夜明けまで【牧紳一SS】
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部活が早く終わった帰りの駅で電車を待っていると、一人の女子高生に目を奪われた。
ホームの端、今にも落ちそうなところをフラフラと歩いている彼女の腕を、気付いた時には掴んでいた。
『離して…』
力なく訴える彼女の腕を、俺は離すことなんて出来る訳もなく、しばらく見つめあっていた。
ホームに電車が入ってきたので、思わず彼女を抱き寄せる。
はぁ…彼女は小さなため息を一つつき、俺の腕から離れると、
『さよなら…』
一言だけ残して、立ち去ろうとするので、俺は思わず彼女を追いかけた。
その頃の俺は、バスケの国体で優勝し、次の選抜に向けてのモチベーションが保てないでいた。
神奈川の帝王だ何だと言われ、勝って当然の雰囲気の中、戦って勝ち抜いていくことに疲れていた。
当然、練習にも力が入らず、周りにも気を遣わせていることがひしひしと伝わっていた。
何度もこれではいけないとがむしゃらに練習をしてみるけれど、空回りしてばかりだ。
「最近の牧さん…牧さんじゃないみたいっす…」
今日の練習中に俺を慕っている後輩から言われた一言が、耳から離れない。
そんな時に出会った儚げな彼女に、俺は強烈に惹かれてしまったようだ。
後を追って改札を出ると、ふと彼女が振り向いたので、
「少し、話をしないか?」
そう話しかけても、彼女からの返事はない。
ダメとも言われなかったため、すたすたと歩いていく彼女の後ろを着いていくと、彼女は公園に入り、ベンチの前で立ち止まった。
話しても良いということだろうか…
「なんで、あんな危ないことをしたんだ?」
『もう、終わりにしたいの…』
そう一言いうと、彼女の目から涙がこぼれた。
俺がいるから…俺のために生きてくれ…?
出会ったばかりの俺が、どんな上っ面な言葉を並べても、彼女には響かないんだろう…そんな気がした。
二人で沈黙したまま、日が沈んでいく。
秋の夕暮れは、あっという間で、みるみるうちに辺りは真っ暗になった。
寂しく光る街灯を見見ていると、
すべてを彼女と終わりにできたら…
良いのかもしれない…
急にそんな思いに支配された。
このまま、バスケを続けても、俺はもっと苦しむことになるかもしれない…常勝という看板にも…嫌気がさしてくる。
大体、俺らしい…って何なんだろう…
「俺も、君と一緒に…終わりにしたいんだ…」
ふとつぶやいた俺の言葉に、彼女は綺麗に笑った。
その微笑みに、俺のもやもやとした思いが溶かされた気がした。
彼女から差し出された手を取ると、
『いいところがあるの…』
嬉しそうに駆け出す彼女に手を引かれて着いていくと、ビルの屋上についた。
キラキラと光るネオン、冷たいけれど逆にそれが心地よい夜風。
彼女の考えていることは、もちろん……分かる。
手を取り合って、フェンスを越える。
そして、手をつないだまま二人でコンクリートを蹴って、夜空を駆けるように飛び出した。
浮遊感に包まれたまま俺は、はっと目を覚ました。
冷や汗をかいていたようで、手がじんわりと汗ばんでいる。
隣を確認すると、静かな寝息を立てたペコリーナの姿がそこにあることに、ほっと胸をなでおろした。
あの頃は若かった。
…今なら、そう言える。
夢とは違って、現実は、あのビルから飛び出すことはしなかった。
いざ、フェンスを越えて飛び降りようとした時…両親の顔、バスケ部の仲間の顔が思い浮かんで、
「まだだ!」
と、強くペコリーナの腕を引いて抱きしめた。
その後、ビルの屋上で永遠に朝が来ないのではないかと想うほどに泣き明かした夜は、今でも鮮明に思い出せる。
『…どうしたの?』
俺が目を覚ましたことに気付いたペコリーナは、眠そうに尋ねた。
「いや…変な夢を見てな…」
俺はそう返して、うつ伏せに眠るペコリーナの左手に自分の左手を重ねた。
薄目を開けて微笑むペコリーナと暗闇に光る二つの銀色の指輪に安心して、俺も目を閉じた。
そして、重ねた手をギュっと握って、再び眠りについた。
***
2021.6.5.
