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*033:似顔絵*北野監督*
長年の想い人との話。ミニバス監督の北野さんです。
「おっちゃん、これ」
引き受けようか悩んでいるミニバスチームの子どもから紙を受けとる。
「あかん!監督って呼び。監督になってくれへんかったらどうするん?」
母親からたしなめられてふてくされそうな子どもに笑顔を向けてやる。
自身の似顔絵は実に良く描けている。
「よう書けとるなぁ~」
似顔絵を受け取り、俺は目尻を下げた。
似顔絵を受け取り、俺は目尻を下げた。
――子どもがいれば、俺もこのくらいの孫がいたのだろうか。
幾度となく浮かんでは消えるこの気持ちとは年を重ねるにつれて上手く付き合えるようになった。
この年までバスケ一筋で結婚しなかったことを決して後悔しているわけではない。
昔に安西の結婚式に出席した時には、結婚もいいなぁと一瞬考えても、自分の性に合わないと思ったものだ。
教え子達の結婚式に出るようになってからは、自身の結婚に対する気持ちはほとんどなくなった。
そんな俺にも、ずっと想いを秘めている人がいる。
大学の頃、休日を二人きりで過ごしているのに、告白してお付き合いすることが叶わなかった女性だ。
今でも年賀状をやりとりする仲で、その年賀状に結婚の報告をお互いすることは無く、ずっと独身のまま。
現役の時はもっと上を目指してから、監督になってからは日本一になってから…と先延ばしにする内に告白することはもとより会うことすら出来ずにいた。
そのままどんどん疎遠になり何十年も会うことはなかったけれど、豊玉高校バスケ部の顧問を解雇になった今年、これ以上ないタイミングで、【会いませんか?】と手紙が来た。
いつも几帳面な字を書く彼女の筆跡が、緊張からか少し乱れているように感じたのは俺の考えすぎではないと思いたい。
俺も彼女も歳をとってしわも増え、すぐに分かるのか不安だったけれど、待ち合わせの場所に現れた彼女はすぐにわかった。
「苗字ちゃん!」
『北野くん!』
あの頃と同じ、でもちょっと緊張気味にお互いの名前を呼び合う。
『高校の監督、辞めたって聞いて、やっとお誘いしてもええかな?ってお誘いしました』
「そうか。でも、俺はまだミニバスの監督やろうかて思うてるんや」
『あら、まだ待たなあかんのね…』
少し寂しげに笑う苗字ちゃんに、
「いいや、苗字ちゃん見て、やっと落ち着く決心ついたわ」
『え?』
「老い先短い人生ですが、一緒にいてくれませんか?」
『北野くん……もちろんです』
俺たちは、歳を重ねてしわしわの手をやっと重ねることが出来た。
これから、もっとしわを重ねてもこの手をずっと離しはしないと決意するのだった。
***
2023.10.6.加筆修正。
長年の想い人との話。ミニバス監督の北野さんです。
「おっちゃん、これ」
引き受けようか悩んでいるミニバスチームの子どもから紙を受けとる。
「あかん!監督って呼び。監督になってくれへんかったらどうするん?」
母親からたしなめられてふてくされそうな子どもに笑顔を向けてやる。
自身の似顔絵は実に良く描けている。
「よう書けとるなぁ~」
似顔絵を受け取り、俺は目尻を下げた。
似顔絵を受け取り、俺は目尻を下げた。
――子どもがいれば、俺もこのくらいの孫がいたのだろうか。
幾度となく浮かんでは消えるこの気持ちとは年を重ねるにつれて上手く付き合えるようになった。
この年までバスケ一筋で結婚しなかったことを決して後悔しているわけではない。
昔に安西の結婚式に出席した時には、結婚もいいなぁと一瞬考えても、自分の性に合わないと思ったものだ。
教え子達の結婚式に出るようになってからは、自身の結婚に対する気持ちはほとんどなくなった。
そんな俺にも、ずっと想いを秘めている人がいる。
大学の頃、休日を二人きりで過ごしているのに、告白してお付き合いすることが叶わなかった女性だ。
今でも年賀状をやりとりする仲で、その年賀状に結婚の報告をお互いすることは無く、ずっと独身のまま。
現役の時はもっと上を目指してから、監督になってからは日本一になってから…と先延ばしにする内に告白することはもとより会うことすら出来ずにいた。
そのままどんどん疎遠になり何十年も会うことはなかったけれど、豊玉高校バスケ部の顧問を解雇になった今年、これ以上ないタイミングで、【会いませんか?】と手紙が来た。
いつも几帳面な字を書く彼女の筆跡が、緊張からか少し乱れているように感じたのは俺の考えすぎではないと思いたい。
俺も彼女も歳をとってしわも増え、すぐに分かるのか不安だったけれど、待ち合わせの場所に現れた彼女はすぐにわかった。
「苗字ちゃん!」
『北野くん!』
あの頃と同じ、でもちょっと緊張気味にお互いの名前を呼び合う。
『高校の監督、辞めたって聞いて、やっとお誘いしてもええかな?ってお誘いしました』
「そうか。でも、俺はまだミニバスの監督やろうかて思うてるんや」
『あら、まだ待たなあかんのね…』
少し寂しげに笑う苗字ちゃんに、
「いいや、苗字ちゃん見て、やっと落ち着く決心ついたわ」
『え?』
「老い先短い人生ですが、一緒にいてくれませんか?」
『北野くん……もちろんです』
俺たちは、歳を重ねてしわしわの手をやっと重ねることが出来た。
これから、もっとしわを重ねてもこの手をずっと離しはしないと決意するのだった。
***
2023.10.6.加筆修正。