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2章 囚われの魔術師
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===回想 甚爾 Side===
せっかくナマエを隅から隅まで味わい尽くし、この白亜の檻で二人きりの「事後」を愉しんでいたってのに。
ぶち壊しに来たのは、案の定、あの鼻持ちならない高専の坊ちゃん共だった。
窓の外を埋め尽くすドロドロとした呪霊の群れ。
その中心で、五条と夏油がこれ見よがしに「略奪者」の面を下げて立っているのが、目に見えなくても肌に刺さる不快な呪力で分かった。
甚爾(……ケッ、しつけぇ野郎共だ。……せっかくナマエが俺の腕ン中で、可愛い声で鳴いてたところだったんだぞ)
俺は苛立ち紛れにズボンを履き、ナマエが放った眩い浄化の光を背中で受け止めた。
その直後、外で起きた「惨状」に、俺は思わず喉の奥で下卑た笑いを漏らした。
甚爾「……ハッ! 傑作だな。……あいつら、ナマエの光に当てられて、本気で昇天してやがる」
モニターに映し出された二人の「最強」は、あられもない姿で地面を這い、恍惚の表情で涎を垂らさんばかりにのびていた。
普段、高尚な理念だの救済だのを抜かしているツラが、快楽に負けてドロドロに溶けている。
その無様な様を見ているだけで、溜まっていた鬱屈がスッと晴れていくのを感じた。
甚爾「おい、ナマエ。……あんな間抜けな死体、放っておけよ。……あいつら、今が人生で一番幸せな瞬間なんじゃねぇか?」
ナマエ「……そんな訳にいかないでしょ! ……甚爾さん、お願いだから二人を中に運んで。……ソフィ! ソファを大きくして!」
ナマエに急かされ、俺は渋々と外へ出た。
俺が「あいつらのために広げろ」と念じるまでもなく、ナマエの指示に従って家具が蠢く様は、まるで俺自身の肉体の一部が拡張されたような万能感があった。
甚爾「ほらよ、死に損ない共。……お姫様の慈悲だ、感謝しな」
俺は二人の襟首をゴミ袋でも掴むようにして引きずり、豪華になったソファへ投げ飛ばした。
ナマエが仕事に戻るのを横目で眺めながら、俺はこれ見よがしにソフィアに椅子を実体化させた。
甚爾(……いい場所だ。……あいつらには一生かかっても手に入らねぇ、俺だけの特等席だ)
俺はナマエの端末を使い、宇宙規模のカジノに興じる。
ルーレットの回転音をわざと大きく響かせながら、仕事中のナマエと「金」の話を交わした。
ナマエ「……ちょっと。……またカジノですか? それ、私のお金なんですけど」
甚爾「あぁ? 増やしてやった分で遊んでんだよ。……文句ねぇだろ、お嬢ちゃん」
ナマエ「……すっからかんにしたら怒りますからね。……機材費だってかかるんですから」
この、なんでもないやり取り。
俺が勝手に金を使い、女がそれに文句を垂れながらも、心の底では俺を受け入れている。
この空気は、俺がかつて人生の光の中で、手からこぼれ落ちていった「本物の夫婦」のそれによく似ていた。
甚爾(……ハハッ。……いい気分だ。……隣で指一本動かせずにのびてる坊ちゃん共に、この温けぇ空気の欠片でも分けてやりてぇくらいだぜ)
俺はサイドテーブルに現れたホットドッグを頬張り、わざとらしく音を立ててコーヒーを啜る。
ソファの上で、ようやく意識が戻り始めた五条と夏油が、殺気立った視線を俺にぶつけてくるのが分かった。だが、今の俺にはそれすらも最高の酒の肴だ。
夏油「……甚爾。……貴様、……その椅子、……どけろ……」
甚爾「あぁ? なんだ、お前も座りてぇのか? ……残念ながら、これは『番』専用なんだよ。……お前みたいなお客様には、そのソファがお似合いだぜ」
そして俺は、そこで初めて「魂の口座」という概念を知らされる。
ソフィア「……個体:甚爾。貴方の生物学的貢献は、銀河通貨として還元されます。……手続きが完了すれば、銀河パスポートの発行も行われます」
甚爾「……へぇ。……俺の稼ぎが貯まるってわけか。……聞いたかよ、お坊ちゃん達。……俺ぁこの家じゃ、ただの居候じゃねぇんだよ。……正式に、この女の『半身』として認められてんだ」
俺はわざとらしくナマエの肩に手を置き、その首筋に残った俺の「噛み跡」を、見せつけるようにさらけ出させた。
五条の六眼が、屈辱に赤く染まる。夏油の額に、青筋が浮かぶ。
二人がどれほど強く、どれほど「正義」を背負っていようが、この白亜の密室において、ナマエの隣に座る権利を持っているのは俺だけだ。
甚爾「……ほら、ソフィア。……この可哀想な客共に、何か飲み物でも出してやれよ。……ククッ、ハハハハ!」
俺は声を上げて笑った。
かつて禅院の家で「出来損ない」と呼ばれ、虐げられ、掃き溜めを這い回っていた男が、今や銀河規模のシステムに「唯一無二」と肯定されている。
奪い、奪われ、殺し合ってきた人生の中で、これほどまでに腹の底が熱くなるような優越感を感じたことはなかった。
甚爾(……奪えるもんなら奪ってみろよ、お坊ちゃん達。……その頃には、こいつの身体も心も、俺の毒で真っ黒に染め上げてやるからよ)
俺は再びルーレットのボタンを叩いた。
カジノの騒がしい音色の中に、ナマエの呆れたため息が混ざる。
それが今の俺にとって、この世で最も心地よい音楽だった。
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