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3.会社で二人っきりで残業。【森重寛】
今日はノー残業デー。定時で帰宅出来る……はずだった。
後30分で終業だし、今日はこの辺で見切りをつけて、デスク整理でもして帰ろうと思っていた時に届いたメールを見て、私の背筋が凍り付いた。
他部署の先輩、森重さんからのメールには、
【○○さん、先月頼んだ資料、今日まで】
とそっけないメールが届いた。
『うそ……』
思わず声が漏れる。来週だったはず……と森重さんからの依頼メールを急いで確認する。
【○○さん、来月の三週目の水曜日までに売上資料まとめしておいて】
のメールは私の記憶の通りだ。
カレンダーを確認すると、
『あ…』
今月は1日が水曜日で、そこから三週目だとすると、今日が第三水曜日だ。
私のカレンダーには、来週の第四水曜日に【資料締切】とマークしてある。
慌てて、返信を打つ。
【森重様
大変申し訳ございません。
三週目の水曜日を来週と勘違いしておりました。
資料は、今日中でないとダメでしょうか?】
と打ってから、最後の一文を消し、
【資料は、至急作成して今日中にお送りします。】
と打ちなおした。
はい、残業確定。上司に残業の許可をもらいに席を立つ。
同じ部署の同僚たちは、もう帰り支度を始めている。
「すいませせん。森重さんからの資料作成が終わっていないので、残業の許可をお願いします」
「今日、ノー残業デーなんだけどね。あー、森重君からの仕事なら、優先しなさい」
残業は最低限にするようにという方針の上司だけれど、森重さんの仕事なら、理由は深く聞かなくてもOKらしい。
彼は、どうもその風貌から社内でもちょっと恐れられているのだ。
2メートルの巨体で坊主、その上愛想がないのだ。
彼が表情を変えることはめったになく、口角を上げただけで社内でちょっとしたどよめきが起きるほどだ。
決して悪い人でもないし、仕事も出来る人なのだが、扱いにくいというのがもっぱら上からの評価だ。
そもそも、締め切りを間違えた私が悪いのだから、上司がNGを出しても多少食い下がって残業の許可を得るつもりではいた。
それでもだめなら、もやもやを抱えたまま定時帰宅するしかないけれど、そんな風に帰宅したって、ビールがおいしい訳がない。
『ありがとうございます。なるべく早く終わらせます』
席に戻って、中途半端になっている資料作成のフォルダをクリックする。それ程ボリュームのある資料ではないのだが、まだ進捗は半分程度。
もう2,3時間はかかりそうだ。
同僚たちの「お疲れさまでした~」と定時退社する姿を見送って、『よし!』と小さく気合を入れていると、
「今日は僕も失礼するよ。子ども達と一緒に遊部約束をしているんでね」
いつもは比較的残業することが多い上司も、今日は帰宅するようだ。
『すいません。お疲れさまでした』
部署に一人になったとたん、パソコンのファンの音がやけに大きく聞こえる。
外はまだ明るいけれど、取り残された感が半端ない。
急いで資料を作らねばとパソコンに向かう。
日中と違って誰もいない部署内で、声をかけられたりしない分、思考も中断されないから集中できる。
思った以上にサクサクと作業が進み、後は、画像を挿入して、誤字脱字をざっとチェックすれば終わりといった時に
「おい」
上から声が降ってきた。
『ひゃ、森重さん!』
「出来たか?」
『もう少しです』
「ふーん、全く放置してたわけじゃねーんだな」
『もちろんです!森重さんの依頼ですし』
「ん、ここ」
森重さんは私の椅子の背もたれに手をかけて、パソコンの画面を指さす。
『すいません。間違ってますね』
修正をするけれど、見られているとどうも落ち着かない。
「あとどんくらい?」
『画像入れて、最終確認したら、完成です』
「じゃ、確認はいらねーから、画像入れて送って」
『はい』
これで、森重さんは自席に戻ってくれるのかと思ったら、空いている椅子にドカッと腰を掛けて座った。
『あの、まだ10分ほどはかかるかと』
「いーぜ」
『ご自身の仕事は…?』
「定時退社」
『もしかして、退勤しちゃったんですか?』
「ん」
『じゃあ、私やっときますから、帰っていただいて大丈夫ですよ』
「ん、気になるから」
『すいません』
やりにくいことこの上ない。
こんなに圧を感じながら、仕事をするのは初めてだ。
