本作のヒロイン オペラップの本名
交際スタートした日
ヒロインの名前
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日もすっかり暮れ、冬の澄んだ夜空に小さな星々が輝き始める頃。
歌織は夕方作ったシチューの鍋に火をつけ、弱火でじっくりと温め直し始めた。
「煮込み料理はねぇ、作ってから少し置いておくと味が馴染むのですよ!」
「ほ〜……奥が深いんですなぁ」
歌織と啓悟はキッチンで並んで立ち、雑談をしながら手際よく食事の支度を進めていく。
湯気の上がる鍋、そして隣で自分に笑いかけてくれる愛しい存在。
これまで常に緊張感に晒されてきた啓悟にとって、この穏やかで何気ない時間は、息を呑むほど愛おしく幸せなものだった。
(……なんか、夢んごたーな)
幸せを深く噛み締めていると、歌織がポンと手を叩き、ハッとした表情で啓悟に向き直った。
「そうだ啓悟くん! シチューだとパン一緒に合わせたくない!?」
「確かに……シチューとパンは鉄板ですね」
「……うち今パンが無くてさぁ。近所に美味しいパン屋さんがあるんだけど、買い出しお願い出来ないかな?」
少し申し訳なさそうに上目遣いでお願いしてくる歌織。その顔があまりにも可愛らしくて、啓悟は口元をほころばせた。
「なんだそんな事。お安い御用ですよ」
にこやかに引き受け、啓悟は上着を羽織って外へと向かった。
◇
「おぺら食堂」が入るビルから数メートルの場所に位置するベーカリー。
剛翼で飛ぶほどでもない距離なので、啓悟は夜の街をゆっくり歩いて移動することにした。
ヒーロースーツを着ていなくとも、背中に広がる鮮やかな赤の翼は一目で彼を「ホークス」だと知らしめる記号となる。
街を行き交う一般市民が、「あれホークス?」「こんなところで珍しいね」と瞬く間にざわめき出した。
啓悟はサングラス越しに視線をチラリとやると、「どーも」と軽やかに手を挙げてみせる。
現役トップヒーローの洗練されたファンサービスに、あちこちから「きゃー!」と黄色い悲鳴が上がった。
(……ここが歌織ちゃんの住んどー街か)
日本トップのヒーロー科である雄英高校の最寄駅に位置するオペラップビルの周りには、部活帰りと思われる学生たちの姿も多く見られる。
未来のヒーローの卵たちも、突然現れたトップ5の若きプロヒーローに興味津々の様子だった。
(……そういやあ、ミッドナイトが教師やっとーったいっけ)
ふと頭に思い浮かび、先ほどベッドルームで歌織が言っていた言い訳を思い出してしまう。
(ミッドナイトから変な大人の知識吹き込まれて、パニックになって自爆する歌織ちゃん……)
歌織とミッドナイトの濃いやり取りを脳内再生し、啓悟は思わずくすりと吹き出してしまった。
そんな考えを巡らせているうちにパン屋の前に到着し、啓悟はカランと音を立てて店内へと足を踏み入れた。
焼きたての小麦の香ばしい匂いと、甘いバターの香りが鼻腔を心地よくくすぐる。
「いらっしゃいませ……え!? ホークス!?」
「こんばんはー。フランスパンが欲しいんですけど、あります?」
レジの店員は袋を用意しながら、目を丸くしてしげしげと啓悟の顔を見つめてきた。
「……まぁ、やっぱりイケメンねえ。こんなとこに来るなんて珍しいわね? 雄英に用事?」
「そうですねえ。ま、そんなとこですかね」
適当に相槌を打ちながら店内を見渡す。
シチューに合うハード系のパンのほかにも、歌織が好きそうな甘いスイーツ系のパンが目に入り、気づけばトングで次々とトレーに乗せていた。
店を出た後も、ふと近隣のケーキ屋のショーウィンドウが目に入る。
愛らしい苺のショートケーキとタルトが並んでいるのを見て、吸い寄せられるように店内へ入ると、迷わず二つ購入した。
