confession【赤暮】
「赤木先輩は、ルームシェアしてるって本当ですか?」
どこで聞いてきたのか、飲み会のが盛り上がってきたところで後輩に聞かれた。
木暮と一緒に住み始めて、もう5年ほどになる。
ルームシェアじゃなくて同棲だと言いたいが、そう言うのがはばかられるのは、俺たちが男同士だからというのはもちろん、恋人の存在を口にするのが気恥ずかしいからでもある。
大っぴらに恋人同士だと言えないもやもやした気持ちを抱えてはいるけれど、木暮と別々に暮らすという日々はこれっぽっちも想像していない。
木暮とは中学で出会って、ずっと一緒に夢を追いかけてきた。
鈍い俺は大学で進路が別々になってやっと、木暮に抱いている感情が友情ではなく愛情だと気が付いた。
紆余曲折あって、俺が木暮に気持ちを伝えた時は、「やっと気付いたのか…」なんていつもの柔らかい表情で笑ってくれた。
恋人同士になって、社会人になってすぐ、一緒に暮らし始めた。
もちろん、ずっと…一生を添い遂げる覚悟はできている。
そんなことを考えていたから、少し返答をするのに間が空いてしまった。
「…まあな。中学からの同級生と一緒に住んでるが…」
無難な返事でやり過ごそうとしたけれど、酒の入った詮索好きな後輩は、さらに突っ込んで聞いてきた。
「お互いに彼女とか出来た時はどうしてたんですかぁ?」
「関係ないだろう…」
「知りたいんです。だって、こんなにしっかり者で頼りになる赤木先輩に彼女がいないなんてオカシイじゃないですか?」
「あいにく、モテないんでな…」
色恋沙汰の話は、滅法苦手だ。
眉間にしわを寄せて、これ以上この話はするなというような雰囲気を作ってみるけれど、酔っている人間には伝わらないようだ。
「私、赤木先輩のお嫁さんにりっこーほしたいです!」
なんて、手を大きく上げれば、周りから拍手が沸き起こるほど盛り上がって、小さくため息をついた。
「飲みすぎだ!」
後輩が持っていたジョッキを取り上げて、テーブルの遠くに置いた。
「そういうことは、気軽に男に言うことじゃないだろ?結婚のことは、新婚さんに聞いたらどうだ?」
「はーい…」
後輩は今度は最近結婚したばかりの同僚にターゲットを移して、馴れ初めなんかを聞いて盛り上がり始めた。
こっそり携帯を見れば、木暮から【俺は家で飲んで待ってるよ】なんてメッセージが入っている。
公務員の木暮は、俺より早く帰宅することが多く、いつも飯を作って俺を待っていてくれる。
宴会の味の濃いつまみじゃなく、木暮の作る上手い飯が食いたい…なんて考えれば、毎日顔を会わせているのに、会いたくてたまらなくなってしまう。
やっと終わった宴会の二次会の誘いを何とか断って、一人帰路に就こうとすると、先ほどの後輩も着いてくる。
「…帰るのか?」
「赤木先輩が行かないなら、つまらないので…」
「そうか…」
手短に返して帰ろうとするが、
「先輩、どうしてそんなに帰りを急ぐんですか?」
「急いでいるつもりはないが…」
「嬉しそうに見えますよ。一緒に住んでる幼馴染って人が大事なんですか?」
鋭い質問に俺は答えに詰まる。
会社の連中に俺に男の恋人がいるというのを知られれば面倒なことになるかもしれない…けれど、たまにははっきり言いたい時もある。
「大切な幼馴染…いや、パートナーだ」
「それって…」
「想像に任せる。じゃあ、気を付けて帰るんだぞ!」
「赤木先輩って…結構ずるいんですね…」
自嘲気味に笑った後輩に軽く手をあげて、俺は駅へと向かった。
帰ったら、真っ先に大切な恋人を抱きしめたい。
愛情表現が苦手な俺が、そんなことをしたら、きっと木暮は驚くだろう。
そして、会社の後輩に大切なパートナーがいるんだって言ったことを伝えたら、なんて言うだろう?
