久しぶりに帰省した息子が婚約者を連れてきてそわそわ落ち着かない話【水戸親】
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「もしもし、おふくろ?明日、彼女連れて帰るからよろしくな!」
息子が急に電話をよこして何事かと思っていたら、開口一番、そう言った。
『はっ?洋平、彼女って…』
「俺、結婚しようと思ってさ…」
『け…結婚!?』
洋平は、今年…確か22歳になったばかりのはずだ。
洋平は高校卒業後に家を出て、盆や正月にもまともに帰ってきたことがない息子からの久しぶりの連絡が結婚だなんて、寝耳に水だ。
引っ越し屋だかのアルバイトから正社員になって働いていると言っていたのは…1年くらい前だっただろうか?
…それにしても、洋平の6つ上の姉も結婚していないのに結婚ってことは…
『あんた…まさか……妊娠させちまったのかい?』
「はぁ?…んなわけねーよ!」
『あんた、まだ22歳だろ?そんなに急いで結婚しなくても、同棲とかでもいいんじゃないの?』
「23になったっつーの!俺が結婚してえっつう相手連れて帰るのメーワクだった?」
『…そんな訳ないけど…ねぇ…』
「じゃ、いいだろ?15時くらいに行くから!」
『夕飯食べてくのかい!?』
「嫌なら、すぐ帰るぜ…」
『……用意しておくから、一緒に食べて行って貰ってちょうだい。お姉ちゃんも呼んでおくから…』
「げっ?姉貴?」
『結婚するなら、お姉ちゃんにも報告した方がいいんじゃない?』
「まっそうだけど…姉貴のこと…忘れてたな…」
『お父さんも、もちろんいるから…』
「あぁ…親父より姉貴の方が問題な気がする…」
『大丈夫…だと思うわよ!最近、彼氏が出来たって言ってたような…』
「その忘れっぽいとこ、何とかしてくれよな!明日は、15時、頼んだぜ!」
そう言って、ガチャリと一方的に切られてしまった。
それにしても…あの子が結婚ねぇ…
昔から強いものに憧れる気持ちが強い子だった。
戦隊もののテレビ番組でも、悪役のラスボスが好きで、ラスボスは一人で戦っているに、なんでヒーローは5人で一緒に戦うんだと怒っていたことを思い出して、私は口元が緩んだ。
「おとーちゃんのこと、いつか倒す!」
なんて、毎日のように父親に戦いを挑んでいた頃は、まだよかったなぁ…と、段々大きくなって手に負えなくなっていったことまで思い出してしまう。
いわゆる不良たちが多い地域に住んでいるため、小学校の頃から危ないところにはいかないよう口を酸っぱくしていたが、息子は夜中、喧嘩見たさに家を抜け出そうとしたこともあった。
けんかっ早い性格で、何度も学校で喧嘩しては、呼び出されて、お叱りを受けることはもちろん、即病院行きの怪我をすることもあって、いつも冷や冷やしていた。
中学に入ってからは、
「強え仲間、見つけたんだぜ!」
と嬉しそうに言っていたが、傷だらけで帰ってくるのを見かねて口うるさく言えば、口喧嘩をすることもしょっちゅうだった。
けれど、不思議と警察のお世話になるようなことはなくて、今思えば、恐喝や万引きなんかの本当に悪いことはしていなかったんだろう。
何とか高校へ入学させたはいいものの、入学早々、大きな喧嘩をしたらしく、謹慎処分になった。
このまま退学かと思ったが、謹慎が終わったころから、怪我をして帰ってくることがなくなった。
中学の頃から息子との会話といえば喧嘩ばかりで、話しかけるのに躊躇ったが、あまりの変化に、
『最近、喧嘩しなくなったんじゃない?』
と思わず聞いた時に、
「喧嘩なんかより、面白いもん、見つけちまったんだって」
と、結局詳しくは教えてもらえなかったが、嬉しそうに言うのを見てひと安心した。
スポーツの雑誌がテーブルに置きっぱなしになっていることが増えて、スポーツの趣味でも見つけたんだろうと思っているが今でも真相は知らない。
その後は、アルバイトを始め、高校も真面目に通って、留年することなく卒業した。
高校卒業後は自立したいと、在学中にためたお金をもとに親元を巣立っていった。
息子のために貯めていた通帳は自分の力だけでやっていきたいと頑なに受け取ってもらえなかったため、結婚の時に渡してやろうと思っていたが、こんなに早くその時が訪れるとは…
思い出に浸っているうちに、娘に連絡するのをすっかり忘れそうになって、慌てて連絡をした。
【洋平が、結婚するのよ!明日、彼女連れて夕飯食べに来るから来てちょうだい!】
そうメールを送ると、すぐに、
【はぁ?今から行きたいけど、明日も仕事だから…早めに切り上げていく!】
そう返信が来た。
年の離れたこの姉の影響で、洋平の喧嘩好きが出来上がったといっても過言ではない。
女の子なのに戦隊ヒーローが大好きで、洋平がハイハイを始める前から、戦いごっこを教えてたっけ?
