愛されるよりも愛したい
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「仔犬ども、来週に一年生だけの魔法薬学の臨時テストを行う。範囲は教科書の180頁までだ。」
午前の授業の最後、クルーウェルが生徒たちにそう告げて昼休みを迎えた。
直後の教室内はどよめき、狼狽する者ばかりだ。
有栖も目を丸くして、抱えるテキストに目をやった。
「ふなぁ~~~!!テストだなんて聞いてないんだゾ~~!」
「テストまでは4日あるんだから、きっとちゃんと勉強すれば大丈夫だよ、グリム。」
大食堂で昼食を取りながら、有栖、グリム、エース、デュースの4人が来週のテストについて
それぞれの心境を吐露した。
「ったくよ~~~クルーウェル先生も鬼だぜ。せめて1週間は欲しいよなぁ~。」
「この教科書の180頁までだろう?…覚えることがたくさんで憂鬱になるな……」
4名の大きなため息と、どんよりとした空気がテーブルを覆う。
もちろんそれぞれ授業をサボっていたわけではない。
現に、アズールのまとめたノートをもとに期末テスト勉強を行ったときは
平均点が恐ろしく上がった経験がグリム・エース・デュースにはある。
いろいろ問題はあったが、その経験自体は確かなのだ。
「今回もアズール先輩に頼ろっかなぁ~~~」
半ば自暴自棄なエースが口元に昼食のミートソースをつけたまま
腕を組んでため息をついた。
すると大きな影がそのテーブルにやってきた。
大きな尻尾と大きな身体。そのとがった耳をぴくぴくとさせて。
「懲りない奴だな。またイソギンチャクを付けられたいのか?」
「ジャック!よかったら一緒に食べない?」
「お、おう……」
有栖は自分の隣の席をトントンと軽く叩き、昼食を抱えるジャックをそちらへ促す。
「第一、ちゃんと毎日復習してりゃテストぐらい余裕だろ。」
「ハイハイ、優等生ジャックくんとオレ達はそりゃあ違いますよ。」
「あ。エース、お前いま俺のこと入れたろ?一緒にするな。」
「にゃっはっは!仲良しなんだゾ、オマエら!」
「いや、さっき言った”オレ達”ってのはデュースはもちろん、グリムも入ってるぞ。」
「ふな”!?」
またか、とあきれた表情でエーデュース&グリムに目をやる有栖。
ジャックは彼らを見守るように見せて、ちらっと有栖へと視線をやった。
互いの肩が触れ合うかどうかの距離に彼女が居る。
つるむのが好きじゃない、とそう言っていたジャックも気づけばこのお馴染みのメンバーの仲間入りを果たしていた。
それもこれも、有栖の存在があったからだ。
ほっておけない、彼女の存在。
「俺が守ってやらないと」と、そう思わせる有栖の存在。
ジャックはサバナクローの一件から、気づけば有栖のことを考える時間が増えていった。
有栖が困っているなら助けてやりたい。
オクタヴィネルの事件からは、その想いがどんどん強くなっていった。
これが「恋慕」であるという自覚をするまでは多少時間がかかった。
でも、それを伝えるかどうかジャックのなかでも葛藤があった。
異世界からやってきた、有栖。
もし、彼女の世界に、彼女の想い人が既に居たとしたら?
