Confession 【神清】
部活の練習が終わり、いつものように500本シュートまできっちり終える。
その頃に体育館に残っているのは、俺と信長の二人だけ。
一つ学年が上がり、俺は牧さんの後を継いで4番を背負い、信長は俺と同じ6番を着けることが正式に決まったのは、4月に入ってからのこと。
その頃から、信長は俺と同じように部活の練習後に自主練をするようになった。
それから二カ月。
二人っきりのことが増えて、信長が俺のことを先輩としてではなく、恋愛対象として好きなんじゃないかって感じることが増えた。
そんな気持ちを向けられていることは微塵も不快なんかではなくて、むしろ嬉しい。
信長が、俺以外の奴と二人っきりで親しそうに喋っているだけで、もやもやしてしまうくらいには気になっている。
つい構いたくなって、飲みかけのスポーツドリンクを差し出して、赤面させてみたり、差し入れのお菓子をあーんしてあげたり……その度に初々しい反応を楽しんだりもしている。
バスケ部の奴らには、仲良すぎだってからかわれるけれど、そんな風に言われるのも悪くない。
まぁ、俺も信長のことが好きなんだろうなってぼんやりと自覚はしている。
両片思い、まさにその言葉がぴったりのお互いの関係ではあるけれど、まだ決定的に信長は俺のことが好きだっていう確証もないし、この想いを打ち明ける勇気はない。
だから、二人きりの帰り道、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみる。
「信長は、好きな人いないの?」
「う…えぇ!な、な、何てこと聞くんすか!?」
思った通りの可愛らしい反応に自然と笑みが漏れる。
「バスケ部の時期キャプテン、モテるだろ?」
「神さんほどじゃないっす…それに俺、好きな人いますから……手の届かない人だけど…」
「気になるな」
「きっと、俺が告白したら、相手は困るだけなんで……」
「じゃあ、諦めるんだ」
俺のその言葉に、信長はぎゅっとこぶしを握って、立ち止まった。
俺も足を止めれば、自然と向き合う格好になる。
「好きだと告げることを諦めただけです、気持ちまで諦めてるわけじゃないんです」
まっすぐな目をして俺に思いをぶつけてきた後輩のその必死な表情に思わず笑みがこぼれる。
「あ、神さん!ひっでぇ。バカにしてるんでしょ!?」
「信長、ごめん…」
「ごっ、…ごめん……って、そりゃ…そう、ですよね……」
急にしょんぼりして、目が潤んでいる後輩のことを愛おしく思う。
「神さん、変なこと言ってすいません。俺、一人で帰ります」
ぐっと袖で涙をぬぐって、信長は俺に背を向けた。
おそらく、信長は俺への気持ちがまだバレていないと思っていて、でも俺にごめんって言われてショックだったんだろうことは容易に想像できる。
だから、今、想いを伝えるときだって分かってはいても、俺だって本当は少し怖い。
付き合ったら、二人の関係が変わってしまう気がして…
後輩の隠しきれていない想いを受け止めて、俺も自分の気持ちに素直になった先にどんな未来があるのか?
世間の目を気にしすぎて、辛くなる時が来たとしたら……
仲のいい恋人”みたい”な存在でいた方が、いいんじゃないか……
考えれば考えるほど、足が動かない。
明日またいつもみたいに、笑って「おはようございます」って言ってくれればそれでいいんだけどな……
「神さん、ありがとうございました…」
「待って!」
小さい声でつぶやいた信長の声は、やけに大きく耳に残って、俺は本能的に信長の腕をつかんだ。
振り返った信長の目から、大粒の涙が零れ落ちたのが見える。
そんな風に涙を流すのも俺のことを思ってくれるからだと思うと、心の中にくすぶっていた気持ちが溢れ出るように口から自然と言葉がもれる。
「好きだよ」
「えっ?」
「俺は、信長のこと、好きだよ。もちろん、恋人として…」
「じ、神さん!?」
「信長は違った…?同じ気持ちだと思ってた」
キョトンとした信長は、ただ口をパクパクとして何も言えないでいる。
そんな様子も最高に可愛くて、俺は掴んでいた手を離して、信長の頬を両手で包み込むように触れた。
「お、俺…」
ようやく信長の声が聞こえる。
「俺の好きな人は…神さんです…」
「知ってたよ」
俺はニコリと笑って、おでこをこつんと触れ合わせた。
さっき泣いたからか少しだけ赤い信長の鼻に自分の鼻をすりすりと触れ合わせて、身体を離す。
「神さん…」
真っ赤になった顔で俺の名前を呼んだ後に、下を向いて呟いた。
「そこは、キ…キス、してくれるかと…」
「唇へのキスは…そうだな、何時かのお楽しみかな」
「そ、そうなんすか!?」
がっかりしたような信長の声に思わず笑みがもれる。
暗闇の中、手を繋ぎ合って、家路についた。
***
2022.6.3.
「好きだと告げることを諦めただけです、気持ちまで諦めてるわけじゃないんです」
聖廃墟さまよりセリフをお借りしました。
神さんの日おめでとうございます!!!
