Candy【三井寿】
あのことがあってから、如月が俺に話しかけることはなくなった。
俺は、学校へ行ったりいかなかったり。
家に帰らない日も増えた。
どうでもいいと思う気持ちとは裏腹に、学校へ行けば、如月の姿を嫌でも追ってしまう自分がいた。
そんな日が続いたある時、
『三井君、学園祭の写真、撮らせてほしいんだけど…』
「んあっ?」
如月にいきなり話しかけられた俺は、変な声を出してしまった。
前みたいに、如月は飴を差し出すと、
『クラスで、皆の写真でモザイクアート作るんだけど、三井君のだけまだ撮ってなくて…』
俺は、写真だなんてごめんだという気持ちもあるが、如月にまた話しかけてもらえたのが単純にうれしかった。
「今、さっさと撮ってくれるなら良いぜ」
そう言うと、如月は驚いたように、
『えっ?ありがと!じゃあこっち向いて』
いきなりデジカメを向けられて、俺はどんな顔をすればいいか分からず、机に肘をついて、顎に手をやり、カメラを睨みつけたような顔で写真を撮られた。(新装版6巻参照)
『…本当に助かった…学園祭は、来ないよね…』
如月がぽつりと呟いた言葉に、俺は思わず、
「おまえ、付き合ってくれるならいいぜ」
と言ってしまった。如月は、驚いて、
『えぇ!?…でもごめん!私、実行委員会やってるから、三井君、案内してあげる時間ないや…』
「…じゃあ、誘うなよな…」
ばつの悪くなった俺は、如月から目をそむけて言った。
「でもよ…また、飴、くれよな」
『もちろん!リクエストのお菓子、あったらいつでも言ってね』
如月は、にっこり笑って去っていった。
その笑顔がまぶしくて、つられて笑いそうになるのを、すんでのところでこらえた。
あいつの隣で笑う俺を想像していた自分にうんざりした。
俺は、あいつの隣にいていい男じゃない。
学園祭の日、俺は他校の奴らとつるんで、行くことはなかった。
もうすぐ2年生も終わりという頃、相変わらず俺は、徳男達とつるんでいた。
如月との関係も、たまに飴をもらって、少し言葉を交わす程度のままだったが、繋がりが途絶えないことにほっとしていた。
出席日数も足りて、3年生に進級できるのも、如月のおかげだと素直に感謝の気持ちも沸いていた。
バレンタインデーにはチョコをもらったが、顔がにやつきそうなのをこらえるのに大変だった。
如月は、何でもないように
『三井君、今日、バレンタインだから、チョコどうぞ』
って可愛らしく声をかけられたら、そろそろこの気持ちを認めてやらなくてはいけない気がしていた。
あいつにホワイトデーのお返しをやろうと、らしくもないことを考えて、準備した日。
徳男たちと生意気なバスケ部の1年の宮城をしめることになって、屋上にいた。
安西先生の顔がちらついたのが悪かったのか、俺は、宮城の反撃にあって、病院送りになった。
病院で目を覚まして、思い浮かべたのは、如月の顔。
せっかく用意したホワイトデーのお返しのクッキーは、どうなっただろうか。
ずきずき痛む顔とうまく動かない身体にイラつきながら、何とか目を開けた。
暗闇の中で、いつか見たのと同じ病院の無機質な天井が目に入った。
思わず涙がこぼれる。
…俺は、何をやっているんだろう。
こぼれた涙が傷口にしみる。
涙をぬぐおうにも、腕を上げるのも痛くて一苦労だ。
情けなくて、悔しくて、俺は拳を握って泣いた。
涙が止まると思い浮かべるのは、バスケット。
安西先生のこと。
もう一度…いや…今更、戻れない。
そして浮かぶのは、如月の顔。
こんな喧嘩で腫らした顔で、会いたくねーな。
どうして俺は、好きな気持ちに素直になれないのか…
好き…
俺は、バスケも如月も好きだったんだ。
朝焼けがカーテンの隙間から漏れる。
その薄明かりに何故かほっとして、俺は目を閉じた。
退院して、学校には行かないでいる内に、3年生になった。
傷は癒えたが、折れた歯を直すのも、何か違う気がして、そのままにしていた。
俺が心の中にまだバスケに対する未練が残っていると自覚しても、今、つるんでいる奴らからしたら、やられっぱなしで黙っている訳にはいかないという気持ちになのは当然だ。
徳男から、ここらで一番腕っぷしの強い鉄男に、宮城というバスケ部連中にやられたという情報が伝わると、復讐の計画が持ち上がっていたようだ。
俺がその話を知った頃には、復讐のために仲間が集まっていて、引くに引けない状態だった。
バスケ部をぶっ潰す…
俺は、覚悟を決めた。
バスケ部をつぶして、学校を辞めようと。
