女性時(ノーマル)の名前と、男装時の名前を入力してお楽しみください。
3章 星を継ぐ希求
!!必読!!夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
生徒たちが嵐のように去っていったセトルドームのリビングには、張り詰めていたすべての音が消え去り、耳が痛くなるほどの静寂が戻っていた。
テーブルの上にわずかに残された、地球の少年少女たちの賑やかな名残。
ナマエはぽつんと佇んだまま、小さく「ふぅ」と、胸の奥に溜まっていた重い空気を吐き出すように息を吐いた。
二千年の時を駆ける星海の旅路のなかで、異星の現地住民と深く関わる機会がなかったわけではない。
けれど、これほどまでに同じ「人型」の形態を持ちながら、パワフルで、泥臭いほど賑やかで、それでいて驚くほどに学術的な知的好奇心を秘め、一人一人が強烈な色彩を放つ個性豊かな人間という種族とこれほど密接に関わったのは初めてのことだった。
宇宙の広大なスケールのなかにおいて、人型という形態を持つ種族は、存在の次元が極めて幅広く、精神性の成熟度も千差万別だ。
特にこの「地球」という辺境の星の人間は、欲深く、感情に支配されやすく、時に酷く乱暴な性質を持っていることを、ナマエは記録として知っていた。だからこそ、本来はこの星の呪術や社会に深く関わるつもりなど毛頭なかった。
ーーなかったはずなのに、今の胸の奥を占めているのは、あまりにも不思議で、温かく、誠に切ない感覚だった。こんな風に彼らと笑い合い、一つ屋根の下で夜を明かすことになるなんて、地球に降り立ったあの日の自分には到底予想もできないことだった。
ナマエはふと、静かに明滅を続ける仕事スペースのメインモニターを見やった。
青い光のなかに映し出されているのは、刻一刻と質量を増し、東京湾アクアライン地下層の暗部で膨らみ続けている、あの禍々しい負の汚泥の3Dマップだ。
ナマエ「……」
胸の奥が、冷たい針で突かれたようにチクリと痛んだ。
あの最悪のエネルギーの奔流を食い止めるために、高専の術師たちへ「協力してほしい」と頭を下げ、情報を提供したのは僕だ。
…けれど、昨晩のあの朗らかで真っ直ぐな子供たちを、本当にこの凄惨な戦いに巻き込んで良かったのだろうか。
昨晩、目の前でハツラツとした表情を見せていた悠仁くんの笑顔や、私の腕の中で純粋な瞳を輝かせていた恵くんの真剣な横顔が、脳裏を掠めては消えていく。僕は、あんなにまだ若く、未熟な子供たちをも、死と隣り合わせの凄惨な仕事に巻き込もうとしているのではないか。その罪悪感が、ナマエの細い胸を容赦なく締め付けた。
その頃、甚爾はナマエのベッドでダラダラと寝転がっていたが、すっかり静まり返ったリビングの真ん中で幽霊のように呆然と立ち尽くしているナマエの背中が目に留まった。
どこかひどく悲しげで、今にも消えてしまいそうなほどに儚い空気を纏ったその細い肩を見て、甚爾は無造作にベッドを出ると、気怠げな足取りでリビングへと歩みを進めた。
甚爾「おい。そんなツラして、一体どーしたんだよ」
ナマエ「……っ、甚爾さん…」
背後からかけられた低い声に、ナマエはハッとしたように身体を震わせて振り返った。
その紫色の瞳には、未だ処理しきれない困惑と、己を責めるような暗い光が揺れている。
甚爾「何を見てんだよ。またその地下の汚泥のデータか? 飯も食わずにそんなもん睨みつけて、何が不満なんだ」
ナマエ「……、いえ。何でも、ないんです。ただ、少し考え事をしていて」
ナマエはそういうと、これ以上の追求を拒むように、すいっと視線を横へとズラした。
自分の中に芽生えてしまった、この星の住人への過剰な「情」と「迷い」。任務を最優先すべき観測者として、こんなに個人的な感情の揺らぎを、この獰猛な男に見せるわけにはいかないという防衛本能が働いたのだ。
