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「何か用、ですか?」


昼過ぎ、有栖とグリムは突然学園長室に呼び出された。
ついに元の世界に戻る方法が見つかったのか、あるいはいつものごとく大変に面倒な厄介ごとを押し付けられるのかの2択、いやむしろ後者のみを想定していたが、学園長ディア・クロウリーの口からは意外な言葉が出た。

「現在、陸上競技大会に向けて陸上部の生徒たちが練習に励んでいるのは知っているでしょう?1年生が二人も表彰されるほど、今年のナイトレイブンカレッジ陸上部の成績は上々なんです。」

仮面の下の表情が窺い知れるほど明るい声でクロウリーは両手を広げる。

「デュースとジャックですよね。この間の表彰式、私も同席していましたから。」

「そう、その二人は強化指定選手として我々も学園を上げて育成に力を入れるところだったんですが……」


コツ、コツ、と歩く音を床に響かせて意図的としか思えない悩ましい表情で学園長室の大きな机の前を右往左往するクロウリーの前でも、浮かび続ける絵画のグレート・セブンたちの表情はもちろん変わらない。何か言いたげにチラチラと有栖に視線をやるのは分かっていたが、あえて有栖が彼に問いかけないのは有栖の経験則によるものだった。

「結局、何が言いたいんだゾ。」

「……」

「今、陸上部は……


  ”深刻な”人手不足なんです……!!!」


出ましたと言わんばかりに話を聞いてやると、なんでも陸上部の選手に対してそれをマネージメントできる人間が不足しているというのだ。故に第一線で成績を残せない生徒たちが選手としてではなくマネージャー業を任されることも少なくなく、特にデュースとジャックは1年生であるばかりにその成績に嫉妬した上級生たちがマネージャー業を降りたいと申し出てきたようだ。

「え、デュースやジャックが頑張っているのに、先輩たちがそんなのって……」

「なんだ、すげぇダセェんだゾ。」

「そーーーーなんです!!だから困っているんです!デュース・スペード君とジャック・ハウル君はナイトレイブンカレッジを全世界にアピールできる大変有益な……いや、大変大切な生徒なんです!」


『いま、本音がチラっと出たんだゾ。』と小さくグリムは有栖に耳打ちすると、それに気づいてかクロウリーは小さく咳ばらいをすると、いつものように大きく開き直った様子で有栖に言づけた。

「デュース・スペード君とジャック・ハウル君のマネージャーを、お願いいたします!」


有栖は自身のの肩の上に乗るグリムと顔を見合わせると、眉を少し寄せるもいつもの頼まれごとよりはマシかと期間の条件だけ付けて引き受けることにした。


「わかりました!ただし、次の陸上競技大会まで!ですよ!」

「なんだゾ!」



-----

「というわけで、よろしく。」


放課後、陸上部の集まる運動場にたどり着くと、有栖はグリムを肩に乗せたまま準備運動中のデュースとジャックを見つけて近づいていった。その匂いでかいち早く気づいたジャックが耳をピクっとさせて驚きの表情を見せた。
有栖の手にはクリップボードに挟まれた記録を書き留める用紙と、それを綴るためのペン。そして脇には抱えるように、スポーツドリンクが入ったボトル2本を携えていた。服装は、マネージャー業とはいえあの二人について回るのだから制服のままではと、しっかりと動きやすい運動着を纏っていた。襟足の髪をまとめ、小さなポニーテールをつくり、その白いうなじを意図せずチラつかせる形になっていた。


「お前、なにやってるんだ……」

「なにって、マネージャー。」

ジャックは有栖とグリムにジト目を向ける。その頬は微かに紅くなっていた。デュースも有栖とグリムに気づいたのか、彼らに合流し柔軟運動を切り上げて自分の腰を土埃を払うように叩いた。

