キャラとお見合いする話
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【藤真健司編】
「遅れて…すいません」
レストランの個室のドアを開けて入ってきた好青年に私は固まる。
両親とも目を見合わせて、小声で「どういうこと?」と確認しあっている。
藤真家のご両親は、私たちが慌てていることに気が付いて、
「家のせがれがすいません…」
と恐縮しきりだ。
恐らく遅れてきたことに私たちがどうこう言っているのだと思っているのかも知れないが、全く違うのだ。
現れた男性が、お見合い写真とあまりに違うので、私も両親も驚きを隠せないだけなのだ。
だって、写真は黒縁メガネの無精ひげで、もう少し身だしなみを整えた方が…と思うほどもっさりしており、目の前に現れたキラキラと光をまとった王子様のような人とは似ても似つかないのだ。
意を決した父親が、
「息子さん、ずいぶん写真と違うようなので、私たちは間違ったお見合いの部屋に来てしまったのではないか不安なのですよ。本当に、藤真健司くんで合っていますか?」
私たちが持っているお見合い写真を藤真家の方々に見せながら、説明してくれた。
「あっ……」
青年は、目を泳がせてばつの悪そうな顔をしている。
「健司、説明しなさい」
どうやら、このお見合い写真を藤真家のご両親は確認していらっしゃらなかったようだ。
「すいません。俺、こんなにしっかりしたお見合いだと知らずに、友人にメガネを借りて、適当に撮った写真を貼ってしまって…」
しっかりしたお見合いじゃないお見合いとは、なんなんだろう?
言っていることがしっちゃかめっちゃかで、私は更に混乱して、怒って良いのか、笑っていいのか感情が迷子になってしまう。
「本当に、バカ息子がすいません」
藤真家の父親が頭を下げて、それに倣って息子の方も頭を下げている。
「すいません」
「いやいや、逆よりは良いのですから。ねぇ?素敵な息子さんよね…?」
母親はフォローになっているかいないかよく分からない発言をして、私に同意を求めている。
仲人さんもフォローしようと必死なようで、
「私もきちんと確認しなくてすいません。でも、本当に美男美女で素敵なめぐりあわせですね」
なんて白々しくほほほと笑っている。
しかし、いくつかのお見合い写真を見て、一番断りやすそうな人を選んだつもりなのに、どタイプの顔の持ち主が現れてしまったのは大誤算だ。
こんなイケメンとのお見合いを断ったら、罰が当ってしまうのではないかと心配になる。
遠慮がちに彼を見れば、目がパチリと合った。
ふっと微笑まれてしまい、骨抜きにされてしまいそうだ。
私は、お見合いで結婚なんてする気は全くないのだからと、よそ行きの顔を引っ張り出して張り付かせた。
何事もなく早く終わって、自宅に帰って断りを入れるシミュレーションを頭の中で続ける。
その内に、仲人さんを中心としてつつがなく表面的な会話が進み、
「後は若いお二人で……」
と、どこかで聞きかじったことのあるようなセリフが放たれた。
「俺、どうすればいい?」
健司さんは、小さな声で父親に確認をしていたつもりかもしれないが皆に丸聞こえだ。
「二人でゆっくり食事をして、仲を深めてくださいね」
仲人さんは、にこりと笑って、そそくさと立ち上がった。
「ご両家のご両親の方々も、お二人のこと、気にはなるかもしれませんが、お見合いというのもご縁ですので、後は二人に任せてご自宅で帰宅をお待ちくださいね」
お互いの親も立ち上がり、仲人さん、双方にお礼を言って、料亭の個室を後にした。
しーんとした空間に先に居たたまれなくなったのは、健司さんの方だった。
「本当に悪かった。写真のこと…」
少し砕けた口調で頭を下げてくれるのはいいけれど、私は別に謝って欲しい訳じゃない。
あれだけふざけたお見合い写真を渡すくらいだから、私と同じでお見合いで結婚する気はこれっぽっちもないのだろうと推測されるから、私にとっても都合がいいのだから。
『いいえ、いいんです。実は私、結婚する気なんてなくって、一番断りやすそうだなって写真の健司さんを選んだんですから』
「ぷはっ!マジかー、面白すぎるだろ」
満面の笑顔にドキッとしてしまい、その表情は反則だと心の中で悪態をつく。
イケメンの子どもっぽい姿を見せられたら、本当に取り返しのつかないことになりそうだ。
『いや、本当に困ってるんです。断る理由、どうしたらいいのかなって』
「待った!さすがに断るの前提なのはどうなの?」
『健司さんは、お見合い結婚したいと思ってるんですか?』
「いや、全然」
微妙なタイミングで、食事の用意が出来たと仲居さんが入ってきた。
「アルコールもご用意ございますが、お飲み物、何かお持ちしますか?」
会席料理の献立が置かれ、飲み物のメニューが健司さんへと手渡される。
「酒、飲める?」
『少しなら』
本当はそこそこイケるけれど、初対面の男性の前でしかもお見合いの場では、この答えが最適だろう。
「じゃ、ビールでいい?」
『はい』
「瓶ビールお願いします」
「かしこまりました」
健司さんは、ビールを頼んで、仲居さんが部屋を出たのを見計らって、
「結婚はいずれはしなくちゃいけないんだろうけど、今、したいかって言われるとそうじゃない」
『じゃあ、今回のお話はなかったことに……』
「いや、かといってそれも……」
どうして、お互いに断る前提で話が進まないのか?
