本作のヒロイン オペラップの本名
出会いー交際
ヒロインの名前
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オペラップが投稿した「チェリーポップうたってみた」の動画は、SNSを中心に若い世代の間で大きな話題を呼んでいた。
普段は明るく伸びやかに歌うオペラップが、どこか拗ねたような、甘えるような絶妙な表情で「ちねちねちねちね!」と連呼しながら、見たこともない鮮やかな桜色の糸を飛ばしているのだ。
原曲サムネイルへのリスペクトも完璧で、コメント欄は
「可愛すぎる」
「あのピンクの糸なに!?」
と大盛り上がりを見せていた。
そんな噂話を小耳に挟みながら、歌織はオペラップ事務所の隅で、おそるおそる自分の動画を再生してみる。
「……動画上げましたって、報告しようと思ってたのに……」
画面の中で、感情をだだ漏れにしながら桜色の心糸を撒き散らす自分の姿。
直視できずに頭を抱え、眩暈を覚えた。
しかし、彼女の『心音頭』は本音をそのまま映し出す己の鏡だ。
取り繕ってもう一度撮り直したところで、本心が変わらない以上、また同じように桜色の心糸が出てしまう。
「……むしろ自覚してしまった分、もっと出そうな気が……!!」
彼女は個性の性質上、普段から嘘偽りのない本音で生きることを心掛けている。
いざという時——人の命がかかった現場で確実に個性を発動させるために。
それはプロヒーローとしての彼女の信条であり、覚悟であり、誇りであった。
……だが、こと恋愛に関しては事情が全く変わってくる。
自分の秘めた恋心や弱点を、全世界に向けて裸で晒しているのと同義なのだ。
……しかし、悲しいかな。
歌織はプロヒーローであり、一人の社会人である。
今回の動画は、他ならぬ依頼主——ホークスからのリクエストに応えたもの。
公開の報告をしないわけにはいかなかった。
歌織は沸騰しそうな恥ずかしさを必死に押し込み、意を決してスマホを手に取った。
「……出なかったらメッセージ送ればいいから……!!
電話したという事実だけがほしい……!!」
切実に祈りながらコール音に耳を澄ませる。
しかし無情にもプッと電子音が鳴り、
「はい、こちらホークスでーす」
という軽やかな声が耳元に響いた。
(……ああ〜! 出ちゃったぁぁぁ〜!!)
思わず口から出そうになる悲鳴を力任せに飲み込み、必死で業務連絡のトーンを作り上げる。
「お疲れ様ですホークス。オペラップです。先日リクエストいただいた楽曲の収録が終わりましたので、早速公開しました。ご確認いただけますと幸いです」
(あくまで業務連絡! 業務連絡だから!)
心の中で自分に言い聞かせる歌織に、スマホの向こうからくすりと微笑む気配が伝わってきた。
「……ああ〜! わざわざ連絡どうも!
実は早速聴いちゃいましたよ。
……想像以上にオペラップさんに合ってて可愛かったです!
ありがとうございます」
サラリと告げられた評価に、歌織の顔が一瞬でカッと熱くなる。
(ひぇ……っか、かわいい、って……!)
上擦りそうになる声を喉の奥で必死に抑え込み、冷静を装って返した。
「そうですか、早速ご覧いただきありがとうございます。
ではまた、今後ともよろしくお願いします……」
「あー待って待って!」
そそくさと会話を切り上げようとする歌織を、ホークスの声が引き止める。
歌織がピタリと動きを止めると、ホークスは試すような、けれどどこか愛おしさを噛み締めるようなトーンで言葉を紡いだ。
「……特にあの桜色の心糸、綺麗でした。
普段のライブや動画内では見た事ないですけど、何か特別な物なんですか?」
確信に迫る問いかけ。
歌織の胸が、ドキンと大きな音を立てて跳ねた。
「え、えと……あの、それは……!」
先程までテキパキと問答していたのが嘘のように、途端に言葉を詰まらせる歌織。
◇
一方、福岡の事務所でスマホを握るホークスは、電話越しに伝わってくる彼女の動揺に、喉を鳴らして笑いそうになるのを必死に堪えていた。
(……やっぱり、そういうことですよね)
実は、動画が公開された直後にすでにチェックしていた。
画面の中で、照れと戸惑いを交ぜ込みながら「ちねちね!」と歌う彼女。
その周囲を舞っていたのは、以前ライブで一度だけ見せた、あまりにも美しく甘い桜色の糸。
