frustration【洋三】

「……」

俺は遠目にも機嫌が悪いとわかる水戸を見つけて、声をかけるのを止めた。

何となく止めといたほうがいいっつうのは俺でも分かる。

ここ数日、二人きりで会っても何となくイライラしてる気がしていたが、聞いても「三井さんには関係ねぇ…」って素っ気ない返事を聞いたばかりだ。

そもそもこっそりと付き合い始めて、水戸のバイト終わりと俺の部活終わりに待ち合わせてわずかな時間に喋ったりするくらいで、学校内で親しくするのは気が引ける。

今日も、待ち合わせをしているからそん時に聞けばいいかと思っても見たが、まるで無視するかのように俺の前をすっと通り過ぎられれば、いい気はしないどころか不安になっちまう。

…俺、なんか悪いことでもしたんじゃねぇかって。

ちょうどタイミングよく水戸とつるんでいる奴ら3人が後から来たので聞いてみる。

「おい、なんか水戸機嫌悪くねぇか?」

「よぉ!ミッチー、よく気付いたな」

「そうそう、あいつ今、禁煙してんだよ」

「今日で3日目だっけか?俺がさっきうっかりタバコ見せちまったからめちゃくちゃイラついてんの…」

「何でまた禁煙なんか…?」

俺は思わず気になって聞いてしまう。

「花道もスポーツマンになったし、三井さんだって不良してた頃も吸ってなかったらしいし…って、なんかミッチーのことも言ってたぜ」

「そうそう!いつの間にかミッチー呼びから三井さんに変わったけど、ミッチーと洋平ってなんかあった?」

そう聞いて、思わず頬を緩めてしまいそうになって慌てて口元に手を当ててごまかした。

「知らねーよ!おまえらも桜木もだけど、もっと先輩を敬えって!」

「「「へーへー」」」

3人は、これっぽっちも先輩への敬意が感じられない返事をして去っていった。

付き合い始めてから、ミッチーが三井さんになったことも、気付いてはいたが改めて指摘されると恥ずかしい。

そして、あいつが禁煙をがんばっているのは俺のためだとしたら…むず痒いような気持ちになる。

タバコやめると甘いもん食いたくなるっつうし、なんかおごってやるかな…そんなことを考えながら、部活に向かう。

その後、初めてのキスをすることになるとは、この時の俺はまだ知らない…

***
2022.1.29.
Inspired by illustration of 玄米-sama
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