互いのプロヒーローとしての矜持を尊重し合っているからこその、誠実な距離感だった。
「ホークス!ご無沙汰しております。チームアップのご依頼でしょうか?」
歌織が事務的なトーンで問いかけると、ホークスも同じくヒーローの顔でビジネスモードで打ち合わせをする。
『そうなんですよ。ここのところ少し立て込んでいまして。
パトロール中にオペラップさんが隣にいてくれたら心強いな〜と思いましてね。
ビジホ手配するんで、2泊くらいして手伝ってもらえません?』
怒涛の年末年始が明けたこの時期だ。
いくら「速すぎる男」と称される彼でも、疲弊が溜まっていないはずがない。電話越しのトーンには出さずとも、内面では削られている部分もあるのだろう。
「承知しました。伺うのは構わないのですが…なにぶん私は飛行個性も無いですし、機動力が高い訳でもありません。
あなたのパトロールに同行するのは難しいのではないかと…」
と言葉を濁す歌織。
そんな心配を他所にホークスは愉快そうに話す。
「ああ、それなら俺がオペラップさんを剛翼で浮かせて運びますから、移動は気にせんで大丈夫です。」
「……だ、大丈夫なんですか?逆に疲れそうな気もしますが…」
ホークスの身を案じながら、はたと思い至る。
(……啓悟くんの抱っこでも結構怖いのに!?剛翼の羽根で……連れ回されるという事!?
ぜ………絶対怖い!!)
歌織が顔を青ざめると、ふっと小さく笑うホークスの声と、いつもより低い声が耳元で聞こえる。
『……あなたが俺の負担になる訳ないでしょ?
ご心配なく!心地よい空の旅をお約束しますよ』
「か、軽い……!まぁ、そういう事なら……」
返事の軽さに思わず突っ込んでしまう歌織だが、なんとか真面目なトーンに引き戻す。
スケジュールを確認しながら都合のつく日をピックアップする。
「ええと…、来週の平日でしたら伺えます。」
『では、月火水の三日間お願いできますか?』
「承知いたしました。では来週お伺いします」
日取りがまとまると、お互い電話を切る。
「2泊かぁ……ちょっとした旅行みたい…いやいや!お仕事ですから!」
自分に言い聞かせるも、どうしても心が躍ってしまうと言うもの。
サイドキックに声をかけ、歌織は出張の報告を共有すると、再びパトロールに戻るのだった。
◇
そしてやってきた福岡出張の日。
歌織は小さなスーツケースを持参して、福岡の地に降り立った。
「荷物はホークス事務所に置かせてもらうから、まずはそのまま向かおう!」
歌織は深呼吸をすると、ガラガラとスーツケースを転がしながら、背筋を伸ばして歩き始めた。
◇
「こんにちは〜!歌唱ヒーローオペラップです!」
歌織はホークス事務所に入ると、張りのある声で挨拶をする。
「オペラップ!ようこそ!毎度足を運んでもらってすみません」
ホークスのサイドキックが小走りで出迎えてくれる。
「いえいえ、こちらこそいつもご贔屓にしていただきありがとうございます。
こちら、お口に合うと良いのですが」
地元の銘菓を差し出すと「わざわざご丁寧にすみません」と受け取るサイドキック。
そんな社会人の挨拶を交わしていると、奥からホークスが現れる。
「やあ、オペラップさん!今回もよろしくお願いしますよ」
「ホークス!こちらこそよろしくお願いします」
「さ、じゃあまずは一旦打ち合わせしたいんで、奥の応接室行きましょう」
と事務所の奥を指差す。
歌織は「はい!」と返事をしてホークスの後について行った。
応接室に入り、ガチャリと扉を閉めた途端、ホークスの手が歌織の指に絡みつき、そのまま引き寄せられるようにソファへと倒れ込んだ。
足を広げて座るホークスの膝の間に、歌織がすっぽりと収まる形。
後ろから太い腕で包み込まれ、逃げ場を完全に塞がれる。
「……ちょ、ちょっと!いくら二人でも事務所の中でまずいですよ!」
「……ヒーロースーツんオペラップにこげんイタズラ出来るとは、俺だけん特権やけんね♪」
歌織の背中に密着する彼の体温は温かく、移動中に冷えた身体に心地よい。
(……おぉ…あったかい……けど!そうじゃない!)
