本作のヒロイン オペラップの本名
交際 甘々多め
ヒロインの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
12月になると、「師走」という名の通り、街ゆく人々は何となくソワソワし始める。
年末に向けた華やかなイベントが目白押しであること、一年の締め括りとして気持ちを引き締めること。
仕事納めや受験のラストスパートなど、人々は思い思いの忙しない年末を過ごしていた。
歌織もまた、プロヒーローとして、そして「おぺら食堂」のオーナーとしてスケジュールの調整に追われていた。
「ええと……クリスマスは絶対パトロール出なきゃいけないし、おぺら食堂も年末年始は掻き入れどきでめちゃくちゃ大変……
まぁ、店は元々私が居なくても回るようにしてるから大丈夫として……
年内最後の炊き出しが30日……っと。
で……ホークスのお誕生日が28日、かぁ……」
カレンダーと睨めっこしながら、うんうんと唸る。
分かっていたことだが、あまりにも多忙だ。
「……万年独り身だったから、今まで煌びやかなイベントとは縁がなかったんだよなぁ。
そこに執着はないんだけど……ホークスのお誕生日は絶対にお祝いしたいなぁ」
ふーむと悩んだ末、まずは事務所のサイドキックにシフトの相談をしてみることにした。
「ゴリラくん! ちょっとシフトの相談してもいい?」
「はい! オペラップ!」
元気よく駆け寄ってきたのは、ガタイのいい少し毛深い男性サイドキックのゴリラくんだ。
「君もうちに来て2年目だったねぇ。19歳とかだっけ?」
「そうっス!」
キラキラとした眩しい笑顔で答える若者を見つめながら、歌織はふと胸の中で呟く。
(……啓悟くんより年下なのか。私、こんな若い子と同世代の男の人と付き合ってるんだなぁ……)
何とも言えない甘痒い気持ちになりつつ、本題へと入る。
「年末年始の休みなんだけどさ、どこか希望ある? もしクリスマスとか休みたければ、私が出るから遠慮なく休んでいいよー。
年始も帰省するなら調整するし……」
「……えっ! オペラップ、クリスマス仕事出るんスか!?」
驚愕の表情を浮かべるゴリラくんに、歌織はきょとんとした。
「え? うん……どうして? 去年も普通にパトロールしてたけど……」
「あー……えーと……」
言葉を濁すゴリラくんに違和感を覚え、続きを促すと、彼は恐縮した様子でおずおずと話し始めた。
「……いや、その……最近、ホークスがよく『オペライブ』に来てたりしてたので……もしかしたらクリスマスは一緒に過ごすのかな? と勝手に勘繰ってました。すみません」
気まずそうにするゴリラくんを凝視した瞬間、歌織の顔が一気にボッと赤く染まった。
「なっ、なななななんで!? ホークス!? いやいやいや! なんで!?」
完全に語彙力を失ってオロオロするボスに、ゴリラくんは真顔で返す。
「え……だって最近ホークス、オペラップのことチームアップに誘いまくってたじゃないスか。
こんな遠方のヒーローにサポート頼むなんて、絶対個人的な事情があるのかなって……」
(そ、そんな……周りからモロバレだったの!?)
動揺しまくる歌織を見て、ゴリラくんは慌てて補足した。
「いや! たぶん気付いてるの俺と昼夜店長くらいだと思いますよ!