自己主張が少々強いところはあるけれど、洋平に比べれば、心配することが少なかった姉は、大学卒業後、商社でバリバリ働いている。
この姉も大学に入学と同時に一人暮らしを始めたので、一緒に生活したのは洋平が小学生まででだが、洋平は姉のことを慕っている…というか少し苦手にしている節がある。
明日はなんだか落ち着かないなぁ…とそんなことを考えながら、その日は眠りについた。
次の日。
朝から掃除をしたり、夕ご飯の出前の手配をしたり、慌ただしくしている私を見た夫は、
「今日、何かあったか?」
なんて、とぼけたことを聞いてくる。
『何言ってるの?今日は、洋平が結婚するって言う彼女を連れてくるって言ったじゃない!』
「いや…俺は何も聞いてないぞ…」
『嘘!?私、言ったわよね!!』
「いつの話だ?」
『昨日よ。洋平から連絡きたって言ったわよね?』
「全く聞いてないぞ…」
『えぇ?じゃあ、言うの忘れてたのね…』
「まただ…で、結婚するって、洋平が?」
『そうなのよ…だから、きちんとした格好していてちょうだいね!』
「何時に来るんだ?」
『夕ご飯食べに来るって言ってたと思うから17時ごろじゃなかったかしら?やだ!もう14時じゃない!』
化粧なんかを済ませて、後は、飲み物を準備して…と思っていると、
ピンポーン!
インターホンを見ると、洋平と隣には彼女の姿が…
『もう来ちゃった!ちょっと!!洋平来たわよ!』
「もう来たのか?」
慌てて玄関で出迎えた。
「俺、15時に来るって言ったよな?」
呆れた顔の息子とその隣には綺麗な女性。
多分、洋平より年上だろう。
あまり値踏みするようにじろじろ見るわけにもいかず、
『さ、上がって…』
そう言って、リビングへと案内した。
「三浦ほむこと言います。あの…これ、よろしければ… 」
緊張した面持ちで、菓子折りを差し出してくれたので、私まで急に緊張してきてしまう。
『わざわざ、ありがとうございます。お茶入れるから、座ってちょうだい!』
キッチンへ逃げるようにお茶を入れに向かう。
『洋平、彼女、コーヒー大丈夫?』
「あぁ…」
お客さん用の茶器にインスタントコーヒーを作って、緊張感漂うリビングへと向かった。
コーヒーを出し、自分も椅子に腰かければ、誰かが話そうとしながらもいまいちきっかけが掴めない雰囲気の中で、私は思わず、
『何か…緊張しちゃうわね…煙草、吸いたくなっちゃう…って、彼女…えっと、ほむこちゃんでいいのよね?煙草、大丈夫?』
「煙草、俺も吸いてぇ…ほむこも吸うから、気にすんなよ!灰皿、灰皿っと…」
洋平は、嬉しそうにキッチンへと灰皿を取りに向かった。
夫も洋平の後に続いて、そそくさと煙草を取りに向かい、彼女も少し表情を緩めた。
『緊張するわよね…ほむこちゃんも気にしないで吸ってね。我が家は喫煙者ばっかだから…』
「ありがとうございます。あ、私、お母さんと同じ銘柄です!」
ほむこちゃんも鞄から私と同じ銘柄のたばこを取り出して、みんなが煙草に火をつけるのを確認してから、自分の煙草にも火をつけた。
煙草の煙が充満し、場の緊張感が緩んだことに、私も安堵した。