これ以上、相手に気持ちが行ってしまう前に、どうかケリを着けてしまいたい。
『結婚したくないんですよね?』
「あー、そうなんだけど……」
コンコンコンとノックが聞こえてきたので、私たちは口をつぐんで、仲居さんを通す。
瓶ビールが一本とグラスが二つ、続けてきれいに盛りつけられた先付けが並べられた。
「とりあえず、乾杯だな」
私はグラスを持ち上げて、ビールを注いでもらう。
『健司さんも』
瓶を受け取って、相手のグラスに注ぐ。
「何にってわけじゃねえけど、乾杯」
『乾杯』
控えめにグラスをカチリと合わせて、グラスに口をつける。
健司さんは、ぐびぐびッと飲み干して、手酌で二杯目をついだ。
そして、それもグイっと煽って、ふーっと一息つく。
「こんなこと、ミョウジさんに言ったら困らせてしまうかもしれないけど、俺、このお見合い、断る気満々で、写真も見ないで決めちまったから、ちょっと後悔してる」
『後悔、ですか?』
「ああ。だって、こんなに好みの女性が来るなんて思ってもみないだろ?だから、俺もちゃんと断りやすい人選べばよかったと思ってる」
健司さんは、再び手酌をして自分のグラスにビールを注ぐ。
空になった瓶を名残惜しそうに振って一滴残らずグラスに入れると、はぁーっと大きなため息をついた。
私も、グラスのビールを空にする。
『もう一本、いきましょう』
「案外、呑める口なんだな」
健司さんは、少し自虐的に笑う。
部屋に備え付けの電話で、瓶ビールを二本頼み、健司さんに向き合う。
『私だって、こんな好みの男性が来ると知っていたら、絶対このお見合い引き受けませんでした』
恐らく私たちは同じことを考えている。
――こんな場ではなく、普通に知り合いたかったと。
結婚を前提ではなく、まずはお互い色々な相性を確かめて、恋人になって、それから結婚を考えたかった。
こうなったらお互いやけくそで、お互い手酌でビールを飲み、料理を食べ進めていく。
お互いにこれ以上親しくなる前に、別れたいと思っているはずなのに、会話はテンポよく進んで、次第に良い感じに遠慮がなくなって、甘味が出てくる頃にはかなり酔いが回っていた。
すべての料理が終わり、そろそろお開きの時間だ。
「大丈夫か?」
『うーん、多分…』
差し出された手を遠慮なく取って、ゆっくり立ち上がる。
着なれない振袖を早く脱ぎたくて仕方ない気持ちでいっぱいだ。
「で、このお見合い断る?」
『あ……』
すっかり忘れて、ただ、健司さんとの食事を楽しんでいた自分に気が付く。
「俺としては、断ろうと思う」
そう言われて、アルコールで火照っていた身体がすーっと冷たくなっていくのを感じる。
そうだ、元々私だって断る気満々だったのだ。
でも、こんなに顔もタイプで、楽しく過ごせる人とこれっきりというのはあまりにももったいないと思わずにはいられない。
本当に、お見合いではなく普通に恋愛対象として知り合いたかった……
熱いものがこみ上げて、慌ててハンカチを取り出す。
『ありがとうございました』
さすがに涙を見せるなんて重たい女だと思われたくなくて、足早に去ろうとするけれど、足がもつれて転びそうになる。
「…っぶね」
健司さんは、抱き止めてくれる。
『…すいません』
「俺、マジでミョウジさんのこと、好きになってる。だから、お見合いであれこれ通してめんどくせぇことなしで、付き合いたいんだけど」
『……私も、同じこと思ってた』
でも、恐らくはそんなことは許されないだろう。
親と仲人さんの関係もあるだろうし。
別に反抗期みたいに親に歯向かいたいという年でもないのだけれど、どうしてこうもお見合いというのに拒否感があるのだろう?