だが、甚爾という男が、そんなナマエの子供騙しのような誤魔化しを見逃すはずがなかった。
甚爾は何も言わずにナマエとの距離を詰めると、その逞しく強靭な腕をナマエの肩へと迷いなく回し、大きな身体で包み込むようにして強引に引き寄せた。
ナマエ「あ……っ、甚爾さん、ちょっと……っ」
甚爾「うるせぇ。いいから大人しくしてろ」
甚爾はナマエの小さな抵抗を全く耳に貸さず、背後からその身体をまるごと抱きすくめたまま、ずるずるとソファの方へと移動し、一緒にドサリと深く腰掛けた。
太い腕がナマエの腹のあたりでがっちりとホールドされ、完全に彼の胸の中に収まる形になる。
甚爾は逃げられないようにナマエを密着させると、耳元にその熱い吐息を吹きかけるようにして、低く、落ち着いた声色で優しく問いかけた。
甚爾「……。で、何迷ってんだよ、お前は。一人で抱え込んでんじゃねぇよ、話してみろ」
その耳元で響く、いつになく穏やかで包容力に満ちた男の声に、ナマエの心の防壁が、みりみりと音を立てて崩れていく。
背中から伝わる彼の圧倒的な体温と、鼓動の音。それが、ナマエの孤独だった心を強烈に揺さぶった。
ナマエは観測者としての仮面を維持することを諦め、ぽつり、ぽつりと、胸の奥に溜まった澱を吐き出すように言葉を紡ぎ始めた。
ナマエ「……。僕はね、甚爾さん。この星に派遣されてから十五年という月日が流れたけれど……。この規模の災厄に、自分の意思で真っ向から立ち向かうのは、おそらくこれが初めてのことなんだ」
甚爾「十五年もいて、初めてだと?」
ナマエ「ええ。これまでにも、この日本という土地でいくつか大きな災厄や、呪術的な大事件はあったはずです。けれど、その当時の僕は日本にいなかったり、あるいは発生した事後に対処することが多かった。……、最深部にある地脈の『門』だけを事後処置していたから、その過程でこの星の住人たちがどんな凄惨な状況に置かれ、どう戦っていたのかを…本当の意味では知らないんです。……、後から完全に荒地になってしまった戦いの一等地の映像を見て、人間の観点からすればとてつもない悲劇だったのだろうと理解はできたけれど……。どこか、客観的なデータとしてしか見ていなかった」
ナマエは過去の任務の記憶を回想するように、深く、重いため息をついた。
その身体が、抱きしめる甚爾の腕の中で、かすかに強張る。
ナマエ「だけど、今回のアクアラインの件は違う。僕は情報提供者として、そしてこのドームの管理者として、発生の初期段階から人間の術師たちと協力して真っ向から対峙することになる。……それが、自分でも驚くほど緊張しているんです。そして、何より……」
ナマエはそこで一度言葉を詰まらせ、膝の上で自分の指先をきつく握りしめた。
ナマエ「あの、昨晩ここに泊まっていった子供たちまでを、僕の都合で巻き込んで本当にいいのか……。僕は、……僕は、自分の任務を円滑に進めるためだけに、まだあんなに若く、未来のある子供たちを命の保証もない凄惨な現場へと駆り立てようとしているのではないか。そう考えると、胸が引き裂かれそうになるんだ」
抱きしめる甚爾の腕のなかで、ナマエの白い指先が、目に見えてカタカタと小さく震え始めていた。
その美しい瞳からは、堪えきれなくなった大粒の涙がポロポロと溢れ、ナマエの白い頬を濡らして、甚爾の腕の上に涙痕を残していく。
異星の観測者として完璧であるはずの存在が、あまりにも人間らしい慈悲と罪悪感に押しつぶされ、小さな子供のように泣いていた。
甚爾は、自分の胸の中で震えながら涙を流すナマエの姿をただ黙って、その広い胸で受け止めていた。
