息子が漢前だと言われる件について【藤真親】
見た目に反して、漢前。
それが、息子をよく知る人たちの評価だ。
親馬鹿かもしれないけれど、確かに顔は良い。
サラサラな髪の毛にくりっとした二重。
赤ちゃんの頃から、いとこからのお下がりの女児用のフリフリのベビー服をしょっちゅう着せていたくらいに愛くるしい見た目だった。
しかし、本人の性格はザ・男の子で、よちよちと歩けるようになって自我が芽生えた頃から、親がちょっとした出来心で着せたいスカートやフリフリが着いた洋服なんかは断固拒否されるようになってしまった。
今思いだしても、もっと可愛いお洋服も着せてみたかったな…なんて思っているくらいだ。
男の子だから、戦いごっこや冒険、危険な遊びが大好きなのは当然だと言われればそれまでだけれど、擦り傷切り傷が絶えず、学校に送り出す時には、生きて帰ってきてくれます様に…と祈ることもあるくらいに無鉄砲な子だった。
小6でミニバスを始めてからはその面白さに目覚めて、少し落ち着いたかな…なんて思ったのは束の間、試合に出られるようになれば物おじしないプレイで、いつもケガさせないか、逆にケガしないか…と心配が尽きなかった。
でもそんな勇姿は、仲間を鼓舞するらしく、最高学年では、いわゆるエースでキャプテンを任されていた。
それに、面倒見もよく、同級生はもちろん下級生からも慕われて大勢を引き連れて遊んでいるような子で、口には出さないが自慢の息子だ。
その親である私はというと、小学校のPTAやスポ少では必須の親の当番などは苦にならないタイプで、頼まれればPTAも保護者の代表、車出しなんかも喜んで引き受けてきた。
子ども達を乗せての運転も好きだから、つい奮発してワンボックスカーを購入したくらいだ。
「藤真さんは…よくやるわよねぇ…」なんて嫌味とも取れる発言をされたことも一度や二度ではないけれど、『いつでも頼ってくださいね!』と笑い飛ばすくらいの器量は持ち合わせているつもりだ。
大勢の子どもたちを乗せていると、「おばちゃん、健司、また女子に告白されてたよ!」なんて、報告をしてくれる子がいたり、「○○ちゃん健司のこと好きだってよ!」って私が聞いているのを分かっているのかいないのか、内緒話を始めたりと健司とその友達の様子がみられるし、こんなに楽しいことはなかった。
そして、健司は中学でもバスケで活躍して(親としてはもう少し勉強も頑張ってほしかったが)、難なく高校の推薦を勝ち取って進学した。
子ども自身に手がかからなくなるかと思いきや、お弁当作りや洗濯などの身の回りのサポートに加えて、高校生なのに選手が監督を兼任するという翔陽高校の伝統のために親の出番が案外多い。
小学校のスポ少と変わらないくらいに選手の送迎をお願いされることもあり、未だに燃費の悪いワンボックスカーが手放せない。
しかも、大抵車に乗せるチームメイトは、同級生の透、一志、昭一、満……健司よりもずっと大きい子たちばかりだ。
入学した当初も大きいと思っていたけれど、さらに三年間で背も伸びて、ワンボックスカーでも窮屈そうに乗っている。
何故か透が助手席、二列目は昭一と満、3列目には一志と息子の健司が定位置となっている。
そのため、透はナビや運転のサポートが上手い。
私がある程度指導したからというのもあるが、飲み物を渡すタイミングまで完璧で、正直、単身赴任中の旦那より役に立つ。
助手席で、「藤真も漢前だが、藤真の母さんも漢前だよなぁ」と、たまにポツリと言われるけれど、至って普通の母親のつもりだ。
でもこんな風に送迎したり、部活をサポートするのもこの子達が引退するまで。
それが夏なのか冬なのかは分からないが、もうそう長くないと思うと、寂しいと思う自分もいる。
去年のインターハイは怪我で悔しい思いもしているし、今年は高校最後、悔いのないように部活を終えてほしい…と心から思う。
こんなよもやま話を考えているうちに、お風呂から上がったらしい息子がリビングへと現れた。
お風呂上りに中々服を着ないのは昔からで、高校生になった今も肩にタオルをかけ、フルチンで冷蔵庫の前まで行って、パックのまま牛乳を飲み始める様を見て、はぁ…とため息をついてみた。
こんな姿、ファンの女の子たちが見たら、卒倒してしまうんじゃなかろうか…
いっそのこと、写真を撮って、まずはバスケ部の親の会で披露してしまおうか…
そんなことを考えながら、健司を横目に高校からの書類に目を通していると、牛乳を飲み終わった健司は大きなげっぷをして、
「明日朝練早いから、6時半に家出るから」
『早っ!お弁当は?』
「要る。2つだな」
『はいはい…』