必死に腕から抜け出そうと身をよじる歌織だったが、後ろのホークスはどこ吹く風で、歌織の肩越しに書類を広げ始めた。
「本日のスケジュールです。市街地の巡回から始まり、西側からパトロールを続けていきます……」
(本当にそのまま打ち合わせを始めた!?)
仕方なく脱出を諦めて大人しくその場で説明を聞くことにした歌織は、差し出されたスケジュール表を見て目を丸くした。
「……以上、本日の予定です。あとは適宜臨機応変に対応する流れっすね」
「お、恐ろしいほど過密なスケジュール…!!」
移動スピードが常人とは桁違いな分、詰め込まれたタスクの量が尋常ではない。
「……君、こんなに働き詰めじゃ身体壊すよ!?」
「そうでしょう?だからオペラップさんを呼んだんです」
そう哀れみを誘う声で言うと、ホークスは後ろから強く歌織を抱きしめる。
「……はぁ。歌織ちゃんの匂い…落ち着く…」
首筋にぴとりと顔を寄せたホークスは、すうっと息を吸い込む。
「ひぅ…っも、バカ!」
後ろから腕を回され成す術ない歌織は、ホークスの自由にされてしまうのだった。
◇
応接室から出てきた歌織は、いつも以上に表情をキリッと引き締めている。
しかしその頬は上気して桃色に染まっている。
対するホークスは鼻歌を歌いながら上機嫌だ。
サイドキック達は二人の様子に「何か」を感じずにはいられなかった。
「……ではせっかくなので、ここで皆さんに良絽鼓舞かけちゃいましょうか」
「えっ自分達もいいんですか?」
驚くサイドキックに笑顔を向け、「もちろん!」と明るく答えた。
歌織はサイドキック達を集めると、一人一人の顔をじっと見つめてから話し始める。
「…では皆さん、私の歌を信じてくださいね」
柔らかなイントロが流れる。
「シャボン玉」
誰もが知る柔らかな童謡のメロディに、歌織のストレートな祈りが乗る。
「今日も無事に1日を終えられますように。一人でも多くの人が笑顔になりますように。傷ついた人に寄り添えますように」
そんな願いを込めながら、歌織は丁寧に歌い上げる。
歌唱とともに、煌めく白い『心糸』が溢れ出し、事務所内のヒーローたちを優しく包み込んでいく。
その瞬間、身体の奥底から重苦しい疲労が抜け、乱れていた呼吸がすっと整っていく。
すり減っていた精神に澄んだ信念が満ちていくのが分かった。
「……どうでしょう?皆さん効果ありましたか?」
「……す、すごいっす!なんか、ヒーロー志してた頃の熱い気持ちを思い出すっていうか……やる気湧いてきた!!」
「しかもめちゃくちゃ身体が軽くて気持ちいいのな!」
「ホークスがハマるのも納得ですよ!」
盛り上がるサイドキック達に「そうでしょう!」となぜか我が事のようにドヤ顔をするホークスを横目に見やり、歌織は微笑む。
「良かったです!皆さん、信じてくれてありがとう」
「……そういえば、以前非難誘導をしていた時も童謡歌ってましたよね?
今は歌う前に、うちのサイドキックの顔を一人ひとり見ていた……
何か条件でもあるんです?」
ホークスが興味深そうに質問する。
歌織は「さすが、よく見てますね」
と感心しながら説明する。
「ええ。実は良絽鼓舞ってお互いの信頼関係が不可欠なデリケートな技なんです。
被災地では、緊張していたり、不安な方が多いでしょう?
童謡なら老若男女、知っている人がほとんどですからね。
知らない歌より知ってる歌の方が、みんな安心するんですよ。
今、皆さんの顔を見ていた理由は、私自身が祈る対象を具体的にイメージする為です。
『良絽鼓舞』は対象を絞った方が、より高いバフ効果を発揮するんですよ。
ちなみに…戦闘時は攻撃や防御の糸も同時に使いたいので、アップテンポで長めの曲を選ぶ事が多いです。
バトルBGMのイメージというか…味方を鼓舞するのが良絽鼓舞なので、シーンに合わせて使い分けてますよ」
歌織が一通り説明すると、ホークス含むサイドキックは「へぇ…」と相槌を打つ。
(…なるほど。ここまで細かく分析出来ていると言う事が、彼女の努力の裏付けだ)
ホークスは顎に手を当てて深く納得した。
自分の個性を客観的に分析し、極限まで引き出せるように組み上げている。
この弛まぬ努力こそが、オペラップというヒーローの真骨頂なのだと再確認する。
ホークスが考察を深めていると、歌織が付け足す。
「…ちなみに、私と相手の信頼関係が強いほど効果が上がります。ホークス、どうでした?」
「!?」
不意を突かれて目を見開いたホークスに、歌織はホークスの真似をして手をひらひらと振ってみせる。
「……なんてね♪」
(…ふん!応接室での事、やり返してやったわ!)