出会いに親の顔がちらつくのが我慢できない?
いや、きっと普通に出会いたかったのだ。
でも、普通の出会いって…何?
ぐずぐずと考えるほどに分からなくなってくる。
一つだけはっきりしていることは、
『お互いお見合い断って、付き合い始めても絶対メンドクサイことになりそう…』
「…それもそうだ」
『お互いにお見合いを受け入れて、付き合うことになっても、結婚についてうるさそうだし。結婚になったらなったで、結納とか結婚式とか……』
「げっ……考えたくねぇ…」
とにかく、色んなしがらみが今はただメンドクサイのかもしれない。
『でも、健司さんと同じ考えだって分かって、ちょっと元気出た』
「ははっ、マジか」
『今日は一旦別れて、また後日会えませんか?』
「俺の方からも…出来れば、末永くお付き合いしていただきたく」
改めて神妙な顔で頭を下げられる。
なんだかその姿がおかしくって、顔を上げた健司さんと目が合ってクスクスと笑いあう。
帰ってからのメンドクサイあれこれはあるけれど、なんだかうまくいくような気もしてきた。
そんな未来を夢見ながら、手をつないで料亭を後にしたのだった。
***
2023.10.27.
藤真くんは花形くんから借りた眼鏡かけてふざけたお見合い写真撮りそうだな…という妄想から膨らませました。
「遅れて…すいません」
レストランの個室のドアを開けて入ってきた好青年に私は固まる。
両親とも目を見合わせて、小声で「どういうこと?」と確認しあっている。
藤真家のご両親は、私たちが慌てていることに気が付いて、
「家のせがれがすいません…」
と恐縮しきりだ。
恐らく遅れてきたことに私たちがどうこう言っているのだと思っているのかも知れないが、全く違うのだ。
現れた男性が、お見合い写真とあまりに違うので、私も両親も驚きを隠せないだけなのだ。
だって、写真は黒縁メガネの無精ひげで、もう少し身だしなみを整えた方が…と思うほどもっさりしており、目の前に現れたキラキラと光をまとった王子様のような人とは似ても似つかないのだ。
意を決した父親が、
「息子さん、ずいぶん写真と違うようなので、私たちは間違ったお見合いの部屋に来てしまったのではないか不安なのですよ。本当に、藤真健司くんで合っていますか?」
私たちが持っているお見合い写真を藤真家の方々に見せながら、説明してくれた。
「あっ……」
青年は、目を泳がせてばつの悪そうな顔をしている。
「健司、説明しなさい」
どうやら、このお見合い写真を藤真家のご両親は確認していらっしゃらなかったようだ。
「すいません。俺、こんなにしっかりしたお見合いだと知らずに、友人にメガネを借りて、適当に撮った写真を貼ってしまって…」
しっかりしたお見合いじゃないお見合いとは、なんなんだろう?
