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2章 囚われの魔術師
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麻生山の深奥。地図にも載らない廃道の行き止まりに、一台の黒い社用車が不自然に放置されていた。
周囲の杉林が吐き出す湿った冷気が、金属のボディを撫でる。
五条悟は、音もなくその場に降り立つと、雪のように白い髪を揺らして車内を覗き込んだ。
五条「……あった。……間違いねぇ。シートにナマエの魔力の残滓と、あのゴミ屑の匂いがべったりこびり付いてやがる」
五条の声には、極低温の殺意が混じっていた。
窓ガラスに指を滑らせると、微かに残る「温もり」の記憶さえも呪い殺さんとするほどの執着が、その青い瞳に宿る。
夏油「あぁ。……だが、物理的な実体はここにはないようだね。悟、見てごらん。あの斜面に、僅かに土を蹴り上げたような痕跡がある」
夏油傑は、細められた瞳で斜面のわずかな違和感を見抜いた。彼は乱れた前髪を払い、静かな足取りでその場所へ歩み寄る。
五条「……あぁ、次元ごと書き換えたような歪みを感じるぜ。マロンモールで追いかけっこした時と同じ、掴めそうで掴めないこの感じ。……イライラするねぇ」
夏油「フフッ。……座標がズレているなら、塗り潰してしまえばいい。彼女は清浄な魔力の持ち主だ。……ならば、この周辺を呪力で汚染・圧迫すれば、炙り出されてくるんじゃないかな」
夏油が数多の低級呪霊を解き放った。
ドロリとした負のエネルギーが、ナマエの隠れ家を包囲するように広がり、空間そのものを腐食させ始める。
***
その頃、セトルドームの寝室では、甚爾の逞しい腕の中で温もりを分け合い、微睡んでいたナマエが、けたたましく鳴り響くアラートに飛び起きた。
ソフィア「警告。外壁周辺に高濃度の呪力汚染を検知。マスターの精神衛生、および魔力純度に悪影響を及ぼすリスクが90%を超えました。……速やかな浄化を推奨します」
ナマエ「……っ、何!? この嫌な気配……」
ナマエは慌ててクローゼットから目についた、部屋着用の薄いワンピースを羽織った。
下着はパンツ一枚、ブラジャーすら着ける暇もない。
甚爾の体温がまだ肌に残るまま、彼女はドームの外縁へと駆け出した。
玄関を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、漆黒の呪霊たちに埋め尽くされた絶望的な光景だった。
ナマエ「……穢らわしい! 私の家を、汚さないで!」
ナマエは渾身の力を込め、両手を広げて聖魔法を放った。彼女の指先から、宇宙の夜明けを思わせる眩い白光が爆発的に溢れ出す。
「――浄化(ピュリフィケイション)!」
その光は、夏油が放った呪霊たちを一瞬で消し飛ばし、澱んでいた空気のすべてを、根源的な清浄さへと書き換えていった。
しかし、その「あまりに純粋な癒やしの力」は、待ち構えていた二人の怪物にとって、致命的な毒薬となった。
五条「……は、これ、すご……。脳みそが、溶けそう……」
無下限の防壁をすり抜け、その聖なる光を全身で浴びた五条は、膝をついて崩れ落ちた。
最強の術師として、常に脳を酷使し続けてきた彼にとって、その光はあらゆるストレスと疲労を無に帰す、究極の麻薬だった。
夏油「……っあ、……あぁ……」
夏油もまた、普段呪霊を「呑み込む」ことで蓄積していた胸の不快感が、一瞬で洗い流される感覚に酔いしれた。
胃の腑を焼くような苦しみが、甘美な快感へと反転し、彼は地面に手をついたまま恍惚の表情を浮かべる。
ナマエ「えぇ⁈ッ……。……悟、さん? 傑、さん……?」
光が収まった後、そこには最強と謳われた二人の男が、あられもない姿で悶絶し、恍惚に浸っているという異様な光景が広がっていた。
ナマエは開いた口が塞がらない。
そこへ、のそのそとドームの中から甚爾が姿を現した。下半身のズボンだけを履き、上半身は剥き出しのまま。その少し赤らんだ胸元や艶のある顔には、事後の気配が色濃く漂っている。
甚爾「……ギャハハハハ! おい、見ろよこのマヌケ面! 最強コンビが揃いも揃って、白目向いてぶっ倒れてやがるぞ!」
甚爾は腹を抱えて笑い飛ばし、恍惚とした表情でピクピクと震えている二人を見下ろした。
五条「……て、めぇ……。……とう……じ……」
五条は呂律の回らない口を必死に動かそうとするが、脳が多幸感に浸りすぎて、呪力のコントロールさえおぼつかない。
サングラスが地面に落ち、あらわになった六眼はとろけるように潤んでいる。
夏油「……はぁ、……っ、……ナマエ……その、格好……」
夏油は視界の端で、薄いワンピース一枚のナマエを捉えた。ブラジャーをしていないため、薄い布越しに彼女の乳首の突起が浮き出ているのが見える。
さらには、彼女の首筋に刻まれた甚爾の「マーキング」が、鮮血のように赤く光っていた。
甚爾「あぁ? この格好がどうした。……俺がたっぷりと『お仕置き』してやった跡だ。……お前らも混ぜてやりてぇが、そんな腑抜けたツラじゃ立ち上がるのも無理そうだな?」
五条「……殺す、……ぜったい、殺……ぁ、あぁ……気持ちいい……」
殺意を口にしながらも、ナマエが放った光の余韻が脊髄を痺れさせ、五条の身体からは力が抜けていく。
ナマエ「……ちょっと、二人とも大丈夫!? ……あんなに呪霊を放つから、だよ……」
ナマエが駆け寄ろうとすると、甚爾はその細い腰を後ろから抱き寄せた。
甚爾「放っとけよ。自業自得だ。……こいつらはここで、しばらく良い夢でも見てりゃいいんだよ」
甚爾の低い笑い声と、五条と夏油の情けない吐息。
聖域の入り口で、独占欲が交錯する。
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