したり顔の歌織を見て、サイドキック達は思わず「……分かりやす…」と呟いた。
◇
事務所を出た一行は早速パトロールを開始する。
ホークスが剛翼の赤い羽根を5枚歌織に向かって放つと、歌織の両肩、腰、両膝に絡みつく。
「これで姿勢が安定します。オペラップは俺と上空へ行きましょう。
みんなはいつも通り、後処理と地上のフォローよろしく〜」
ポンと地上を蹴り、ホークスが舞い上がる。
歌織の身体も、羽に導かれるようにふわりと宙へ浮き上がった。
「わわっ!確かに安定してるけど……この浮遊感、慣れるまで怖いかもっ」
思わず全身をこわばらせる歌織の隣へ、ホークスがすっと滑り込むように寄り添った。
「…仕方ないすねぇ。最初だけですよ?」
悪戯っぽく笑いながら手を差し出すホークスに「く、やり返された…」と小さく項垂れると、歌織はしぶしぶその手を握って空へ飛び立つのだった。
「……おおっこれが自分で飛ぶ感覚…!自分で飛んでないけど…た、楽しいかも!」
しばらく浮遊を続けて大分慣れてきた歌織は、ホークスと並んで飛べるようになっていた。
「お〜…センスいいですよオペラップさん!
慣れてきたみたいなんで、ちょっとピッチ上げましょう!」
そう言うとホークスは歌織を空中に置き去りにして、市街地を飛び回りながらヒーロー活動をする。
自転車でよろけた子どもを支え、ファンにサインをし、写真撮影に対応する。
ベビーカーでエスカレーターに乗れない母親を助け、老人の荷物を剛翼で浮かせて運ぶ。
それらを全て、事件にもならない日常の救助として、同時並行で処理していく。
「ど、どうなってんのあの人の頭の中と視野の広さ…」
歌織は人間離れした活動量に驚愕するのだった。
圧倒的なパフォーマンスに呆然としていると、仕事を終えたホークスが風を切って戻ってきた。
「ホークス!お疲れ様〜!鮮やかな手際、流石でした!」
彼にタオルとペットボトルを差し出すと、ホークスは受け取る。
「いやあ、あなたに良いところ見せようと張り切っちゃいました」
にかっと笑うホークスに思わず赤くなる歌織だったが、深呼吸をしてから歌を紡ぐ。
「ことりのうた」
歌織から紡がれる白い心糸がホークスの疲れをじんわりと癒す。
「今日の私のお仕事ですから、きっちりやらせていただきます!」
とこちらも笑顔を返すのだった。
二人がパトロールをしてしばらくすると、ホークスの無線に緊急要請が入る。
大型商業施設での複数ヴィランによる強盗事件だ。
「行きましょうオペラップ!」
「了解!ホークス!」
二人の表情が一変する。
プロヒーローの顔になり、鋭い風を切って現場へと急行した。
商業施設に到着すると、二人は一瞬の躊躇もなく内部へと突入する。
重低音の効いた激しいイントロが響く。
歌織は最終勧告をする。
「ヒーローです!ただちに降伏してください!」
「は!?もう来たのかよ…うわっホークスじゃねえか!クソ!」
ヴィランが臨戦体制に入ったところでイントロが終わり、歌織が力強く歌い上げる。
『KING』
Aメロのビートに合わせて良絽鼓舞を発動し、眩い白い心糸がホークスを包み込む。
思考がクリアに研ぎ澄まされ、広大な吹き抜け店舗の全状況がスローモーションのように解像度高く視界に飛び込んでくる。
(……効くねぇ……最高だ!)
