バスケと先輩【流三】

「忘れたくても、忘れらんねえんだよ!」

苦笑いしながら言い放った先輩の横顔に吸い寄せられるように近づいた。

もやもやしたこの感情が何なのか、俺には全く分からないから、先輩なら何か教えてくれるかもしれない。

先輩がバスケから離れたいと思っていたのに忘れられなかったと言っただけなのに、何でこんな気持ちになるのだろうか?

「流川、何だよ?」

俺は、近距離で先輩の顔をじっと見つめる。

顔にある傷も、差し歯も、バスケのことが好きなのに諦めようとした代償みたいなもので、バスケ部に戻るために必要なものだったのだと考えれば考えるほど、なんか納得がいかない。

そもそも、俺がつけた傷じゃないのも気に食わない。

「先輩は、俺のもんっすよね?」

「はぁ?何で今、その話するんだよ…」

他のやつらには聞こえないように小さい声で言ったつもりだけれど、先輩は慌てて俺の口を押えた。

俺は付き合っていることを、バスケ部員全員に知られてもいいと思っているけれど、どうやら先輩はそのつもりはないらしく、いつも二人っきりでいる時しか甘えさせてくれない。

「おい、流川!ミッチー独り占めすんじゃねーぞ!」

赤い頭の邪魔者が来たので、先輩を取られないよう羽交い絞めするみたいにぎゅっと抱きしめると、奴は先輩の足をもって引っ張ってくる。

「お、おい!!お前ら、やめろって…!!」

「先輩…!」

「ミッチーはキツネには渡さん!!」

先輩は絶対に俺のものだと、さらにぎゅっと力を込めると、

「練習、始まるよ~!」

「は、ハルコさん!」

マネージャーの一言で、赤頭はあっさりと足を離したので、俺は先輩を抱えたまま勢いあまって尻もちをついた。

「おい、流川。帰りに話があるから一緒に帰るぞ!」

イテテと身体をさすりながら先輩は立ち上がって、俺にこそっと耳打ちするとすぐに練習に行ってしまった。




練習、その後の自主練を終えて、俺と先輩は帰路についた。

俺は自転車を押しているから、先輩と距離がある。

「先輩、俺、バスケのことも先輩のことも好きだけど……先輩がバスケのこと忘れられないっつったのが、なんか、よく分かんないんすけど、嫌っす」

「はぁ……」

先輩はガシガシと頭をかいて、それから俺の肩に腕を回してきたので、俺はちょっとよろけそうになりながらも自転車を倒さないように耐えた。

「ったく…可愛い後輩だな!バスケに嫉妬してるんだろ!」

嬉しそうな先輩の声色に、先輩が喜んでくれていると分かって少し安心する。

ただ……嫉妬という言葉はイマイチよく分からない。

「流川は俺のことがめちゃくちゃ好きだってことがよく分かったよ!」

先輩はさらにぐっと腕に力を込めてくるので、俺は自転車から手を離した。

きっと、今なら許してくれるだろうと先輩の腕から逃れるように身体を翻して、先輩と向き合う。

そして、迷わずその唇にキスをした。

抵抗するどころか俺を引き寄せるようにして深く唇を重ねてくれる先輩に、俺のありったけの愛を込めて応えた。

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2022.5.2.
診断メーカーより
玄米様、キャラリクありがとうございます
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