傷跡【形藤】
セミの鳴き声が響くお盆真っただ中の体育館。
蒸し暑い体育館にいるのは、俺と藤真の二人だけ。
部活は休みだけれど、俺も藤真も何となく待ち合わせて高校に来て、藤真が監督になってから預かった体育館のカギを開けて忍び込んだ。
インターハイで額を縫う怪我をした藤真は、まだ激しい運動は禁じられているから、俺は体育館の壁にもたれかかって座り、藤真は俺の足元にゴロンと寝転がった。
さらさらと後ろに流れ落ちた髪の合間から、ガーゼが取れたばかりの生々しい傷口が見える。
「まだ痛むか?」
「もう、痛くねぇよ」
苦虫をかみつぶしたような顔で藤真は答える。
「試合に出てた分、俺より悔しいよな…」
「どうだろうな…肘鉄くらってからの記憶はねぇから、その後の試合見てた花形達の方が悔しいんじゃね?」
「俺は、藤真が心配で試合に負けて悔しいってのが無かったんだよな…本当に藤真が元気でまた一緒にバスケ出来る方が嬉しいよ…」
「バーカ…!この悔しさをバネに来年こそはとか言えよ!俺、主将兼監督様だぜ!」
「…藤真は強いな』
「そう見えるか?」
「ああ。監督も兼任する話も即答だったって聞いたからな…」
「即答か…正直、インターハイの前は監督か主将、どっちかをおまえに任せたい気持ちはあった」
初めて聞く藤真の告白に俺は、目を丸くした。
なら、尚更引き受ける前に相談してほしかった。
二つの重責を背負うのは高校生にとっては重すぎるし、何より俺だって藤真に頼られる男でありたい。
そんな俺の気持ちはすべてお見通しと言わんばかりに、藤真は身体を起こして、俺を真剣なまなざしで見つめた。
「俺一人が抜けたくらいで簡単に崩れるチームにしたくねぇ」
「なら、尚更一人で背負うな…!」
「花形、ありがとな…」
藤真は、ふっと寂しそうに笑った。
「後悔してる…のか?」
「ちょっと違ぇ…」
「じゃあ、やっぱりプレイヤーに専念できないのが辛い……よな?」
「辛いか……やってみなくちゃ分かんねぇのにな…今はちょっとだけ弱気になってる…」
俺は、思わず藤真を肩に抱き寄せた。
藤真は、遠慮がちに俺の膝に手を置いて、ギュっとズボンのすそを握りしめた。
頭に置いた手を、あやすように何度か撫でてやる。
「今は俺を頼って、甘えてくれ…」
「悪い…今だけだから……」
蒸し暑い体育館で男二人が肩寄せ合ってこんな風にしているのはおかしいことだろうか?
俺と藤真しかいないこの空間で、そんな野暮なことを考えるのは辞めにする。
お互いに汗ばんでいるのに微塵も不快な気持ちはなくて、友情以上の感情をこの男に持っているのだという思いが強くなる。
「なぁ…藤真。キス、しないか…?」
「……」
「悪い。忘れてくれ…」
バカなことを言ってしまったと後悔し始めたところで、ふっと肩が軽くなったかと思ったら、目の前に藤真の顔が現れて、俺のメガネを取り上げた。
「目、つぶってろよ」
「藤真…?」
言われるがままに目を閉じれば、藤真は俺の膝に乗り上げるようにして近づいて、唇を重ねてきた。
すぐに離れるのが惜しくて、藤真をぎゅっと抱き留めてさらに深く唇を重ねる。
藤真の背負ってるものが少しでも軽くなってくれ……
そんな祈りを込めたキスは、ほろ苦い味がした。
***
2022.8.29.chococo
【あとがき】
以前夢小説で書いたシチュエーションですが、花形くん×藤真くんのCPで書いてみたくなって書いてみました。
翔陽が伝統的に部員の誰かが主将兼監督を務めるという伝統があるということでない限りは、花形くんが主将か監督をやるっていう話も一度は出ると思うんですよね。
でも、藤真くんは、独断で両方兼任することを決めるんだけれど、いざ、その立場で練習が始まる前に少し弱気になってしまう。
そんなところを花形くんが支えてあげて欲しいな…という妄想です。
原作で見せてくれるこのCPの信頼関係は、本当に泣けます…大好きです。
お読みいただきありがとうございました!
