秋色の君に、恋をした。【藤真健司SS】

「よっ!久しぶりじゃん!!」

『いたっ!…藤真っ!』

後期の大学の授業が始まって、少し早めに講義室に座っていると後ろからバシッと背中をたたかれた。

大学の銀杏並木も色づいて秋も深まっているから、薄手のシャツとチノパンというラフな格好の藤真健司も、舌打ちしたくなるくらい様になっている。

「隣、いいか?」

『どーぞ』と返事をする前に、藤真のデカいスポーツバックが私のバッグの上に置かれ、ドカッと藤真は腰を下ろした。

『ちょっと…私の鞄の上にその汚いの置かないでよ!』

「おっ…悪ぃ悪ぃ!」

そんな風に気軽に口を効く仲ではあるけれど、夏休みの間、藤真のことばかり考えていた私は、ドキドキする胸を抑えるのに、必死だった。

怒ったふりをして、私は藤真から目線をそらし、勉強するふりをして、何も書かれていない真っ白なノートへと目を落とした。

「…んな怒ることねーだろ?」

『新しいバックだったんだって…』

文句を言いながら、再び顔を上げると、講義机に肩肘をついて気怠そうな格好なのに、瞳だけはじっと真剣に私を見つめる藤真と目が合って、息をのんだ。

ただ、じっと見つめられているだけなのに、キスされたと錯覚しそうなくらい、藤真の瞳には私しか映っていない。

いい加減にこの気持ちに蓋をするのは限界かもしれない。

「なぁ…やっと、俺に惚れた?」

『……!?』

誰が聞いているかもわからないこんなところで言われると思わなかったそのセリフに私は、動揺してきょろきょろと辺りを見回す。

「くくっ!おもしれー」

『…からかったの!?』

顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

「マジだっつったらどうする?」

『どうするって…』

心なしか藤真の顔も赤いような…

「今日、飲みに行くぞ!」

照れ隠しをするように私の頭を小突いた藤真に、

『…期末考査にノート見せたお礼で、藤真の奢りだよね?』

「げっ…覚えてたのかよ…」

いつも通りの会話が出来て少しほっとはするものの、秋の紅葉のように私たちの関係も色づき始める気配を感じてどうしたら良いか分からない。

「もちろん、"二人きり"で、だからな…」

藤真の言葉に私はただうなずくことしか出来なかった。

***
2021.9.24.
Inspired by illustration from ひのうさsama
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