＊091：ムーンストーン＊大楠雄二＊
片思い、高校生。


「これ、やるよ！」

『えっ？なになに！？どうしたの！！？？』

ぶきらっぽうに渡したムーンストーンのブレスレットに苗字はただただ驚いている。

それも無理はねぇ。

俺達の関係は、ただの悪友で何かをプレゼントしたりなんて今までしたことなかったし、いつもはどっちが奢るかでもめたりする仲だ。

……だけど、正直俺は苗字のことが好きだ。

それは、もうずっと俺の中に秘めていた気持ちだけれど、そろそろこんな気持ちのままでいられないと思い始めていた。

珍しく一人でふらついていたショッピングモールで偶然入ったパワーストーンとかいう石っころで作ったアクセサリーショップで、

【ムーンストーンは愛を呼ぶ石としても知られ、恋愛や結婚と縁があります。勇気を出してあの人に告白やプロポーズしてはいかがでしょう？】

なんてポップに目が釘付けになり、そのムーンストーンを使ったブレスレットはお値段2000円とまあまあの金額だった。

でも、タバコとパチンコを一回我慢すれば、買えなくもない金額だ。

悩みに悩んで購入したそれに「ラッピングしましょうか？」なんて言われたら、急にこっぱずかしくなって、値札を外してもらい、むき出しの状態でポケットに突っ込んで、苗字に会いに来た。

アクセサリーを渡したはいいものの告白の言葉なんて全く用意していなくて、緊張して何も言えないで固まっている俺に、

『大楠、ありがとう！』

手首にブレスレットをはめた苗字は、満面の笑みでお礼を言ってくれた。

その笑顔に思わず見惚れていると、

『で、急にプレゼントなんて、雨どころか大雪降るんじゃない？』

なんて、いたずらっぽく笑った。

「バーカ！俺だってやるときゃやる男よ！」

『ふーん。で、どんな下心があってこれ、くれたの？』

「し、下心…つうかよ……」

『何々？』

「これ、ムーンストーンっつう石っころなんだけどよ……」

『大楠にしては素敵な名前の石、知ってるんだね！』

「あー！！もう、無理だ！！無理無理！！！」

『は？どうしたの？？』

「その石の意味、調べとけよ！じゃーな！！」

俺は逃げるように家に帰った。

はぁ……情けねぇけど、仕切り直しだ。



【好き】の二文字を先に言ってくれたのは苗字の方で、俺がこの言葉を言えるのは、まだずっと先のこと…

***
2022.8.6.