酒癖【牧藤】
「おまえら、よく聞けよ!俺はだな…神奈川の帝王と呼ばれる男と争ってたんだけどな……あの夏、赤い頭とゴリラのいる集団に負けてだな……」
バスケの試合の後の打ち上げで、気持ちのいい勝利の美酒ってやつに酔いしれながら、ウーロン茶やコーラを片手に飯を食っている後輩に俺の過去の話を聞かせてやる。
こういう酒の席は、嫌いじゃない。
むしろ大好きだけれど、周りは「もう止めときましょうよ」「飲みすぎです」ってすぐに止めに来るのが気に食わない。
そして、ほら、今日もまた…
「そこまでだ。藤真、帰るぞ…」
頼んでもいないのに、誰かが呼び寄せたこいつに腕を引っ張られる。
「んだよ…今、イイところなんだよ。牧…」
「何がイイとこだ。帰るぞ…」
「まだ飲みかけの酒が…」
「まったく…」
牧は俺の飲みかけのジョッキを持ち上げて、まるでスポーツドリンクを飲むかのようにぐびぐびッと飲み干すと、テーブルに戻して、
「ほら、空だ」
そう言うので、俺は渋々立ち上がる。
「金は?」
「払ってある」
「そうか。じゃあ、行くぞ…!いつも、藤真がすまない」
「いや、こちらこそ藤真さんをオネガイシマス!」
ほっとした顔の後輩たちに見送られても全然嬉しくない。
…むしろ飲み足りない。
「俺ん家でいいか?」
「あ?酒あるならいいぜ~」
牧に腕をつかまれていて、どうも歩きにくくて足がフラフラする。
「こんなになるまで飲むなといつも言ってるだろ?」
「ぜーんぜん飲んでねぇし…」
はぁ…とため息をついて髪をかきあげる牧がは、いちいち絵になってカッコよすぎて、ちょっとムカつく。
なんで俺の彼氏はこんなに男らしいんだと…
俺と違って、日に焼けた肌のこいつの肉体は、いつ見ても……やっべ、変なこと考えてたら勃っちまうからやめとこ。
とにかく、高校時代からライバルだとはやし立てられているこいつのことが好きなわけなのだが、同級生のくせにいつも俺より一枚上手なのが癪に障ることもあるわけで…
たまには俺が翻弄してみるのもいいだろうと、俺は掴まれていた手を振り払って牧の肩にその手を回して甘えた声を出してみる。
「まーき、俺のこと、どう思う?」
「どう思う…?」
「牧はいつも冷静で昔から俺の一歩前を行ってるから、たまに本当に俺でいいのかって不安になるんだって…」
意図せず口から漏れてしまった本音に、慌てて肩に回した手を外して距離を取る。
「藤真には、そう見えるのか…」
今度は逆に腰を取られて、牧の方にぎゅっと抱き寄せられた。そして、耳元で囁かれる。
「俺は、藤真のこととなると冷静でいられなくなるんだが…」
「ま、牧!」
「藤真、顔が赤いぞ…」
「飲みすぎたからだ!」
「じゃ、今日はもう酒は無しだな…」
「ちぇっ…」
やっぱり牧に俺は叶いそうにない。
バスケでは絶対負けてねぇつもりでやっているし、ずっとライバルであって欲しいと願うけれど、恋愛においてはこうやって牧の手の上で転がされて負けるのも悪くないんだよなぁ~なんて、惚けた頭で考えてみる。
「酒より、ベッドはどうだ?」
俺の気持ちを見透かしたように、そんな風にさらりと言われて、やっぱり素直に甘えるのは止めにした。
「考えとく…」
俺の答えに、ふっと笑った牧の横顔に見惚れたことは内緒だ。
牧のマンションがもうすぐそこに見えてきたので、俺は少し足を速めるのだった。
***
2022.4.4.
【あとがき】
藤真くんは酒癖悪くて後輩を困らせてたら可愛い。
そして牧さんは、計算じゃなくて素でさらりと藤真くんへの愛を口にするから、藤真くんは案外素直になれずに悪態ついちゃうんじゃないかという妄想です。
拗れたら大変そうだけど、絶妙なバランスな二人。さすが双璧!
