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『HAPPY BIRTHDAY』の文字の書かれた垂れ幕のかかるサバナクロー寮の談話室。
いつもと様子が異なるのはそれだけではない。
軽く視界を移してやれば、色とりどりの果実や電飾が必ず目に入るほど。
そう、今日はジャックの誕生日。
誕生日会の会場となったサバナクロー寮談話室では、いつも一触即発な寮生たちも美味しそうな料理やデザートを囲みワイワイと賑やかに過ごしていた。
そしてこの日の主役であるジャックは、サバナクローの色とマッチした『Birthday Boy』のたすきをかけ周囲の生徒たちから祝福の言葉を掛けられっぱなしの様子だった。
(わあ、すごく入りづらい雰囲気……)
ジャックの誕生日を祝おうと、有栖もサバナクロー寮談話室へ足を運んだが、とにかく血の気の多いサバナクロー寮生たちの集まりに有栖のいつもの度胸はどこへやら、談話室の出入り口で2、3歩後ずさりをしてしまった。
サバナクローの寮生たちはみな背が高く、背の小さい有栖からすれば高い壁がその行先を妨げているかのようだった。
「いくら背が高いジャックでも、こんなにサバナクロー寮生が集まったらさすがのオレ様もすぐには見つけられないんだゾ」
有栖の肩に乗り、その小さな二本足で背伸びするかのように部屋の奥を見渡すグリム。
しかしいくらキョロキョロしようが、見えるのは他の寮生の背中ぐらいだった。
有栖は渡そうとしていたプレゼントを、制服のブレザーの内ポケットに隠すように仕舞い込んだ。
「よう、草食動物。」
「お、レオナじゃねぇか。旨そうな匂いがしたから、オレ様も食いにきたんだゾ。」
ガヤガヤとした雰囲気が苦手なのか、あくびをしながら面倒そうに出入り口の柱に腕を置いて有栖とグリムを覗き込んだのはレオナだった。
「さっすがグリムくん!抜かりないっスね。お祝いのケーキだけじゃなくてレオナさんの差し入れのローストビーフもあるんスよ!
今日はお腹いっぱい食える~!あ!あとで少し保存容器に土産として貰ってっても問題ないッスよね?レオナさん!」
「ラギー!ずるいんだゾ!オレ様も土産のローストビーフ、欲しいんだゾ!」
「面倒くせぇな、勝手にしろ。」
「「やった~!」」
ラギーとグリムが仲良くローストビーフの置いてあるテーブルに向かっていった。
その様子を、一歩も動かずに有栖は遠くから見守るようにため息をついた。
複雑そうな表情を浮かべる有栖を見てすべてを察したレオナは、有栖のぎゅっと握りしめる拳にちらっと視線を向けた。
「草食動物がのこのこやって来る場所じゃねぇってのは前から言ってた通りだ。それがたとえ、祝い事でも、だ。」
レオナは有栖の頭にポンと軽く手を置くと、からかうように彼女の髪をくしゃっと握った。
「ちょっと、レオナ先輩……」
「まぁ湿気た顔すんな。いい女が台無しだぜ?」
「思ってもないくせに……」
「おおっとこいつは心外だ。俺はいつだって、お前のことをそう思ってるんだがな。」
いつもの、にやっとした余裕のある表情を浮かべるレオナ。
まるで心の中を見透かされているようで、居心地が悪い。
有栖は少しむきになり、レオナの手を振り払い歩幅を大きくして会場の奥へと歩いて行った。
誕生日会が開始されて1時間ぐらい経過しただろうか。
お腹をいっぱいにしたグリムが片付き始めたテーブルの上で気持ち良く寝てしまっているのが遠くから見える。
ラギーはその横で嬉しそうに残飯整理をしている。
生まれて初めてこんな大人数に誕生日を祝ってもらったジャック。
しかし、肝心な人から祝ってもらえてないという心の穴が埋まらずにジャックも時間があれば会場内を忙しなく見渡していた。