(……歌織ちゃん、喜んでくれるとよかねぇ)
◇
「……ただいまー」
両手いっぱいの紙袋を抱えて、啓悟が「おぺら食堂」の上の自宅へと帰ってきた。
「おかえり〜! ありがと……わぁ!? 随分いっぱい買ってきたね!?」
パタパタと玄関まで出迎えてくれた歌織は、大きな袋の山を見て目を丸くした。
「……歌織ちゃんの顔考えてたら、つい色々買い込んじゃいました♪」
照れくさそうにはしゃぐ啓悟が可愛くて仕方なく、歌織は「ありがとう! 嬉しいなぁ〜♪」と満面の笑みで荷物を受け取った。
「さてさて! シチューも温まりましたよ〜!」
歌織はテーブルの上に、湯気の立つ温かなシチューと彩り豊かなサラダ、そして啓悟が買ってきてくれた切り分けたパンを並べた。
「おお〜! 美味そう!」
ウキウキと目を輝かせて席に着く啓悟を見て、歌織も「ふふっ」と微笑みながら向かいの席に腰掛ける。
スプーンを手に取った啓悟は、温かいシチューを見つめながらポツリと呟いた。
「歌織ちゃん……ありがとう。俺、飯っていったら外でササッと食べるのがほとんどだったから……温かい手料理って、ほとんど経験ないんだ」
公安の訓練所での味気ない食事や、プロになってからの多忙な外食ばかりだった自分の過去。
歌織はそんな啓悟の少し切なげな横顔を見ると、そっと手を伸ばして彼の肩をポンと叩いた。
「……そんなに喜んでもらえて嬉しい! おかわりたくさんあるから、遠慮しないでいっぱい食べてね」
包み込むような彼女の笑顔に、啓悟の胸の奥がじんわりと解けていく。
「いただきます!」
スプーンでシチューを掬い、口へと運ぶ。ゴロっとした野菜と濃厚なクリームの旨味が口いっぱいに広がり、啓悟は思わず目を見開いた。
「ん〜! うま〜! ……食堂のメニューもめちゃくちゃ美味いけど、洋食もこのレベル!?」
「あはは! お口に合ったみたいで良かった〜♪ まぁ、おぺら食堂も家庭料理メインだからね。家での料理は新メニューの試作も兼ねてるんだよね〜」
満足そうに自分の作った料理を口にし、「美味しく出来た♪」と上機嫌になる歌織。
啓悟が買ってきたパリッとしたフランスパンをシチューに浸しながら、ふたりは賑やかで温かな夕食の時間を楽しんだ。
◇
食後、買ってきた愛らしいケーキをフォークで突きながら、二人はまったりと談笑を始めた。
「冬といえば、カップルイベント満載だねぇ。せっかくだから楽しみたいけど……我々ヒーローは暦通りにお休み出来ないもんねぇ」
歌織が少し肩をすくめながら問いかける。
「そうすねぇ。むしろ年末年始は気が緩んでハメを外す人が多くなるから、余計に忙しくなるしね」
啓悟も苦笑いを浮かべながら相槌を打つ。
プロヒーロー同士、世間が浮かれる時期こそ警戒を強めなければならない切なさは共通の悩みだった。
「……そういえば、啓悟くんってお誕生日いつ?」
はたと思い出したように歌織が尋ねる。
啓悟はケーキを一口運ぶと、「12月28日です」とサラリと答えた。
「えっ!? もうすぐじゃない! え〜! そっかぁ……他のイベントは仕事で合わせられなくてもしょうがないけど、お誕生日は絶対にお祝いしたいなぁ」
言った瞬間、歌織はすぐさまスマートフォンを取り出し、スケジュールアプリに「ホークス誕生日」と真剣な顔で入力し始めた。
その姿をじっと見つめながら、啓悟の胸の奥にどこまでも温かく甘い熱が広がっていく。
(……誕生日、か。自分の生まれた日なんて、何年も気にしたことなかったのに……)
「……誕生日、祝ってくれるんです?」
静かに、けれどどこか嬉しそうに尋ねる啓悟に、歌織は胸をポンと張りながら力強く答えた。
「当たり前でしょ! クリスマスとかは無理して合わせる必要ないと思うけど……お誕生日は何が何でもお祝いしたいなぁ!
