Birthday【洋三】
「よっしゃ!」
昼下がりの公園に三井さんの声が響く。
12月に入って公園の銀杏の木は見頃を過ぎて葉が舞い散っているけれど、日差しが暖かくバスケをするには最適だ。
俺はベンチに腰掛けて、何度見ても見飽きることのない綺麗なフォームでシュートを放つ三井さんを見つめる。
手には三井さんが飲みかけのポカリの缶を預かっている。
「缶じゃなきゃダメだ」って、いつも三井さんはこだわって持ってきているけれど、三井さんの大学生活を知らない俺は、最近自販機で見かけなくなったポカリの缶をどこで買い込んでいるのかも知らない。
高3の俺と大学2年生の三井さんとじゃあ、生活が違いすぎて月に一回会えればいい方だ。
恋人でもないただの友達なら尚更…
でも、今日はどうしても会いたいって伝えたら、三井さんは午後から空いているって言うから、俺は午後の学校をバックレて、三井さんの自宅近くだというこの公園まで会いに来た。
「水戸もたまにはやらねぇ?」
三井さんはそう言って、眩しいくらいの笑顔で声をかけてくるけれど、俺はゆっくりと首を横に振った。
「俺、三井さんがバスケしてるとこ見るのが好きだから」
俺の返事を聞いて、三井さんは再度ゴールに向かってボールを放つ。
気持ちの良い音を立ててシュートが決まり、そのボールを抱えて俺の座るベンチに戻ってきた三井さんにタイミングよくポカリを渡す。
三井さんはゴクゴクとうまそうに飲み干すと、ぽいっとゴミ箱に向かって缶を放り投げる。
その缶はガンっとゴミ箱に嫌われて、地面に落ちた。
「ダメだったか…」
悪ガキみたいな笑みを浮かべて、三井さんは缶をゴミ箱に捨てて、俺の方を向いた。
「そういえばよ、今日はどうしても会いてぇって、どうした?」
「三井さん、俺、18になった」
「おー、誕生日か!めでてぇな!」
俺の頭をわしゃわしゃ撫でようとする三井さんの手を俺は握って、三井さんを見上げて続けた。
「これで、車の免許も取れるし、選挙権もあるし、タバコと酒はまだ駄目だけど結婚もできる…俺、大人になったよな?」
「水戸…」
「三井さん、改めて…付き合って欲しい…です…」
俺は、三井さんの両手を掴んで立ち上がり、三井さんと向き合う。
三井さんが小脇に抱えていたバスケットボールが落ちて転がっていくのを、三井さんの視線が追いかける。
「逃げねぇで、三井さんの気持ち教えてよ…」
俺の言葉に三井さんは大きなため息を一つついた。
「あん時のボタン、まだ持ってるか?」
「もちろん…」
三井さんの手を離して、ポケットに大切に入れていた湘北の制服ボタンを取り出す。
手のひらの上に乗せて三井さんに見せれば、太陽の光に当たって鈍く光る。
「この俺の第2ボタンが俺の気持ちだっつっても伝わらねぇ?」
「分かんねぇ…」
俺は、三井さんの卒業式の日のことを思い出す。
グレていた時期があるとはいえ、バスケ部であれだけ活躍した三井さんがモテないはずがなく多くの女子達が三井さんの学ランのボタンを狙っていた。
けれど、三井さんが学校に来た時には第2ボタンだけなくて、女子達が嘆いていたのをよく覚えている。
卒業式が終わり、たまたま、バスケ部の元キャプテンのゴリやメガネくんと一緒に体育館に別れを告げるところに出くわした俺は、三井さんに呼び止められた。
この時初めて二人っきりになって、
「バスケ部復帰する手助けしてくれてありがとな…お礼になるかは分からねぇけど、これやるよ」
なんてぶきらっぽうに言って、三井さんは俺にボタンをくれた。
「三井さん、何で俺に?」
「高く売れるぜ?」
にやっと笑いながら言うから、三井さんの気持ちを知りたくて、
「三井さん、俺、あんたに惚れてんだけど…」
「……知ってたっつーの…ま、大人になったら考えてやるよ!それまではダチだ!」
この時のセリフを信じて、今日、ここに来た。
あの時よりさらに大人で酒も煙草も誰にも咎められない年齢になった三井さんだけど、俺だって年を重ねた。
だから、もう一度…
「ちゃんと三井さんの口から答えが聞きたい」
「……」
出会った時から素直じゃなくて、自分の言葉で伝えるのが苦手な人なのは分かってる。
それでも、三井さんの口から聞きたいっつうのは俺のわがままなんだろうか?