同時に、歌織は中央付近のヴィラン達の足元目掛けてヤマアラシで包囲する。
まるでマキビシの様に鋭い針がヴィランを取り囲み、身動きを封じる。
「ちっ!小賢しいんだよ!!」
たまらず空中へ逃げようと羽ばたいた飛行個性のヴィランを、ホークスの赤い羽が瞬く間に捕らえ、床へ叩きつけた。
「ナイスですオペラップ!
複数ヴィランが分散しないのはやり易い!」
歌織はホークスと目線を交わし、力強くサビを歌い上げる。
「You are king!」
歌声のエネルギーと完全にシンクロしたホークスの剛翼が、残像すら残さぬスピードで旋回する。
逃げ場を失ったヴィランたちは、反撃の暇すら与えられず、一瞬にして全員が拘束されていった。
◇
あっという間に現場を制圧したホークスとオペラップは警察の到着を待つ。
「…いや、かっこよかったですね『KING』。まさにバトルBGMって感じで、納得でした。」
と歌織に感想を話すホークス。
歌織はふふっと笑うと得意気に話す。
「そうでしょう?実はあれ、KINGであるホークスを補佐する戦士の心境で歌ってみたんですよ。
サビで君がビシッと決めたの、痺れました」
自分のパフォーマンスが綺麗に決まって気分が良くなった歌織は余計な一言まで言ってしまう。
歌織は「あっ」と小さく声を上げると、視線を逸らす。
(「痺れました」は言い過ぎだよ〜!やっぱり私、ちょっと…浮かれてる!!)
「……『KING』ねぇ。……そんな風に俺のこと見てくれてたんですか?」
「……っ!や、まぁ……その……」
(自分のパートナーにそんな顔で「痺れた」なんて言われたら、男として調子狂うなぁ……もっと格好いいとこ見せたくなるじゃないですか
……ホント、プロとしても女としても、俺を乗せるのが上手いんだから)
口元をニヤリと歪め、鋭い目元を一瞬だけ緩めるホークス。
間も無く到着した警察とマスコミに対応すると、二人はまた空へ飛び立つのだった。
無人の事務所から転送されてきた画面の液晶表示には、『ホークス』の二文字。
歌織は一瞬だけ表情を引き締めると、慌てて通話ボタンをスワイプした。
「はい!オペラップです!」
『どーもオペラップさん!ホークスです』
電話越しに聞こえるのは、いつも通りの軽やかで爽やかな声。
お互いに恋人同士だと分かりきっている相手だが、仕事の電話となれば一切の甘えも私情も挟まない。お互いのプロヒーローとしての矜持を尊重し合っているからこその、誠実な距離感だった。
「ホークス!ご無沙汰しております。チームアップのご依頼でしょうか?」
歌織が事務的なトーンで問いかけると、ホークスも同じくヒーローの顔でビジネスモードで打ち合わせをする。
『そうなんですよ。ここのところ少し立て込んでいまして。
パトロール中にオペラップさんが隣にいてくれたら心強いな〜と思いましてね。
ビジホ手配するんで、2泊くらいして手伝ってもらえません?』
怒涛の年末年始が明けたこの時期だ。
いくら「速すぎる男」と称される彼でも、疲弊が溜まっていないはずがない。電話越しのトーンには出さずとも、内面では削られている部分もあるのだろう。
「承知しました。伺うのは構わないのですが…なにぶん私は飛行個性も無いですし、機動力が高い訳でもありません。
あなたのパトロールに同行するのは難しいのではないかと…」
と言葉を濁す歌織。
そんな心配を他所にホークスは愉快そうに話す。
「ああ、それなら俺がオペラップさんを剛翼で浮かせて運びますから、移動は気にせんで大丈夫です。」
「……だ、大丈夫なんですか?逆に疲れそうな気もしますが…」
ホークスの身を案じながら、はたと思い至る。
(……啓悟くんの抱っこでも結構怖いのに!?剛翼の羽根で……連れ回されるという事!?
ぜ………絶対怖い!!)
歌織が顔を青ざめると、ふっと小さく笑うホークスの声と、いつもより低い声が耳元で聞こえる。
『……あなたが俺の負担になる訳ないでしょ?
