女性時(ノーマル)の名前と、男装時の名前を入力してお楽しみください。
2章 囚われの魔術師
!!必読!!夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
===甚爾 Side===
高専の事務室から適当に掠め取った鍵を回し、エンジンを吹かす。隣の助手席に収まったナマエは、まるで未知の化け物の胎内にでも放り込まれたかのように、落ち着きなく視線を泳がせていた。
甚爾「おい、お嬢ちゃん。……そんなにキョロキョロしてると、首が回らなくなるぞ。シートベルトの締め方も知らねぇとは、どこの文明から迷い込んだんだよ」
俺は半ば呆れながら、助手席側に身体を深く乗り出した。
至近距離で重なる視線。彼女の震える睫毛と、どこか異世界の香りがする白い肌。
腕を回してカチリとベルトを固定してやると、彼女の身体が強張るのが伝わってきた。
甚爾(……これっぽっちの距離でビビりやがって。高専の坊主共が血眼になるのも分かるが、中身はただの頼りねぇ小娘じゃねぇか)
車を走らせ、山道へと差し掛かる。ナマエは手動の運転に戦慄し、窓の外に流れる緑を、命を狙う敵でも見るかのような目で見つめていた。
そんな彼女の太ももに、俺はわざとらしく手のひらを置いた。
甚爾「安心しろよ。……これでも運転には自信があるんだ。俺がしくじったら、それこそお前さんの宇宙船より派手に散れるぜ」
ナマエは俺の掌に、震える指をそっと重ねてきた。縋り付くようなその熱に、俺の胸の奥で何かが静かに熱を帯びる。
道中、彼女がぽつりぽつりと話し出した生い立ち。
星間戦争、捕虜、そして疎まれて過ごした奴隷のような日々。
俺はその話を聞きながら、奥歯の裏側で苦い味を噛み締めていた。
甚爾(……ケッ、笑えねぇな。……血筋だの才能だので疎まれて、掃き溜めの中で生きるしかねぇってのは、俺の育ったあの腐れ縁の『家』と大して変わらねぇじゃねぇか)
持たざる者として、あるいは異分子として排除される側の感覚。
俺が禪院というゴミ溜めで味わった泥のような味を、この女も二千年前から知っていたというのか。
死んだ師匠という黒髪の男に抱かれて眠っていたという話には、言いようのない嫉妬が胃の底を焼いたが、同時に「温もり」に縋るしか生きる術がなかった彼女の弱さが、酷く俺の嗜虐心をそそった。
車を停め、導かれると彼女が虚空に触れる。
景色が歪み、現れたのは白亜のドーム――セトルドームだった。
甚爾「……ハッ、こりゃすげぇな。……あのアホ二人が見たら、結界ごと学校をここに引っ越しさせるとか言い出しそうだぜ」
一歩足を踏み入れた室内は、高専の古臭い木造の匂いとは無縁の、眩いばかりの未来だった。
ブルーグリーンの光のライン、意思を持つように浮遊する光の玉。重厚な呪いと因縁が渦巻く呪術界の対極にある、あまりに清潔で洗練された空間。
ナマエに促されるままソファに深く沈み込み、俺は手渡された透明な板を弄ぶ。
甚爾「食事、娯楽、カジノ……。おいおい、何でもありか。……お嬢ちゃん、こいつは良い場所だな。外のジジイ共の説教も、五条のクソみたいな面も見なくて済む」
俺は特に「カジノ」の項目を見つけ、興味本位でその深淵を覗き込んだ。画面の中では、銀河規模のネットワークを介した、未知の種族たちによる狂気のギャンブルが展開されている。
甚爾「……ははっ! 賭けるモンが次元違いすぎて笑えねぇな。……おい、ナマエ。こっちの卓じゃ星の所有権を賭けてやがるぞ。……こりゃ、競艇の比じゃねぇな。プロでも身が震えるぜ」