有栖じゃないか。これから陸上部のトレーニングが始まるところだ。こんなところに居たら危ないぞ?」

「だから、オレ様と子分がデュースとジャックの専属マネージャーになってやるんだゾ。」

「ええ!?有栖が!?」

「……だとよ。」


かくかくしかじかと、学園長からの事情をデュースとジャックに説明しはじめる。しかしデュースとジャックは下を向いたりそっぽを向いたり、ジャックに関しては尻尾を振ったりと終始落ち着かない様子で有栖の話に耳を傾けていた。

「僕としても、マネージャーが居てくれると、た、助かる……特に有栖なら大歓迎だ……」

「大会に向けて競技にだけ集中できるしな……俺らのこと良くしってる有栖なら、頼みやすい。」

「おいオマエら、オレ様も居るの忘れてるんだゾ。」


グリムが少々機嫌が悪そうにそう口にすると、有栖はまあまあとグリムをなだめるように頭をぽんぽんと優しく撫でた。

「じゃあ、しばらくの間だけど、よろしくね。」

「「お、おう」」


そんな様子を遠くから、高そうな装飾が施されたオペラグラスで見つめる視線がひとつ。その視線の主は、学園長のクロウリーだ。『作戦通りですね』と一言つぶやくと、鼻歌まじりにそのオペラグラスを下ろした。


-----
数日が経ち、デュース・ジャックの専属マネージャーとして配属されたことがそれとなく知れ渡ったのか、陸上部のトレーニング場所である運動場ではポツポツとギャラリーが増え始めていた。

暑い日が続き、有栖もグリムも木陰を活用するが、帽子などで対策をしながらデュースとジャックのトレーニングを見守った。あまりにも暑いときは半袖を捲し上げ、タンクトップのようにして過ごした。その美しい白く透き通った肌は、まるで童話に出てくる囚われの姫のようで、ギャラリーを魅了していた。それに気づいてデュースとジャックは気が気ではなく……

(なっ……あんな恰好して……不純な目で見られたらどうするんだ……!)

(クソ、あいつ目当てでギャラリーが増えてやがる……)

と、ちゃんと練習に集中しきれずにいた。


「ふなぁ……暑いんだゾ……。」

「あとで購買部でアイス買って帰ろうね。」

「ナイスアイデア、なんだゾ!」

記録を取りつつ、走り込みを続けるデュースとジャックに目をやる。
二人とも、眩しく見えた。そんな二人にスポーツドリンクを持って行ってやると、目を合わせてはくれないが『さんきゅ』と礼はしっかりと言ってくれる。



そしてまた数日経過した。
競技大会まで残すところ1週間ほどだ。
当日にピークを持ってこれるように生徒たちはメニューをこなしていく。


「デュースもジャックもこの調子でいけば勝てるんじゃない?」

いつものようにクリップボードを胸に抱え、トレーニング前の二人に声を掛ける有栖。そのクリップボードに抑え込まれる彼女の胸に自然と目が行ってしまい、デュースとジャックは赤面しながら邪念を振り払うように首を横に振った。

「ああ、だ、だが、他の奴らもしっかり整えてきてるからな!ここで気を抜くわけにはいかない。」

「そ、そうだな。今日もよろしく頼む、有栖。」


彼女の押しつぶされる柔らかそうな胸を脳裏に焼き付けたまま、デュースとジャックはスタート地点に向かうため有栖の前から走り去った。

「なんかアイツら、様子が変なんだゾ。」

頭上に『?』のマークを浮かべながら、腕を組んで走り去る二人の背中を見つめるグリムと有栖。するとそこに突然風が吹いたかと思えば、背後に大きな気配を感じた。有栖は急いで振り向くと、そこには何か企んでいるような怪しい表情を浮かべた学園長クロウリーの姿があった。

「な、学園長!?どうしたんですか!?」

「な”!いきなりびっくりしたんだゾ!」

「お二人とも、頑張ってますねぇ。いやぁ、関心関心。デュース・スペード君もジャック・ハウル君も非常に”元気”があってよろしい。」

にっこりとほほ笑むクロウリーはいつもと少し様子が違って見える。いや、むしろいつも通りとも言えるのだろうか、その長い鉤爪を妖艶に動かして有栖に近づく。

すると、パンッ!とスターターピストルの大きな音が運動場に鳴り響いた。その方向へ顔を向けると、デュースとジャックがスタートしていた。
彼らのゴール地点にあたるところから2、30メートル離れたところに位置している有栖は、急いでペンを手に取った。


