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*074:お散歩*田岡茂一*
結婚しています。田岡監督退職後の家での一コマ。
やっと夏の暑さが和らいで、過ごしやすくなってきた。
紅葉にはまだ早いけれど、どんぐりや銀杏の秋の木の実が実り始めている。
朝の洗濯を終えて、リビングへと戻ると、夫が新聞を見ながらコーヒーをすすっている。
ずっと高校のバスケ部の監督をしていた夫も、数カ月前に退職し、「やっとゆっくり出来る」と言ってはいるけれど、毎日どこか退屈そうだ。
しかし、バスケ部の監督が趣味と言っても過言ではないくらいに仕事に邁進していた夫は、家と学校以外の居場所がそうあるわけでもない。
それに私だって、子ども達が巣立って一人の時間をゆったり過ごしたり、地域の活動に参加したりしていたのに、毎日夫のお昼ご飯の心配をしたり、今まで以上に頻繁に顔を合わせて生活するのも窮屈に感じ始めている。
だからこそ、私のためにも、退屈している夫がボケないためにも、知り合いのつてでミニバスのコーチを探している話を聞きつけて、今日は散歩がてら誘ってみようと思っているのだ。
私がお膳立てして探したとなると、あまり良い気がしないだろうし、少しばかり気難しい夫のやる気を引き出すにはちょっとしたコツが必要だ。
『やっと涼しくなってきたし、一緒に散歩でも行かない?』
私の問いかけに満更でもないくせに、眉間に深いしわを寄せて考えている。
恐らく暇だと思われたくないのだろう。
「今日は図書館でも行こうと思ったんだが…」
『少し足を延ばして散歩して、帰りに図書館に寄ればいいじゃない?散歩じゃなくて運動代わりのウォーキングだって言った方が良かったかしら?』
「運動なら仕方ないな…」
そう言いながらも、すでにコーヒーカップを流しに片付けて、準備する気満々だ。
この人に家でじっとしてたり、図書館でゆっくり読書をするのが似合う訳がない。
まずはミニバスのコーチを引き受けてもらい、市民体育館のジムにも通うようになればベストだなんて考えている。
監督時代の動きやすい服に着替えた夫と共に散歩へと出かける。
「こんなところにバスケットゴールがあったのか」
『えぇ、数年前にできたの知らなかった?』
「出勤で通らないからな…」
この発言からも、高校に勤務していた頃はいかに忙しくしていたことが分かる。
本当に盆と正月以外は一日家にいたことはほとんどなかったのだ。
少し坂を上ったところに今日の目的地の小学校がある。
自分の子どもの学区の小学校では無いから、夫は初めて見たかもしれない。
『実は…ここの体育館、知り合いのお孫さんがバスケやってるんだけど、ちょっと見て行ってもいい?久しぶりのバスケは嫌かしら?』
夫の目がキランと輝くのが分かる。
「ん…?まあ、邪魔しなければ良いんじゃないのか…?」
なんて言ってくるけれど、バッシュを持ってこればよかったと思っているのはバレバレだ。
靴を脱いで、靴下のまま体育館へと足を踏み入れる。
『こんにちは』
「あ、田岡さん!待ってたのよ~」
『こちら、主人です』
「どうも、お邪魔します」
「いや~、高校で全国大会を経験してる監督さんなんですよね!ありがたいわぁ~」
「え?あ、まぁ…」
このタイミングで、ネタばらしだ。
『実はね、ここのチーム、コーチしてくれる人を探しているんですって。あなた、興味ない?』
「お、俺か…?」
子ども達の視線が徐々に夫に集まっていく。
全国大会という言葉は、小学生達にとっては憧れらしい。
『主人は、高校時代の仙道彰くんの指導もしてたんですよ。ね、あなた?』
リップサービスで、声のボリュームを上げる。
「スッゲー!!!」
子どもの内の一人が大きな声で驚いたので、この作戦は成功だったようだ。
「おい、まだ引き受けると決めたわけじゃ…」
『でも、バスケしたいんじゃないの?』
「うっ……」
この表情を見れば、答えは一つしかないに決まっている。
何と言っても、頼りにされている夫の姿を見られるというのは、妻としても生涯の伴侶としても鼻が高いことなんですよ。
***
2023.9.26.