怖くて、聞けるはずがない。
この気持ちは、自身の中に閉じ込めておこうと誓ったのは最近のこと。
今はただ、有栖の傍に居れるだけで幸せだった。
ふさっと揺れるジャックの大きな尻尾が有栖に触れた。
「ジャック、なにか楽しいことでも考えてるの?」
「あ、いや……別に……。なんでもねぇよ。」
「よっしゃ!んじゃとりあえず放課後、オンボロ寮でみんなで勉強会しよ~ぜ♪」
ジャックが彼女のことを考えている間に、どうやらエース・デュース・グリム・有栖の間で話がまとまっていたようで、
来週のテスト対策として皆でオンボロ寮の談話室で勉強会をしようということになった。
「それじゃ俺は、その前に購買部で買い出し行って飲み物とかお菓子買ってから向かう。」
本当に勉強会なのだろうかと疑うほど、エーデュースのコンビはなぜか楽しそうだった。
あれほど勉強嫌いな二人が、不自然なほどに。
盛り上がる二人を尻目に、有栖はあははと乾いた笑いを浮かべた。
「ジャックは……どうする?勉強するまでもないのだろうけど……」
「…俺も行く。」
「ありがとう!ジャックに教わりたいこと、たくさんあったんだ!」
ぱぁっと表情を明るくする有栖。
その笑顔に身体が熱くなるのを感じたジャックは、気恥ずかしく自身の頭をポリポリとかいた。
「か、勘違いするな。お前らだけだとどうせすぐに脱線して、勉強会にならないだろ…!」
それでは放課後にオンボロ寮で ―
そう互いに約束し、各々午後の授業へと繰り出した。
--放課後
日も暮れ、闇が支配するナイトレイブンカレッジ校内。
オンボロ寮の談話室では低めのテーブルと、それを”Lの字”でテーブルの半分を囲む様に来客用の大きなソファがあった。
ゴーストたちに他にテーブルはないかと聞いてみたが、脚が1本無いものや壊れたものが出てくるだけ。
今回の勉強会はこの低めのテーブルと来客用のソファで行うことになった。
懸命な有栖とグリムの掃除により、かつての埃っぽさも消えていた。
ジャックとエースが到着し、そのテーブルに筆記具や参考書・教科書を広げていると
購買部でやたら買い込んできたデュースがやってきた。
「夜は長いからな!たくさん買ってきた!」
「お~~!ミステリードリンク!!デュースにしては気が利くじゃん♪オレ、今超絶にコレ飲みたかったんだよね~!」
「おおお~!うまそうなんだゾ~~!オレ様の分もあるのか!?」
「人数分買ってきたぞ!」
わいわいと賑わう3名をよそに、眉間にしわを寄せながらジャックがソファへと腰掛けた。
「お前ら、本当にこれから勉強会するんだよな?」
「あったり前じゃ~~ん♪ ん~~~やっぱりうまい~~~!」
「デュース!ほかにも袋があるってことは、まだ何かあるのか?」
「待て待てグリム!袋をあさるな!焦らなくてもお菓子もたくさん買ってきた。ツナ缶もあるぞ!」
「ふなぁ~~~!やったぁ~なんだゾ~~!」
勉強会をするはずのテーブルに広げられたのは、購買部で販売されている『ミステリードリンク』と
さまざまなお菓子類。
まるでこれからパーティーでも始まるかのようだった。
「なぁ……本当に、勉強会……なんだよな?」
「私もなんだか段々不安になってきたよ。」
-15分後-
意外にも、大人しく勉強を始める3名。
ジャックは言わずもがなの様子。
席の並びは、Lの字の短辺から始まって、デュース・エース・グリム・有栖・ジャックの順。
ちょうどデュースとエースの間にテーブルの角が来る形だった。
ジャックが一番端っこに座っているが、体重がある分ソファの沈み込む量も多く、
有栖は少しジャックへと傾く形になり、ジャックはそわそわが止まらない。
存在を感じざるを得ない匂いも、彼にとっては”悪い刺激”だった。