私は書類をテーブルの端に寄せ立ち上がって、キッチンへと向かう。
明日のお弁当のためのお米を研ぐ前に炊飯器から残りご飯をラップに包んで、炊飯窯をざっと洗う。
5合炊きの炊飯器も一日朝と夜の2回、多い日には3回炊いていれば、炊飯窯の底が剥げるのも早い。
まだ買って二年しかたってないのに、もう買い替えか……
お米もそろそろ買わなくちゃだわ。
「バッシュ、そろそろ新しいの要るから」
『えぇ!?もう…?』
「予選始まる前に履いて慣らしときてぇんだけど?」
『わかったから、早く服着なさいよ!』
「へぇへぇ…」
高校に入ってからというもの、お金のかかることかかること……
お金の心配ばかりが頭に浮かぶ。
数カ月で履きつぶされるバッシュは、高校に入学してからもう何足目だろうか…
そろそろ、インターハイへの遠征費も考えなくては…
寄付が集まるとはいえ、それなりに持ち出しも多い。
今年は確か広島だから、バスか新幹線か……
お米を研ぎながら、考えるのは必要なお金のことばかり。
ま、なるようになるでしょ!という気持ちを込めて、炊飯器の予約ボタンをピッと押す。
聞きなれた予約完了を告げるメロディーが流れて、さてお風呂にでも入ろうかとリビングへと戻れば、ソファーで申し訳程度に腰にタオルをかけた状態で健司が寝ている。
まったく、暖かくなってきたとはいえ風邪ひくわよ……
起こそうとしたところで、
「今年こそは俺たちがナンバーワンだ!」
そんな寝言を聞いて思わず口許がほころぶ。
漢前だと言われていても、私にとっては可愛い息子であることに変わらないのよね。
予選でまずは神奈川県ナンバーワン、頑張りなさいよ!
そう心の中で呟いて、ずれ落ちたタオルを腰へとかける。
そして、私がお風呂から出るまで寝かせてあげようと、タオルケットを持ってきて健司にかけてやった。
タオルケットにうずくまるようにして丸まり、安心しきった寝顔を見て、改めて息子がいるよろこびを噛み締めたのだった。
***
2022.11.26.
【こぼれ話】
本当は、翔陽3年メンバーの親が仲良くて、彼らが卒業後も親同士は集まって飲み会する。
そして、中々結婚しない藤真くんについて藤真母が愚痴る話を書こうと思っていたのですが、漢前藤真母の話になりました!
飲み会話もいつか書きたいなぁ~
それが、息子をよく知る人たちの評価だ。
親馬鹿かもしれないけれど、確かに顔は良い。
サラサラな髪の毛にくりっとした二重。
赤ちゃんの頃から、いとこからのお下がりの女児用のフリフリのベビー服をしょっちゅう着せていたくらいに愛くるしい見た目だった。
しかし、本人の性格はザ・男の子で、よちよちと歩けるようになって自我が芽生えた頃から、親がちょっとした出来心で着せたいスカートやフリフリが着いた洋服なんかは断固拒否されるようになってしまった。
今思いだしても、もっと可愛いお洋服も着せてみたかったな…なんて思っているくらいだ。
男の子だから、戦いごっこや冒険、危険な遊びが大好きなのは当然だと言われればそれまでだけれど、擦り傷切り傷が絶えず、学校に送り出す時には、生きて帰ってきてくれます様に…と祈ることもあるくらいに無鉄砲な子だった。
小6でミニバスを始めてからはその面白さに目覚めて、少し落ち着いたかな…なんて思ったのは束の間、試合に出られるようになれば物おじしないプレイで、いつもケガさせないか、逆にケガしないか…と心配が尽きなかった。
でもそんな勇姿は、仲間を鼓舞するらしく、最高学年では、いわゆるエースでキャプテンを任されていた。
それに、面倒見もよく、同級生はもちろん下級生からも慕われて大勢を引き連れて遊んでいるような子で、口には出さないが自慢の息子だ。
その親である私はというと、小学校のPTAやスポ少では必須の親の当番などは苦にならないタイプで、頼まれればPTAも保護者の代表、車出しなんかも喜んで引き受けてきた。
子ども達を乗せての運転も好きだから、つい奮発してワンボックスカーを購入したくらいだ。
「藤真さんは…よくやるわよねぇ…」なんて嫌味とも取れる発言をされたことも一度や二度ではないけれど、『いつでも頼ってくださいね!』と笑い飛ばすくらいの器量は持ち合わせているつもりだ。
大勢の子どもたちを乗せていると、「おばちゃん、健司、また女子に告白されてたよ!」なんて、報告をしてくれる子がいたり、「○○ちゃん健司のこと好きだってよ!」って私が聞いているのを分かっているのかいないのか、内緒話を始めたりと健司とその友達の様子がみられるし、こんなに楽しいことはなかった。
そして、健司は中学でもバスケで活躍して(親としてはもう少し勉強も頑張ってほしかったが)、難なく高校の推薦を勝ち取って進学した。