ホークス、クリスマス辺りに一気に関係進めるつもりなのかと思ってたんスけど……読みが外れたっス」
「昼夜くんまで知ってるの!?」
詳細まではバレていなくとも、二人から滲み出るただならぬ空気感は、身近な者には丸わかりだったのだ。
(……私達の関係をどこまで周りに話すかは、今度啓悟くんと相談しよう……)
心の中でそう固く決意しながら、歌織は咳払いをした。
「……コホン。話が逸れたけど、休みの希望はどう? ある?」
「あ、じゃあ……遠慮なく24日と25日にお休み頂いてもいいすか?」
「もちろんいいよ! ゆっくり過ごしてね♪ 私、28日の夕方で上がりたいんだけど、夜間パトロールだけお願い出来ないかな?」
「了解っす!」
気持ちの良い返事をくれたサイドキックに、歌織はほっと胸を撫で下ろして微笑んだ。
◇
クリスマス当日。
歌織は華やかに彩られた街中をパトロールしていた。
あちこちで色鮮やかなイルミネーションが輝き、幻想的な光が冬の夜空に溶けていく。
「……はぁ。確かにこりゃ、みんな浮かれるわぁ」
楽しそうに手を繋いで歩くカップルたちを目にするたび、脳裏に浮かぶのは啓悟の姿だ。
(……あの私服のタートルネックのニット、カッコよかったなぁ……)
彼の姿を思い浮かべた瞬間、先日交わした濃厚で甘い時間まで蘇ってしまい、歌織は「ばかばか!」と慌てて頭をブンブンと振った。
(仕事中! 今は集中しなきゃダメでしょ私!)
浮かれる自分を必死に諫めながら、賑やかなクリスマスを何とか乗り切った。
◇
12月28日。啓悟の誕生日当日。
歌織は夕方のパトロールを終え、無事にゴリラくんへ引き継ぎを完了させていた。
付き合い始めた日に啓悟へ自室の合鍵を渡したものの、超多忙な彼が今日静岡まで来られる確率は限りなくゼロに近い。
(……部屋でごちそうを作って連絡を待つ?
……なーに呑気に考えてるのオペラップ!
啓悟くんが今日家に帰れるかすら怪しいのに、届くかも分からないお祝いを用意して待つなんて意味ないでしょ!)
プロとして相手の状況が想像できるからこそ、歌織の腹は決まった。
(見てくれに頼るお祝いなんていらない。私が…福岡に行けば解決する!!)
思い立ったら即行動だ。歌織は自室で私服に着替え、鞄に最低限の荷物と、彼への誕生日プレゼントを詰め込んだ。
まだ付き合ったばかりで、お互いの関係は極秘だ。
いくらサプライズとはいえ、連絡なしで夜分にホークス事務所へ突撃するのは社会人としてもプロとしても失格だ。
相手の仕事場に迷惑をかけるような真似は絶対にできない。
(人目を避けて、安全に彼を待てる場所……うん、あの場所がベスト!)
歌織は静岡駅へ急ぎ、博多行きの新幹線へと飛び乗った。
車内のシートに腰を下ろし、深く息を吐く。
朝からのパトロールの疲労がじわじわと身体を蝕んでいたが、胸の奥は不思議と熱かった。
スマートフォンの画面を開き、メッセージを打ち込む。
『ホークス!今日もお仕事お疲れ様!
今新幹線で福岡に向かってます。お仕事中にごめんね。
これから私、博多駅近くのカラオケ店に潜伏予定です!