すると後ろから、自身のスーツの裾を引っ張られる感触があった。
急いで振り向くと、そこには待ちわびた顔があった。
「ジャック、お誕生日、おめでとう。」
有栖だ。
ジャックは顔が綻ぶのを必死に堪え、揺れる尻尾もスーツで抑え込んだ。
「お、おう。ありがとな。」
「たくさん人がいて、びっくりしちゃった……」
もじもじとする仕草が愛おしく、ジャックは有栖との距離を自然と縮める。
本当なら今すぐ抱きしめてやりたいがそれは流石に、と自身に制止を促す。
ジャックは周囲が盛り上がっている様子を確認すると、チラっと外に向かって右手の親指を立てた。
「……ちょっと外の空気吸ってくる……お前も来るか?」
「う、うん。」
一体何の動物の鳴き声なのだろうか、時折何かの声が聞こえてくる。
サバナクロー寮の屋外は暗く、静寂の中に脈動を感じ取れる。
明るい場所からいきなり暗い場所に出たせいで先がよく見えない有栖は
ジャックの背中を追いかけるので精いっぱいだった。
勿論、路面の様子など窺い知ることはできない。
有栖は何かに足を引っかけて転びそうになるが、ジャックの腕に優しく支えられ事なきを得た。
「あぶねぇぞ。」
「ありがとう……ジャック。」
「俺たち獣人属は夜目が利くからな。平気か?」
いつもは『心配してねぇ』なんて口を利くジャックも、今は何故かとても優しかった。
暗い場所でジャックの表情がよく見えない。
誕生日会の喧騒がどことなく聞こえる場所で、ジャックは足を止めた。
見上げれば、星がよく見える場所だった。
「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ。座るか?」
ジャックが手を出して座らせてくれた場所は、椅子のように腰を掛けられる岩が転がっていた。
スペースにしてちょうど2~3人が座れる程だ。
「隣、いいか?」
「う、うん。」
ジャックが優しい声色で有栖の隣に腰掛ける。
しばらく続く沈黙。
ジャックは、会話はなくとも一緒に居られるだけでも嬉しかった。
有栖はブレザーの胸元からジャックへのプレゼントを取り出し、彼に手渡した。
「おめでとう、ジャック。
本当はね、一番におめでとう言いたかったんだけど、
昨日の夜、サバナクローに行くのがちょっと怖くって……
それに、ジャックはトレーニングもあるから夜10時には寝てるって聞いてたし……」
「まさか、誕生日、覚えててくれたのか?」
「うん、もちろんだよ。昨日の夜、日付が変わる瞬間に本当は……」
言いたかったんだけど、と言葉を続けようとして、何かにそれを遮られた。
温かく、力強い腕。
ジャックは居てもたってもいられず、有栖を無意識に抱きしめていた。
「……ジャック…!?」
「!?」
悪い、と小さくつぶやいてばつの悪そうな顔を浮かべ、ジャックは慌てて彼女を解放してやった。
「あーその、あれだ……あ、ありがとな」
視線をまっすぐ彼女に向けることができず、照れくさそうに謝意を伝える。
この暗闇で有栖から自身の顔が見えないことに安堵するほど、ジャックの頬は紅潮していた。
「これ、開けていいか?」
プレゼントを片手に、尻尾を揺らしながらその包装をすでに取ろうとしているジャック。
有栖のいいよ、という声にすかさず、そして丁寧に封を開けた。
「これ……」
「うん。ミサンガ。ごめんね、お金がないから立派なもの買えなかったんだ。」
「もしかして、手作り、なのか?」
ジャックは箱の中のミサンガを手に取り、星空にかざすように上へ向けた。
それを見つめる彼の眼は、少年が宝物を見つけたかのようにキラキラとしていた。
「まあ、あんまり得意じゃないけどね。想いは籠ってる~かなぁ~なんて……ね。」
赤、オレンジ、黄色、緑、黒の糸が用いられたそのミサンガは、何日か前から有栖が手作りしたものだった。
