第1章 縁
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
高専の正門前、冷たい月明かりがアスファルトを白々と照らし出し、その上に四人の影が不気味に長く伸びていた。
ナマエの右腕を五条が強い力で掴み、左腕を夏油が静かに引き寄せる。そして正面からは、甚爾がその分厚く大きな手でナマエの肩をがっしりと掴んで離さない。
三人の男たちの視線が空中で激突し、物理的な火花が散りそうなほどの濃密な殺気が辺りに渦巻いていた。
五条の六眼が、夜の闇を切り裂くように不気味に青白く発光する。
五条「おい、離せって言ってんだよ。耳ついてねえのか、禪院の落ちこぼれ。僕の婚約者にその汚い手で触り続けるな」
五条の周囲の空気がミリミリと嫌な音を立てて軋み、不可視の凄まじい圧力が甚爾を押し潰そうと容赦なく襲いかかる。
けれど、甚爾は鼻でせせら笑うと、五条の放つ圧倒的な圧力を正面から事も無げに受け流し、さらに強くナマエを自分の胸へと引き寄せた。
甚爾「落ちこぼれ、ねえ。そんなガキの理屈がこの場でも通用すると思ってんのか、六眼。こいつは俺の飯を作りに来たんだよ。その後でこの女をどう扱おうが、全部俺の勝手だろ」
夏油の声は低く静かに落ち着いていたが、その背後の深い闇からは特級クラスの凶悪な呪霊がぬうっと巨大な顎を覗かせ、甚爾の頸動脈をじっと狙っていた。
夏油「甚爾。いい加減に引き下がりたまえ。彼女は物ではないんだ。君のような野蛮な男と無理に一緒に居る筋合いなんてどこにもない」
三つ巴の危険な均衡が、極限まで張り詰めたその瞬間だった。伏黒甚爾の口元が、獲物を前にした獰猛な肉食獣のように醜悪に吊り上がった。
甚爾「あいにくだが、お前らみたいな坊ちゃん方とお行儀のいい話し合いをするつもりはハナからねぇんだよ」
ドォン、という凄まじい重低音が響き渡る。呪力が一切ない代わりに、限界まで鍛え上げられた圧倒的な甚爾の脚力が、一瞬にしてコンクリートの地面を消し飛ばすように粉砕した。
あまりの神速の動きに、現代呪術界の最強である二人ですら、ほんの一瞬だけ視界から姿を見失う。
甚爾はナマエの腰を大きな片腕でひょいと軽々と抱え上げると、そのまま大型バイクのシートへと強引に飛び乗った。
完全に不意を突かれた五条が、顔を真っ赤にして叫ぶ。
五条「なっ、おい待て! ナマエを今すぐ放せ、クズ!」
五条が術式を放とうと長い指を交差させるが、甚爾はすでに爆音と共にエンジンを轟かせ、ナマエを背中に強引に乗せたまま夜の闇へと急加速していた。
五条「おい甚爾! 殺す、絶対に殺すからな!」
夏油「甚爾! お前、よくも……!!」
背後から迫る二人の最強の怒号が、遠ざかる排気音にかき消されてみるみる小さくなっていく。
夜風がナマエの頬を痛いほどに叩き、周囲の景色が猛スピードで後ろへと流れていった。
背中に直接感じる、甚爾の異常なほどに熱い野生的な体温が心臓に響く。
ナマエは必死に彼の背中にしがみつきながら声を張り上げた。
ナマエ「ちょっと、甚爾さん! 一体どこへ行くんですか! 今すぐ高専に戻らないと、本当に取り返しのつかない大変なことになりますよ!」
甚爾「うるせぇ、黙ってろ。あいつらのトコに戻りたきゃ、まずは俺をたっぷりと満足させてからにしろ」
甚爾はナマエの必死の叫びを完全に無視し、迷いのない狂暴なハンドルさばきで都会の喧騒をあっという間に抜け、人里離れた不気味な山沿いの隠れ家へとバイクをひたすら走らせた。
やがて辿り着いたのは、古びているが不思議と手入れの行き届いた、崖の上にひっそりと建つ一軒の別荘だった。
バイクを乱暴に止めると、甚爾はナマエをシートから引きずり降ろし、そのまま逃げ道を完全に塞ぐようにして薄暗い玄関へと力ずくで押し込んだ。室内には、生活感がまるで無い、けれどどこか落ち着いた不気味な静寂が満ちている。
甚爾は荒々しい動作でヘルメットを脱ぎ捨てて床に転がすと、ナマエを壁際にまで一気に追い詰め、その太い両腕を壁について完全にナマエを閉じ込めた。
甚爾「あのクソガキども、お前を婚約者だの何だの調子に乗ってほざいてたな。反吐が出るぜ、本当に」
甚爾の低く湿った声が、至近距離でナマエの鼓膜を強烈に震わせる。
甚爾「今この場所にいるのは俺とお前だけだ。あのガキどものくだらないことは、今ここで全部忘れろ」
甚爾のザラついた指先が、ナマエの唇の輪郭をねっとりとなぞり、そのまま拒絶を許さない動きで鎖骨のあたりへとゆっくり滑り落ちていく。
甚爾「お前のその特別な術式も、その綺麗な指先も、全部俺だけのために使え。分かったな、ナマエ」
月明かりが差し込む暗い部屋の中、獣のような底知れない独占欲がナマエを完全に飲み込もうとしていた。
高専という檻から命からがら逃げ出した先には、さらに深く、二度と逃げ場のない執着という名の本物の檻がナマエを待っていたのだ。
next