Kräftskiva【藤真健司】
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私は今、藤真健司と二人きりで食事をしている。
ちらちらと目の前の人物を確認しては、私は自分のお皿に盛られたザリガニに目を戻した。
どうして、こんな状況になったのか…
***
私は両親の影響でスポーツ観戦が大好きで、大学時代はバスケット観戦にハマりにハマった。
大学バスケが面白かったのはもちろんだが、大学バスケ界の人気選手の一人、藤真健司が大好きだったからだ。
バスケ選手としては背は高くないが、よく通る声で冷静な指示を飛ばす一方、プレイスタイルは激しく、時に怪我に直結するようなヒヤッとする場面も多く目が離せなかった。
顔だって、めちゃくちゃ綺麗で、筋肉の付き方も理想的。
藤真健司の出る試合は毎回見に行ったし、彼氏がいたって優先順位はバスケの方が高かった。
他の女の子たちみたいにプレゼントを渡したり、写真やサインをねだるなんてことは恥ずかしくて出来なかったけれど、彼の載っている雑誌を買い漁ったり、彼の通う大学のグッズを買ったりしていた。
そんな憧れの藤真健司と、まさか新卒で入社したスポーツ用品メーカーの入社式で一緒になって、しかも一緒の部署に配属になるなんて展開、誰が想像できただろうか?
藤真健司はプロではなく社会人チームでプレイする…しかも私が入社する会社のチームだということは、もちろん知っていた。
それを知った時は嬉しくて舞い上がったけれど、彼を見かけることはあっても、話したりするなんてことはありえないと思っていた。
藤真健司とは、芸能人と一般人くらいかけ離れた距離があると信じて疑ったことのなかった私は、入社式での懇親会で一緒のグループになった時には、緊張で、寿命が縮む思いをした。
それどころか、配属先が同じで、まさかの向かいのデスクになった時は、本気で仕事をやめた方がいいのかもと思い悩んだ。
一緒に仕事をするようになって数ヵ月たったというのに、未だこの状況に慣れることができない。
「皐月さん」
そう呼ばれる度に、ヒッと身体がびくつきそうになるのを抑えるのに必死だ。
『藤真さん…』
彼に話しかける必要があるときは、声が震えないように細心の注意を払う。
そんなんだから毎日ぐったりして、休日は一日ベッドから起き上がれないことも多い。
美人は三日で飽きるっていうのは大嘘だ、と未だに藤真健司の姿を見る度に緊張感が高まる私は、身をもって体験している。
彼が試合や遠征でいない日がどれだけ安心できるか…
毎日のように顔を合わせるようになって緊張が続いているからか、藤真健司の試合を見に行きたい気持ちや、彼の載っている雑誌を買おうという意欲がなくなって、私は藤真健司のファンではなかったのだろうか?という疑問が湧き出るくらいにまでなっていた。
ファンだったころは、心の中で『藤真くん…カッコイイ』って毎日呟いていたからこそ、仕事で『藤真さん』って話しかけるという異常事態に、未だに私の頭も心も追いついていない。
美し過ぎるほどに整った彼の顔を毎日のように拝めるというこの日常に慣れる日が来るなんて到底思えないくらいに私は彼のことが……好きなのだ。
藤真健司が私という存在を認識してくれているということを、もっと喜ばなければいけないのかもしれないけれど、かっこよすぎて私とは住む世界も見ている世界も違う彼と同じ空間にいてはいけないとう思いがぬぐえない。
とはいえ、業務にも慣れ、少しずつ任される仕事が増えてきて、しかも大好きなスポーツに携わる仕事なので、仕事自体は楽しい。
新人の仕事として、親睦会と称する飲み会の企画なんかも任されるようになっていたため、昼休みに、パソコンでI/K/E/Aのホームページを閲覧していると、
「やべっ!これ、めっちゃ行きてぇんだけど?」
突然、後ろから話しかけられて、私は飛び上がるほど驚いた。
『ふ…藤真さん!?』
