FOPPERY【南藤】

「大阪案内したいヤツがおるんやけど…」

東京に上京した南から久しぶりに連絡があったと思ったら、久しぶりの挨拶もなしに本題を話し始めた。

「なんや、彼女でも出来たんか?」

「……男や…」

「何や野郎なら、適当に案内すればええやろ?」

「バスケしとるやつやから…」

「まぁ、ええで!新大阪でええか?」

「頼むわ」

もともと口数が少ない上に、さらに何を言いたいかよく分からないまま、久しぶりに南と会えるからいいかと電話を切った。

そして、当日。

「翔陽のエースやんけ…」

南と共に現れた男に俺は驚いた。

確か南とは違う大学だったはずだが、南と同じように東京の大学でバスケを続けているのは知っている。

南と一緒に現れた男、藤真健司のいた翔陽と俺らの豊玉とは、高校2年のインターハイで対戦しているが、その時のことは強烈に覚えている。

南と仲良さげにこちらに歩いてくるが、全く気付いていないようだ。

「よお…」

南は俺に気付くと、気怠そうに挨拶をしてきた。

「おまえが岸本か…?」

「俺のこと、覚えとらんのかいな…藤真健司やろ?翔陽のエースやった…」

「覚えててくれて嬉しいぜ」

「ったりまえや!何てったって、ウチの南がケガさせてもうた相手やからな…」

「ウチの南…?」

藤真は怪訝な顔をして、南の方を見る。

「岸本、もう俺らは一緒にバスケしてへんで…」

なんか含みのある二人の言葉に違和感を覚えながらも、俺はさっきから気になってしょうがないことを話題にした。

「おまえら二人、なんでそんなダサい格好なん?」

「そうか…?」

南も何言っとるん?と言わんばかりの表情で、藤真も南も自分らの格好が変だとは微塵も思っていないよだ。

「今時、ダッフルコートとかありえへんやろ?南もその中のけったいな柄のシャツいいかげんにせぇよ…」

「普段は練習のジャージばっかだし、この上着も高校ん時に親が買ってくれたやつでまだ着れるし、服なんて着れれば何でもいいだろ?」

「おん…俺もジャンパーはおかんが買ってくれたやつやで…」

二人とも大学生にもなって自分が着る服に無頓着すぎてため息が出る。

「二人とも顔がええんやから、もうちょっとましな格好せぇよ!…今日は俺が服選んだる!ほな、アメ横行こか!」

俺は、少々強引に二人を連れだすことにした。

「おい…どうすんだよ…」

「おまえが岸本に会いたいって言ったんやろ?俺は反対やったのに…」

「南が岸本岸本って話題にするから気になってただけだっつーの…」

こそこそと話し声が聞こえるが、無視することにする。

…っつーか、久しぶりに俺にあっても積もる話も何もないなんて、南も冷たないか?

なんて一人落ち込んでもみるが、まずはこいつらの服装をなんとかせなあかんと意気込んで、なじみの古着屋に向かった。

「っちわーっす!」

「いらっしゃい!きしもっちゃん、今日は何探しに来たん?」

古着屋の店長に声をかけられて、

「こいつら、オシャレにしたってくれへん?顔はええんに服に無頓着すぎてかなわへんねん…」

後ろをあまり乗り気でない様子でついてきた二人を店長に紹介する。

「っちわ…」

「…っす」

「おぉ!イケメンすぎへん!?写真撮らしてくれたら、服ただでええわ!」

「何やて!俺には一度もそんなサービスしてくれたことあらへんやん…」

「きしもっちゃんもいい男かもしれへんけど、この二人にはかなわんの、自分でも分かるやろ?」

「けっ…あほくさ…」

ぽかんとしている二人をよそに、俺と店長はさっそく服を選び始める。

「南は184で変わってへんか?サイズ難しいんよな…藤真は背、いくつ?」

「おん…」

「俺は178…」

「ほな、だいたい南のサイズ感でいけるか…」

南は元々無口やけど、藤真も無口なタイプやったんやな…

あんなこともあったし、因縁あって気が合う様に思えへんけど、意気投合したんはよかったなぁ…

服に無頓着やし、意外と性格合うんやろうか?