「二人の記録を取らなくちゃいけないので、後でにしてください。デュースーーー!!ジャックーーーー!頑張ってーーーー!!」

冷たくクロウリーをあしらう有栖
もう慣れたものなのだろう。
とほほ、と涙を浮かべたような声をあげると、クロウリーは魔法を唱えた。

ふわっと有栖の身体が宙に浮かぶ。
風のようなものを全身に纏った感覚が有栖を襲う。

「え??」


すると次の瞬間、有栖はチアガールの衣装になっていた。白く美しい肌を腕と脚ともに晒し、今にも下着が見えそうなラインぎりぎりのミニスカート丈。眩しいへそとお腹のライン。


有栖目当てに集まったギャラリーからは「おおお!」という男くさい歓声があがった。
すると、ものすごい土埃と共にドドドドという音が猛スピードで向かってくる。


「っと!!!!お前ってやつは……!!!なんて恰好してるんだ……!!!!」


紅潮しきった頬と耳のまま、ジャックがとんでもないスピードでゴールラインを切ったかと思えばどこから取り出したのか自身の上着を目にもとまらぬ手際で有栖に羽織らせた。
その行為にブーイングが飛び交う周囲に対しグルル、と威嚇の目を向けると有栖を外からは見えないようにとジャック自身が壁になるように肩を抱いてやった。

「わ、私じゃないよ!!!!学園長の仕業だって……!」

「なんだってそんな恰好……!」

「私だって恥ずかしいんだから……!」

そんな二人を尻目に、クロウリーは青春ですねぇとほほ笑む。

「ちょっと、何してるんスすか!学園長!」

ジャックは怒りと嬉しさが混じり合い、複雑な感情で学園長へ食って掛かったが、その尻尾は微かに横に揺れ動いていた。

「応援はチアガールと、相場で決まっているでしょう?」

「決まってねぇ!!!!」

「でもジャック・ハウル君、記録版をご覧なさい。」

「え……?」


有栖を優しく介抱したままゆっくりとゴールラインに設置された記録版を見ると、個人新記録はもちろん更新するどころか、世界新記録にまで達しそうなタイムを叩き出していた。

「な……ッ!!!」

ハーツラビュル寮の薔薇のように真っ赤になったジャックは、有栖を介抱していた手を解き、彼女と距離を取るように後ずさりをした。

「ジャックの……えっち……」

小さく涙を浮かべながら、ジャックの上着をより深く羽織りなおす有栖
どうしていいか分からないジャックは、『違う!』と叫ぶように言い残して赤面したままぴゅーんと音を立てて再度スタート地点に戻っていった。

一緒にスタートしたデュースはというと、有栖のチアリーダーの姿を見た瞬間、鼻血を出してその場で倒れて保健室に運ばれるところだった。






その日の練習が終わり、有栖はいまだ意識が戻らないデュースの見舞いをするために保健室へ向かった。

「私のせい……みたいなもんだよね……」

ぶつぶつと独り言を言いながら有栖は校内の廊下を歩いていた。
その手には、どこかで返せればとジャックの上着を携えていた。

有栖は保健室の前へとたどり着きその扉に手をかけると、内側から先に扉が開いた。出てきたのはジャックとデュースだった。

「「な……!有栖……!」」

三人で赤面したまま下を俯いたまま。
保健室の出入りができないと迷惑がかかるということで、三人はぎくしゃくしながら少し歩くことにした。

「ジャック、これ、ありがとう……」

「お、おう……」

ぱっと受け取った上着からは、彼女のにおいで溢れていた。

(あいつの匂いがする……)

