王子なんて似合わない【牧紳一】

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『ねぇ、牧。ハロウィンって知ってる?』

「いや、聞いたことないな…」

『10月31日は仮想してお菓子を配る日らしいの!その日にこれ着てみて欲しいんだけど』

そんなキラキラした嬉しそうな目で見つめられたら断れる訳がない。

『牧がこれ着たら、めちゃくちゃ似合うと思って買っちゃったの』

なんて衣装を渡されたら、

「別に構わんが」

と言うしかないだろう。

『やった!!バスケ部のみんなにハロウィンパーティーしようって伝えようかな?清田とかめっちゃ張り切ってくれそうだし。神も何だかんだで仮装してくれそうだよね』

改めて、手渡された衣装を確認すれば、ブレザーより丈の長い紫紺色の上着には、金色の刺繍が仰々しいほどになされている。

「これは、何の衣装だ?」

『王子様だよ!制服のスラックスとYシャツの上から羽織れば、完璧!』

「……この衣装は神の方が似合うんじゃないか?」

『え?なんで?牧に着て欲しいんだけど』

「そうか…」

きゆの思いつきにいつも振り回されていることは、分かっているけれど、これも惚れた弱みというやつだろう。

バスケ以外にさほど興味のない俺に、あれこれと世話を焼いてくれたり、テスト勉強や提出物の確認までまるで俺専属のマネージャーの如く色々と世話を焼いてくれる訳だし、そんなきゆの頼みを断るなんて出来ない。

俺の許可が得られたきゆは、早速バスケ部のミーティングに顔を出し(俺の知らないところで高頭監督の許可まで取っているのには驚いたが)、ハロウィンパーティの開催を告げた。

『牧は王子様、私はお姫様の衣装を着るので、皆さんそれ以外でお願いしまーす!』

なんて堂々と言ってのけた。

「姐さんは、お妃さまっぽくねぇっすか?」

きゆのことを姐さんと呼ぶ清田は、心配そうに俺に耳打ちしてくる。

「俺も王子なんて似合わないと思ってるんだがな…」

「牧、清田!どうしたの?」

「いや、なんでもないっす!執事っぽい格好した方がいいか牧さんに確認してたっす!」

「清田、分かってるじゃん!」

「…っす!姐さん、ハロウィンパーティ、ナイスアイデアっす!」

……ったく、調子のいいやつだ。




そして迎えたハロウィン当日。

このイベントは、最近、お祭り好きな日本でも流行りはじめているらしい。

でも、海外では子どもが仮装をしてお菓子をもらうイベントだというじゃないか?

もう見た目はほぼ大人な俺たちには関係ないんじゃあ…?

思った以上に楽しそうに準備を進めるバスケ部員達や張り切るきゆの前では、喉まで出かかっている言葉を俺は飲み込むより他はない。

しかも、バスケ部が仮装をするという噂はあっという間に広まって、バスケ部専用の体育館には見学客があふれている。

部室で着替えを済ませた俺たちの後にきゆが着替え、出てきたところを捕まえた。

紫色で海南バスケ部の色を意識したドレスは、きゆによく似合っていて、目を奪われるが、今はそんなことより見学客をどうするかだ。

きゆ、どうするんだ?観客が多いようだが」

『バスケ部以外にお菓子はないから、大丈夫じゃない?』

「…そういうわけじゃないんだが」

『見られるのが嫌?』

「…きゆの綺麗な姿を他の奴らに見せるのは、少し嫌かもな」

ため息交じりに伝えてみれば、きゆは俺に飛びつくように、

『牧のそういうとこ、本当に好き!!』

頬に熱烈なキスを一つ。

『あ、キスマーク付いちゃった』

「さすがにこれは……」

『ウォータープルーフの口紅だから、すぐに落ちないかも…』

「ウォーター…?」

たまにきゆから聞く化粧品のことはさっぱり分からないが、キスマークを落とすことを優先すべきか、観客を捌くことを優先すべきか……難問に思案していると、

「牧さーん!人、ヤバいっすよ!」

髪をきつく結わえて執事風の格好をした清田が勢いよく走ってき他と思ったら、俺の頬のキスマークを見て、固まっている。

「姐さん、さすがにキスマークは…」

『分かってるわよ!清田、バスケ部のことは頼んだから…とりあえずお菓子配って食べてて!』

きゆは清田にかごいっぱいのお菓子を渡すと、俺の腕をつかんで、ずかずかと部室へと戻ろうとする。

首をひねって、一言清田に伝える。

「悪いが、次期キャプテンの神と清田で何とかしておいてくれ!」

「牧さん……俺たちに任せてください!」

「頼んだぞ!」

こうなったら、俺は顔を出さない方が良いのかもしれない。

「はぁ……」

大きなため息とともに部室のベンチに腰掛けてきゆに向き合う。

『牧、なんかごめんね…』

しょんぼりした様子のきゆを見て、これだけ張り切って準備をしてきたのだからと少し気の毒な気持ちになる。

今は二人きりだし、少しだけ楽しんでも良いのかもしれない。

「トリックオアトリート…だったか?」

『そうだよ。お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ…って言うんだって!』

「じゃあ、きゆから甘いもんでももらおうか」

『えっ?清田にお菓子あげちゃったよ…?』

俺は立ち上がって、お菓子より甘いきゆの唇を奪う。

まだまだ騒動は続きそうだから、一瞬だけ、こんな風に甘いひと時を味わっても良いだろうと思うことにする。

「これは、イタズラになっちまったか?」

『ううん、私にとっても甘いトリートだよ!…って、牧の唇にも口紅ついちゃった!今、落とすからね』

「あぁ、頼む。やっぱり、俺には王子は似合わないさ。高校生で、バスケ部のキャプテンがいい」

衣装を脱いで、椅子に掛ける。

さっさと練習着に着替えて、バスケ部の奴らにも声をかけるとしよう。

きゆは、ウェットティッシュのようなものを取り出して、俺の頬の口紅を落としてくれる。

『王子じゃなくて、帝王は?』

「俺が言い出したんじゃないし、面と向かって言われたことは…ないぞ?」

『それもそっか。でも、牧のカッコいい王子様姿見られて良かった』

「それは光栄だな…俺もきゆのお姫様姿見られてよかったさ。さ、着替えてハロウィンパーティの終わりを告げてくれよ」

『はーい』

俺は、普通の男子高校生でいい。

この騒動を収めたら、仮装するのはもうこれっきり。

そう思っていたのに、今年盛り上がった立役者だからと卒業してからもハロウィンパーティーに駆り出されるのは、また別の話。

***
2022.11.17.
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