なんたって、君がこの世界に生まれてきてくれた特別な日だもんね」
屈託のない、100%の愛がこもった歌織の笑顔。
「最速のヒーロー・ホークス」としてではなく、「鷹見啓悟」という一人の人間としての誕生を心から喜んでくれる存在が、今目の前にいる。
孤独だった過去も、過酷な現実も、すべてがこの笑顔に救われていくような感覚に包まれながら、啓悟は心からの笑みを浮かべた。
「……楽しみにしてます」
二人の間に流れる夜は、外の冬風を忘れるほど優しく温かかった。
歌織は夕方作ったシチューの鍋に火をつけ、弱火でじっくりと温め直し始めた。
「煮込み料理はねぇ、作ってから少し置いておくと味が馴染むのですよ!」
「ほ〜……奥が深いんですなぁ」
歌織と啓悟はキッチンで並んで立ち、雑談をしながら手際よく食事の支度を進めていく。
湯気の上がる鍋、そして隣で自分に笑いかけてくれる愛しい存在。
これまで常に緊張感に晒されてきた啓悟にとって、この穏やかで何気ない時間は、息を呑むほど愛おしく幸せなものだった。
(……なんか、夢んごたーな)
幸せを深く噛み締めていると、歌織がポンと手を叩き、ハッとした表情で啓悟に向き直った。
「そうだ啓悟くん! シチューだとパン一緒に合わせたくない!?」
「確かに……シチューとパンは鉄板ですね」
「……うち今パンが無くてさぁ。近所に美味しいパン屋さんがあるんだけど、買い出しお願い出来ないかな?」
少し申し訳なさそうに上目遣いでお願いしてくる歌織。その顔があまりにも可愛らしくて、啓悟は口元をほころばせた。
「なんだそんな事。お安い御用ですよ」
にこやかに引き受け、啓悟は上着を羽織って外へと向かった。
◇
「おぺら食堂」が入るビルから数メートルの場所に位置するベーカリー。
剛翼で飛ぶほどでもない距離なので、啓悟は夜の街をゆっくり歩いて移動することにした。
ヒーロースーツを着ていなくとも、背中に広がる鮮やかな赤の翼は一目で彼を「ホークス」だと知らしめる記号となる。
街を行き交う一般市民が、「あれホークス?」「こんなところで珍しいね」と瞬く間にざわめき出した。
啓悟はサングラス越しに視線をチラリとやると、「どーも」と軽やかに手を挙げてみせる。
現役トップヒーローの洗練されたファンサービスに、あちこちから「きゃー!」と黄色い悲鳴が上がった。
(……ここが歌織ちゃんの住んどー街か)
日本トップのヒーロー科である雄英高校の最寄駅に位置するオペラップビルの周りには、部活帰りと思われる学生たちの姿も多く見られる。
未来のヒーローの卵たちも、突然現れたトップ5の若きプロヒーローに興味津々の様子だった。
(……そういやあ、ミッドナイトが教師やっとーったいっけ)
ふと頭に思い浮かび、先ほどベッドルームで歌織が言っていた言い訳を思い出してしまう。
(ミッドナイトから変な大人の知識吹き込まれて、パニックになって自爆する歌織ちゃん……)
歌織とミッドナイトの濃いやり取りを脳内再生し、啓悟は思わずくすりと吹き出してしまった。
そんな考えを巡らせているうちにパン屋の前に到着し、啓悟はカランと音を立てて店内へと足を踏み入れた。
焼きたての小麦の香ばしい匂いと、甘いバターの香りが鼻腔を心地よくくすぐる。
「いらっしゃいませ……え!? ホークス!?」
「こんばんはー。フランスパンが欲しいんですけど、あります?」
レジの店員は袋を用意しながら、目を丸くしてしげしげと啓悟の顔を見つめてきた。
「……まぁ、やっぱりイケメンねえ。こんなとこに来るなんて珍しいわね? 雄英に用事?」
「そうですねえ。ま、そんなとこですかね」
適当に相槌を打ちながら店内を見渡す。
シチューに合うハード系のパンのほかにも、歌織が好きそうな甘いスイーツ系のパンが目に入り、気づけばトングで次々とトレーに乗せていた。
店を出た後も、ふと近隣のケーキ屋のショーウィンドウが目に入る。
愛らしい苺のショートケーキとタルトが並んでいるのを見て、吸い寄せられるように店内へ入ると、迷わず二つ購入した。
(……歌織ちゃん、喜んでくれるとよかねぇ)
◇
「……ただいまー」
両手いっぱいの紙袋を抱えて、啓悟が「おぺら食堂」の上の自宅へと帰ってきた。