「本心で歌わなきゃ、発動しない」
先日、屋上で彼女が自虐気味に明かした言葉が頭をよぎる。
あんなにも鮮やかで愛おしい色を散らして歌っていた理由。
それが自分への想いからくるものだと気づいた時、ホークスの胸の奥は痛いほどの愛おしさで満たされていたのだ。
隠そうとしても隠しきれず、素直すぎる本心を晒してしまう彼女。
自分の「次に会った時仕掛けます」という宣戦布告に、こんなにも分かりやすい返答を返してくれている。
(ほんと……反則でしょう。そんなの見せられたら、余計に手に入れたくなる)
受話器の向こうで真っ赤になってしどろもどろになっているであろう歌織の気配に耐えきれず、ホークスはくくっと喉を鳴らした。
「いやあ、すみません。つい意地悪言いました。
また今度ご飯食べに行きますから、続き話しましょ」
これ以上追い詰めて固まらせてしまわないよう、スマートに逃げ道を作って会話を締めくくる。
「それじゃ、また」
そう言い残して電話を切ったホークスは、画面の中で桜色の糸を飛ばして歌う歌織の姿をもう一度再生し、愛おしさに満ちた溜息を漏らすのだった。
◇
「……あーもう……やっぱ分かりやすいもんなぁ……。
私のバカ……!」
切れたスマホを握りしめたまま、歌織は両手で真っ赤になった顔を覆った。
隠しきれなかった恥ずかしさと情けなさでいっぱいになりながらも、受話器越しに聞いた彼の低くて優しい声と、
「また今度ご飯食べに行きます」
という次の約束に、胸が甘くキュンとときめいてしまうのを止められない。
「……ううん、ダメダメ!
落ち着け、私……っ!」
両頬をパンッと叩き、火照った身体をどうにか静めようと深呼吸を繰り返す。
(……あんなの、絶対からかわれてるだけだってば。
あの若手スーパーヒーローが、私なんかに本気の訳ないじゃない……)
自分は、地方の小さな食堂をやりながらヒーローを兼任している、しがないサポーターだ。
対する彼は、若くしてトップ5に迫る勢いの期待のヒーロー。
顔立ちも立ち振る舞いも華やかで、周囲にはいくらでも綺麗で魅力的な女性がいるはずなのだ。
「期待しちゃダメ……勘違いしちゃダメなんだから……」
そう自分に言い聞かせるように呟くものの、胸の奥で高鳴る鼓動と、あの琥珀色の瞳が放っていた情熱的な熱っぽさは、どうしても歌織の頭から離れてくれなかった。
普段は明るく伸びやかに歌うオペラップが、どこか拗ねたような、甘えるような絶妙な表情で「ちねちねちねちね!」と連呼しながら、見たこともない鮮やかな桜色の糸を飛ばしているのだ。
原曲サムネイルへのリスペクトも完璧で、コメント欄は
「可愛すぎる」
「あのピンクの糸なに!?」
と大盛り上がりを見せていた。
そんな噂話を小耳に挟みながら、歌織はオペラップ事務所の隅で、おそるおそる自分の動画を再生してみる。
「……動画上げましたって、報告しようと思ってたのに……」
画面の中で、感情をだだ漏れにしながら桜色の心糸を撒き散らす自分の姿。
直視できずに頭を抱え、眩暈を覚えた。
しかし、彼女の『心音頭』は本音をそのまま映し出す己の鏡だ。
取り繕ってもう一度撮り直したところで、本心が変わらない以上、また同じように桜色の心糸が出てしまう。
「……むしろ自覚してしまった分、もっと出そうな気が……!!」
彼女は個性の性質上、普段から嘘偽りのない本音で生きることを心掛けている。
いざという時——人の命がかかった現場で確実に個性を発動させるために。
それはプロヒーローとしての彼女の信条であり、覚悟であり、誇りであった。
……だが、こと恋愛に関しては事情が全く変わってくる。
自分の秘めた恋心や弱点を、全世界に向けて裸で晒しているのと同義なのだ。
……しかし、悲しいかな。
歌織はプロヒーローであり、一人の社会人である。
今回の動画は、他ならぬ依頼主——ホークスからのリクエストに応えたもの。
公開の報告をしないわけにはいかなかった。
歌織は沸騰しそうな恥ずかしさを必死に押し込み、意を決してスマホを手に取った。
「……出なかったらメッセージ送ればいいから……!!
電話したという事実だけがほしい……!!」
切実に祈りながらコール音に耳を澄ませる。
しかし無情にもプッと電子音が鳴り、
「はい、こちらホークスでーす」
という軽やかな声が耳元に響いた。
(……ああ〜! 出ちゃったぁぁぁ〜!!)