興味なさげに店内を一緒に見て回る二人を見て、そんなことを考えながら、店長といくつかよさそうな服を選んだ。

この店は狭い試着室は一個しかないし、時間ももったいないので、バックヤードなら二人同時に着替えれるということで、使わせてもらえることになった。

「まずはこれとこれ、着てみてくれへん?バックヤードにも服とかあるけど、適当に避けて使ってくれていいから!」

二人にそれぞれ服を手渡すと、二人は顔を見合わせて、目くばせをしている。

男の友達同士、何を遠慮することがあるのか分からないが、照れくさそうな二人に、

「ガキじゃあるまいし、なんか恥ずかしいことあるんか?」

「「いや…」」

そう言って、二人はバックヤードへと消えていった。

二人が着替え終わって出てくる。

南は、黒のスキニーパンツにフーディー、黒いジャケットで、柄好きの南の好みをガン無視して、シンプルなコーディネートだ。

一方、藤真はしゃれた柄のシャツにモスグリーンの流行りのコート。下は南と同様黒のスキニーだ。

「いいねぇ!」

店長はさっそく一眼レフを持ってきて、写真を撮り始める。

二人は渋々といった表情で、店長に言われるがままポーズを決めるけれど、顔が良いってだけで本当に絵になる。

「もう、これでええねんけど…」

「俺も、これ気に入ったし…」

「なんや、もうちょっと着させてもらったらええやん?」

「こっちも着て、写真撮らせてくれへんか!」

「いや、すいません…観光もしたいし、この服のままでいいですか?店長、これタダでっつうのは悪いんで、金、払いますよ!」

「お、俺も…」

藤真も南もポケットから財布を取り出すが、店長はそれを止めた。

「かまへん、かまへん!いい写真も撮れたし、また大阪来たらよってや~」

そう言って、店長はてきぱきと着ていた服をショッパーに詰めて、財布の上から押し付けるようにその袋を持たせた。

「ほんまにええんか?店、赤字ちゃうん?」

「きしもっちゃん、この写真飾ったら、すぐ元とれるわ!」

俺と店長が喋っている間も言葉少ない割に距離は近くて、なんや恋人みたいな二人やと思いながらも、あんまりこういう店に来慣れてないから、落ち着かんのやろうと思うことにする。

「ほな、行こか?」

「お、おん…」

「なんかこんなこじゃれた服、落ち着かねぇぜ…」

顔がいい奴がいうと嫌味にも聞こえかねないが、ほんまに服装には無頓着なんやなぁ…

昼過ぎに会って、もう夕方で少し早めにゆっくり呑み行くのも良いと思い、

「腹減ったから、飯でも…」

「岸本、今日は俺んちにこいつ泊めることになってんねん」

もう帰れと言わんばかりの南の表情にムッとしてしまう。

「俺が邪魔者みたいやないかい!久しぶりに会ったんやし、飯でも行こうや…」

そう言ったとたん、向こうから女性が走ってきて、藤真の前で足を止めた。

「あの…これ、買ったばっかりやから…どうぞ!」

頬を赤らめて、藤真に有名なコーヒーショップのカップを渡した。

「…は?」

「ご、ごめんなさい!でも、これだけは…」

藤真に睨み付けるように一瞥された女性は、藤真にカップを押し付けるようにしてパタパタと去っていった。

はぁ…とため息をつく姿さえ、絵になるっちゅうんはこういうことやなというくらいにカッコイイ藤真に南はこそこそと耳打ちした。

ニヤリと笑った藤真は、女性から押し付けられたカップを俺に差し出した。

「今日は、お疲れ。これ飲んで、帰ってくれよな!」

意志の強い目で圧を感じるくらいに見つめられれば、

「お、おん…」

思わずカップを受け取って、返事をしてしまった。

それにこのカップのロゴも心なしか俺に何か言いたげに見えなくもない。

「じゃあな!」

唖然としている俺をよそに、南と藤真は、さっと俺の背後に向かって歩き始めた。

ちょうどいいタイミングでブブっっと携帯が震えたので、ポケットから取り出して見てみれば、彼女…のはずもなくおかんからのメール。

【夕飯どうすんの?】

はぁ~と大きなため息をついて、一縷の望みをかけて南と藤真の方へと振返る。

冗談や一緒に飯行ってくれたらええんやけど…

そんな俺の淡い期待は見事に裏切られ、二人は俺を振り返ることなく、そっと手と手を取りあうところが目に入る。

「嘘や…」

まさかの可能性に俺はぶんぶんと頭を振る。

でも、そういう関係だと思えば今日会った時からの二人の言動も説明がつく。

あんなに幸せそうなんを見せつけられるとは思ってもおらず、混乱するばかりだ。

こっちは、彼女すらおらんっちゅうんに…

しぶしぶ二人から目を背けて、おかんからのメールに返信をする。

【これから帰るから、飯食う】

それから、南のアドレスを呼び出す。

【幸せにな】

いや、【幸せになるな】にして送りつけようか…なんて迷っていると、冬の北風がぴゅーっと吹き付けて思わず送信ボタンを押してしまう。

まぁええわ…

携帯をしまって、冷えた手を温めたくても、もらったコーヒーカップもすでに冷めてしまっている。

さすがに知らない人にもらったコーヒーを飲む気にもならず、道端のごみ箱に捨てる。

再びブブっと携帯が震えたので、メールを見れば、おかんからだ。

【あんたの好きな鍋やで】

…別に好きやないわ!

心の中で悪態をつきながらも、家路を急いだ。


***
2022.1.30.
Inspired by illustrarion of 不整脈-sama
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