その頃に体育館に残っているのは、俺と信長の二人だけ。
一つ学年が上がり、俺は牧さんの後を継いで4番を背負い、信長は俺と同じ6番を着けることが正式に決まったのは、4月に入ってからのこと。
その頃から、信長は俺と同じように部活の練習後に自主練をするようになった。
それから二カ月。
二人っきりのことが増えて、信長が俺のことを先輩としてではなく、恋愛対象として好きなんじゃないかって感じることが増えた。
そんな気持ちを向けられていることは微塵も不快なんかではなくて、むしろ嬉しい。
信長が、俺以外の奴と二人っきりで親しそうに喋っているだけで、もやもやしてしまうくらいには気になっている。
つい構いたくなって、飲みかけのスポーツドリンクを差し出して、赤面させてみたり、差し入れのお菓子をあーんしてあげたり……その度に初々しい反応を楽しんだりもしている。
バスケ部の奴らには、仲良すぎだってからかわれるけれど、そんな風に言われるのも悪くない。
まぁ、俺も信長のことが好きなんだろうなってぼんやりと自覚はしている。
両片思い、まさにその言葉がぴったりのお互いの関係ではあるけれど、まだ決定的に信長は俺のことが好きだっていう確証もないし、この想いを打ち明ける勇気はない。
だから、二人きりの帰り道、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみる。
「信長は、好きな人いないの?」
「う…えぇ!な、な、何てこと聞くんすか!?」
思った通りの可愛らしい反応に自然と笑みが漏れる。
「バスケ部の時期キャプテン、モテるだろ?」
「神さんほどじゃないっす…それに俺、好きな人いますから……手の届かない人だけど…」
「気になるな」
「きっと、俺が告白したら、相手は困るだけなんで……」
「じゃあ、諦めるんだ」
俺のその言葉に、信長はぎゅっとこぶしを握って、立ち止まった。
俺も足を止めれば、自然と向き合う格好になる。
「好きだと告げることを諦めただけです、気持ちまで諦めてるわけじゃないんです」
まっすぐな目をして俺に思いをぶつけてきた後輩のその必死な表情に思わず笑みがこぼれる。
「あ、神さん!ひっでぇ。バカにしてるんでしょ!?」
「信長、ごめん…」
「ごっ、…ごめん……って、そりゃ…そう、ですよね……」
急にしょんぼりして、目が潤んでいる後輩のことを愛おしく思う。
「神さん、変なこと言ってすいません。俺、一人で帰ります」
ぐっと袖で涙をぬぐって、信長は俺に背を向けた。
おそらく、信長は俺への気持ちがまだバレていないと思っていて、でも俺にごめんって言われてショックだったんだろうことは容易に想像できる。
だから、今、想いを伝えるときだって分かってはいても、俺だって本当は少し怖い。
付き合ったら、二人の関係が変わってしまう気がして…
後輩の隠しきれていない想いを受け止めて、俺も自分の気持ちに素直になった先にどんな未来があるのか?
世間の目を気にしすぎて、辛くなる時が来たとしたら……
仲のいい恋人”みたい”な存在でいた方が、いいんじゃないか……
考えれば考えるほど、足が動かない。
明日またいつもみたいに、笑って「おはようございます」って言ってくれればそれでいいんだけどな……
「神さん、ありがとうございました…」
「待って!」
小さい声でつぶやいた信長の声は、やけに大きく耳に残って、俺は本能的に信長の腕をつかんだ。
振り返った信長の目から、大粒の涙が零れ落ちたのが見える。
そんな風に涙を流すのも俺のことを思ってくれるからだと思うと、心の中にくすぶっていた気持ちが溢れ出るように口から自然と言葉がもれる。
「好きだよ」
「えっ?」
「俺は、信長のこと、好きだよ。もちろん、恋人として…」
「じ、神さん!?」
「信長は違った…?同じ気持ちだと思ってた」
キョトンとした信長は、ただ口をパクパクとして何も言えないでいる。
そんな様子も最高に可愛くて、俺は掴んでいた手を離して、信長の頬を両手で包み込むように触れた。
「お、俺…」
ようやく信長の声が聞こえる。
「俺の好きな人は…神さんです…」
「知ってたよ」
俺はニコリと笑って、おでこをこつんと触れ合わせた。
さっき泣いたからか少しだけ赤い信長の鼻に自分の鼻をすりすりと触れ合わせて、身体を離す。
「神さん…」
真っ赤になった顔で俺の名前を呼んだ後に、下を向いて呟いた。
「そこは、キ…キス、してくれるかと…」
「唇へのキスは…そうだな、何時かのお楽しみかな」
「そ、そうなんすか!?」
がっかりしたような信長の声に思わず笑みがもれる。
暗闇の中、手を繋ぎ合って、家路についた。
***
2022.6.3.
「好きだと告げることを諦めただけです、気持ちまで諦めてるわけじゃないんです」
聖廃墟さまよりセリフをお借りしました。
神さんの日おめでとうございます!!!
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