理性を保てるかが分からず、ジャックは有栖と距離を取ろうと何度も腰をずらした。
だがそのたびに『ここ分からないから、教えて』と、甘美な匂いと共に近寄ってくる。
そしてだんだんとソファの末端に追いやられると
「落っこちちゃうから、もっとこっち寄りなよ~。」
と有栖の声で戻される。
頭がくらくらし、勉強に身が入らない。
ジャックは自分の頭をぶんぶんと振り、頬をぺしっと叩いて自我を取り戻すようにその時間をやり過ごした。
-1時間後-
「えっとー、この薬草の特徴はー……ふぁああ~…ねみっ…」
エースがあくびをし始めた。
それにつられて、デュースとグリムもあくびを放つ。
ジャックもジャックで別の事情で落ち着かない様子だが、有栖は勉強に集中していた。
そんな彼女の姿を見て、ジャックはふっと笑みを浮かべた。
-2時間後-
「おい。時々休憩を挟まないと、勉強の効率が悪くなるぞ。」
そのジャックの一声に、エース・デュース・グリムの3名が明るい表情を浮かべながら
デュースが買ってきてくれた袋をあさり出した。
有栖はソファーに座ったまま両腕を天井へと伸ばし、同じ姿勢だった自身をいたわるように肩を回した。
-3時間後-
休憩も終え、皆で再びペンを取る。
気づけば勉強開始から3時間が経過し、すっかり夜も深まっていた。
オンボロ寮の外ではカラスが不気味に鳴いていた。
ペラっと教科書をめくる音がオンボロ寮の談話室に響く。
ペラっ…
ペラペラっ…
「…っだぁー!!くそ!このままだと寝る!」
突然エースが叫び出し、勢いよくソファを立ち上がった。
ガタっとテーブルが揺れ、すっかり空になってしまっていたミステリードリンクのカップが一緒に倒れた。
「こんなこともあろうと……オレ、こんなもの持ってきたんだ~!!」
エースが自分のカバンに手を入れたかと思うと、ディスクを掲げて皆の前に立っていた。
そしてどこからともなく、突然目の前にテレビがセットされていた。
「「「「それは……?」」」」
「映画~~!みんなで見ようぜ~~~!!」
言わんこっちゃないという様子で頭を抱えるジャック。
はぁ、とひとつため息をついている間に、すでに映画の鑑賞会が始まっていた。
「今日部活で、フロイド先輩に『激しいアクション映画で何か面白いの知りませんか?』聞いたらこれ貸してくれたんだよね~♪」
「おお~!前に言ってたやつか!」
「そそっ!『とにかく激しいので!』って言ったら、『男の子はみんな好きなやつだよぉ~』ってフロイド先輩も言ってた!」
フロイドの声真似をしながら、エースは嬉しそうに映画のディスクをデッキに挿入すると
準備良く部屋の明かりを暗くしお菓子とジュースを改めて自分の近くへとセッティングした。
「もう、みんな!勉強よりも映画見ることしか考えてないでしょ!」
「いいじゃんいいじゃん~~~見たいやつが見れば♪ ジャックと有栖も見たければ一緒に見てもいいんだぜ?」
「俺は遠慮しておく。赤点取っても知らねぇぞ……」
どうやら、エースとデュースは以前よりオンボロ寮でみんなで映画を見ようと企んでいたようだった。
これで購買部への買い出しの量や役割分担に納得がいった。
映画が始まって30分ぐらいが経過した頃か。
勉強に集中していたからよく分からないが、時折『ドーン』という音や『バーン』という大きな激しい音が聞こえた。
映画の中の音だ。
どうやら、『激しいアクション映画』というのは本当だったらしい。
あのフロイドから借りた映画だと聞いて一体どんな映画なのかと身が凍ったが、一般的なアクション映画だった。
ぱっとデュースに目をやると、興奮した様子で目をキラキラさせて映画に入り込んでいた。