手に変な汗をかいてしまって、クリックする手が滑る。
世間話でもした方が、この緊張感が和らぐかもしれない。
『森重さんは、学生時代何かスポーツされていたんですか?』
「バスケ」
『あー、なんかぽいですね。身長も高いですし。ダンクとかできちゃうんですか?』
「あたりまえ」
『スゴイ!私なんか運動神経はからっきしで…』
「手」
『す、すいません』
すっかり手を止めてしまったのを指摘されて、慌てて作業を進める。
チェックは良いと言われたけれど、ざっと最初のページから最後まで目を通して、問題なさそうだと確認し、ファイルを保存して、メール添付する。
「本文要らね」
『でも…』
社会人としてはやっぱり最低限入れたいので、【資料お待たせして、申し訳ございません】と入力して送信ボタンを押した。
これでやっと帰れる。
時間は、20時半。まあまあ上出来だ。
森重さんは、自席にメールを確認しに行ったようだ。
パソコンをシャットダウンして、デスクを整え、帰宅準備をする。
んー、美味しいビールを飲めそうだ。
ちょっと贅沢なやつを一本買って帰ろう。
なんて思っていると、帰り支度を終えた森重さんが戻ってきた。
『お疲れさまでした。付き合わせてしまってすいません』
「じゃ、飯」
『ご飯ですか?二人で?』
「ん、おごる」
『わー、でも、迷惑かけたの私ですし』
「おめーに興味があるから」
『??どういうことですか?』
「惚れてんだよ」
『…!?』
ほれてる、惚れてる……
『す、好きってやつですか!?』
「ん」
けれど、森重さんの表情はあまり変わってないように見える。
告白ってこんな業務連絡みたいにするもの?
私の混乱をよそに、
「飯」
『はい、ちょっとご飯食べながら返事、考えます!』
「ふっ、そういうとこだな」
仕事でうまくいくとにやりと笑うところは見たことあるけれど、吹き出すように笑ったのは初めて見た。
なんか、今、ちょっとキュンってしたかも?
すっかり疲れも吹き飛んで、私は森重さんの後に続いて会社を出たのだった。
***
2024.7.25.
Thanks for the character request!!
ロンさま、ありがとうございました。
初めての社パロ森重、めちゃくちゃ楽しく書かせていただきました♪
今日はノー残業デー。定時で帰宅出来る……はずだった。
後30分で終業だし、今日はこの辺で見切りをつけて、デスク整理でもして帰ろうと思っていた時に届いたメールを見て、私の背筋が凍り付いた。
他部署の先輩、森重さんからのメールには、
【○○さん、先月頼んだ資料、今日まで】
とそっけないメールが届いた。
『うそ……』
思わず声が漏れる。来週だったはず……と森重さんからの依頼メールを急いで確認する。
【○○さん、来月の三週目の水曜日までに売上資料まとめしておいて】
のメールは私の記憶の通りだ。
カレンダーを確認すると、
『あ…』
今月は1日が水曜日で、そこから三週目だとすると、今日が第三水曜日だ。
私のカレンダーには、来週の第四水曜日に【資料締切】とマークしてある。
慌てて、返信を打つ。
【森重様
大変申し訳ございません。
三週目の水曜日を来週と勘違いしておりました。
資料は、今日中でないとダメでしょうか?】
と打ってから、最後の一文を消し、
【資料は、至急作成して今日中にお送りします。】
と打ちなおした。
はい、残業確定。上司に残業の許可をもらいに席を立つ。
同じ部署の同僚たちは、もう帰り支度を始めている。
「すいませせん。森重さんからの資料作成が終わっていないので、残業の許可をお願いします」
「今日、ノー残業デーなんだけどね。あー、森重君からの仕事なら、優先しなさい」
残業は最低限にするようにという方針の上司だけれど、森重さんの仕事なら、理由は深く聞かなくてもOKらしい。
彼は、どうもその風貌から社内でもちょっと恐れられているのだ。
2メートルの巨体で坊主、その上愛想がないのだ。
彼が表情を変えることはめったになく、口角を上げただけで社内でちょっとしたどよめきが起きるほどだ。
決して悪い人でもないし、仕事も出来る人なのだが、扱いにくいというのがもっぱら上からの評価だ。
そもそも、締め切りを間違えた私が悪いのだから、上司がNGを出しても多少食い下がって残業の許可を得るつもりではいた。
それでもだめなら、もやもやを抱えたまま定時帰宅するしかないけれど、そんな風に帰宅したって、ビールがおいしい訳がない。