三井さんは意を決したように俺と目線を合わせた。
「おまえに…惚れてるよ…卒業式のあの時は、あのボタン渡すので精一杯だった…」
「三井さん…」
真昼間の公園で抱き着くわけにはいかず、手をぎゅっと握ることしかできないのがもどかしい。
「三井さん、俺、あんたのこと抱きたい…」
「いや、抱くのは俺だ!」
焦ったように三井さんは否定する。
俺はあの時より身長が伸びて、身長差がなくなってきた三井さんの耳元でささやく。
「俺、三井さんのことめちゃくちゃ悦ばせてあげる自信あるから、任せてよ」
真っ赤な顔で三井さんは、
「バカヤロウ!」
って小突いてくる。
俺の可愛い年上の恋人は、素直じゃない。
力は俺の方が強いのは証明済みだしな…
「ねぇ、三井さんの家かその辺のラブホどっちがいい?」
「マジで今日するのかよ…」
「俺、めちゃくちゃ待ったからもう我慢できねぇ」
「まだまだガキだな…」
「ガキのわがままに付き合って、抱かれてくれるだろ…寿さん…」
「水戸…」
「洋平って呼んでくれねぇの?」
「よ、洋平…その、お…俺ん家でいいか?」
その言葉に嬉しくなって、俺は寿さんの荷物まで急いでまとめて持ち、腕を取って歩き出す。
寒風がふいているのに、寿さんは耳まで真っ赤になって服をパタパタしている。
人目もはばからずキスしたい衝動にかられて、寿さんの方を見ないように歩く。
真っ赤な顔なのは寿さんだけじゃ無いんだぜ…
冷たい風が心地よく俺の火照った顔を冷やしてくれるのを感じながら、寿さんの家へと向かう。
腕を離してそっと寿さんの手に触れれば、ぎゅっと握り返してくれた。
***
2021.12.5.
Happy Birthday to 不整脈 a.k.a.ふるぼっきたろうちゃん a.k.a.373-sama
inspired by illustration
昼下がりの公園に三井さんの声が響く。
12月に入って公園の銀杏の木は見頃を過ぎて葉が舞い散っているけれど、日差しが暖かくバスケをするには最適だ。
俺はベンチに腰掛けて、何度見ても見飽きることのない綺麗なフォームでシュートを放つ三井さんを見つめる。
手には三井さんが飲みかけのポカリの缶を預かっている。
「缶じゃなきゃダメだ」って、いつも三井さんはこだわって持ってきているけれど、三井さんの大学生活を知らない俺は、最近自販機で見かけなくなったポカリの缶をどこで買い込んでいるのかも知らない。
高3の俺と大学2年生の三井さんとじゃあ、生活が違いすぎて月に一回会えればいい方だ。
恋人でもないただの友達なら尚更…
でも、今日はどうしても会いたいって伝えたら、三井さんは午後から空いているって言うから、俺は午後の学校をバックレて、三井さんの自宅近くだというこの公園まで会いに来た。
「水戸もたまにはやらねぇ?」
三井さんはそう言って、眩しいくらいの笑顔で声をかけてくるけれど、俺はゆっくりと首を横に振った。
「俺、三井さんがバスケしてるとこ見るのが好きだから」
俺の返事を聞いて、三井さんは再度ゴールに向かってボールを放つ。
気持ちの良い音を立ててシュートが決まり、そのボールを抱えて俺の座るベンチに戻ってきた三井さんにタイミングよくポカリを渡す。
三井さんはゴクゴクとうまそうに飲み干すと、ぽいっとゴミ箱に向かって缶を放り投げる。
その缶はガンっとゴミ箱に嫌われて、地面に落ちた。
「ダメだったか…」
悪ガキみたいな笑みを浮かべて、三井さんは缶をゴミ箱に捨てて、俺の方を向いた。
「そういえばよ、今日はどうしても会いてぇって、どうした?」
「三井さん、俺、18になった」
「おー、誕生日か!めでてぇな!」
俺の頭をわしゃわしゃ撫でようとする三井さんの手を俺は握って、三井さんを見上げて続けた。
「これで、車の免許も取れるし、選挙権もあるし、タバコと酒はまだ駄目だけど結婚もできる…俺、大人になったよな?」
「水戸…」
「三井さん、改めて…付き合って欲しい…です…」