言っていることがしっちゃかめっちゃかで、私は更に混乱して、怒って良いのか、笑っていいのか感情が迷子になってしまう。
「本当に、バカ息子がすいません」
藤真家の父親が頭を下げて、それに倣って息子の方も頭を下げている。
「すいません」
「いやいや、逆よりは良いのですから。ねぇ?素敵な息子さんよね…?」
母親はフォローになっているかいないかよく分からない発言をして、私に同意を求めている。
仲人さんもフォローしようと必死なようで、
「私もきちんと確認しなくてすいません。でも、本当に美男美女で素敵なめぐりあわせですね」
なんて白々しくほほほと笑っている。
しかし、いくつかのお見合い写真を見て、一番断りやすそうな人を選んだつもりなのに、どタイプの顔の持ち主が現れてしまったのは大誤算だ。
こんなイケメンとのお見合いを断ったら、罰が当ってしまうのではないかと心配になる。
遠慮がちに彼を見れば、目がパチリと合った。
ふっと微笑まれてしまい、骨抜きにされてしまいそうだ。
私は、お見合いで結婚なんてする気は全くないのだからと、よそ行きの顔を引っ張り出して張り付かせた。
何事もなく早く終わって、自宅に帰って断りを入れるシミュレーションを頭の中で続ける。
その内に、仲人さんを中心としてつつがなく表面的な会話が進み、
「後は若いお二人で……」
と、どこかで聞きかじったことのあるようなセリフが放たれた。
「俺、どうすればいい?」
健司さんは、小さな声で父親に確認をしていたつもりかもしれないが皆に丸聞こえだ。
「二人でゆっくり食事をして、仲を深めてくださいね」
仲人さんは、にこりと笑って、そそくさと立ち上がった。
「ご両家のご両親の方々も、お二人のこと、気にはなるかもしれませんが、お見合いというのもご縁ですので、後は二人に任せてご自宅で帰宅をお待ちくださいね」
お互いの親も立ち上がり、仲人さん、双方にお礼を言って、料亭の個室を後にした。
しーんとした空間に先に居たたまれなくなったのは、健司さんの方だった。
「本当に悪かった。写真のこと…」
少し砕けた口調で頭を下げてくれるのはいいけれど、私は別に謝って欲しい訳じゃない。
あれだけふざけたお見合い写真を渡すくらいだから、私と同じでお見合いで結婚する気はこれっぽっちもないのだろうと推測されるから、私にとっても都合がいいのだから。
『いいえ、いいんです。実は私、結婚する気なんてなくって、一番断りやすそうだなって写真の健司さんを選んだんですから』
「ぷはっ!マジかー、面白すぎるだろ」
満面の笑顔にドキッとしてしまい、その表情は反則だと心の中で悪態をつく。
イケメンの子どもっぽい姿を見せられたら、本当に取り返しのつかないことになりそうだ。
『いや、本当に困ってるんです。断る理由、どうしたらいいのかなって』
「待った!さすがに断るの前提なのはどうなの?」
『健司さんは、お見合い結婚したいと思ってるんですか?』
「いや、全然」
微妙なタイミングで、食事の用意が出来たと仲居さんが入ってきた。
「アルコールもご用意ございますが、お飲み物、何かお持ちしますか?」
会席料理の献立が置かれ、飲み物のメニューが健司さんへと手渡される。
「酒、飲める?」
『少しなら』
本当はそこそこイケるけれど、初対面の男性の前でしかもお見合いの場では、この答えが最適だろう。
「じゃ、ビールでいい?」
『はい』
「瓶ビールお願いします」
「かしこまりました」
健司さんは、ビールを頼んで、仲居さんが部屋を出たのを見計らって、
「結婚はいずれはしなくちゃいけないんだろうけど、今、したいかって言われるとそうじゃない」
『じゃあ、今回のお話はなかったことに……』
「いや、かといってそれも……」
どうして、お互いに断る前提で話が進まないのか?