「悪ぃ。あんま驚くなって…皐月さんって俺のこと、苦手?」
『そ、そんなことないです…』
もごもごと否定していると、藤真さんは、私の椅子に手をかけて、グッと近づいた。
心臓がバクバクとうるさいぐらいに音を立てている。
一緒に覗くような格好となって、藤真健司はパソコンの画面を指さした。
「これ、ザリガニ食べ放題ってやつ、行きてぇ!」
『えっ?』
藤真健司の指さしたところ【期間限定 ザリガニ食べ放題】の文字と真っ赤な大量のザリガニの写真がある。
「一緒に行かねぇ?」
『わ…私とですか?』
「そう、皐月さんと二人で」
『いや、でも…彼女さんとか…』
「ははっ!いねぇから、気にすんなって!」
バシッと痛いくらいに背中をたたかれた。
『痛いっ…ですって…』
「で、決まりでいいよな?」
自信たっぷりに、ニヤリと笑う藤真健司に、頭がぽーっとして、私はただ頷くことしかできなかった。
「よっしゃ!俺、土曜日オフだから、予約、よろしく!」
そう言って、颯爽と席に戻ったかと思ったら、スマホを手にしてすぐに私のもとに戻ってきた。
「連絡先、知らねぇと困るだろ?」
『えっと、はい…』
緊張で汗ばむ手で何とか連絡先の交換を終えると、満足そうな顔で、
「今日の練習、いつも以上に気合入れていってくる!じゃ、お疲れっした!」
そう言って、オフィスを去っていった。
『お疲れ様です…』
そんな藤真健司の後ろ姿を見送って、ふぅ~っと大きなため息をついた。
スマホには、【藤真が友だちに追加されました】と表示されている。
友だち…の文字に私のドキドキはまた大きくなる。
同僚から友達にまた少し距離が近くなったことに、素直に喜びたくても喜べない自分がいる…
終業後、自宅に帰って緊張しながらもザリガニ食べ放題の予約を入れた。
【土曜日、13時から予約が取れました。よろしくお願いします。】
このメッセージを送るのにたっぷり2時間近く悩んだのに、すぐに既読が付き、
【了解!】
と短いメッセージが帰ってくる。
藤真健司と二人で食事に行く…
その日、私はすっかり目がさえてしまい、夜遅くまで寝付くことが出来なかった。
その週は、表面上はいつも通り過ごしているつもりだが、藤真健司が目に入るたびに心の中に嵐が来たかのようにざわめきが止まらない。
金曜の夜には、
【明日、最寄り駅で12時半、待ち合わせで!】
というメッセージを送ってきたので、夢であって欲しい…と、頬を抓る。
当然痛い私の頬に、はぁ…と、大きなため息をついた。
食事に行けるのは嬉しいけれど、藤真健司と何を喋ってどう振る舞うのが正解なのか全く分からない。
【了解です】
極力感情を見せない返信を送ってベッドに倒れこんだ。
こうして私は、藤真健司と二人きりで食事をするという覚悟もないまま当日を迎えることとなった。
ちらちらと目の前の人物を確認しては、私は自分のお皿に盛られたザリガニに目を戻した。
どうして、こんな状況になったのか…
***
私は両親の影響でスポーツ観戦が大好きで、大学時代はバスケット観戦にハマりにハマった。
大学バスケが面白かったのはもちろんだが、大学バスケ界の人気選手の一人、藤真健司が大好きだったからだ。
バスケ選手としては背は高くないが、よく通る声で冷静な指示を飛ばす一方、プレイスタイルは激しく、時に怪我に直結するようなヒヤッとする場面も多く目が離せなかった。
顔だって、めちゃくちゃ綺麗で、筋肉の付き方も理想的。
藤真健司の出る試合は毎回見に行ったし、彼氏がいたって優先順位はバスケの方が高かった。
他の女の子たちみたいにプレゼントを渡したり、写真やサインをねだるなんてことは恥ずかしくて出来なかったけれど、彼の載っている雑誌を買い漁ったり、彼の通う大学のグッズを買ったりしていた。
そんな憧れの藤真健司と、まさか新卒で入社したスポーツ用品メーカーの入社式で一緒になって、しかも一緒の部署に配属になるなんて展開、誰が想像できただろうか?