『ありがとうございます。なるべく早く終わらせます』
席に戻って、中途半端になっている資料作成のフォルダをクリックする。それ程ボリュームのある資料ではないのだが、まだ進捗は半分程度。
もう2,3時間はかかりそうだ。
同僚たちの「お疲れさまでした~」と定時退社する姿を見送って、『よし!』と小さく気合を入れていると、
「今日は僕も失礼するよ。子ども達と一緒に遊部約束をしているんでね」
いつもは比較的残業することが多い上司も、今日は帰宅するようだ。
『すいません。お疲れさまでした』
部署に一人になったとたん、パソコンのファンの音がやけに大きく聞こえる。
外はまだ明るいけれど、取り残された感が半端ない。
急いで資料を作らねばとパソコンに向かう。
日中と違って誰もいない部署内で、声をかけられたりしない分、思考も中断されないから集中できる。
思った以上にサクサクと作業が進み、後は、画像を挿入して、誤字脱字をざっとチェックすれば終わりといった時に
「おい」
上から声が降ってきた。
『ひゃ、森重さん!』
「出来たか?」
『もう少しです』
「ふーん、全く放置してたわけじゃねーんだな」
『もちろんです!森重さんの依頼ですし』
「ん、ここ」
森重さんは私の椅子の背もたれに手をかけて、パソコンの画面を指さす。
『すいません。間違ってますね』
修正をするけれど、見られているとどうも落ち着かない。
「あとどんくらい?」
『画像入れて、最終確認したら、完成です』
「じゃ、確認はいらねーから、画像入れて送って」
『はい』
これで、森重さんは自席に戻ってくれるのかと思ったら、空いている椅子にドカッと腰を掛けて座った。
『あの、まだ10分ほどはかかるかと』
「いーぜ」
『ご自身の仕事は…?』
「定時退社」
『もしかして、退勤しちゃったんですか?』
「ん」
『じゃあ、私やっときますから、帰っていただいて大丈夫ですよ』
「ん、気になるから」
『すいません』
やりにくいことこの上ない。
こんなに圧を感じながら、仕事をするのは初めてだ。
手に変な汗をかいてしまって、クリックする手が滑る。
世間話でもした方が、この緊張感が和らぐかもしれない。
『森重さんは、学生時代何かスポーツされていたんですか?』
「バスケ」
『あー、なんかぽいですね。身長も高いですし。ダンクとかできちゃうんですか?』
「あたりまえ」
『スゴイ!私なんか運動神経はからっきしで…』
「手」
『す、すいません』
すっかり手を止めてしまったのを指摘されて、慌てて作業を進める。
チェックは良いと言われたけれど、ざっと最初のページから最後まで目を通して、問題なさそうだと確認し、ファイルを保存して、メール添付する。
「本文要らね」
『でも…』
社会人としてはやっぱり最低限入れたいので、【資料お待たせして、申し訳ございません】と入力して送信ボタンを押した。
これでやっと帰れる。
時間は、20時半。まあまあ上出来だ。
森重さんは、自席にメールを確認しに行ったようだ。
パソコンをシャットダウンして、デスクを整え、帰宅準備をする。
んー、美味しいビールを飲めそうだ。
ちょっと贅沢なやつを一本買って帰ろう。
なんて思っていると、帰り支度を終えた森重さんが戻ってきた。
『お疲れさまでした。付き合わせてしまってすいません』
「じゃ、飯」
『ご飯ですか?二人で?』
「ん、おごる」
『わー、でも、迷惑かけたの私ですし』
「おめーに興味があるから」
『??どういうことですか?』
「惚れてんだよ」
『…!?』
ほれてる、惚れてる……
『す、好きってやつですか!?』
「ん」
けれど、森重さんの表情はあまり変わってないように見える。
告白ってこんな業務連絡みたいにするもの?
私の混乱をよそに、
「飯」
『はい、ちょっとご飯食べながら返事、考えます!』
「ふっ、そういうとこだな」
仕事でうまくいくとにやりと笑うところは見たことあるけれど、吹き出すように笑ったのは初めて見た。
なんか、今、ちょっとキュンってしたかも?
すっかり疲れも吹き飛んで、私は森重さんの後に続いて会社を出たのだった。
***
2024.7.25.
Thanks for the character request!!
ロンさま、ありがとうございました。
初めての社パロ森重、めちゃくちゃ楽しく書かせていただきました♪