「早速だけどよ、俺、彼女と結婚することにしたんだけど…いいよな?」
「あぁ、俺はもちろん、賛成だ。でも、洋平、あちらの親御さんは…?」
『そうよ。こちらはよくても、あちらのご両親は反対されるかもしれないじゃない…』
「それは大丈夫!もう先に行って挨拶してきた」
「はい。私の両親も快諾してくれました」
嬉しそうに微笑む彼女の煙草を持つ手と反対には、真新しい指輪が光っているのを見つけた。
幸せいっぱいな様子に胸が熱くなるが、その気持ちを落ち着けるように煙草をふかして、
『そうだったのね。よかったわ…で、洋平。こんな素敵な子、どこで見つけてきたのよ?』
と私が馴れ初めを聞こうとしたところで、玄関から、
「ただいま!洋平、来てる!?」
と大きな声で、娘が帰ってきた。
『もう来てるわよ!』
と返すと同時にバタバタとリビングへ入ってきて、
「どれどれ、洋平のお嫁さんはっと……」
そうニヤニヤとぶしつけな視線を向け始めたので、冷や冷やしていると、娘はほむこちゃんと見つめあって固まった。
「ほむこ…」
「…水戸ちゃん…だよね?」
二人は、知り合いのようで、二人で手を取り合って、
「「久しぶり!会いたかった!!」」
再会を喜び始めたので、私も夫も洋平もただその様子をポカンと見つめるしかなかった。
話を聞けば、二人は高校の同級生で、娘が大学へ行けたのもほむこちゃんに勉強を教えてもらったおかげなのだそうだ。
世間は狭いとはまさにこのことだ。
「でさ、ほむこはどうして洋平なんかと出会って、結婚することになったのよ?」
「姉貴、洋平なんかってひどくねぇ?こう見えて、俺、ヒーローなんだぜ?」
「そうなの。洋平は、あ…洋平君は、私がDV男につかまってるところを助けてくれたんだ…」
『洋平が?』
「そうなんです。引っ越し屋さんとして、来てくれた洋平君が、こっそり手紙をくれたんです…引っ越しで、もう逃げるなんて出来ないって諦めて、一生この男の元で過ごさなくちゃいけないんだって思ってた時にもらった手紙に連絡先があって、すがる思いでかけたら、本当にヒーローみたいに助けてくれたんですよ。でも、洋平君の会社では問題になってしまったみたいで、謹慎処分になってしまったんですが…」
「ははっ…DV男に捕まるのは ほむこらしいし、それを助けるのも洋平らしいね!」
「姉貴…」
『そうだったの。ほむこちゃんも大変な思いしたのね…』
「洋平のお嫁さん、変な女だったらどうしようかと思ってたけど、 ほむこなら、大丈夫!何か信じられないな… ほむこと姉妹か~お義姉さんって呼んでもらおっかな?」
「水戸ちゃん、それ、何かやだ…」
はははっと陽気な笑いに包まれて、新しい家族が増えることに私は喜びでいっぱいだった。
「そういえば、姉貴も彼氏いるんだろ?結婚しねぇの?」
「はぁ?最近別れたばっか…」
「げっ…おふくろに騙された…」
洋平が結婚したら孫が出来るかもしれないし、いい加減、物忘れが激しいとこ、直さなくっちゃな…なんて、姉にコテンパンに怒られている洋平を見てのほほんと思うのだった。
***
2021.7.6.