「俺は嬉しいよ」と、穏やかに笑ってくれるだろうな…なんて考えれば、自然と口角が上がる。
いつもと変わらない駅から家に続く道を照らす月がいつもより綺麗に見えた。
***
2021.11.15.
chococo
どこで聞いてきたのか、飲み会のが盛り上がってきたところで後輩に聞かれた。
木暮と一緒に住み始めて、もう5年ほどになる。
ルームシェアじゃなくて同棲だと言いたいが、そう言うのがはばかられるのは、俺たちが男同士だからというのはもちろん、恋人の存在を口にするのが気恥ずかしいからでもある。
大っぴらに恋人同士だと言えないもやもやした気持ちを抱えてはいるけれど、木暮と別々に暮らすという日々はこれっぽっちも想像していない。
木暮とは中学で出会って、ずっと一緒に夢を追いかけてきた。
鈍い俺は大学で進路が別々になってやっと、木暮に抱いている感情が友情ではなく愛情だと気が付いた。
紆余曲折あって、俺が木暮に気持ちを伝えた時は、「やっと気付いたのか…」なんていつもの柔らかい表情で笑ってくれた。
恋人同士になって、社会人になってすぐ、一緒に暮らし始めた。
もちろん、ずっと…一生を添い遂げる覚悟はできている。
そんなことを考えていたから、少し返答をするのに間が空いてしまった。
「…まあな。中学からの同級生と一緒に住んでるが…」
無難な返事でやり過ごそうとしたけれど、酒の入った詮索好きな後輩は、さらに突っ込んで聞いてきた。
「お互いに彼女とか出来た時はどうしてたんですかぁ?」
「関係ないだろう…」
「知りたいんです。だって、こんなにしっかり者で頼りになる赤木先輩に彼女がいないなんてオカシイじゃないですか?」
「あいにく、モテないんでな…」
色恋沙汰の話は、滅法苦手だ。
眉間にしわを寄せて、これ以上この話はするなというような雰囲気を作ってみるけれど、酔っている人間には伝わらないようだ。
「私、赤木先輩のお嫁さんにりっこーほしたいです!」
なんて、手を大きく上げれば、周りから拍手が沸き起こるほど盛り上がって、小さくため息をついた。
「飲みすぎだ!」
後輩が持っていたジョッキを取り上げて、テーブルの遠くに置いた。
「そういうことは、気軽に男に言うことじゃないだろ?結婚のことは、新婚さんに聞いたらどうだ?」
「はーい…」
後輩は今度は最近結婚したばかりの同僚にターゲットを移して、馴れ初めなんかを聞いて盛り上がり始めた。
こっそり携帯を見れば、木暮から【俺は家で飲んで待ってるよ】なんてメッセージが入っている。
公務員の木暮は、俺より早く帰宅することが多く、いつも飯を作って俺を待っていてくれる。
宴会の味の濃いつまみじゃなく、木暮の作る上手い飯が食いたい…なんて考えれば、毎日顔を会わせているのに、会いたくてたまらなくなってしまう。
やっと終わった宴会の二次会の誘いを何とか断って、一人帰路に就こうとすると、先ほどの後輩も着いてくる。
「…帰るのか?」
「赤木先輩が行かないなら、つまらないので…」
「そうか…」
手短に返して帰ろうとするが、
「先輩、どうしてそんなに帰りを急ぐんですか?」
「急いでいるつもりはないが…」
「嬉しそうに見えますよ。一緒に住んでる幼馴染って人が大事なんですか?」
鋭い質問に俺は答えに詰まる。
会社の連中に俺に男の恋人がいるというのを知られれば面倒なことになるかもしれない…けれど、たまにははっきり言いたい時もある。
「大切な幼馴染…いや、パートナーだ」
「それって…」
「想像に任せる。じゃあ、気を付けて帰るんだぞ!」
「赤木先輩って…結構ずるいんですね…」
自嘲気味に笑った後輩に軽く手をあげて、俺は駅へと向かった。
帰ったら、真っ先に大切な恋人を抱きしめたい。
愛情表現が苦手な俺が、そんなことをしたら、きっと木暮は驚くだろう。
そして、会社の後輩に大切なパートナーがいるんだって言ったことを伝えたら、なんて言うだろう?
「俺は嬉しいよ」と、穏やかに笑ってくれるだろうな…なんて考えれば、自然と口角が上がる。
いつもと変わらない駅から家に続く道を照らす月がいつもより綺麗に見えた。
***
2021.11.15.
chococo
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