そのシーンは大きな機械が魔法によって動くシーンだったが、そこにデュースの心をくすぐるなにかがあったのかもしれない。
暗い部屋で、映画の明かりにより時折チカっと光りが広がる。
正直、勉強にならない。
するとジャックがマジカルペンで小さな光の魔法を唱えてくれた。
ポっと二人の手元が照らされ、勉強には事欠かない光が小さく広がった。
「ありがとう、ジャック。すごく見やすい。」
映画の音が部屋に響き、互いの声もまともに聞こえないなか、
有栖はジャックの耳元で囁くように礼意を示した。
「か、勘違いするな!ただ、この暗さで勉強しても目が悪くなると思っただけだ……!」
飛び跳ねるようにジャックが有栖との距離を取り、今日何度目かのソファーの端へと後ずさりした。
時折ピカピカとする画面の光に、互いの表情を確かめ合いながら。
~中編へつづく~
午前の授業の最後、クルーウェルが生徒たちにそう告げて昼休みを迎えた。
直後の教室内はどよめき、狼狽する者ばかりだ。
有栖も目を丸くして、抱えるテキストに目をやった。
「ふなぁ~~~!!テストだなんて聞いてないんだゾ~~!」
「テストまでは4日あるんだから、きっとちゃんと勉強すれば大丈夫だよ、グリム。」
大食堂で昼食を取りながら、有栖、グリム、エース、デュースの4人が来週のテストについて
それぞれの心境を吐露した。
「ったくよ~~~クルーウェル先生も鬼だぜ。せめて1週間は欲しいよなぁ~。」
「この教科書の180頁までだろう?…覚えることがたくさんで憂鬱になるな……」
4名の大きなため息と、どんよりとした空気がテーブルを覆う。
もちろんそれぞれ授業をサボっていたわけではない。
現に、アズールのまとめたノートをもとに期末テスト勉強を行ったときは
平均点が恐ろしく上がった経験がグリム・エース・デュースにはある。
いろいろ問題はあったが、その経験自体は確かなのだ。
「今回もアズール先輩に頼ろっかなぁ~~~」
半ば自暴自棄なエースが口元に昼食のミートソースをつけたまま
腕を組んでため息をついた。
すると大きな影がそのテーブルにやってきた。
大きな尻尾と大きな身体。そのとがった耳をぴくぴくとさせて。
「懲りない奴だな。またイソギンチャクを付けられたいのか?」
「ジャック!よかったら一緒に食べない?」
「お、おう……」
有栖は自分の隣の席をトントンと軽く叩き、昼食を抱えるジャックをそちらへ促す。
「第一、ちゃんと毎日復習してりゃテストぐらい余裕だろ。」
「ハイハイ、優等生ジャックくんとオレ達はそりゃあ違いますよ。」
「あ。エース、お前いま俺のこと入れたろ?一緒にするな。」
「にゃっはっは!仲良しなんだゾ、オマエら!」
「いや、さっき言った”オレ達”ってのはデュースはもちろん、グリムも入ってるぞ。」
「ふな”!?」
またか、とあきれた表情でエーデュース&グリムに目をやる有栖。
ジャックは彼らを見守るように見せて、ちらっと有栖へと視線をやった。
互いの肩が触れ合うかどうかの距離に彼女が居る。
つるむのが好きじゃない、とそう言っていたジャックも気づけばこのお馴染みのメンバーの仲間入りを果たしていた。
それもこれも、有栖の存在があったからだ。
ほっておけない、彼女の存在。
「俺が守ってやらないと」と、そう思わせる有栖の存在。
ジャックはサバナクローの一件から、気づけば有栖のことを考える時間が増えていった。
有栖が困っているなら助けてやりたい。
オクタヴィネルの事件からは、その想いがどんどん強くなっていった。
これが「恋慕」であるという自覚をするまでは多少時間がかかった。
でも、それを伝えるかどうかジャックのなかでも葛藤があった。
異世界からやってきた、有栖。
もし、彼女の世界に、彼女の想い人が既に居たとしたら?
