Candy【三井寿】

Side.三井寿

髪の毛をバッサリ切って、歯も直した。
もう一度、ここから再始動する。

俺は、如月にも詫びをいれなきゃいけねーと思い、歯医者の帰りに駅ビルでタオルとクッキーのセットを買った。

ボロボロになったあのクッキーは家に置いたまま、自分を戒めるためにも、捨てられそうにない。


そして、俺の再始動の日。

学校に行ってみれば、俺の短髪が珍しいのかいろんな奴に話しかけられる。

前みたいにうるせー!と睨みを利かせるのも違う気がして、「おうっ」と軽く受け答えた。
何か人気者になった気分で、悪くねぇ。


朝は如月には声をかけられずに、昼休みに声をかけた。

屋上で、今までのこと謝って、プレゼントを渡せればいいと思っていた。


なのに…



『私も、三井君のこと、好きだよ!』


なんて…

如月が俺のこと、好きなんて、信じられるか?

バスケが出来て、如月と付き合って…こんな幸せが一気に押し寄せていいんだろうか?

夢見心地な俺は、あまりに如月が可愛くて、思わずキスをしちまった。

流川に見られるとは思わなかったが…

そんなことよりも、如月と付き合えることに俺は舞い上がった。

バスケも、俺はもう絶対に諦めない。



放課後、体育館に向かおうとする俺に、

『練習、見に行っていい?』

と、遠慮がちに聞く如月に

「おう!一緒にいこーぜ!」
と声をかければ、真っ赤な顔でコクコクと頷く如月が愛おしい。


『まだ、信じられないな…三井君が私の彼氏で…』

小さな声で呟く如月の声に、俺はそっと如月の手を握る。
如月の細い指がそっと握り返してくれた。

部室の前まで来ると、


『バスケ、がんばってね!』


如月がそう微笑んでくれた時、


「三井サン、バスケしに来たんすよね?」


いきなり後ろから声をかけられ、俺達はビクッとする。

後ろを振り向き目線を下げれば、宮城だった。

「三井サン、彼女いたんすね。もう、彼女泣かせるようなこと、したらダメっすよ!」

「ばっ…あん時は、まだ付き合ってねーよ!」

そこへ、流川が通り過ぎて、

「先輩、キスしてたっす…」

そう言って、去っていった。


「流川…てめぇ…」


さらに木暮と赤木もやって来た。

「三井、バスケも彼女も羨ましいな」

「ふんっ。そんなもんにうつつを抜かしおって…」



『あの…皆さん、バスケ頑張ってくださいね』

そう言って、如月は鞄から飴を取り出して配った。

後から来た桜木も

「ミッチーの彼女、優しいっすね!」

なんて嬉しそうに受け取ってやがる。


『はい、三井君の分』

そう言って、包みを開け、俺の口元に飴を差し出した。

バスケ部のやつらの視線が刺さり、照れ臭さと嬉しさが混じって戸惑っていると、

『要らない?』

如月は自分の口に飴をいれようとするので、慌てて飴をパクっとすると如月の指まで舐めてしまった。

「あっ…悪ぃ…」

『もう…っ!』

「三井サン達、ラブラブっすね!」

真っ赤な俺たちをあいつらは冷やかす。

甘酸っぱい飴を舐めながら、照れを隠すように部室に入る。

懐かしいロッカーを見て、新たに誓う。

もう好きなことを諦めねぇ。

バスケも如月友も。

俺の甘酸っぱい人生もまだまだこれからだ。
6/9ページ
スキ