もっと…【牧神】

この人の背中を追いかけるんじゃなくて、いつか肩を並べて一緒に歩きたい。

そう願っていた相手も俺と同じ気持ちでいてくれたと分かって、手をつないで一緒に歩くまでの仲になったのがつい最近の事。

高校の頃の自分が知ったら、青天の霹靂のごとく驚くだろうな。

まだ誰にも知られていないけれど、ノブに教えて驚かせてやりたいなんていう気持ちまである。

とにかく俺は、この恋に舞い上がっている。

自分は色恋沙汰にはあっさりしているだろうなんて漠然と思っていたけれど、意外と欲深いみたいだ。

俺と牧さんの関係は、まだまだ先輩後輩の関係から抜け出しきれない所があって、牧さんにもっと頼られたい、もっと甘えられたいって思うのは俺のわがままだろうか。

海南大学に内部進学した牧さんを追いかけて、同じ大学に入学し、また同じバスケ部に所属してしまったから、普段の上下関係もあるし仕方のないことなのは分かっている。

でも、何でも卒なくこなす牧さんを見ていると俺なんかと付き合ってて良いのだろうかって不安になることもあるんだ。

もっと頼ったり甘えたりしてください…そんなことを男の恋人に面と向かって言っていいものか…遠慮してしまう所もあってここのところモヤモヤした想いを抱えていた。

今日も部活の練習後、高校の頃からずっと続けている500本のシュート練習を終わらせた。

その頃合いを見計らったように牧さんは戻ってきてくれる。

「お疲れ様」

爽やかに笑って、スポーツドリンクを手渡されたので、お礼を言って水分補給をし、汗を拭った。

「いつも、すいません…」

「なんだ?当然だろ?」

「俺、牧さんのこと頼ってばっかりで…」

「それが嬉しいし、もっと頼って欲しい。神は何でも一人で抱え込もうとするだろ?」

「それを言うなら牧さんだって」

「そうか?」

「もっと俺に甘えて欲しいんです」

「なら…」

そう言うと、牧さんは俺のことを抱きしめてくれた。

俺の方が背が高いのにいつだってリードされるのは俺の方で、今だって先に抱きしめられてしまった。

ちょっと悔しい気持ちでいると、

「俺のこと名前で呼んでくれないか?宗一郎…」

耳元で低く甘い声でささやかれた。

「清田のことは名前で呼ぶだろ?地味に傷ついてるんだぞ…」

牧さんからそんな風に思っていたことを聞かされて、嬉しいようなまだまだ遠慮していた自分が申し訳ないような気持ちになる。

そして彼の腰に腕を回して、名前を呼ぶ。

「…紳一さん」

言い慣れない呼び方は、ひどく照れ臭い。

「照れるな…」

俺の胸に顔を埋めるようにして伝えてくれた紳一さんのことが堪らなく愛おしい。

「俺、今ここで……キスしたいです」

「体育館(ここ)で、か…」

紳一さんは身体を離して周りを見渡して、誰もいないことを確認すると、

「いいぞ」

俺に向き直ってふっと笑うと、少し上向き加減で目を閉じてくれた。

俺はそっと肩に手をおいて、顔を近づける。

いつもは流れで、紳一さんの方からキスしてくれることが多いから、俺からこんな風に改まってするのは緊張してしまう。

試合以上の緊張で、紳一さんの男らしい唇に触れあわせてすぐに離してしまった。

「なんだ?もういいのか…」

紳一さんは、俺の後頭部に手を伸ばして、奪うようにキスをしてくれる。

その少々強引なキスを受け入れながら、彼に愛されているんだと実感する。

もっと頼られたい、甘えられたいだなんて想いは一旦置いておこう。

今は彼の可愛い彼氏(こいびと)でいたい。

そして、ずっとずっと彼の傍にいられますように…

***
2022.4.25. chococo

<後書き>
梅干しさんへのお礼を込めて書かせていただきました!
甘々な二人のつもりで書きました。
意外と神さん乙女チック思考回路してたら可愛いという私の妄想詰め込んでいるので、解釈違いでしたらすいませんm(__)m
お互い海南キャプテン背負ってただけあって、自立している二人なので、大人な関係かと思いきや二人っきりの時はベッタリだったらいいなぁと思っております。
お読みいただきありがとうございました!
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