怖くて、聞けるはずがない。
この気持ちは、自身の中に閉じ込めておこうと誓ったのは最近のこと。
今はただ、有栖の傍に居れるだけで幸せだった。
ふさっと揺れるジャックの大きな尻尾が有栖に触れた。
「ジャック、なにか楽しいことでも考えてるの?」
「あ、いや……別に……。なんでもねぇよ。」
「よっしゃ!んじゃとりあえず放課後、オンボロ寮でみんなで勉強会しよ~ぜ♪」
ジャックが彼女のことを考えている間に、どうやらエース・デュース・グリム・有栖の間で話がまとまっていたようで、
来週のテスト対策として皆でオンボロ寮の談話室で勉強会をしようということになった。
「それじゃ俺は、その前に購買部で買い出し行って飲み物とかお菓子買ってから向かう。」
本当に勉強会なのだろうかと疑うほど、エーデュースのコンビはなぜか楽しそうだった。
あれほど勉強嫌いな二人が、不自然なほどに。
盛り上がる二人を尻目に、有栖はあははと乾いた笑いを浮かべた。
「ジャックは……どうする?勉強するまでもないのだろうけど……」
「…俺も行く。」
「ありがとう!ジャックに教わりたいこと、たくさんあったんだ!」
ぱぁっと表情を明るくする有栖。
その笑顔に身体が熱くなるのを感じたジャックは、気恥ずかしく自身の頭をポリポリとかいた。
「か、勘違いするな。お前らだけだとどうせすぐに脱線して、勉強会にならないだろ…!」
それでは放課後にオンボロ寮で ―
そう互いに約束し、各々午後の授業へと繰り出した。
--放課後
日も暮れ、闇が支配するナイトレイブンカレッジ校内。
オンボロ寮の談話室では低めのテーブルと、それを”Lの字”でテーブルの半分を囲む様に来客用の大きなソファがあった。
ゴーストたちに他にテーブルはないかと聞いてみたが、脚が1本無いものや壊れたものが出てくるだけ。
今回の勉強会はこの低めのテーブルと来客用のソファで行うことになった。
懸命な有栖とグリムの掃除により、かつての埃っぽさも消えていた。
ジャックとエースが到着し、そのテーブルに筆記具や参考書・教科書を広げていると
購買部でやたら買い込んできたデュースがやってきた。
「夜は長いからな!たくさん買ってきた!」
「お~~!ミステリードリンク!!デュースにしては気が利くじゃん♪オレ、今超絶にコレ飲みたかったんだよね~!」
「おおお~!うまそうなんだゾ~~!オレ様の分もあるのか!?」
「人数分買ってきたぞ!」
わいわいと賑わう3名をよそに、眉間にしわを寄せながらジャックがソファへと腰掛けた。
「お前ら、本当にこれから勉強会するんだよな?」
「あったり前じゃ~~ん♪ ん~~~やっぱりうまい~~~!」
「デュース!ほかにも袋があるってことは、まだ何かあるのか?」
「待て待てグリム!袋をあさるな!焦らなくてもお菓子もたくさん買ってきた。ツナ缶もあるぞ!」
「ふなぁ~~~!やったぁ~なんだゾ~~!」
勉強会をするはずのテーブルに広げられたのは、購買部で販売されている『ミステリードリンク』と
さまざまなお菓子類。
まるでこれからパーティーでも始まるかのようだった。
「なぁ……本当に、勉強会……なんだよな?」
「私もなんだか段々不安になってきたよ。」
-15分後-
意外にも、大人しく勉強を始める3名。
ジャックは言わずもがなの様子。
席の並びは、Lの字の短辺から始まって、デュース・エース・グリム・有栖・ジャックの順。
ちょうどデュースとエースの間にテーブルの角が来る形だった。
ジャックが一番端っこに座っているが、体重がある分ソファの沈み込む量も多く、
有栖は少しジャックへと傾く形になり、ジャックはそわそわが止まらない。
存在を感じざるを得ない匂いも、彼にとっては”悪い刺激”だった。
理性を保てるかが分からず、ジャックは有栖と距離を取ろうと何度も腰をずらした。
だがそのたびに『ここ分からないから、教えて』と、甘美な匂いと共に近寄ってくる。
そしてだんだんとソファの末端に追いやられると
「落っこちちゃうから、もっとこっち寄りなよ~。」
と有栖の声で戻される。
頭がくらくらし、勉強に身が入らない。