引退した茂一が一日家でダラダラしてたらちょっと嫌だな…という妄想。
結婚しています。田岡監督退職後の家での一コマ。
やっと夏の暑さが和らいで、過ごしやすくなってきた。
紅葉にはまだ早いけれど、どんぐりや銀杏の秋の木の実が実り始めている。
朝の洗濯を終えて、リビングへと戻ると、夫が新聞を見ながらコーヒーをすすっている。
ずっと高校のバスケ部の監督をしていた夫も、数カ月前に退職し、「やっとゆっくり出来る」と言ってはいるけれど、毎日どこか退屈そうだ。
しかし、バスケ部の監督が趣味と言っても過言ではないくらいに仕事に邁進していた夫は、家と学校以外の居場所がそうあるわけでもない。
それに私だって、子ども達が巣立って一人の時間をゆったり過ごしたり、地域の活動に参加したりしていたのに、毎日夫のお昼ご飯の心配をしたり、今まで以上に頻繁に顔を合わせて生活するのも窮屈に感じ始めている。
だからこそ、私のためにも、退屈している夫がボケないためにも、知り合いのつてでミニバスのコーチを探している話を聞きつけて、今日は散歩がてら誘ってみようと思っているのだ。
私がお膳立てして探したとなると、あまり良い気がしないだろうし、少しばかり気難しい夫のやる気を引き出すにはちょっとしたコツが必要だ。
『やっと涼しくなってきたし、一緒に散歩でも行かない?』
私の問いかけに満更でもないくせに、眉間に深いしわを寄せて考えている。
恐らく暇だと思われたくないのだろう。
「今日は図書館でも行こうと思ったんだが…」
『少し足を延ばして散歩して、帰りに図書館に寄ればいいじゃない?散歩じゃなくて運動代わりのウォーキングだって言った方が良かったかしら?』
「運動なら仕方ないな…」
そう言いながらも、すでにコーヒーカップを流しに片付けて、準備する気満々だ。
この人に家でじっとしてたり、図書館でゆっくり読書をするのが似合う訳がない。
まずはミニバスのコーチを引き受けてもらい、市民体育館のジムにも通うようになればベストだなんて考えている。
監督時代の動きやすい服に着替えた夫と共に散歩へと出かける。
「こんなところにバスケットゴールがあったのか」
『えぇ、数年前にできたの知らなかった?』
「出勤で通らないからな…」
この発言からも、高校に勤務していた頃はいかに忙しくしていたことが分かる。
本当に盆と正月以外は一日家にいたことはほとんどなかったのだ。
少し坂を上ったところに今日の目的地の小学校がある。
自分の子どもの学区の小学校では無いから、夫は初めて見たかもしれない。
『実は…ここの体育館、知り合いのお孫さんがバスケやってるんだけど、ちょっと見て行ってもいい?久しぶりのバスケは嫌かしら?』
夫の目がキランと輝くのが分かる。
「ん…?まあ、邪魔しなければ良いんじゃないのか…?」
なんて言ってくるけれど、バッシュを持ってこればよかったと思っているのはバレバレだ。
靴を脱いで、靴下のまま体育館へと足を踏み入れる。
『こんにちは』
「あ、田岡さん!待ってたのよ~」
『こちら、主人です』
「どうも、お邪魔します」
「いや~、高校で全国大会を経験してる監督さんなんですよね!ありがたいわぁ~」
「え?あ、まぁ…」
このタイミングで、ネタばらしだ。
『実はね、ここのチーム、コーチしてくれる人を探しているんですって。あなた、興味ない?』
「お、俺か…?」
子ども達の視線が徐々に夫に集まっていく。
全国大会という言葉は、小学生達にとっては憧れらしい。
『主人は、高校時代の仙道彰くんの指導もしてたんですよ。ね、あなた?』
リップサービスで、声のボリュームを上げる。
「スッゲー!!!」
子どもの内の一人が大きな声で驚いたので、この作戦は成功だったようだ。
「おい、まだ引き受けると決めたわけじゃ…」
『でも、バスケしたいんじゃないの?』
「うっ……」
この表情を見れば、答えは一つしかないに決まっている。
何と言っても、頼りにされている夫の姿を見られるというのは、妻としても生涯の伴侶としても鼻が高いことなんですよ。
***
2023.9.26.
引退した茂一が一日家でダラダラしてたらちょっと嫌だな…という妄想。