10000hits Request from ペコリーナ-sama
Inspired by Y/OAS/OB/I 「夜に駆/ける」
こぼれ話→夜明けまで【牧紳一】
ホームの端、今にも落ちそうなところをフラフラと歩いている彼女の腕を、気付いた時には掴んでいた。
『離して…』
力なく訴える彼女の腕を、俺は離すことなんて出来る訳もなく、しばらく見つめあっていた。
ホームに電車が入ってきたので、思わず彼女を抱き寄せる。
はぁ…彼女は小さなため息を一つつき、俺の腕から離れると、
『さよなら…』
一言だけ残して、立ち去ろうとするので、俺は思わず彼女を追いかけた。
その頃の俺は、バスケの国体で優勝し、次の選抜に向けてのモチベーションが保てないでいた。
神奈川の帝王だ何だと言われ、勝って当然の雰囲気の中、戦って勝ち抜いていくことに疲れていた。
当然、練習にも力が入らず、周りにも気を遣わせていることがひしひしと伝わっていた。
何度もこれではいけないとがむしゃらに練習をしてみるけれど、空回りしてばかりだ。
「最近の牧さん…牧さんじゃないみたいっす…」
今日の練習中に俺を慕っている後輩から言われた一言が、耳から離れない。
そんな時に出会った儚げな彼女に、俺は強烈に惹かれてしまったようだ。
後を追って改札を出ると、ふと彼女が振り向いたので、
「少し、話をしないか?」
そう話しかけても、彼女からの返事はない。
ダメとも言われなかったため、すたすたと歩いていく彼女の後ろを着いていくと、彼女は公園に入り、ベンチの前で立ち止まった。
話しても良いということだろうか…
「なんで、あんな危ないことをしたんだ?」
『もう、終わりにしたいの…』
そう一言いうと、彼女の目から涙がこぼれた。
俺がいるから…俺のために生きてくれ…?
出会ったばかりの俺が、どんな上っ面な言葉を並べても、彼女には響かないんだろう…そんな気がした。
二人で沈黙したまま、日が沈んでいく。
秋の夕暮れは、あっという間で、みるみるうちに辺りは真っ暗になった。
寂しく光る街灯を見見ていると、
すべてを彼女と終わりにできたら…
良いのかもしれない…
急にそんな思いに支配された。
このまま、バスケを続けても、俺はもっと苦しむことになるかもしれない…常勝という看板にも…嫌気がさしてくる。
大体、俺らしい…って何なんだろう…
「俺も、君と一緒に…終わりにしたいんだ…」
ふとつぶやいた俺の言葉に、彼女は綺麗に笑った。
その微笑みに、俺のもやもやとした思いが溶かされた気がした。
彼女から差し出された手を取ると、
『いいところがあるの…』
嬉しそうに駆け出す彼女に手を引かれて着いていくと、ビルの屋上についた。
キラキラと光るネオン、冷たいけれど逆にそれが心地よい夜風。
彼女の考えていることは、もちろん……分かる。
手を取り合って、フェンスを越える。
そして、手をつないだまま二人でコンクリートを蹴って、夜空を駆けるように飛び出した。
浮遊感に包まれたまま俺は、はっと目を覚ました。
冷や汗をかいていたようで、手がじんわりと汗ばんでいる。
隣を確認すると、静かな寝息を立てたペコリーナの姿がそこにあることに、ほっと胸をなでおろした。
あの頃は若かった。
…今なら、そう言える。
夢とは違って、現実は、あのビルから飛び出すことはしなかった。
いざ、フェンスを越えて飛び降りようとした時…両親の顔、バスケ部の仲間の顔が思い浮かんで、
「まだだ!」
と、強くペコリーナの腕を引いて抱きしめた。
その後、ビルの屋上で永遠に朝が来ないのではないかと想うほどに泣き明かした夜は、今でも鮮明に思い出せる。
『…どうしたの?』
俺が目を覚ましたことに気付いたペコリーナは、眠そうに尋ねた。
「いや…変な夢を見てな…」
俺はそう返して、うつ伏せに眠るペコリーナの左手に自分の左手を重ねた。
薄目を開けて微笑むペコリーナと暗闇に光る二つの銀色の指輪に安心して、俺も目を閉じた。
そして、重ねた手をギュっと握って、再び眠りについた。
***
2021.6.5.
10000hits Request from ペコリーナ-sama
Inspired by Y/OAS/OB/I 「夜に駆/ける」
こぼれ話→夜明けまで【牧紳一】
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