もし奇跡的に仕事が早く終わったら連絡してね。
無理は絶対禁物だよ!』
送信ボタンを押し、新幹線で駅弁をつまむ写真を撮影して送信する。
当然、激務中の彼から既読がつく気配はない。
約4時間の移動を経て、博多駅に到着したのは21時半過ぎだった。
冬の冷たい空気を感じながら、歌織は駅からほど近いカラオケ店へと入った。
受付を済ませ、個室のドアを閉める。
防音の施された静かな室内で、テーブルの上にコンビニで買ってきた小さなショートケーキを並べた。
「ふふ、一人で何やってんだろ私……
ホークス…会えるといいけど…」
苦笑しながらも、ソファに深く腰掛ける。
パトロールと長距離移動の疲労が一気に押し寄せてきて、体が重い。
カラオケルームで一人、新曲の発声練習をしてみたものの、まぶたが重くなり、ソファに横になった。
(啓悟くん、無事でいてね……)
疲労と心地よい安らぎの中で、歌織はまどろみの中へと落ちていった。
◇
同じ頃――福岡から九州全域にかけて飛び回っていたホークスは、極限の多忙の中にいた。
年末の事件ラッシュ、大型ヴィランの暴走処理。
朝から羽を休める暇もなく剛翼を駆使し、ようやく最後の事件現場の片付けが終わったのは22時を過ぎた頃だった。
(……はぁぁ、疲れた……歌織ちゃんに会いたい……)
ビル群の屋上に降り立ち、荒い息を整えながらポケットの中の合鍵に触れる。
今日という日に彼女の元へ行けなかった申し訳なさと寂しさで胸が潰れそうになりながら、久々にスマートフォンを取り出した。
画面を開いた瞬間、ホークスは息を呑んだ。
届いていたメッセージと、新幹線の中で撮られた写真。
そして――「博多駅近くのカラオケにいる」という文字。
「……え……!? 福岡……!? カラオケ!?」
ホークスは目を見開いた。
自分の過酷なスケジュールを理解し、一人で人目を避けてカラオケルームで待っていてくれたのだ。
(俺に負担かけないように……一人で福岡まで来てくれたの……!?)
「っ……歌織ちゃん……!」
疲れなんて一瞬で吹き飛んだ。 最速のヒーローは夜の博多の街へ向かって、弾丸のような速度で急降下した。
◇
22時半。
博多駅近くのカラオケ店の廊下を、フードを深く被った男が足早に通り抜ける。
指定された部屋番号の前に立ち、ホークスは意を決してドアノブを回した。
カチャリ、と音が鳴り、部屋の扉が開く。
薄暗い室内。テーブルの上には小さなケーキが並んでいる。
そしてソファの上で、すやすやと小さな寝息を立てて眠っている歌織の姿があった。
長距離移動とパトロールの疲れが出たのだろう。
身一つで駆けつけてくれた彼女の健気な姿に、ホークスの胸が激しく締め付けられた。
「……歌織ちゃん」
静かに部屋に入り、ドアを閉める。 近づいてそっと肩を揺らすと、歌織はうっすらと瞳を開けた。
「……ん……あれ……? ほー、くす…………?」
夢か現実か分からない様子で目を擦る彼女の前に、ホークスは膝をついた。
「ただいま。歌織ちゃん……一人で寝てちゃ不用心でしょ?
……本当に、来てくれたんだ……」
「……あ! ホークス! わ……本当に会えた!」
覚醒した歌織の顔に、ぱぁっと飛び切りの笑顔が咲いた。
彼女は体を起こすと、ヘトヘトのはずの身体で勢いよくホークスの首元へ抱きついた。
「お仕事遅くまでお疲れ様! 直接言いたくて、新幹線で来ちゃった! ……ホークス、お誕生日おめでとう!」
ぎゅっとしがみついてくる彼女の温もり、甘い体温。
今まで、自分の誕生日なんてただの数字でしかなかった。
公安の道具として生き、祝われることすら知らなかった自分が、今、世界で一番大好きな人に抱きしめられている。
「……っ……歌織ちゃん、あなたって人は……」
ホークスは彼女の背中に腕を回し、折れんばかりの力で抱き返した。
彼女の首筋に顔を埋めると、愛おしさと幸せで涙が溢れそうになる。
「遠いのに……疲れてるのに、わざわざ来てくれて……俺のために待っててくれて……ありがとう……」
「ふふ、お安い御用だよ!ヒーローはどこへだって駆けつけちゃうものなんだからね?
