＊077：幸せな夢から目覚めた朝＊片思い、神さんは出てきません。ひたすら片思いしてるだけのお話。


『神くん…』

ファジーネーブルを一口飲んで、大好きな彼の名前を呟く。

このカクテルのフレッシュなオレンジと甘い桃の香りで、何だか彼の側にいる気持ちになれる。

もう一口、彼のことを思い浮かべて、甘いこのお酒を嗜む。

同じ大学の同級生の神宗一郎くんとは、知り合い以上友だち未満の関係だ。

1年生の時、講義で一目惚れしてからというもの、なるべく同じ講義を取ったり、バスケの試合の応援に行ったりしてはいるけれど、距離を縮められないでいる。

大学のバスケ部に所属している彼は、講義も真面目に一番前の席で聞くタイプだ。

練習の時だって、講義中だって、クリっとした目は真剣に目的(ゴール)を見つめていて、私なんかが気安く話しかけるなんて出来ない。

恐らく、神くんは私の苗字と顔くらいしか知らないと思う。

私とは釣り合わない憧れの人だけれど、昨日は夢に出てきてくれた。

にっこりと微笑まれて、手をつないで、名前を呼ばれて……

幸せな夢から目覚めた朝は、いつもより幸せな気持ちだったけれど、夕方にもなれば神くんという存在は気軽に触れられないんだという現実に目をそむけたくなって友人を誘ってお酒を呑みに来たという訳だ。

「おーい、神くんの妄想から戻ってこーい！」

いつも私の呑みに付き合ってくれる友人は、カシスオレンジの氷を指でつついて笑った。

『だって…昨日、夢に出てきてくれたんだよ』

「良かったじゃん」

『夢では、手、繋いじゃったんだよね』

「ほー。夢にも出てきてくれたんだし、いい加減、連絡先くらい聞いてみたら？」

『無理無理無理！』

「何でよ？」

『神くんだから』

「案外さ、向こうも名前のこと、気になってるかもよ？」

『絶対ない！』

「そうかなぁ？」

『いいの、私はファジーネーブルの匂いで神くん思い浮かべて幸せな気持ちになれれば』

「ま、名前がいいなら私からは何も言えないけどさ」

私は、神くんへの溢れる気持ちを語ってるだけで幸せなんだ。

神くんへのちょっぴり切なくて苦しい気持ちを紛らわせるようにファジーネーブルを飲み干した。

甘いはずなのに、お酒のほろ苦さばかりが舌に残るのだった。

***
2023.6.15.
Image Song：「ファジーネーブル」Conton　Candy
神さんのイメージが湧いたので！