バスケの試合の後の打ち上げで、気持ちのいい勝利の美酒ってやつに酔いしれながら、ウーロン茶やコーラを片手に飯を食っている後輩に俺の過去の話を聞かせてやる。
こういう酒の席は、嫌いじゃない。
むしろ大好きだけれど、周りは「もう止めときましょうよ」「飲みすぎです」ってすぐに止めに来るのが気に食わない。
そして、ほら、今日もまた…
「そこまでだ。藤真、帰るぞ…」
頼んでもいないのに、誰かが呼び寄せたこいつに腕を引っ張られる。
「んだよ…今、イイところなんだよ。牧…」
「何がイイとこだ。帰るぞ…」
「まだ飲みかけの酒が…」
「まったく…」
牧は俺の飲みかけのジョッキを持ち上げて、まるでスポーツドリンクを飲むかのようにぐびぐびッと飲み干すと、テーブルに戻して、
「ほら、空だ」
そう言うので、俺は渋々立ち上がる。
「金は?」
「払ってある」
「そうか。じゃあ、行くぞ…!いつも、藤真がすまない」
「いや、こちらこそ藤真さんをオネガイシマス!」
ほっとした顔の後輩たちに見送られても全然嬉しくない。
…むしろ飲み足りない。
「俺ん家でいいか?」
「あ?酒あるならいいぜ~」
牧に腕をつかまれていて、どうも歩きにくくて足がフラフラする。
「こんなになるまで飲むなといつも言ってるだろ?」
「ぜーんぜん飲んでねぇし…」
はぁ…とため息をついて髪をかきあげる牧がは、いちいち絵になってカッコよすぎて、ちょっとムカつく。
なんで俺の彼氏はこんなに男らしいんだと…
俺と違って、日に焼けた肌のこいつの肉体は、いつ見ても……やっべ、変なこと考えてたら勃っちまうからやめとこ。
とにかく、高校時代からライバルだとはやし立てられているこいつのことが好きなわけなのだが、同級生のくせにいつも俺より一枚上手なのが癪に障ることもあるわけで…
たまには俺が翻弄してみるのもいいだろうと、俺は掴まれていた手を振り払って牧の肩にその手を回して甘えた声を出してみる。
「まーき、俺のこと、どう思う?」
「どう思う…?」
「牧はいつも冷静で昔から俺の一歩前を行ってるから、たまに本当に俺でいいのかって不安になるんだって…」
意図せず口から漏れてしまった本音に、慌てて肩に回した手を外して距離を取る。
「藤真には、そう見えるのか…」
今度は逆に腰を取られて、牧の方にぎゅっと抱き寄せられた。そして、耳元で囁かれる。
「俺は、藤真のこととなると冷静でいられなくなるんだが…」
「ま、牧!」
「藤真、顔が赤いぞ…」
「飲みすぎたからだ!」
「じゃ、今日はもう酒は無しだな…」
「ちぇっ…」
やっぱり牧に俺は叶いそうにない。
バスケでは絶対負けてねぇつもりでやっているし、ずっとライバルであって欲しいと願うけれど、恋愛においてはこうやって牧の手の上で転がされて負けるのも悪くないんだよなぁ~なんて、惚けた頭で考えてみる。
「酒より、ベッドはどうだ?」
俺の気持ちを見透かしたように、そんな風にさらりと言われて、やっぱり素直に甘えるのは止めにした。
「考えとく…」
俺の答えに、ふっと笑った牧の横顔に見惚れたことは内緒だ。
牧のマンションがもうすぐそこに見えてきたので、俺は少し足を速めるのだった。
***
2022.4.4.
【あとがき】
藤真くんは酒癖悪くて後輩を困らせてたら可愛い。
そして牧さんは、計算じゃなくて素でさらりと藤真くんへの愛を口にするから、藤真くんは案外素直になれずに悪態ついちゃうんじゃないかという妄想です。
拗れたら大変そうだけど、絶妙なバランスな二人。さすが双璧!
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