…ごちそうは作れなかったけどね。君の生まれた日をお祝いできて嬉しいよ」
笑う歌織の頬を両手で包み込み、ホークスは愛おしさを全部込めて、深く濃厚な口づけを重ねた。
日付が変わるまでのあと一時間弱。 防音の静かなカラオケルームで、二人はようやく会えた時間を慈しみながら過ごすのだった。
おまけ
「じじゃーん!こちら!お誕生日プレゼントになりまーす!」
「おお〜!ありがとうございます!開けてもいいです?」
「もちろん!」
歌織が啓悟に紙袋を渡す。
啓悟はいそいそと紙袋の中身を出すと、柔らかな肌触りのカシミヤのマフラーが姿を表す。
「わあ……! めっちゃ柔らかい……! てか、すっごい暖かいねこれ……!」
「福岡は風が冷たいし、空を飛ぶと首元が冷えるでしょ?だからいいかなーと思って♪」
素の表情に戻ったホークスは、頬をマフラーにすり寄せて、うっとりと目を細めた。
「カシミアと? こんな上等な物……わざわざ俺のために選んでくれたと?」
「うん。やっぱり上空って寒いんじゃないかなーって思ってさぁ。
……てか!博多弁!?かわいいな!!」
歌織は立ち上がり、ホークスの首元にそっとマフラーを巻きつけて整えてあげる。
「おお〜…お客様、大変よくお似合いですよ!」と茶化しながらも歌織は微笑む。
上質なカシミアの肌触りと、歌織の手が触れる温もりに、ホークスは吐息を漏らしながら彼女の腰にぎゅっと抱きついた。
「……んー、ヤバい。めちゃくちゃ温かい。なんかさ……歌織ちゃんにずっと抱きしめられてるみたい」
「そ、そう?大袈裟だなぁ〜。……でも、喜んでもらえて良かった」
歌織が優しく彼の髪を撫でると、ホークスは彼女のお腹に顔を埋めたまま、噛み締めるように低く囁いた。
「……ありがとう、歌織ちゃん。ほんと、ありがとうね……。こんなに嬉しい誕生日、生まれて初めてかもしれん」
世間からの歓声でも、メディアからのスポットライトでもない。
自分を「鷹見啓悟」として愛し、遠くから駆けつけてくれた彼女の温もりとマフラーが、彼の凍えていた心をどこまでも優しく溶かしていくのだった。
※歌織ちゃんはプライベートルーム以外では二人きりの場合でも「ホークス」と呼びます。
いつどこで誰が聞いてるか分からないからね⭐︎
年末に向けた華やかなイベントが目白押しであること、一年の締め括りとして気持ちを引き締めること。
仕事納めや受験のラストスパートなど、人々は思い思いの忙しない年末を過ごしていた。
歌織もまた、プロヒーローとして、そして「おぺら食堂」のオーナーとしてスケジュールの調整に追われていた。
「ええと……クリスマスは絶対パトロール出なきゃいけないし、おぺら食堂も年末年始は掻き入れどきでめちゃくちゃ大変……
まぁ、店は元々私が居なくても回るようにしてるから大丈夫として……
年内最後の炊き出しが30日……っと。
で……ホークスのお誕生日が28日、かぁ……」
カレンダーと睨めっこしながら、うんうんと唸る。
分かっていたことだが、あまりにも多忙だ。
「……万年独り身だったから、今まで煌びやかなイベントとは縁がなかったんだよなぁ。
そこに執着はないんだけど……ホークスのお誕生日は絶対にお祝いしたいなぁ」
ふーむと悩んだ末、まずは事務所のサイドキックにシフトの相談をしてみることにした。
「ゴリラくん! ちょっとシフトの相談してもいい?」
「はい! オペラップ!」
元気よく駆け寄ってきたのは、ガタイのいい少し毛深い男性サイドキックのゴリラくんだ。
「君もうちに来て2年目だったねぇ。19歳とかだっけ?」
「そうっス!」
キラキラとした眩しい笑顔で答える若者を見つめながら、歌織はふと胸の中で呟く。
(……啓悟くんより年下なのか。私、こんな若い子と同世代の男の人と付き合ってるんだなぁ……)
何とも言えない甘痒い気持ちになりつつ、本題へと入る。
「年末年始の休みなんだけどさ、どこか希望ある? もしクリスマスとか休みたければ、私が出るから遠慮なく休んでいいよー。
年始も帰省するなら調整するし……」
「……えっ! オペラップ、クリスマス仕事出るんスか!?」
驚愕の表情を浮かべるゴリラくんに、歌織はきょとんとした。
「え? うん……どうして? 去年も普通にパトロールしてたけど……」
「あー……えーと……」
言葉を濁すゴリラくんに違和感を覚え、続きを促すと、彼は恐縮した様子でおずおずと話し始めた。
「……いや、その……最近、ホークスがよく『オペライブ』に来てたりしてたので……もしかしたらクリスマスは一緒に過ごすのかな? と勝手に勘繰ってました。すみません」
気まずそうにするゴリラくんを凝視した瞬間、歌織の顔が一気にボッと赤く染まった。
「なっ、なななななんで!? ホークス!? いやいやいや! なんで!?」
完全に語彙力を失ってオロオロするボスに、ゴリラくんは真顔で返す。
「え……だって最近ホークス、オペラップのことチームアップに誘いまくってたじゃないスか。
こんな遠方のヒーローにサポート頼むなんて、絶対個人的な事情があるのかなって……」
(そ、そんな……周りからモロバレだったの!?)