Privetterより転載。
息子が急に電話をよこして何事かと思っていたら、開口一番、そう言った。
『はっ?洋平、彼女って…』
「俺、結婚しようと思ってさ…」
『け…結婚!?』
洋平は、今年…確か22歳になったばかりのはずだ。
洋平は高校卒業後に家を出て、盆や正月にもまともに帰ってきたことがない息子からの久しぶりの連絡が結婚だなんて、寝耳に水だ。
引っ越し屋だかのアルバイトから正社員になって働いていると言っていたのは…1年くらい前だっただろうか?
…それにしても、洋平の6つ上の姉も結婚していないのに結婚ってことは…
『あんた…まさか……妊娠させちまったのかい?』
「はぁ?…んなわけねーよ!」
『あんた、まだ22歳だろ?そんなに急いで結婚しなくても、同棲とかでもいいんじゃないの?』
「23になったっつーの!俺が結婚してえっつう相手連れて帰るのメーワクだった?」
『…そんな訳ないけど…ねぇ…』
「じゃ、いいだろ?15時くらいに行くから!」
『夕飯食べてくのかい!?』
「嫌なら、すぐ帰るぜ…」
『……用意しておくから、一緒に食べて行って貰ってちょうだい。お姉ちゃんも呼んでおくから…』
「げっ?姉貴?」
『結婚するなら、お姉ちゃんにも報告した方がいいんじゃない?』
「まっそうだけど…姉貴のこと…忘れてたな…」
『お父さんも、もちろんいるから…』
「あぁ…親父より姉貴の方が問題な気がする…」
『大丈夫…だと思うわよ!最近、彼氏が出来たって言ってたような…』
「その忘れっぽいとこ、何とかしてくれよな!明日は、15時、頼んだぜ!」
そう言って、ガチャリと一方的に切られてしまった。
それにしても…あの子が結婚ねぇ…
昔から強いものに憧れる気持ちが強い子だった。
戦隊もののテレビ番組でも、悪役のラスボスが好きで、ラスボスは一人で戦っているに、なんでヒーローは5人で一緒に戦うんだと怒っていたことを思い出して、私は口元が緩んだ。
「おとーちゃんのこと、いつか倒す!」
なんて、毎日のように父親に戦いを挑んでいた頃は、まだよかったなぁ…と、段々大きくなって手に負えなくなっていったことまで思い出してしまう。
いわゆる不良たちが多い地域に住んでいるため、小学校の頃から危ないところにはいかないよう口を酸っぱくしていたが、息子は夜中、喧嘩見たさに家を抜け出そうとしたこともあった。
けんかっ早い性格で、何度も学校で喧嘩しては、呼び出されて、お叱りを受けることはもちろん、即病院行きの怪我をすることもあって、いつも冷や冷やしていた。
中学に入ってからは、
「強え仲間、見つけたんだぜ!」
と嬉しそうに言っていたが、傷だらけで帰ってくるのを見かねて口うるさく言えば、口喧嘩をすることもしょっちゅうだった。
けれど、不思議と警察のお世話になるようなことはなくて、今思えば、恐喝や万引きなんかの本当に悪いことはしていなかったんだろう。
何とか高校へ入学させたはいいものの、入学早々、大きな喧嘩をしたらしく、謹慎処分になった。
このまま退学かと思ったが、謹慎が終わったころから、怪我をして帰ってくることがなくなった。
中学の頃から息子との会話といえば喧嘩ばかりで、話しかけるのに躊躇ったが、あまりの変化に、
『最近、喧嘩しなくなったんじゃない?』
と思わず聞いた時に、
「喧嘩なんかより、面白いもん、見つけちまったんだって」
と、結局詳しくは教えてもらえなかったが、嬉しそうに言うのを見てひと安心した。
スポーツの雑誌がテーブルに置きっぱなしになっていることが増えて、スポーツの趣味でも見つけたんだろうと思っているが今でも真相は知らない。
その後は、アルバイトを始め、高校も真面目に通って、留年することなく卒業した。
高校卒業後は自立したいと、在学中にためたお金をもとに親元を巣立っていった。
息子のために貯めていた通帳は自分の力だけでやっていきたいと頑なに受け取ってもらえなかったため、結婚の時に渡してやろうと思っていたが、こんなに早くその時が訪れるとは…
思い出に浸っているうちに、娘に連絡するのをすっかり忘れそうになって、慌てて連絡をした。
【洋平が、結婚するのよ!明日、彼女連れて夕飯食べに来るから来てちょうだい!】
そうメールを送ると、すぐに、
【はぁ?今から行きたいけど、明日も仕事だから…早めに切り上げていく!】
そう返信が来た。
年の離れたこの姉の影響で、洋平の喧嘩好きが出来上がったといっても過言ではない。
女の子なのに戦隊ヒーローが大好きで、洋平がハイハイを始める前から、戦いごっこを教えてたっけ?