ご心配なく!心地よい空の旅をお約束しますよ』
「か、軽い……!まぁ、そういう事なら……」
返事の軽さに思わず突っ込んでしまう歌織だが、なんとか真面目なトーンに引き戻す。
スケジュールを確認しながら都合のつく日をピックアップする。
「ええと…、来週の平日でしたら伺えます。」
『では、月火水の三日間お願いできますか?』
「承知いたしました。では来週お伺いします」
日取りがまとまると、お互い電話を切る。
「2泊かぁ……ちょっとした旅行みたい…いやいや!お仕事ですから!」
自分に言い聞かせるも、どうしても心が躍ってしまうと言うもの。
サイドキックに声をかけ、歌織は出張の報告を共有すると、再びパトロールに戻るのだった。
◇
そしてやってきた福岡出張の日。
歌織は小さなスーツケースを持参して、福岡の地に降り立った。
「荷物はホークス事務所に置かせてもらうから、まずはそのまま向かおう!」
歌織は深呼吸をすると、ガラガラとスーツケースを転がしながら、背筋を伸ばして歩き始めた。
◇
「こんにちは〜!歌唱ヒーローオペラップです!」
歌織はホークス事務所に入ると、張りのある声で挨拶をする。
「オペラップ!ようこそ!毎度足を運んでもらってすみません」
ホークスのサイドキックが小走りで出迎えてくれる。
「いえいえ、こちらこそいつもご贔屓にしていただきありがとうございます。
こちら、お口に合うと良いのですが」
地元の銘菓を差し出すと「わざわざご丁寧にすみません」と受け取るサイドキック。
そんな社会人の挨拶を交わしていると、奥からホークスが現れる。
「やあ、オペラップさん!今回もよろしくお願いしますよ」
「ホークス!こちらこそよろしくお願いします」
「さ、じゃあまずは一旦打ち合わせしたいんで、奥の応接室行きましょう」
と事務所の奥を指差す。
歌織は「はい!」と返事をしてホークスの後について行った。
応接室に入り、ガチャリと扉を閉めた途端、ホークスの手が歌織の指に絡みつき、そのまま引き寄せられるようにソファへと倒れ込んだ。
足を広げて座るホークスの膝の間に、歌織がすっぽりと収まる形。
後ろから太い腕で包み込まれ、逃げ場を完全に塞がれる。
「……ちょ、ちょっと!いくら二人でも事務所の中でまずいですよ!」
「……ヒーロースーツんオペラップにこげんイタズラ出来るとは、俺だけん特権やけんね♪」
歌織の背中に密着する彼の体温は温かく、移動中に冷えた身体に心地よい。
(……おぉ…あったかい……けど!そうじゃない!)
必死に腕から抜け出そうと身をよじる歌織だったが、後ろのホークスはどこ吹く風で、歌織の肩越しに書類を広げ始めた。
「本日のスケジュールです。市街地の巡回から始まり、西側からパトロールを続けていきます……」
(本当にそのまま打ち合わせを始めた!?)
仕方なく脱出を諦めて大人しくその場で説明を聞くことにした歌織は、差し出されたスケジュール表を見て目を丸くした。
「……以上、本日の予定です。あとは適宜臨機応変に対応する流れっすね」
「お、恐ろしいほど過密なスケジュール…!!」
移動スピードが常人とは桁違いな分、詰め込まれたタスクの量が尋常ではない。
「……君、こんなに働き詰めじゃ身体壊すよ!?」
「そうでしょう?だからオペラップさんを呼んだんです」
そう哀れみを誘う声で言うと、ホークスは後ろから強く歌織を抱きしめる。
「……はぁ。歌織ちゃんの匂い…落ち着く…」
首筋にぴとりと顔を寄せたホークスは、すうっと息を吸い込む。
「ひぅ…っも、バカ!」
後ろから腕を回され成す術ない歌織は、ホークスの自由にされてしまうのだった。
◇
応接室から出てきた歌織は、いつも以上に表情をキリッと引き締めている。
しかしその頬は上気して桃色に染まっている。
対するホークスは鼻歌を歌いながら上機嫌だ。
サイドキック達は二人の様子に「何か」を感じずにはいられなかった。
「……ではせっかくなので、ここで皆さんに良絽鼓舞かけちゃいましょうか」
「えっ自分達もいいんですか?」
驚くサイドキックに笑顔を向け、「もちろん!」と明るく答えた。
歌織はサイドキック達を集めると、一人一人の顔をじっと見つめてから話し始める。
「…では皆さん、私の歌を信じてくださいね」
柔らかなイントロが流れる。
「シャボン玉」
誰もが知る柔らかな童謡のメロディに、歌織のストレートな祈りが乗る。
「今日も無事に1日を終えられますように。一人でも多くの人が笑顔になりますように。傷ついた人に寄り添えますように」
そんな願いを込めながら、歌織は丁寧に歌い上げる。
歌唱とともに、煌めく白い『心糸』が溢れ出し、事務所内のヒーローたちを優しく包み込んでいく。
その瞬間、身体の奥底から重苦しい疲労が抜け、乱れていた呼吸がすっと整っていく。
すり減っていた精神に澄んだ信念が満ちていくのが分かった。
「……どうでしょう?皆さん効果ありましたか?」
「……す、すごいっす!なんか、ヒーロー志してた頃の熱い気持ちを思い出すっていうか……やる気湧いてきた!!」
「しかもめちゃくちゃ身体が軽くて気持ちいいのな!」
「ホークスがハマるのも納得ですよ!」
盛り上がるサイドキック達に「そうでしょう!」となぜか我が事のようにドヤ顔をするホークスを横目に見やり、歌織は微笑む。
「良かったです!皆さん、信じてくれてありがとう」
「……そういえば、以前非難誘導をしていた時も童謡歌ってましたよね?
