◆◇◆シンプル・100のお題◆◇◆
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*099:約束*野間忠一郎*
結婚してます。
『チュウちゃん…!』
「すっすまねぇ……」
嫁さんの名前は明らかに怒っている。
こういう時は、何に怒っているか分からなくとも、とにかく謝ることが大切だということを結婚してからもうすぐ1年になろうとしている中で学んだことだ。
大抵、俺が悪いことは間違えねぇし……
『なんで怒られてるか分かってないでしょ?』
……今日はそのパターンか。
「はい…すいません……」
ここで下手に聞いてはいけない。
『これ!』
名前の手にはコーヒーの缶が握られていた。
この缶には、タバコの吸い殻を隠すように捨てたのを思い出して、冷や汗が出る。
「水戸に一箱もらっちまって、つい……」
「我慢しすぎるのも身体によくねぇだろ」という水戸の誘惑に負けて、新品のタバコを一箱もらったのが先週のこと。
我慢できずにその場で一本吸って、残りももったいないと自分に言い訳して、こっそり吸った吸い殻が名前の手に持っているそれだ。
実は、半分ほど箱に残っているタバコも捨てられずにポケットの中に眠っている。
でも、自分では買うつもりは本当になかったのだ。
信じて欲しい…なんて、まだ言うタイミングではなさそうだ。
悲しそうな顔を見て、悪いとは思うけれど、禁煙だって半ば強制的に始められたことだしな…なんていう気持ちも、実はある。
そんな俺の気持ちを見透かしたように名前はため息をついて、
『チュウちゃんに見せたいものがあるの…』
コーヒーの缶をテーブルに置いて、名前は鞄の中から一枚のモノクロの写真のようなものを取り出した。
ペラペラの紙に印刷された黒と灰色のものを見させられてもさっぱり分からない。
「なんだ?これ…」
『お腹のエコーの写真。だから、本当に、もう、これっきりにしてほしい…』
力強い眼光で見つめられれば、俺はコクンと大きく頷くより他なかった。
そして、改めて名前の手元の紙を見つめる。
「俺、パパになるの…か…」
『パパっていうより父ちゃんじゃない?』
「いーや、パパと呼ばせる!」
そう宣言して、名前のお腹に優しく触れてみる。
全くいつもと変わらないように見えるのにここの中には確かに俺と名前の子どもがいるのだ。
「パパでちゅよ~」
おどけて言って見せれば、やっと名前も弾ける笑顔を見せてくれる。
『次タバコ吸ったら、父ちゃんにしましょうね~』
そんな風に言われたら、こいつは捨てるしかねぇ。
ポケットに忍ばせておいたタバコの箱をくシャッと握りつぶしてゴミ箱に捨てる。
「俺はパパになる!」
そう大きな声で宣言すれば、幸せな気持ちでいっぱいになり、タバコのことなんて、どうでもよい気持ちになる。
これで、禁煙が成功したかって?
それは、ご想像にお任せすることにする。
***
2022.8.6.
結婚してます。
『チュウちゃん…!』
「すっすまねぇ……」
嫁さんの名前は明らかに怒っている。
こういう時は、何に怒っているか分からなくとも、とにかく謝ることが大切だということを結婚してからもうすぐ1年になろうとしている中で学んだことだ。
大抵、俺が悪いことは間違えねぇし……
『なんで怒られてるか分かってないでしょ?』
……今日はそのパターンか。
「はい…すいません……」
ここで下手に聞いてはいけない。
『これ!』
名前の手にはコーヒーの缶が握られていた。
この缶には、タバコの吸い殻を隠すように捨てたのを思い出して、冷や汗が出る。
「水戸に一箱もらっちまって、つい……」
「我慢しすぎるのも身体によくねぇだろ」という水戸の誘惑に負けて、新品のタバコを一箱もらったのが先週のこと。
我慢できずにその場で一本吸って、残りももったいないと自分に言い訳して、こっそり吸った吸い殻が名前の手に持っているそれだ。
実は、半分ほど箱に残っているタバコも捨てられずにポケットの中に眠っている。
でも、自分では買うつもりは本当になかったのだ。
信じて欲しい…なんて、まだ言うタイミングではなさそうだ。
悲しそうな顔を見て、悪いとは思うけれど、禁煙だって半ば強制的に始められたことだしな…なんていう気持ちも、実はある。
そんな俺の気持ちを見透かしたように名前はため息をついて、
『チュウちゃんに見せたいものがあるの…』
コーヒーの缶をテーブルに置いて、名前は鞄の中から一枚のモノクロの写真のようなものを取り出した。
ペラペラの紙に印刷された黒と灰色のものを見させられてもさっぱり分からない。
「なんだ?これ…」
『お腹のエコーの写真。だから、本当に、もう、これっきりにしてほしい…』
力強い眼光で見つめられれば、俺はコクンと大きく頷くより他なかった。
そして、改めて名前の手元の紙を見つめる。
「俺、パパになるの…か…」
『パパっていうより父ちゃんじゃない?』
「いーや、パパと呼ばせる!」
そう宣言して、名前のお腹に優しく触れてみる。
全くいつもと変わらないように見えるのにここの中には確かに俺と名前の子どもがいるのだ。
「パパでちゅよ~」
おどけて言って見せれば、やっと名前も弾ける笑顔を見せてくれる。
『次タバコ吸ったら、父ちゃんにしましょうね~』
そんな風に言われたら、こいつは捨てるしかねぇ。
ポケットに忍ばせておいたタバコの箱をくシャッと握りつぶしてゴミ箱に捨てる。
「俺はパパになる!」
そう大きな声で宣言すれば、幸せな気持ちでいっぱいになり、タバコのことなんて、どうでもよい気持ちになる。
これで、禁煙が成功したかって?
それは、ご想像にお任せすることにする。
***
2022.8.6.