蒸し暑い体育館にいるのは、俺と藤真の二人だけ。
部活は休みだけれど、俺も藤真も何となく待ち合わせて高校に来て、藤真が監督になってから預かった体育館のカギを開けて忍び込んだ。
インターハイで額を縫う怪我をした藤真は、まだ激しい運動は禁じられているから、俺は体育館の壁にもたれかかって座り、藤真は俺の足元にゴロンと寝転がった。
さらさらと後ろに流れ落ちた髪の合間から、ガーゼが取れたばかりの生々しい傷口が見える。
「まだ痛むか?」
「もう、痛くねぇよ」
苦虫をかみつぶしたような顔で藤真は答える。
「試合に出てた分、俺より悔しいよな…」
「どうだろうな…肘鉄くらってからの記憶はねぇから、その後の試合見てた花形達の方が悔しいんじゃね?」
「俺は、藤真が心配で試合に負けて悔しいってのが無かったんだよな…本当に藤真が元気でまた一緒にバスケ出来る方が嬉しいよ…」
「バーカ…!この悔しさをバネに来年こそはとか言えよ!俺、主将兼監督様だぜ!」
「…藤真は強いな』
「そう見えるか?」
「ああ。監督も兼任する話も即答だったって聞いたからな…」
「即答か…正直、インターハイの前は監督か主将、どっちかをおまえに任せたい気持ちはあった」
初めて聞く藤真の告白に俺は、目を丸くした。
なら、尚更引き受ける前に相談してほしかった。
二つの重責を背負うのは高校生にとっては重すぎるし、何より俺だって藤真に頼られる男でありたい。
そんな俺の気持ちはすべてお見通しと言わんばかりに、藤真は身体を起こして、俺を真剣なまなざしで見つめた。
「俺一人が抜けたくらいで簡単に崩れるチームにしたくねぇ」
「なら、尚更一人で背負うな…!」
「花形、ありがとな…」
藤真は、ふっと寂しそうに笑った。
「後悔してる…のか?」
「ちょっと違ぇ…」
「じゃあ、やっぱりプレイヤーに専念できないのが辛い……よな?」
「辛いか……やってみなくちゃ分かんねぇのにな…今はちょっとだけ弱気になってる…」
俺は、思わず藤真を肩に抱き寄せた。
藤真は、遠慮がちに俺の膝に手を置いて、ギュっとズボンのすそを握りしめた。
頭に置いた手を、あやすように何度か撫でてやる。
「今は俺を頼って、甘えてくれ…」
「悪い…今だけだから……」
蒸し暑い体育館で男二人が肩寄せ合ってこんな風にしているのはおかしいことだろうか?
俺と藤真しかいないこの空間で、そんな野暮なことを考えるのは辞めにする。
お互いに汗ばんでいるのに微塵も不快な気持ちはなくて、友情以上の感情をこの男に持っているのだという思いが強くなる。
「なぁ…藤真。キス、しないか…?」
「……」
「悪い。忘れてくれ…」
バカなことを言ってしまったと後悔し始めたところで、ふっと肩が軽くなったかと思ったら、目の前に藤真の顔が現れて、俺のメガネを取り上げた。
「目、つぶってろよ」
「藤真…?」
言われるがままに目を閉じれば、藤真は俺の膝に乗り上げるようにして近づいて、唇を重ねてきた。
すぐに離れるのが惜しくて、藤真をぎゅっと抱き留めてさらに深く唇を重ねる。
藤真の背負ってるものが少しでも軽くなってくれ……
そんな祈りを込めたキスは、ほろ苦い味がした。
***
2022.8.29.chococo
【あとがき】
以前夢小説で書いたシチュエーションですが、花形くん×藤真くんのCPで書いてみたくなって書いてみました。
翔陽が伝統的に部員の誰かが主将兼監督を務めるという伝統があるということでない限りは、花形くんが主将か監督をやるっていう話も一度は出ると思うんですよね。
でも、藤真くんは、独断で両方兼任することを決めるんだけれど、いざ、その立場で練習が始まる前に少し弱気になってしまう。
そんなところを花形くんが支えてあげて欲しいな…という妄想です。
原作で見せてくれるこのCPの信頼関係は、本当に泣けます…大好きです。
お読みいただきありがとうございました!
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