今は歌う前に、うちのサイドキックの顔を一人ひとり見ていた……
何か条件でもあるんです?」
ホークスが興味深そうに質問する。
歌織は「さすが、よく見てますね」
と感心しながら説明する。
「ええ。実は良絽鼓舞ってお互いの信頼関係が不可欠なデリケートな技なんです。
被災地では、緊張していたり、不安な方が多いでしょう?
童謡なら老若男女、知っている人がほとんどですからね。
知らない歌より知ってる歌の方が、みんな安心するんですよ。
今、皆さんの顔を見ていた理由は、私自身が祈る対象を具体的にイメージする為です。
『良絽鼓舞』は対象を絞った方が、より高いバフ効果を発揮するんですよ。
ちなみに…戦闘時は攻撃や防御の糸も同時に使いたいので、アップテンポで長めの曲を選ぶ事が多いです。
バトルBGMのイメージというか…味方を鼓舞するのが良絽鼓舞なので、シーンに合わせて使い分けてますよ」
歌織が一通り説明すると、ホークス含むサイドキックは「へぇ…」と相槌を打つ。
(…なるほど。ここまで細かく分析出来ていると言う事が、彼女の努力の裏付けだ)
ホークスは顎に手を当てて深く納得した。
自分の個性を客観的に分析し、極限まで引き出せるように組み上げている。
この弛まぬ努力こそが、オペラップというヒーローの真骨頂なのだと再確認する。
ホークスが考察を深めていると、歌織が付け足す。
「…ちなみに、私と相手の信頼関係が強いほど効果が上がります。ホークス、どうでした?」
「!?」
不意を突かれて目を見開いたホークスに、歌織はホークスの真似をして手をひらひらと振ってみせる。
「……なんてね♪」
(…ふん!応接室での事、やり返してやったわ!)
したり顔の歌織を見て、サイドキック達は思わず「……分かりやす…」と呟いた。
◇
事務所を出た一行は早速パトロールを開始する。
ホークスが剛翼の赤い羽根を5枚歌織に向かって放つと、歌織の両肩、腰、両膝に絡みつく。
「これで姿勢が安定します。オペラップは俺と上空へ行きましょう。
みんなはいつも通り、後処理と地上のフォローよろしく〜」
ポンと地上を蹴り、ホークスが舞い上がる。
歌織の身体も、羽に導かれるようにふわりと宙へ浮き上がった。
「わわっ!確かに安定してるけど……この浮遊感、慣れるまで怖いかもっ」
思わず全身をこわばらせる歌織の隣へ、ホークスがすっと滑り込むように寄り添った。
「…仕方ないすねぇ。最初だけですよ?」
悪戯っぽく笑いながら手を差し出すホークスに「く、やり返された…」と小さく項垂れると、歌織はしぶしぶその手を握って空へ飛び立つのだった。
「……おおっこれが自分で飛ぶ感覚…!自分で飛んでないけど…た、楽しいかも!」
しばらく浮遊を続けて大分慣れてきた歌織は、ホークスと並んで飛べるようになっていた。
「お〜…センスいいですよオペラップさん!