これ以上、相手に気持ちが行ってしまう前に、どうかケリを着けてしまいたい。
『結婚したくないんですよね?』
「あー、そうなんだけど……」
コンコンコンとノックが聞こえてきたので、私たちは口をつぐんで、仲居さんを通す。
瓶ビールが一本とグラスが二つ、続けてきれいに盛りつけられた先付けが並べられた。
「とりあえず、乾杯だな」
私はグラスを持ち上げて、ビールを注いでもらう。
『健司さんも』
瓶を受け取って、相手のグラスに注ぐ。
「何にってわけじゃねえけど、乾杯」
『乾杯』
控えめにグラスをカチリと合わせて、グラスに口をつける。
健司さんは、ぐびぐびッと飲み干して、手酌で二杯目をついだ。
そして、それもグイっと煽って、ふーっと一息つく。
「こんなこと、ミョウジさんに言ったら困らせてしまうかもしれないけど、俺、このお見合い、断る気満々で、写真も見ないで決めちまったから、ちょっと後悔してる」
『後悔、ですか?』
「ああ。だって、こんなに好みの女性が来るなんて思ってもみないだろ?だから、俺もちゃんと断りやすい人選べばよかったと思ってる」
健司さんは、再び手酌をして自分のグラスにビールを注ぐ。
空になった瓶を名残惜しそうに振って一滴残らずグラスに入れると、はぁーっと大きなため息をついた。
私も、グラスのビールを空にする。
『もう一本、いきましょう』
「案外、呑める口なんだな」
健司さんは、少し自虐的に笑う。
部屋に備え付けの電話で、瓶ビールを二本頼み、健司さんに向き合う。
『私だって、こんな好みの男性が来ると知っていたら、絶対このお見合い引き受けませんでした』
恐らく私たちは同じことを考えている。
――こんな場ではなく、普通に知り合いたかったと。
結婚を前提ではなく、まずはお互い色々な相性を確かめて、恋人になって、それから結婚を考えたかった。
こうなったらお互いやけくそで、お互い手酌でビールを飲み、料理を食べ進めていく。
お互いにこれ以上親しくなる前に、別れたいと思っているはずなのに、会話はテンポよく進んで、次第に良い感じに遠慮がなくなって、甘味が出てくる頃にはかなり酔いが回っていた。
すべての料理が終わり、そろそろお開きの時間だ。
「大丈夫か?」
『うーん、多分…』
差し出された手を遠慮なく取って、ゆっくり立ち上がる。
着なれない振袖を早く脱ぎたくて仕方ない気持ちでいっぱいだ。
「で、このお見合い断る?」
『あ……』
すっかり忘れて、ただ、健司さんとの食事を楽しんでいた自分に気が付く。
「俺としては、断ろうと思う」
そう言われて、アルコールで火照っていた身体がすーっと冷たくなっていくのを感じる。
そうだ、元々私だって断る気満々だったのだ。
でも、こんなに顔もタイプで、楽しく過ごせる人とこれっきりというのはあまりにももったいないと思わずにはいられない。
本当に、お見合いではなく普通に恋愛対象として知り合いたかった……
熱いものがこみ上げて、慌ててハンカチを取り出す。
『ありがとうございました』
さすがに涙を見せるなんて重たい女だと思われたくなくて、足早に去ろうとするけれど、足がもつれて転びそうになる。
「…っぶね」
健司さんは、抱き止めてくれる。
『…すいません』
「俺、マジでミョウジさんのこと、好きになってる。だから、お見合いであれこれ通してめんどくせぇことなしで、付き合いたいんだけど」
『……私も、同じこと思ってた』
でも、恐らくはそんなことは許されないだろう。
親と仲人さんの関係もあるだろうし。
別に反抗期みたいに親に歯向かいたいという年でもないのだけれど、どうしてこうもお見合いというのに拒否感があるのだろう?
出会いに親の顔がちらつくのが我慢できない?
いや、きっと普通に出会いたかったのだ。
でも、普通の出会いって…何?
ぐずぐずと考えるほどに分からなくなってくる。
一つだけはっきりしていることは、
『お互いお見合い断って、付き合い始めても絶対メンドクサイことになりそう…』
「…それもそうだ」
『お互いにお見合いを受け入れて、付き合うことになっても、結婚についてうるさそうだし。結婚になったらなったで、結納とか結婚式とか……』
「げっ……考えたくねぇ…」
とにかく、色んなしがらみが今はただメンドクサイのかもしれない。
『でも、健司さんと同じ考えだって分かって、ちょっと元気出た』
「ははっ、マジか」
『今日は一旦別れて、また後日会えませんか?』
「俺の方からも…出来れば、末永くお付き合いしていただきたく」
改めて神妙な顔で頭を下げられる。
なんだかその姿がおかしくって、顔を上げた健司さんと目が合ってクスクスと笑いあう。
帰ってからのメンドクサイあれこれはあるけれど、なんだかうまくいくような気もしてきた。
そんな未来を夢見ながら、手をつないで料亭を後にしたのだった。
***
2023.10.27.
藤真くんは花形くんから借りた眼鏡かけてふざけたお見合い写真撮りそうだな…という妄想から膨らませました。
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