それを悟られまいとジャックはグッと息をのんだが、その尻尾までは隠せずしっかりと歓喜で揺れていた。

「デュース、怪我、なかった?」

「あ、ああ。大丈夫だ。心配かけてすまない……!」

短距離走中に突然倒れたデュースは、幸い少し擦りむいた程度だった。喧嘩に明け暮れていた頃と比べると無傷のようなものだと、デュースは内心で考えていた。

「おや?私からのプレゼントは気にっていただけませんでしたか?」


背後から、あの声。
クロウリーだ。

「学園長!!一体あれは、何のつもりですか!!?」

ぽかぽかと学園長の胸を両手で叩く有栖。恥ずかしさのあまりに死んでしまいそうだと口にしながら、それを続ける。

「私は、デュース・スペード君とジャック・ハウル君に最高のパフォーマンスを発揮して、ナイトレイブンカレッジに優秀な生徒がいると世界中にアピール……ごほん、優勝して栄光あるメダルを手にしてほしいと思っているだけですよ。」

「だから本音が丸聞こえですって!」

有栖は学園長の首元をつかんでぶんぶん振ると、あれれ~と学園長は目を回した。デュースとジャックも、有栖のあのような恰好が見れたのは非常に得をした気分であることは言わずもがなだが、それを表に出すわけにはいかないとその場での発言を控えているのがわかる。

「いやはや、大会当日はどうなるか、楽しみですねぇ。」

そういって学園長は風のように消えていった。


しばし流れる沈黙。
それを破ったのは有栖だった。

「ねえ、」

先ほどの彼女の刺激的な格好が頭から離れないデュースとジャックがビクっとその肩を跳ねさせた。ゆっくり彼女の方を向くと、何やらもじもじした様子で立っている。

「ねぇ、やっぱり……ああいう格好のほうが、す、好きなの……?」

耳まで真っ赤にして、自然と上目遣いになる有栖

「ああいう格好したら……頑張れる、の……?」



((かわいい……))


小さくガッツポーズをするデュースと、尻尾をゆらゆらとさせるジャック。互いに、どちらか一方が居なかったら今すぐ抱きしめていたところだった。しかしその感情を抑え込み、白々しく平静を装う。

「いや、えっと、その……」

頬を赤くし狼狽するデュースの横で、ジャックが一歩前に出る。


「その、お前はこのままでも、その……十分可愛いぞ……」

そう言って恥ずかしそうにしている有栖の頭を撫でた。

(ガーン!先を越された!)

大きく口を開いてデュースは先をいくジャックのその背中を見つめていた。女性が苦手なデュースにとって母親以外で唯一監督生である有栖がまともに話せる異性だったが、その有栖の競争率が明らかに高い。ジャックもそうだが、何もライバルは彼だけでは無い。ギャラリーの多さからも分かるように、学校中が彼女に夢中なのだ。それが分かってて、有栖を恋い慕っているが、そうは上手くいかない。今回のように一世一代のチャンスでも、こうしてライバルのひとりに先を越されてしまった。ショックでまともに動けず固まったままデュースは立ち尽くしていた。


「じゃあ、優勝したら、ご褒美あげるね♡」



有栖はハッとした。有栖の声色を魔法で完全に再現したクロウリーが、またいつの間にやら後ろに立って彼女に隠れるようにして居たからだ。

しかしその言葉が彼女から発せられたものと信じた2人が異様なまでの闘志を燃やし、片腕をぶんぶんと回しながら踵を返した。

「か、勘違いするな!別に褒美が欲しくて優勝目指すわけじゃねぇからな……!」

「となったら早速トレーニング再開だな!ジャック!」

「よし、走るか。デュース!」

「っしゃ!行くぞ!」

「ちょ、ちょっと2人とも!?私じゃないって!」


静止を求める彼女の手も虚しく、彼らはものすごいスピードで運動場へと戻っていった。



無論、この二人が1週間後の陸上競技大会では各々の競技で優勝し更には大会新記録を更新したことは、言うまでもない。



〜Fin〜




【あとがき】
初ラブコメ(笑)逆ハーっぽいもの作りたくて。
デュースの式典服のパーソナルストーリーを見て思いついたストーリーだったりします。デュース可愛いですよね^^
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