思わず口から出そうになる悲鳴を力任せに飲み込み、必死で業務連絡のトーンを作り上げる。
「お疲れ様ですホークス。オペラップです。先日リクエストいただいた楽曲の収録が終わりましたので、早速公開しました。ご確認いただけますと幸いです」
(あくまで業務連絡! 業務連絡だから!)
心の中で自分に言い聞かせる歌織に、スマホの向こうからくすりと微笑む気配が伝わってきた。
「……ああ〜! わざわざ連絡どうも!
実は早速聴いちゃいましたよ。
……想像以上にオペラップさんに合ってて可愛かったです!
ありがとうございます」
サラリと告げられた評価に、歌織の顔が一瞬でカッと熱くなる。
(ひぇ……っか、かわいい、って……!)
上擦りそうになる声を喉の奥で必死に抑え込み、冷静を装って返した。
「そうですか、早速ご覧いただきありがとうございます。
ではまた、今後ともよろしくお願いします……」
「あー待って待って!」
そそくさと会話を切り上げようとする歌織を、ホークスの声が引き止める。
歌織がピタリと動きを止めると、ホークスは試すような、けれどどこか愛おしさを噛み締めるようなトーンで言葉を紡いだ。
「……特にあの桜色の心糸、綺麗でした。
普段のライブや動画内では見た事ないですけど、何か特別な物なんですか?」
確信に迫る問いかけ。
歌織の胸が、ドキンと大きな音を立てて跳ねた。
「え、えと……あの、それは……!」
先程までテキパキと問答していたのが嘘のように、途端に言葉を詰まらせる歌織。
◇
一方、福岡の事務所でスマホを握るホークスは、電話越しに伝わってくる彼女の動揺に、喉を鳴らして笑いそうになるのを必死に堪えていた。
(……やっぱり、そういうことですよね)
実は、動画が公開された直後にすでにチェックしていた。
画面の中で、照れと戸惑いを交ぜ込みながら「ちねちね!」と歌う彼女。
その周囲を舞っていたのは、以前ライブで一度だけ見せた、あまりにも美しく甘い桜色の糸。
「本心で歌わなきゃ、発動しない」
先日、屋上で彼女が自虐気味に明かした言葉が頭をよぎる。
あんなにも鮮やかで愛おしい色を散らして歌っていた理由。
それが自分への想いからくるものだと気づいた時、ホークスの胸の奥は痛いほどの愛おしさで満たされていたのだ。
隠そうとしても隠しきれず、素直すぎる本心を晒してしまう彼女。
自分の「次に会った時仕掛けます」という宣戦布告に、こんなにも分かりやすい返答を返してくれている。
(ほんと……反則でしょう。そんなの見せられたら、余計に手に入れたくなる)
受話器の向こうで真っ赤になってしどろもどろになっているであろう歌織の気配に耐えきれず、ホークスはくくっと喉を鳴らした。
「いやあ、すみません。つい意地悪言いました。
また今度ご飯食べに行きますから、続き話しましょ」
これ以上追い詰めて固まらせてしまわないよう、スマートに逃げ道を作って会話を締めくくる。
「それじゃ、また」
そう言い残して電話を切ったホークスは、画面の中で桜色の糸を飛ばして歌う歌織の姿をもう一度再生し、愛おしさに満ちた溜息を漏らすのだった。
◇
「……あーもう……やっぱ分かりやすいもんなぁ……。
私のバカ……!」
切れたスマホを握りしめたまま、歌織は両手で真っ赤になった顔を覆った。
隠しきれなかった恥ずかしさと情けなさでいっぱいになりながらも、受話器越しに聞いた彼の低くて優しい声と、
「また今度ご飯食べに行きます」
という次の約束に、胸が甘くキュンとときめいてしまうのを止められない。
「……ううん、ダメダメ!
落ち着け、私……っ!」
両頬をパンッと叩き、火照った身体をどうにか静めようと深呼吸を繰り返す。
(……あんなの、絶対からかわれてるだけだってば。
あの若手スーパーヒーローが、私なんかに本気の訳ないじゃない……)
自分は、地方の小さな食堂をやりながらヒーローを兼任している、しがないサポーターだ。
対する彼は、若くしてトップ5に迫る勢いの期待のヒーロー。
顔立ちも立ち振る舞いも華やかで、周囲にはいくらでも綺麗で魅力的な女性がいるはずなのだ。
「期待しちゃダメ……勘違いしちゃダメなんだから……」
そう自分に言い聞かせるように呟くものの、胸の奥で高鳴る鼓動と、あの琥珀色の瞳が放っていた情熱的な熱っぽさは、どうしても歌織の頭から離れてくれなかった。
