Candy【三井寿】

そして、決行の日。

如月に渡したかったクッキーは、喧嘩で粉々になっていたが、どうしても捨てられずにカバンに入れたままだった。

バッシュもバスケットボールも、段ボールにしまい込んだままだ。


それらを出して、ゴミ袋に詰めて、家を出た。





バスケ部をつぶして、すべてを終わりにするはずだった…

それは、心の底から俺が望んでいたことではないとはいえ、もう決めたこと。


それなのに、俺が喧嘩の最中に口にした言葉は、



「バスケがしたい」


この一言がずっと言えなかった。

俺は、何を怖がっていたのだろうか?

口にしてしまえば、とても簡単なことだった。

その気持ちは、安西先生に会って、もう抑えきれなかった。


こんな馬鹿なことをしておいて、またバスケができるとは思っていない。

それでも、言わずにはいられなかった。




その後の展開は、まるでフィクションのようだった。


徳男達と桜木の仲間が俺をかばった。


昔の仲間にも、今の仲間にも、俺の気持ちを勘付かれていたのか。


喧嘩が終わってしまえば、後悔の念が押し寄せる。

俺は、一人一人に謝った。

こんなひどいことをした俺を、また受け入れてくれるというバスケ部の奴らに俺は一生頭が上がらないかもしれない。


喧嘩でぼろぼろになった身体で、体育館を出た。

今日は、このまま家に帰って、あのゴミ袋を開けよう。

そう思って、校門まで来ると、


『三井君!』

そう、呼び止められた。

「へっ?如月?」

まさかこんな時に会うとは思っていなかった俺は、動揺した。

『話、聞いたよ…これ…』

そう言って、タオルを差し出された。


タオルを受け取ると同時に、俺は声に出していた。


「如月、好きだ!」

『えっ?はい!?』

顔を真っ赤にした如月は、変な声を出した。

俺も思わず言ってしまった言葉に赤面して、

「いや…その…こんな時に、俺、なんてこと言ってんだ。今のは、忘れてくれ!…いや、忘れなくてもいいんだけどよ…こんな恰好で悪ぃ。じゃ、また!」

俺は、自分のしでかしたことに混乱して、その場を去った。

本当は、走り去りたかったが、今は出来る身体じゃない…

『三井君、学校で待ってるね!』

俺の後ろ姿に如月はそう声をかけてくれた。

追っかけられなくて、心底ほっとした。

如月から受け取ったタオルで、血をぬぐいながら、俺は、やっとの思いで家にたどり着いた。


ここから、再出発。

ごみ袋から、大切なものを取り出した。


もう、好きな気持ちに気付かない振りはしねぇ。

そう固く決意した。
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