「おかえり〜! ありがと……わぁ!? 随分いっぱい買ってきたね!?」
パタパタと玄関まで出迎えてくれた歌織は、大きな袋の山を見て目を丸くした。
「……歌織ちゃんの顔考えてたら、つい色々買い込んじゃいました♪」
照れくさそうにはしゃぐ啓悟が可愛くて仕方なく、歌織は「ありがとう! 嬉しいなぁ〜♪」と満面の笑みで荷物を受け取った。
「さてさて! シチューも温まりましたよ〜!」
歌織はテーブルの上に、湯気の立つ温かなシチューと彩り豊かなサラダ、そして啓悟が買ってきてくれた切り分けたパンを並べた。
「おお〜! 美味そう!」
ウキウキと目を輝かせて席に着く啓悟を見て、歌織も「ふふっ」と微笑みながら向かいの席に腰掛ける。
スプーンを手に取った啓悟は、温かいシチューを見つめながらポツリと呟いた。
「歌織ちゃん……ありがとう。俺、飯っていったら外でササッと食べるのがほとんどだったから……温かい手料理って、ほとんど経験ないんだ」
公安の訓練所での味気ない食事や、プロになってからの多忙な外食ばかりだった自分の過去。
歌織はそんな啓悟の少し切なげな横顔を見ると、そっと手を伸ばして彼の肩をポンと叩いた。
「……そんなに喜んでもらえて嬉しい! おかわりたくさんあるから、遠慮しないでいっぱい食べてね」
包み込むような彼女の笑顔に、啓悟の胸の奥がじんわりと解けていく。
「いただきます!」
スプーンでシチューを掬い、口へと運ぶ。ゴロっとした野菜と濃厚なクリームの旨味が口いっぱいに広がり、啓悟は思わず目を見開いた。
「ん〜! うま〜! ……食堂のメニューもめちゃくちゃ美味いけど、洋食もこのレベル!?」
「あはは! お口に合ったみたいで良かった〜♪ まぁ、おぺら食堂も家庭料理メインだからね。家での料理は新メニューの試作も兼ねてるんだよね〜」
満足そうに自分の作った料理を口にし、「美味しく出来た♪」と上機嫌になる歌織。
啓悟が買ってきたパリッとしたフランスパンをシチューに浸しながら、ふたりは賑やかで温かな夕食の時間を楽しんだ。
◇
食後、買ってきた愛らしいケーキをフォークで突きながら、二人はまったりと談笑を始めた。
「冬といえば、カップルイベント満載だねぇ。せっかくだから楽しみたいけど……我々ヒーローは暦通りにお休み出来ないもんねぇ」
歌織が少し肩をすくめながら問いかける。
「そうすねぇ。むしろ年末年始は気が緩んでハメを外す人が多くなるから、余計に忙しくなるしね」
啓悟も苦笑いを浮かべながら相槌を打つ。
プロヒーロー同士、世間が浮かれる時期こそ警戒を強めなければならない切なさは共通の悩みだった。
「……そういえば、啓悟くんってお誕生日いつ?」
はたと思い出したように歌織が尋ねる。
啓悟はケーキを一口運ぶと、「12月28日です」とサラリと答えた。
「えっ!? もうすぐじゃない! え〜! そっかぁ……他のイベントは仕事で合わせられなくてもしょうがないけど、お誕生日は絶対にお祝いしたいなぁ」
言った瞬間、歌織はすぐさまスマートフォンを取り出し、スケジュールアプリに「ホークス誕生日」と真剣な顔で入力し始めた。
その姿をじっと見つめながら、啓悟の胸の奥にどこまでも温かく甘い熱が広がっていく。
(……誕生日、か。自分の生まれた日なんて、何年も気にしたことなかったのに……)
「……誕生日、祝ってくれるんです?」
静かに、けれどどこか嬉しそうに尋ねる啓悟に、歌織は胸をポンと張りながら力強く答えた。
「当たり前でしょ! クリスマスとかは無理して合わせる必要ないと思うけど……お誕生日は何が何でもお祝いしたいなぁ!
なんたって、君がこの世界に生まれてきてくれた特別な日だもんね」
屈託のない、100%の愛がこもった歌織の笑顔。
「最速のヒーロー・ホークス」としてではなく、「鷹見啓悟」という一人の人間としての誕生を心から喜んでくれる存在が、今目の前にいる。
孤独だった過去も、過酷な現実も、すべてがこの笑顔に救われていくような感覚に包まれながら、啓悟は心からの笑みを浮かべた。
「……楽しみにしてます」
二人の間に流れる夜は、外の冬風を忘れるほど優しく温かかった。