ジャックは自分の頭をぶんぶんと振り、頬をぺしっと叩いて自我を取り戻すようにその時間をやり過ごした。
-1時間後-
「えっとー、この薬草の特徴はー……ふぁああ~…ねみっ…」
エースがあくびをし始めた。
それにつられて、デュースとグリムもあくびを放つ。
ジャックもジャックで別の事情で落ち着かない様子だが、有栖は勉強に集中していた。
そんな彼女の姿を見て、ジャックはふっと笑みを浮かべた。
-2時間後-
「おい。時々休憩を挟まないと、勉強の効率が悪くなるぞ。」
そのジャックの一声に、エース・デュース・グリムの3名が明るい表情を浮かべながら
デュースが買ってきてくれた袋をあさり出した。
有栖はソファーに座ったまま両腕を天井へと伸ばし、同じ姿勢だった自身をいたわるように肩を回した。
-3時間後-
休憩も終え、皆で再びペンを取る。
気づけば勉強開始から3時間が経過し、すっかり夜も深まっていた。
オンボロ寮の外ではカラスが不気味に鳴いていた。
ペラっと教科書をめくる音がオンボロ寮の談話室に響く。
ペラっ…
ペラペラっ…
「…っだぁー!!くそ!このままだと寝る!」
突然エースが叫び出し、勢いよくソファを立ち上がった。
ガタっとテーブルが揺れ、すっかり空になってしまっていたミステリードリンクのカップが一緒に倒れた。
「こんなこともあろうと……オレ、こんなもの持ってきたんだ~!!」
エースが自分のカバンに手を入れたかと思うと、ディスクを掲げて皆の前に立っていた。
そしてどこからともなく、突然目の前にテレビがセットされていた。
「「「「それは……?」」」」
「映画~~!みんなで見ようぜ~~~!!」
言わんこっちゃないという様子で頭を抱えるジャック。
はぁ、とひとつため息をついている間に、すでに映画の鑑賞会が始まっていた。
「今日部活で、フロイド先輩に『激しいアクション映画で何か面白いの知りませんか?』聞いたらこれ貸してくれたんだよね~♪」
「おお~!前に言ってたやつか!」
「そそっ!『とにかく激しいので!』って言ったら、『男の子はみんな好きなやつだよぉ~』ってフロイド先輩も言ってた!」
フロイドの声真似をしながら、エースは嬉しそうに映画のディスクをデッキに挿入すると
準備良く部屋の明かりを暗くしお菓子とジュースを改めて自分の近くへとセッティングした。
「もう、みんな!勉強よりも映画見ることしか考えてないでしょ!」
「いいじゃんいいじゃん~~~見たいやつが見れば♪ ジャックと有栖も見たければ一緒に見てもいいんだぜ?」
「俺は遠慮しておく。赤点取っても知らねぇぞ……」
どうやら、エースとデュースは以前よりオンボロ寮でみんなで映画を見ようと企んでいたようだった。
これで購買部への買い出しの量や役割分担に納得がいった。
映画が始まって30分ぐらいが経過した頃か。
勉強に集中していたからよく分からないが、時折『ドーン』という音や『バーン』という大きな激しい音が聞こえた。
映画の中の音だ。
どうやら、『激しいアクション映画』というのは本当だったらしい。
あのフロイドから借りた映画だと聞いて一体どんな映画なのかと身が凍ったが、一般的なアクション映画だった。
ぱっとデュースに目をやると、興奮した様子で目をキラキラさせて映画に入り込んでいた。
そのシーンは大きな機械が魔法によって動くシーンだったが、そこにデュースの心をくすぐるなにかがあったのかもしれない。
暗い部屋で、映画の明かりにより時折チカっと光りが広がる。
正直、勉強にならない。
するとジャックがマジカルペンで小さな光の魔法を唱えてくれた。
ポっと二人の手元が照らされ、勉強には事欠かない光が小さく広がった。
「ありがとう、ジャック。すごく見やすい。」
映画の音が部屋に響き、互いの声もまともに聞こえないなか、
有栖はジャックの耳元で囁くように礼意を示した。
「か、勘違いするな!ただ、この暗さで勉強しても目が悪くなると思っただけだ……!」
飛び跳ねるようにジャックが有栖との距離を取り、今日何度目かのソファーの端へと後ずさりした。
時折ピカピカとする画面の光に、互いの表情を確かめ合いながら。
~中編へつづく~