子ども自身に手がかからなくなるかと思いきや、お弁当作りや洗濯などの身の回りのサポートに加えて、高校生なのに選手が監督を兼任するという翔陽高校の伝統のために親の出番が案外多い。
小学校のスポ少と変わらないくらいに選手の送迎をお願いされることもあり、未だに燃費の悪いワンボックスカーが手放せない。
しかも、大抵車に乗せるチームメイトは、同級生の透、一志、昭一、満……健司よりもずっと大きい子たちばかりだ。
入学した当初も大きいと思っていたけれど、さらに三年間で背も伸びて、ワンボックスカーでも窮屈そうに乗っている。
何故か透が助手席、二列目は昭一と満、3列目には一志と息子の健司が定位置となっている。
そのため、透はナビや運転のサポートが上手い。
私がある程度指導したからというのもあるが、飲み物を渡すタイミングまで完璧で、正直、単身赴任中の旦那より役に立つ。
助手席で、「藤真も漢前だが、藤真の母さんも漢前だよなぁ」と、たまにポツリと言われるけれど、至って普通の母親のつもりだ。
でもこんな風に送迎したり、部活をサポートするのもこの子達が引退するまで。
それが夏なのか冬なのかは分からないが、もうそう長くないと思うと、寂しいと思う自分もいる。
去年のインターハイは怪我で悔しい思いもしているし、今年は高校最後、悔いのないように部活を終えてほしい…と心から思う。
こんなよもやま話を考えているうちに、お風呂から上がったらしい息子がリビングへと現れた。
お風呂上りに中々服を着ないのは昔からで、高校生になった今も肩にタオルをかけ、フルチンで冷蔵庫の前まで行って、パックのまま牛乳を飲み始める様を見て、はぁ…とため息をついてみた。
こんな姿、ファンの女の子たちが見たら、卒倒してしまうんじゃなかろうか…
いっそのこと、写真を撮って、まずはバスケ部の親の会で披露してしまおうか…
そんなことを考えながら、健司を横目に高校からの書類に目を通していると、牛乳を飲み終わった健司は大きなげっぷをして、
「明日朝練早いから、6時半に家出るから」
『早っ!お弁当は?』
「要る。2つだな」
『はいはい…』
私は書類をテーブルの端に寄せ立ち上がって、キッチンへと向かう。
明日のお弁当のためのお米を研ぐ前に炊飯器から残りご飯をラップに包んで、炊飯窯をざっと洗う。
5合炊きの炊飯器も一日朝と夜の2回、多い日には3回炊いていれば、炊飯窯の底が剥げるのも早い。
まだ買って二年しかたってないのに、もう買い替えか……
お米もそろそろ買わなくちゃだわ。
「バッシュ、そろそろ新しいの要るから」
『えぇ!?もう…?』
「予選始まる前に履いて慣らしときてぇんだけど?」
『わかったから、早く服着なさいよ!』
「へぇへぇ…」
高校に入ってからというもの、お金のかかることかかること……
お金の心配ばかりが頭に浮かぶ。
数カ月で履きつぶされるバッシュは、高校に入学してからもう何足目だろうか…
そろそろ、インターハイへの遠征費も考えなくては…
寄付が集まるとはいえ、それなりに持ち出しも多い。
今年は確か広島だから、バスか新幹線か……
お米を研ぎながら、考えるのは必要なお金のことばかり。
ま、なるようになるでしょ!という気持ちを込めて、炊飯器の予約ボタンをピッと押す。
聞きなれた予約完了を告げるメロディーが流れて、さてお風呂にでも入ろうかとリビングへと戻れば、ソファーで申し訳程度に腰にタオルをかけた状態で健司が寝ている。
まったく、暖かくなってきたとはいえ風邪ひくわよ……
起こそうとしたところで、
「今年こそは俺たちがナンバーワンだ!」
そんな寝言を聞いて思わず口許がほころぶ。
漢前だと言われていても、私にとっては可愛い息子であることに変わらないのよね。
予選でまずは神奈川県ナンバーワン、頑張りなさいよ!
そう心の中で呟いて、ずれ落ちたタオルを腰へとかける。
そして、私がお風呂から出るまで寝かせてあげようと、タオルケットを持ってきて健司にかけてやった。
タオルケットにうずくまるようにして丸まり、安心しきった寝顔を見て、改めて息子がいるよろこびを噛み締めたのだった。
***
2022.11.26.
【こぼれ話】
本当は、翔陽3年メンバーの親が仲良くて、彼らが卒業後も親同士は集まって飲み会する。
そして、中々結婚しない藤真くんについて藤真母が愚痴る話を書こうと思っていたのですが、漢前藤真母の話になりました!
飲み会話もいつか書きたいなぁ~
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