動揺しまくる歌織を見て、ゴリラくんは慌てて補足した。
「いや! たぶん気付いてるの俺と昼夜店長くらいだと思いますよ!
ホークス、クリスマス辺りに一気に関係進めるつもりなのかと思ってたんスけど……読みが外れたっス」
「昼夜くんまで知ってるの!?」
詳細まではバレていなくとも、二人から滲み出るただならぬ空気感は、身近な者には丸わかりだったのだ。
(……私達の関係をどこまで周りに話すかは、今度啓悟くんと相談しよう……)
心の中でそう固く決意しながら、歌織は咳払いをした。
「……コホン。話が逸れたけど、休みの希望はどう? ある?」
「あ、じゃあ……遠慮なく24日と25日にお休み頂いてもいいすか?」
「もちろんいいよ! ゆっくり過ごしてね♪ 私、28日の夕方で上がりたいんだけど、夜間パトロールだけお願い出来ないかな?」
「了解っす!」
気持ちの良い返事をくれたサイドキックに、歌織はほっと胸を撫で下ろして微笑んだ。
◇
クリスマス当日。
歌織は華やかに彩られた街中をパトロールしていた。
あちこちで色鮮やかなイルミネーションが輝き、幻想的な光が冬の夜空に溶けていく。
「……はぁ。確かにこりゃ、みんな浮かれるわぁ」
楽しそうに手を繋いで歩くカップルたちを目にするたび、脳裏に浮かぶのは啓悟の姿だ。
(……あの私服のタートルネックのニット、カッコよかったなぁ……)
彼の姿を思い浮かべた瞬間、先日交わした濃厚で甘い時間まで蘇ってしまい、歌織は「ばかばか!」と慌てて頭をブンブンと振った。
(仕事中! 今は集中しなきゃダメでしょ私!)
浮かれる自分を必死に諫めながら、賑やかなクリスマスを何とか乗り切った。
◇
12月28日。啓悟の誕生日当日。
歌織は夕方のパトロールを終え、無事にゴリラくんへ引き継ぎを完了させていた。
付き合い始めた日に啓悟へ自室の合鍵を渡したものの、超多忙な彼が今日静岡まで来られる確率は限りなくゼロに近い。
(……部屋でごちそうを作って連絡を待つ?
……なーに呑気に考えてるのオペラップ!
啓悟くんが今日家に帰れるかすら怪しいのに、届くかも分からないお祝いを用意して待つなんて意味ないでしょ!)
プロとして相手の状況が想像できるからこそ、歌織の腹は決まった。
(見てくれに頼るお祝いなんていらない。私が…福岡に行けば解決する!!)