俺は「他星の飲み物」をサイドテーブルに実体化させ、その琥珀色の液体を煽った。濃厚で芳醇な果物を濃縮したような味に、喉の奥をパチパチと弾けるような味の刺激だけは、退屈した俺の脳を叩き起こすのに丁度良かった。
だが、画面の中のアバターを動かしながらも、俺の意識の半分以上は、正面のデスクで忙しなく指を動かす彼女の背中に注がれていた。
ナマエ「やば……撹拌器止まってるし、水槽の水抜きもしてない。……あぁもう、この地脈ポイント、臨界点でヤバそう!」
カタカタ、と光のキーボードが鳴る。
さっきまで俺の隣で震えていた小動物のような女の姿は、そこにはなかった。モニターの赤い警告を、まるで戦場を指揮する将軍のように冷徹な判断で消し去っていく。
その横顔には、二千年の時間を一人で、あるいは義務だけで繋ぎ止めてきた、圧倒的な「強さ」と、それを維持するための絶望的な「孤独」が同居していた。
甚爾(……あのアホ共は、こいつを『獲物』か『聖母』だと思ってやがる。……だが、俺には分かるぜ。……こいつは、ただの仕事人だ。……誰からも期待されず、それでも任務って鎖に繋がれて、たった一人でこの冷てぇ未来の中に立ち尽くしてやがるんだ)
呪術界の腐れたアホ共や高専の連中が神格化する「伝説」の裏側。そこにあるのは、気の遠くなるような単調な作業と、終わりなき孤独の繰り返しだ。
俺が金を稼ぐために殺しを繰り返してきた日々と、本質的には何も変わらない「生」の執着。
甚爾「……にしても、これ全部お前ひとりで管理してんのか。……二千年も、こんな広い場所で、たったひとりでか?」
俺の問いに、ナマエの指先がわずかに止まった。ブルーグリーンの光に照らされた彼女の瞳が、一瞬だけ、時の重みに耐えかねたように細められる。
ナマエ「……師匠が亡くなってから千年はそうです。……任務ですから」
その言葉の重みに、俺は無意識にグラスを握りしめた。
千年。
…千年だ。
俺たちが幾度となく生まれ変わり、骨すら残らない時間を、こいつはこの白亜の牢獄で一人、キーボードの音だけを聞いて過ごしてきた。
甚爾「……千年、なぁ。……俺なら三日で発狂して、その綺麗な壁を全部ぶち壊してるぜ」
俺はニヤリと笑って見せた。
ナマエ「……貴方ならそうでしょうね。……私も、時々そうしたくなります。……でも、壊してしまったら、私の存在理由も消えてしまうから」
彼女は自嘲気味に笑い、再びモニターへと向き直る。その小さな肩にかかる「任務」という名の荷物が、あまりに重すぎて、俺は柄にもなくそれを肩代わりしてやりたいとさえ思った。
甚爾(……ふん。……いいぜ。……せいぜいその仕事を片付けな。……終わったら、次はこの星の、もっと泥臭くて、熱の籠もった遊びを教えてやるよ。……千年の孤独が、どうでも良くなるくらいにな)
俺は不敵な笑みを浮かべ、再びカジノの画面をスワイプした。
窓の外には日本の夜が迫っている。だが、このドームの内側だけは、異世界の光と、互いの疎外感を認め合った二人の、奇妙に穏やかな時間が流れていた。
甚爾「……おい、ナマエ。このカジノ、俺の全財産を銀河通貨に換金したら、どの卓に座れる? ……勝ったら、お前をこの任務から『買い取って』やってもいいぜ?」
ナマエ「……貴方の全財産なんて、このシステムじゃエラーが出て表示すらされませんよ。……身の程を知ってください、甚爾さん」
ナマエの軽口に、俺は喉を鳴らして笑った。
この白亜の城の中で、俺はかつてないほどの充足感を感じていた。
それは、獲物を捕らえた喜びではなく、自分と同じ「穴」の中にいる者を見つけたという、孤独を知る者の共鳴だったのかもしれない。
next