その涙がナマエの顎から滴り落ちるのを見届けた後、ふっと鼻で笑うようにして、いつも通りの不敵な声を絞り出した。
甚爾「……。フッ。なんだと思えば、そんな事かよ。お前は、根本的なところで大きな勘違いをしてるんだよ、ナマエ」
ナマエ「……、え? 勘違い、ですか……?」
ナマエは涙に濡れた長い睫毛を震わせ、甚爾の顔を見上げるようにして振り返った。
甚爾「あぁ、大いなる勘違いだ。…そもそもな、あの地下の汚泥だか何だか知らねぇが、元々の原因を作ったのは俺たちと同じ地球人だろ。お前ら異星人のせいじゃねぇ。そして、原因が何であれ、あの場所に特級クラスの呪霊がドバドバ出りゃ、俺たち高専の術師はどっちみち出動しなきゃなんねぇんだよ。そんなことは、お前がここに来る前から決まってんだ」
甚爾はナマエの腰に回していた腕に少しだけ力を込め、その存在の確かさを確かめるように抱きすくめた。
甚爾「状況に関わらず、俺たちの仕事なんてなぁ、明日生きて帰れる保証も何もありゃしねぇんだよ。あのガキ共を含めて、俺たちは呪霊が出りゃ命を張って現場に出ざるを得ねぇ呪縛を背負ってんだ。……お前は確かに仕事の一環としてこの星に来てるかもしんねーが、別に地球をわざわざ掃除してやる義理も義務もねぇだろ。それなのに、お前はあの地下の危機を事前に察知して、わざわざ俺たちに知らせてくれた」
ナマエ「それは……、そうしないと、被害が大きくなりすぎるから……」
甚爾「だから、それがお前のおかげだって言ってんだよ。あのガキ共だって、術師になった時点で死ぬ覚悟なんてのはとっくの上で出来てんだ。お前が事前にあの正確なマップやシミュレーションデータを出してくれたおかげで、俺たちの生存率は何も知らずに突っ込むよりグッと跳ね上がったはずだ。これは確実にそうだろ」
甚爾はそう言うと、その大きな肉厚の手のひらで、ナマエの銀色の綺麗な頭を、よしよしと慰めるようにゆっくりと撫でた。
甚爾「……。お前のおかげで、最悪の事態に対する事前の対策ができるんだ。情報を開示して、みんなを巻き込んで申し訳ないなんて、そんなお涙頂戴のクソみたいな反省、考える方がお門違いだっつーんだよ。お前はただ、俺たちに生き残るための武器をくれた。それで十分だろ、あぁ?」
甚爾はナマエの深刻な顔を吹き飛ばすように、その大きな手でナマエの髪をぐしゃぐしゃと、手荒く、けれどこの上なく愛おしそうに撫で回した。
ナマエ「あ……っ、もう、甚爾さん、髪がぐしゃぐしゃになります……っ」
ナマエは突然の手荒いスキンシップに慌てて声を上げ、甚爾の手を止めようと身悶えした。
けれど、その言葉の応酬のなかで、先ほどまでナマエの胸の奥を重く支配していたあの黒い罪悪感や迷いは、甚爾のあまりにも現実的で、力強い言葉によって、綺麗に霧散していくのを感じていた。
…地球を守る義務などない、けれど、自分のしたことは彼らの生存率を上げたのだと、この男が断言してくれた。その事実が、ナマエの傷ついた心をどれほど救ったか分からない。
ナマエは涙を拭うのも忘れ、甚爾の腕のなかで、少しだけはにかんだような、本当に嬉しそうな柔らかな微笑みを浮かべた。
ナマエ「……甚爾さん……。ふふ、不器用な慰め方ですね。でも……、ありがとうございます。少し、心が軽くなりました」
甚爾「けっ、お前が勝手に一人で暗い顔して泣くからだろ。俺をあんまり退屈させるなよ、お前の旦那様は泣き顔よりも飯を食って笑ってるお前の方が好みなんでね」
甚爾はそう言うと、ナマエの涙の跡が残る頬へ、愛おしさを刻みつけるように優しくキスを落とした。
静寂に満ちたセトルドームのリビングで、二人は再び、静かに寄り添い合いながら、これから訪れる本当の決戦の日に向けて、確かな心の絆をさらに深く結び直していくのだった。
next