思い立ったら即行動だ。歌織は自室で私服に着替え、鞄に最低限の荷物と、彼への誕生日プレゼントを詰め込んだ。
まだ付き合ったばかりで、お互いの関係は極秘だ。
いくらサプライズとはいえ、連絡なしで夜分にホークス事務所へ突撃するのは社会人としてもプロとしても失格だ。
相手の仕事場に迷惑をかけるような真似は絶対にできない。
(人目を避けて、安全に彼を待てる場所……うん、あの場所がベスト!)
歌織は静岡駅へ急ぎ、博多行きの新幹線へと飛び乗った。
車内のシートに腰を下ろし、深く息を吐く。
朝からのパトロールの疲労がじわじわと身体を蝕んでいたが、胸の奥は不思議と熱かった。
スマートフォンの画面を開き、メッセージを打ち込む。
『ホークス!今日もお仕事お疲れ様!
今新幹線で福岡に向かってます。お仕事中にごめんね。
これから私、博多駅近くのカラオケ店に潜伏予定です!
もし奇跡的に仕事が早く終わったら連絡してね。
無理は絶対禁物だよ!』
送信ボタンを押し、新幹線で駅弁をつまむ写真を撮影して送信する。
当然、激務中の彼から既読がつく気配はない。
約4時間の移動を経て、博多駅に到着したのは21時半過ぎだった。
冬の冷たい空気を感じながら、歌織は駅からほど近いカラオケ店へと入った。
受付を済ませ、個室のドアを閉める。
防音の施された静かな室内で、テーブルの上にコンビニで買ってきた小さなショートケーキを並べた。
「ふふ、一人で何やってんだろ私……
ホークス…会えるといいけど…」
苦笑しながらも、ソファに深く腰掛ける。
パトロールと長距離移動の疲労が一気に押し寄せてきて、体が重い。
カラオケルームで一人、新曲の発声練習をしてみたものの、まぶたが重くなり、ソファに横になった。
(啓悟くん、無事でいてね……)
疲労と心地よい安らぎの中で、歌織はまどろみの中へと落ちていった。
◇
同じ頃――福岡から九州全域にかけて飛び回っていたホークスは、極限の多忙の中にいた。
年末の事件ラッシュ、大型ヴィランの暴走処理。
朝から羽を休める暇もなく剛翼を駆使し、ようやく最後の事件現場の片付けが終わったのは22時を過ぎた頃だった。
(……はぁぁ、疲れた……歌織ちゃんに会いたい……)
ビル群の屋上に降り立ち、荒い息を整えながらポケットの中の合鍵に触れる。
今日という日に彼女の元へ行けなかった申し訳なさと寂しさで胸が潰れそうになりながら、久々にスマートフォンを取り出した。
画面を開いた瞬間、ホークスは息を呑んだ。
届いていたメッセージと、新幹線の中で撮られた写真。
そして――「博多駅近くのカラオケにいる」という文字。
「……え……!? 福岡……!? カラオケ!?」
ホークスは目を見開いた。
自分の過酷なスケジュールを理解し、一人で人目を避けてカラオケルームで待っていてくれたのだ。
(俺に負担かけないように……一人で福岡まで来てくれたの……!?)
「っ……歌織ちゃん……!」
疲れなんて一瞬で吹き飛んだ。 最速のヒーローは夜の博多の街へ向かって、弾丸のような速度で急降下した。
◇
22時半。
博多駅近くのカラオケ店の廊下を、フードを深く被った男が足早に通り抜ける。
指定された部屋番号の前に立ち、ホークスは意を決してドアノブを回した。
カチャリ、と音が鳴り、部屋の扉が開く。
薄暗い室内。テーブルの上には小さなケーキが並んでいる。
そしてソファの上で、すやすやと小さな寝息を立てて眠っている歌織の姿があった。
長距離移動とパトロールの疲れが出たのだろう。
身一つで駆けつけてくれた彼女の健気な姿に、ホークスの胸が激しく締め付けられた。
「……歌織ちゃん」
静かに部屋に入り、ドアを閉める。 近づいてそっと肩を揺らすと、歌織はうっすらと瞳を開けた。
「……ん……あれ……? ほー、くす…………?」
夢か現実か分からない様子で目を擦る彼女の前に、ホークスは膝をついた。
「ただいま。歌織ちゃん……一人で寝てちゃ不用心でしょ?