照れくさくて、顔を俯かせる有栖。
脚をぱたぱたとさせ、照れ隠しを試みる。
ジャックはそのミサンガを天にかざしたまま、それを見つめて動かない。
尻尾以外は。
「ジャックが陸上部で、怪我なくパワフルに、そして情熱的に走れますように。そして、どんどん上を目指していけますように。」
有栖は、ちょっと重たかったかなぁ?と口にする。
空笑いをする彼女の横で、ジャックは胸が熱くなるのを感じた。
そしてそのミサンガを自身の右足首に結んだ。
そして再度、今度はゆっくりと有栖を抱きしめた。
「すげぇ、嬉しい。」
「……ちょっと、ジャック……大げさだよ……!」
愛情表現というよりは1つのコミュニケーションのハグだと思っているのか、
有栖はジャックのその行動に今一つピンと来ていない様子だ。
「なあ、もしかして、伝わってないか?」
そう小さくつぶやいて、一度彼女と至近距離で見つめ合う形をとるジャック。
お互いの額を合わせ、鼻の先が触れたり触れなかったり。
甘くていい匂いがする、ジャックはそう思った。
暗くて見えなくても、ぬくもりがすぐ近くにあることだけは分かった。
ジャックの甘い息遣いが有栖の頬にかかる。
それだけで身体がピクっとなるのが鈍感な彼女にも自覚できた。
でもその感情の正体が分からず、もやもやした気持ちを抱いたまま、
しかし即座に迫られた状況判断に、有栖は今にも脳がショートしそうだった。
「え、え……!?」
「俺、お前のこと……」
微かに、自分の唇に優しくて温かい何かが触れた気がした。
それが何かを分かってはいけない気がして、暗闇に身を委ねた有栖。
ジャックは身体を強張らせる有栖が愛おしく、まるでガラス細工を扱うように彼女に触れた。
「お~い、子分!そろそろ帰るんだゾ。たらふく食べたし、レオナもすげぇ御馳走を土産に包んでくれたんだゾ!」
「「?!?!」」
さっきまで寝ていたはずのグリムが、すぐ後ろに立っていた。
まだ眠たそうな目をしていたが、両手に抱えきれないほどの"
「そ、そうだね!じゃあ、私、そろそろ帰る、ね……!」
有栖つむじ風のような勢いで、グリムと土産物を抱えてその場を去っていった。
「……クソッ、しくった……」
一人残されたジャックは、大きくため息をついて岩に深く腰を掛けた。
すると何かの気配を感じ、耳をピクっとさせる。
「レオナ先輩、ですか。いまのはタイミング絶妙でしたよ。」
その声に反応してか、ゆっくりと岩陰から人影が1つ。
ジャックの推測通り、その気配はレオナだった。
「なんのことだか分からねぇ。
分からねぇが、
俺は狙った獲物は逃したくねぇタチなんだ。」
「俺も、勝負に負けるつもり、ありませんから。」
「はっ。1年坊が随分と吠えてくれるぜ。」
互いに屈託のない笑みを浮かべ、ジャックとレオナはその場を後にした。
そしてラギーたちの居る会場へ戻ると、主役であるジャックを囲んで第二回戦と言わんばかりに宴が再開されるのであった。
有栖がジャックへの恋心と、レオナからの恋慕に気づくのは、もう少し先の話である。
〜Fin〜
【あとがき】
この世界にミサンガがあるか分かりませんが、ある前提で書かせていただきました。デュース君からタオル貰ってたってことで、彼からしたら実用的なもののほうが嬉しいのかな?
洋ナシのコンポートはおそらく世界に存在する多くのジャック推し監督生からプレゼントされているだろうと思い、あえてそれじゃないものを。
スポーツやってる人への高校生のプレゼントといったらミサンガ……少し古い考えでしょうか?(笑
ジャックとレオナで監督生を奪い合うっていう設定、個人的には大好きなんですが既にn番煎じ、ですかね…?
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