俺は、三井さんの両手を掴んで立ち上がり、三井さんと向き合う。
三井さんが小脇に抱えていたバスケットボールが落ちて転がっていくのを、三井さんの視線が追いかける。
「逃げねぇで、三井さんの気持ち教えてよ…」
俺の言葉に三井さんは大きなため息を一つついた。
「あん時のボタン、まだ持ってるか?」
「もちろん…」
三井さんの手を離して、ポケットに大切に入れていた湘北の制服ボタンを取り出す。
手のひらの上に乗せて三井さんに見せれば、太陽の光に当たって鈍く光る。
「この俺の第2ボタンが俺の気持ちだっつっても伝わらねぇ?」
「分かんねぇ…」
俺は、三井さんの卒業式の日のことを思い出す。
グレていた時期があるとはいえ、バスケ部であれだけ活躍した三井さんがモテないはずがなく多くの女子達が三井さんの学ランのボタンを狙っていた。
けれど、三井さんが学校に来た時には第2ボタンだけなくて、女子達が嘆いていたのをよく覚えている。
卒業式が終わり、たまたま、バスケ部の元キャプテンのゴリやメガネくんと一緒に体育館に別れを告げるところに出くわした俺は、三井さんに呼び止められた。
この時初めて二人っきりになって、
「バスケ部復帰する手助けしてくれてありがとな…お礼になるかは分からねぇけど、これやるよ」
なんてぶきらっぽうに言って、三井さんは俺にボタンをくれた。
「三井さん、何で俺に?」
「高く売れるぜ?」
にやっと笑いながら言うから、三井さんの気持ちを知りたくて、
「三井さん、俺、あんたに惚れてんだけど…」
「……知ってたっつーの…ま、大人になったら考えてやるよ!それまではダチだ!」
この時のセリフを信じて、今日、ここに来た。
あの時よりさらに大人で酒も煙草も誰にも咎められない年齢になった三井さんだけど、俺だって年を重ねた。
だから、もう一度…
「ちゃんと三井さんの口から答えが聞きたい」
「……」
出会った時から素直じゃなくて、自分の言葉で伝えるのが苦手な人なのは分かってる。
それでも、三井さんの口から聞きたいっつうのは俺のわがままなんだろうか?
三井さんは意を決したように俺と目線を合わせた。
「おまえに…惚れてるよ…卒業式のあの時は、あのボタン渡すので精一杯だった…」
「三井さん…」
真昼間の公園で抱き着くわけにはいかず、手をぎゅっと握ることしかできないのがもどかしい。
「三井さん、俺、あんたのこと抱きたい…」
「いや、抱くのは俺だ!」
焦ったように三井さんは否定する。
俺はあの時より身長が伸びて、身長差がなくなってきた三井さんの耳元でささやく。
「俺、三井さんのことめちゃくちゃ悦ばせてあげる自信あるから、任せてよ」
真っ赤な顔で三井さんは、
「バカヤロウ!」
って小突いてくる。
俺の可愛い年上の恋人は、素直じゃない。
力は俺の方が強いのは証明済みだしな…
「ねぇ、三井さんの家かその辺のラブホどっちがいい?」
「マジで今日するのかよ…」
「俺、めちゃくちゃ待ったからもう我慢できねぇ」
「まだまだガキだな…」
「ガキのわがままに付き合って、抱かれてくれるだろ…寿さん…」
「水戸…」
「洋平って呼んでくれねぇの?」
「よ、洋平…その、お…俺ん家でいいか?」
その言葉に嬉しくなって、俺は寿さんの荷物まで急いでまとめて持ち、腕を取って歩き出す。
寒風がふいているのに、寿さんは耳まで真っ赤になって服をパタパタしている。
人目もはばからずキスしたい衝動にかられて、寿さんの方を見ないように歩く。
真っ赤な顔なのは寿さんだけじゃ無いんだぜ…
冷たい風が心地よく俺の火照った顔を冷やしてくれるのを感じながら、寿さんの家へと向かう。
腕を離してそっと寿さんの手に触れれば、ぎゅっと握り返してくれた。
***
2021.12.5.
Happy Birthday to 不整脈 a.k.a.ふるぼっきたろうちゃん a.k.a.373-sama
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