……本当に、来てくれたんだ……」
「……あ! ホークス! わ……本当に会えた!」
覚醒した歌織の顔に、ぱぁっと飛び切りの笑顔が咲いた。
彼女は体を起こすと、ヘトヘトのはずの身体で勢いよくホークスの首元へ抱きついた。
「お仕事遅くまでお疲れ様! 直接言いたくて、新幹線で来ちゃった! ……ホークス、お誕生日おめでとう!」
ぎゅっとしがみついてくる彼女の温もり、甘い体温。
今まで、自分の誕生日なんてただの数字でしかなかった。
公安の道具として生き、祝われることすら知らなかった自分が、今、世界で一番大好きな人に抱きしめられている。
「……っ……歌織ちゃん、あなたって人は……」
ホークスは彼女の背中に腕を回し、折れんばかりの力で抱き返した。
彼女の首筋に顔を埋めると、愛おしさと幸せで涙が溢れそうになる。
「遠いのに……疲れてるのに、わざわざ来てくれて……俺のために待っててくれて……ありがとう……」
「ふふ、お安い御用だよ!ヒーローはどこへだって駆けつけちゃうものなんだからね?
…ごちそうは作れなかったけどね。君の生まれた日をお祝いできて嬉しいよ」
笑う歌織の頬を両手で包み込み、ホークスは愛おしさを全部込めて、深く濃厚な口づけを重ねた。
日付が変わるまでのあと一時間弱。 防音の静かなカラオケルームで、二人はようやく会えた時間を慈しみながら過ごすのだった。
おまけ
「じじゃーん!こちら!お誕生日プレゼントになりまーす!」
「おお〜!ありがとうございます!開けてもいいです?」
「もちろん!」
歌織が啓悟に紙袋を渡す。
啓悟はいそいそと紙袋の中身を出すと、柔らかな肌触りのカシミヤのマフラーが姿を表す。
「わあ……! めっちゃ柔らかい……! てか、すっごい暖かいねこれ……!」
「福岡は風が冷たいし、空を飛ぶと首元が冷えるでしょ?だからいいかなーと思って♪」
素の表情に戻ったホークスは、頬をマフラーにすり寄せて、うっとりと目を細めた。
「カシミアと? こんな上等な物……わざわざ俺のために選んでくれたと?」
「うん。やっぱり上空って寒いんじゃないかなーって思ってさぁ。
……てか!博多弁!?かわいいな!!」
歌織は立ち上がり、ホークスの首元にそっとマフラーを巻きつけて整えてあげる。
「おお〜…お客様、大変よくお似合いですよ!」と茶化しながらも歌織は微笑む。
上質なカシミアの肌触りと、歌織の手が触れる温もりに、ホークスは吐息を漏らしながら彼女の腰にぎゅっと抱きついた。
「……んー、ヤバい。めちゃくちゃ温かい。なんかさ……歌織ちゃんにずっと抱きしめられてるみたい」
「そ、そう?大袈裟だなぁ〜。……でも、喜んでもらえて良かった」
歌織が優しく彼の髪を撫でると、ホークスは彼女のお腹に顔を埋めたまま、噛み締めるように低く囁いた。
「……ありがとう、歌織ちゃん。ほんと、ありがとうね……。こんなに嬉しい誕生日、生まれて初めてかもしれん」
世間からの歓声でも、メディアからのスポットライトでもない。
自分を「鷹見啓悟」として愛し、遠くから駆けつけてくれた彼女の温もりとマフラーが、彼の凍えていた心をどこまでも優しく溶かしていくのだった。
※歌織ちゃんはプライベートルーム以外では二人きりの場合でも「ホークス」と呼びます。
いつどこで誰が聞いてるか分からないからね⭐︎
1/1ページ