元々は、俺が蒔いた種だ。
今更、後悔してももう遅い。
俺は、学校へ行ったりいかなかったり。
家に帰らない日も増えた。
どうでもいいと思う気持ちとは裏腹に、学校へ行けば、如月の姿を嫌でも追ってしまう自分がいた。
そんな日が続いたある時、
『三井君、学園祭の写真、撮らせてほしいんだけど…』
「んあっ?」
如月にいきなり話しかけられた俺は、変な声を出してしまった。
前みたいに、如月は飴を差し出すと、
『クラスで、皆の写真でモザイクアート作るんだけど、三井君のだけまだ撮ってなくて…』
俺は、写真だなんてごめんだという気持ちもあるが、如月にまた話しかけてもらえたのが単純にうれしかった。
「今、さっさと撮ってくれるなら良いぜ」
そう言うと、如月は驚いたように、
『えっ?ありがと!じゃあこっち向いて』
いきなりデジカメを向けられて、俺はどんな顔をすればいいか分からず、机に肘をついて、顎に手をやり、カメラを睨みつけたような顔で写真を撮られた。(新装版6巻参照)
『…本当に助かった…学園祭は、来ないよね…』
如月がぽつりと呟いた言葉に、俺は思わず、
「おまえ、付き合ってくれるならいいぜ」
と言ってしまった。如月は、驚いて、
『えぇ!?…でもごめん!私、実行委員会やってるから、三井君、案内してあげる時間ないや…』
「…じゃあ、誘うなよな…」
ばつの悪くなった俺は、如月から目をそむけて言った。
「でもよ…また、飴、くれよな」
『もちろん!リクエストのお菓子、あったらいつでも言ってね』
如月は、にっこり笑って去っていった。
その笑顔がまぶしくて、つられて笑いそうになるのを、すんでのところでこらえた。
あいつの隣で笑う俺を想像していた自分にうんざりした。
俺は、あいつの隣にいていい男じゃない。
学園祭の日、俺は他校の奴らとつるんで、行くことはなかった。
もうすぐ2年生も終わりという頃、相変わらず俺は、徳男達とつるんでいた。
如月との関係も、たまに飴をもらって、少し言葉を交わす程度のままだったが、繋がりが途絶えないことにほっとしていた。
出席日数も足りて、3年生に進級できるのも、如月のおかげだと素直に感謝の気持ちも沸いていた。
バレンタインデーにはチョコをもらったが、顔がにやつきそうなのをこらえるのに大変だった。
如月は、何でもないように
『三井君、今日、バレンタインだから、チョコどうぞ』
って可愛らしく声をかけられたら、そろそろこの気持ちを認めてやらなくてはいけない気がしていた。
あいつにホワイトデーのお返しをやろうと、らしくもないことを考えて、準備した日。
徳男たちと生意気なバスケ部の1年の宮城をしめることになって、屋上にいた。
安西先生の顔がちらついたのが悪かったのか、俺は、宮城の反撃にあって、病院送りになった。
病院で目を覚まして、思い浮かべたのは、如月の顔。
せっかく用意したホワイトデーのお返しのクッキーは、どうなっただろうか。
ずきずき痛む顔とうまく動かない身体にイラつきながら、何とか目を開けた。
暗闇の中で、いつか見たのと同じ病院の無機質な天井が目に入った。
思わず涙がこぼれる。
…俺は、何をやっているんだろう。
こぼれた涙が傷口にしみる。
涙をぬぐおうにも、腕を上げるのも痛くて一苦労だ。
情けなくて、悔しくて、俺は拳を握って泣いた。
涙が止まると思い浮かべるのは、バスケット。
安西先生のこと。
もう一度…いや…今更、戻れない。
そして浮かぶのは、如月の顔。
こんな喧嘩で腫らした顔で、会いたくねーな。
どうして俺は、好きな気持ちに素直になれないのか…
好き…
俺は、バスケも如月も好きだったんだ。
朝焼けがカーテンの隙間から漏れる。
その薄明かりに何故かほっとして、俺は目を閉じた。
退院して、学校には行かないでいる内に、3年生になった。
傷は癒えたが、折れた歯を直すのも、何か違う気がして、そのままにしていた。
俺が心の中にまだバスケに対する未練が残っていると自覚しても、今、つるんでいる奴らからしたら、やられっぱなしで黙っている訳にはいかないという気持ちになのは当然だ。
徳男から、ここらで一番腕っぷしの強い鉄男に、宮城というバスケ部連中にやられたという情報が伝わると、復讐の計画が持ち上がっていたようだ。
俺がその話を知った頃には、復讐のために仲間が集まっていて、引くに引けない状態だった。
バスケ部をぶっ潰す…
俺は、覚悟を決めた。
バスケ部をつぶして、学校を辞めようと。
元々は、俺が蒔いた種だ。
今更、後悔してももう遅い。