藤真健司はプロではなく社会人チームでプレイする…しかも私が入社する会社のチームだということは、もちろん知っていた。
それを知った時は嬉しくて舞い上がったけれど、彼を見かけることはあっても、話したりするなんてことはありえないと思っていた。
藤真健司とは、芸能人と一般人くらいかけ離れた距離があると信じて疑ったことのなかった私は、入社式での懇親会で一緒のグループになった時には、緊張で、寿命が縮む思いをした。
それどころか、配属先が同じで、まさかの向かいのデスクになった時は、本気で仕事をやめた方がいいのかもと思い悩んだ。
一緒に仕事をするようになって数ヵ月たったというのに、未だこの状況に慣れることができない。
「皐月さん」
そう呼ばれる度に、ヒッと身体がびくつきそうになるのを抑えるのに必死だ。
『藤真さん…』
彼に話しかける必要があるときは、声が震えないように細心の注意を払う。
そんなんだから毎日ぐったりして、休日は一日ベッドから起き上がれないことも多い。
美人は三日で飽きるっていうのは大嘘だ、と未だに藤真健司の姿を見る度に緊張感が高まる私は、身をもって体験している。
彼が試合や遠征でいない日がどれだけ安心できるか…
毎日のように顔を合わせるようになって緊張が続いているからか、藤真健司の試合を見に行きたい気持ちや、彼の載っている雑誌を買おうという意欲がなくなって、私は藤真健司のファンではなかったのだろうか?という疑問が湧き出るくらいにまでなっていた。
ファンだったころは、心の中で『藤真くん…カッコイイ』って毎日呟いていたからこそ、仕事で『藤真さん』って話しかけるという異常事態に、未だに私の頭も心も追いついていない。
美し過ぎるほどに整った彼の顔を毎日のように拝めるというこの日常に慣れる日が来るなんて到底思えないくらいに私は彼のことが……好きなのだ。
藤真健司が私という存在を認識してくれているということを、もっと喜ばなければいけないのかもしれないけれど、かっこよすぎて私とは住む世界も見ている世界も違う彼と同じ空間にいてはいけないとう思いがぬぐえない。
とはいえ、業務にも慣れ、少しずつ任される仕事が増えてきて、しかも大好きなスポーツに携わる仕事なので、仕事自体は楽しい。
新人の仕事として、親睦会と称する飲み会の企画なんかも任されるようになっていたため、昼休みに、パソコンでI/K/E/Aのホームページを閲覧していると、
「やべっ!これ、めっちゃ行きてぇんだけど?」
突然、後ろから話しかけられて、私は飛び上がるほど驚いた。
『ふ…藤真さん!?』
「悪ぃ。あんま驚くなって…皐月さんって俺のこと、苦手?」
『そ、そんなことないです…』
もごもごと否定していると、藤真さんは、私の椅子に手をかけて、グッと近づいた。
心臓がバクバクとうるさいぐらいに音を立てている。
一緒に覗くような格好となって、藤真健司はパソコンの画面を指さした。
「これ、ザリガニ食べ放題ってやつ、行きてぇ!」
『えっ?』
藤真健司の指さしたところ【期間限定 ザリガニ食べ放題】の文字と真っ赤な大量のザリガニの写真がある。
「一緒に行かねぇ?」
『わ…私とですか?』
「そう、皐月さんと二人で」
『いや、でも…彼女さんとか…』
「ははっ!いねぇから、気にすんなって!」
バシッと痛いくらいに背中をたたかれた。
『痛いっ…ですって…』
「で、決まりでいいよな?」
自信たっぷりに、ニヤリと笑う藤真健司に、頭がぽーっとして、私はただ頷くことしかできなかった。
「よっしゃ!俺、土曜日オフだから、予約、よろしく!」
そう言って、颯爽と席に戻ったかと思ったら、スマホを手にしてすぐに私のもとに戻ってきた。
「連絡先、知らねぇと困るだろ?」
『えっと、はい…』
緊張で汗ばむ手で何とか連絡先の交換を終えると、満足そうな顔で、
「今日の練習、いつも以上に気合入れていってくる!じゃ、お疲れっした!」
そう言って、オフィスを去っていった。
『お疲れ様です…』
そんな藤真健司の後ろ姿を見送って、ふぅ~っと大きなため息をついた。
スマホには、【藤真が友だちに追加されました】と表示されている。
友だち…の文字に私のドキドキはまた大きくなる。
同僚から友達にまた少し距離が近くなったことに、素直に喜びたくても喜べない自分がいる…
終業後、自宅に帰って緊張しながらもザリガニ食べ放題の予約を入れた。
【土曜日、13時から予約が取れました。よろしくお願いします。】
このメッセージを送るのにたっぷり2時間近く悩んだのに、すぐに既読が付き、
【了解!】
と短いメッセージが帰ってくる。
藤真健司と二人で食事に行く…
その日、私はすっかり目がさえてしまい、夜遅くまで寝付くことが出来なかった。
その週は、表面上はいつも通り過ごしているつもりだが、藤真健司が目に入るたびに心の中に嵐が来たかのようにざわめきが止まらない。
金曜の夜には、
【明日、最寄り駅で12時半、待ち合わせで!】
というメッセージを送ってきたので、夢であって欲しい…と、頬を抓る。
当然痛い私の頬に、はぁ…と、大きなため息をついた。
食事に行けるのは嬉しいけれど、藤真健司と何を喋ってどう振る舞うのが正解なのか全く分からない。
【了解です】
極力感情を見せない返信を送ってベッドに倒れこんだ。
こうして私は、藤真健司と二人きりで食事をするという覚悟もないまま当日を迎えることとなった。
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