慣れてきたみたいなんで、ちょっとピッチ上げましょう!」
そう言うとホークスは歌織を空中に置き去りにして、市街地を飛び回りながらヒーロー活動をする。
自転車でよろけた子どもを支え、ファンにサインをし、写真撮影に対応する。
ベビーカーでエスカレーターに乗れない母親を助け、老人の荷物を剛翼で浮かせて運ぶ。
それらを全て、事件にもならない日常の救助として、同時並行で処理していく。
「ど、どうなってんのあの人の頭の中と視野の広さ…」
歌織は人間離れした活動量に驚愕するのだった。
圧倒的なパフォーマンスに呆然としていると、仕事を終えたホークスが風を切って戻ってきた。
「ホークス!お疲れ様〜!鮮やかな手際、流石でした!」
彼にタオルとペットボトルを差し出すと、ホークスは受け取る。
「いやあ、あなたに良いところ見せようと張り切っちゃいました」
にかっと笑うホークスに思わず赤くなる歌織だったが、深呼吸をしてから歌を紡ぐ。
「ことりのうた」
歌織から紡がれる白い心糸がホークスの疲れをじんわりと癒す。
「今日の私のお仕事ですから、きっちりやらせていただきます!」
とこちらも笑顔を返すのだった。
二人がパトロールをしてしばらくすると、ホークスの無線に緊急要請が入る。
大型商業施設での複数ヴィランによる強盗事件だ。
「行きましょうオペラップ!」
「了解!ホークス!」
二人の表情が一変する。
プロヒーローの顔になり、鋭い風を切って現場へと急行した。
商業施設に到着すると、二人は一瞬の躊躇もなく内部へと突入する。
重低音の効いた激しいイントロが響く。
歌織は最終勧告をする。
「ヒーローです!ただちに降伏してください!」
「は!?もう来たのかよ…うわっホークスじゃねえか!クソ!」
ヴィランが臨戦体制に入ったところでイントロが終わり、歌織が力強く歌い上げる。
『KING』
Aメロのビートに合わせて良絽鼓舞を発動し、眩い白い心糸がホークスを包み込む。
思考がクリアに研ぎ澄まされ、広大な吹き抜け店舗の全状況がスローモーションのように解像度高く視界に飛び込んでくる。
(……効くねぇ……最高だ!)
同時に、歌織は中央付近のヴィラン達の足元目掛けてヤマアラシで包囲する。
まるでマキビシの様に鋭い針がヴィランを取り囲み、身動きを封じる。
「ちっ!小賢しいんだよ!!」
たまらず空中へ逃げようと羽ばたいた飛行個性のヴィランを、ホークスの赤い羽が瞬く間に捕らえ、床へ叩きつけた。
「ナイスですオペラップ!
複数ヴィランが分散しないのはやり易い!」
歌織はホークスと目線を交わし、力強くサビを歌い上げる。
「You are king!」
歌声のエネルギーと完全にシンクロしたホークスの剛翼が、残像すら残さぬスピードで旋回する。
逃げ場を失ったヴィランたちは、反撃の暇すら与えられず、一瞬にして全員が拘束されていった。
◇
あっという間に現場を制圧したホークスとオペラップは警察の到着を待つ。
「…いや、かっこよかったですね『KING』。まさにバトルBGMって感じで、納得でした。」
と歌織に感想を話すホークス。
歌織はふふっと笑うと得意気に話す。
「そうでしょう?実はあれ、KINGであるホークスを補佐する戦士の心境で歌ってみたんですよ。
サビで君がビシッと決めたの、痺れました」
自分のパフォーマンスが綺麗に決まって気分が良くなった歌織は余計な一言まで言ってしまう。
歌織は「あっ」と小さく声を上げると、視線を逸らす。
(「痺れました」は言い過ぎだよ〜!やっぱり私、ちょっと…浮かれてる!!)
「……『KING』ねぇ。……そんな風に俺のこと見てくれてたんですか?」
「……っ!や、まぁ……その……」
(自分のパートナーにそんな顔で「痺れた」なんて言われたら、男として調子狂うなぁ……もっと格好いいとこ見せたくなるじゃないですか
……ホント、プロとしても女としても、俺を乗せるのが上手いんだから)
口元をニヤリと歪め、鋭い目元を一瞬だけ緩めるホークス。
間も無く到着した警察とマスコミに対応すると、二人はまた空へ飛び立つのだった。