自己主張が少々強いところはあるけれど、洋平に比べれば、心配することが少なかった姉は、大学卒業後、商社でバリバリ働いている。
この姉も大学に入学と同時に一人暮らしを始めたので、一緒に生活したのは洋平が小学生まででだが、洋平は姉のことを慕っている…というか少し苦手にしている節がある。
明日はなんだか落ち着かないなぁ…とそんなことを考えながら、その日は眠りについた。
次の日。
朝から掃除をしたり、夕ご飯の出前の手配をしたり、慌ただしくしている私を見た夫は、
「今日、何かあったか?」
なんて、とぼけたことを聞いてくる。
『何言ってるの?今日は、洋平が結婚するって言う彼女を連れてくるって言ったじゃない!』
「いや…俺は何も聞いてないぞ…」
『嘘!?私、言ったわよね!!』
「いつの話だ?」
『昨日よ。洋平から連絡きたって言ったわよね?』
「全く聞いてないぞ…」
『えぇ?じゃあ、言うの忘れてたのね…』
「まただ…で、結婚するって、洋平が?」
『そうなのよ…だから、きちんとした格好していてちょうだいね!』
「何時に来るんだ?」
『夕ご飯食べに来るって言ってたと思うから17時ごろじゃなかったかしら?やだ!もう14時じゃない!』
化粧なんかを済ませて、後は、飲み物を準備して…と思っていると、
ピンポーン!
インターホンを見ると、洋平と隣には彼女の姿が…
『もう来ちゃった!ちょっと!!洋平来たわよ!』
「もう来たのか?」
慌てて玄関で出迎えた。
「俺、15時に来るって言ったよな?」
呆れた顔の息子とその隣には綺麗な女性。
多分、洋平より年上だろう。
あまり値踏みするようにじろじろ見るわけにもいかず、
『さ、上がって…』
そう言って、リビングへと案内した。
「三浦ほむこと言います。あの…これ、よろしければ… 」
緊張した面持ちで、菓子折りを差し出してくれたので、私まで急に緊張してきてしまう。
『わざわざ、ありがとうございます。お茶入れるから、座ってちょうだい!』
キッチンへ逃げるようにお茶を入れに向かう。
『洋平、彼女、コーヒー大丈夫?』
「あぁ…」
お客さん用の茶器にインスタントコーヒーを作って、緊張感漂うリビングへと向かった。
コーヒーを出し、自分も椅子に腰かければ、誰かが話そうとしながらもいまいちきっかけが掴めない雰囲気の中で、私は思わず、
『何か…緊張しちゃうわね…煙草、吸いたくなっちゃう…って、彼女…えっと、ほむこちゃんでいいのよね?煙草、大丈夫?』
「煙草、俺も吸いてぇ…ほむこも吸うから、気にすんなよ!灰皿、灰皿っと…」
洋平は、嬉しそうにキッチンへと灰皿を取りに向かった。
夫も洋平の後に続いて、そそくさと煙草を取りに向かい、彼女も少し表情を緩めた。
『緊張するわよね…ほむこちゃんも気にしないで吸ってね。我が家は喫煙者ばっかだから…』
「ありがとうございます。あ、私、お母さんと同じ銘柄です!」
ほむこちゃんも鞄から私と同じ銘柄のたばこを取り出して、みんなが煙草に火をつけるのを確認してから、自分の煙草にも火をつけた。
煙草の煙が充満し、場の緊張感が緩んだことに、私も安堵した。
「早速だけどよ、俺、彼女と結婚することにしたんだけど…いいよな?」
