喋ることが苦手なオレのこと、誰よりも理解してくれた女。

好きで、好きで、愛しすぎて。

態度で示してきたつもりだったが、不安にさせて、喧嘩することも多かった。

アメリカへ発つ直前。

湘南の海で、最後の別れ。

次、いつ日本に帰ってくるかなんてそんなの分からない。

最後にかけた言葉は、

「愛してる。オレのこと、忘れないでほしい」

ずるい言葉だって分かってた。


でも、オレのことを忘れて、他の男と…なんて考えたくなかった。

あいつの震えた手を握って、肩を抱き寄せた。

涙を流したあいつの顔、今も忘れられずにいる。

『ずっと、忘れられなかったら、会いに行く』



その言葉を信じて、努力した。

何年も連絡を取っていないが、もう終わった恋だと思いたくない。

こっちで、試合が終わる度に思い出すのは、あいつの嬉しそうな顔、悔しそうな顔。


今日の試合は、勝利で終わった。

俺はスタメンで、今日の勝利に貢献できた。


『楓！』

懐かしい声が聞こえる。

客席を見上げれば、少し大人びたあいつの顔。

俺は震える手を握りしめ、こぶしを突き上げた。


***
Inspired by Chemistry 「愛しすぎて」