「あぁ、俺はもちろん、賛成だ。でも、洋平、あちらの親御さんは…?」
『そうよ。こちらはよくても、あちらのご両親は反対されるかもしれないじゃない…』
「それは大丈夫!もう先に行って挨拶してきた」
「はい。私の両親も快諾してくれました」
嬉しそうに微笑む彼女の煙草を持つ手と反対には、真新しい指輪が光っているのを見つけた。
幸せいっぱいな様子に胸が熱くなるが、その気持ちを落ち着けるように煙草をふかして、
『そうだったのね。よかったわ…で、洋平。こんな素敵な子、どこで見つけてきたのよ?』
と私が馴れ初めを聞こうとしたところで、玄関から、
「ただいま!洋平、来てる!?」
と大きな声で、娘が帰ってきた。
『もう来てるわよ!』
と返すと同時にバタバタとリビングへ入ってきて、
「どれどれ、洋平のお嫁さんはっと……」
そうニヤニヤとぶしつけな視線を向け始めたので、冷や冷やしていると、娘はほむこちゃんと見つめあって固まった。
「ほむこ…」
「…水戸ちゃん…だよね?」
二人は、知り合いのようで、二人で手を取り合って、
「「久しぶり!会いたかった!!」」
再会を喜び始めたので、私も夫も洋平もただその様子をポカンと見つめるしかなかった。
話を聞けば、二人は高校の同級生で、娘が大学へ行けたのもほむこちゃんに勉強を教えてもらったおかげなのだそうだ。
世間は狭いとはまさにこのことだ。
「でさ、ほむこはどうして洋平なんかと出会って、結婚することになったのよ?」
「姉貴、洋平なんかってひどくねぇ?こう見えて、俺、ヒーローなんだぜ?」
「そうなの。洋平は、あ…洋平君は、私がDV男につかまってるところを助けてくれたんだ…」
『洋平が?』
「そうなんです。引っ越し屋さんとして、来てくれた洋平君が、こっそり手紙をくれたんです…引っ越しで、もう逃げるなんて出来ないって諦めて、一生この男の元で過ごさなくちゃいけないんだって思ってた時にもらった手紙に連絡先があって、すがる思いでかけたら、本当にヒーローみたいに助けてくれたんですよ。でも、洋平君の会社では問題になってしまったみたいで、謹慎処分になってしまったんですが…」
「ははっ…DV男に捕まるのは ほむこらしいし、それを助けるのも洋平らしいね!」
「姉貴…」
『そうだったの。ほむこちゃんも大変な思いしたのね…』
「洋平のお嫁さん、変な女だったらどうしようかと思ってたけど、 ほむこなら、大丈夫!何か信じられないな… ほむこと姉妹か~お義姉さんって呼んでもらおっかな?」
「水戸ちゃん、それ、何かやだ…」
はははっと陽気な笑いに包まれて、新しい家族が増えることに私は喜びでいっぱいだった。
「そういえば、姉貴も彼氏いるんだろ?結婚しねぇの?」
「はぁ?最近別れたばっか…」
「げっ…おふくろに騙された…」
洋平が結婚したら孫が出来るかもしれないし、いい加減、物忘れが激しいとこ、直さなくっちゃな…なんて、姉にコテンパンに怒られている洋平を見てのほほんと思うのだった。
***
2021.7.6.
Privetterより転載。
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