女性時(ノーマル)の名前と、男装時の名前を入力してお楽しみください。
2章 囚われの魔術師
!!必読!!夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
コンビニの喧騒は、ナマエ にとってあまりに色彩が強すぎた。色とりどりの商品と賑やかなBGM。
似たような商品がいくつも並んで判別ができないほどだ。
情報量の多さに少し眩暈がしながらも、陳列棚を迷いなく横切り、商品を次々と籠に放り込む甚爾の背中を、彼女はただ呆然と見つめていた。
レジで店員と何やら言葉を交わす彼の大きな背中。その肩越しに漏れる笑い声や、プラスチックが擦れる音。
ナマエ にはその内容までは聞き取れなかったが、彼がこの星の「日常」にあまりに自然に溶け込んでいることだけは分かった。
車内に戻ると、甚爾は大きなレジ袋をガサッと無造作に放り出した。
甚爾「ほらよ。冷めねぇうちに食え」
ナマエ が顔を上げる間もなく、白くて丸い、熱を帯びた塊が口元に押し付けられる。ふわりと漂うのは、蒸したての小麦と肉の脂の匂い。
ナマエ 「あ、熱い……っ、これは?」
甚爾「肉まんだよ。遠慮すんな。どうせ高専の金だ」
甚爾はポケットから、不釣り合いなほど高級感のあるブラックカードをチラつかせると、それを車のサンバイザーにパチンと挟み込んだ。
……経費という名目の略奪か。彼はそんなことは一向に気に留めない様子で、自分用に買ったらしいチキンを豪快に口へ放り込むと、再び車を発車させた。
甚爾「肉まん、うめぇぞ。……ほら、齧ってみろ」
促されるまま、ナマエ は小さな口でその白い塊を食む。じゅわりと広がる旨味と、内側から身体を温めるような熱。その温もりが、先ほど車内で蘇った記憶の輪郭をさらに鮮明にしてしまった。
甚爾はハンドルを捌きながら、拡張バックミラー越しにナマエ をチラリと見やる。
甚爾「……おい。さっきから変な面してんな。何を思い出してた?」
その声は、先ほどまでの軽薄なものとは違い、地を這うような真剣味を帯びていた。ナマエ は肉まんを握りしめたまま、視線を窓の外へ逃がす。
ナマエ 「……少し、師匠のことを。……貴方の手の温もりが、あの人に似ていたから」
甚爾「師匠ぉ? 随分と湿っぽい話が出てきたな。……お嬢ちゃんをこんなに上等な魔術師に仕立て上げたのは、一体どこのどいつだ。……隠さず全部吐けよ。俺が納得するまでな」
甚爾は少し冗談めいた口調で言い放ったが、目は笑っていなかった。
甚爾の独占欲を孕んだ問いかけに、ナマエ は静かに瞳を閉じた。そして、ぽつり、ぽつりと、これまで誰にも語ることのなかった自身の生い立ちを紡ぎ始めた。
ナマエ 「私は……星間戦争で故郷を奪われた、捕虜でした。……生き残った子供と女性は、黒髪の魔術師たちの種族に引き取られ、奴隷に近い扱いで生活していたんです」
甚爾「……ハッ。どこの星もやることは同じかよ」
ナマエ 「でも、その中に一人、偏屈で有名な魔術師がいました。その人が私の才能を見抜き引き取り、魔術師の弟子にしてくれたんです。……彼の種族の中で、聖魔法を扱える者は少なかった。……だから師匠は、私にすべてを教えてくれました。魔術だけでなく、生きる術も。……どこへ行くのも一緒で、眠る時も私を抱きしめ、人の温かさを教えてくれた」
語るほどに、胸の奥が締め付けられる。師匠の腕の中で聞いた心音。あの時感じた安らぎ。
ナマエ 「宿儺も言っていましたが……かつて、この地球を訪れた時のことです。……この星に渦巻く負の感情の澱みは、あまりに酷すぎた。……地脈を浄化した代償として、師匠は亡くなり……この地の地脈へ、取り込まれてしまったんです」
ナマエ の声が、微かに震える。甚爾の横顔は、彫刻のように動かない。
甚爾「……なるほどな。……死んでこの地面に溶けた男の温もりを、俺の手の中に見てたってわけか。……癪に障る話だぜ」
甚爾はアクセルを強く踏み込んだ。タイヤが悲鳴を上げ、車体が激しく揺れる。
甚爾「……ハッ。死んだ奴の思い出なんてのはな、生きてる間に腐っちまうんだよ。……ナマエ 。お前が今触れてんのは、その死体の幽霊じゃねぇ。……血が通ってて、今すぐお前を食い殺せる、この俺の体温だろ」
甚爾は赤信号で車を止めると、ナマエ の顎を強引に掴み、自分の方へ向かせた。
甚爾「師匠だか何だか知らねぇが、死んだ奴にいつまでも操られてんじゃねぇ。……今お前を支配してんのは誰か、その身体に刻み込んでやるよ」
甚爾の瞳に、暗い炎が灯る。師匠への敬愛を塗り潰さんとする、剥き出しの独占欲。
ナマエ 「……っ、甚爾、さん……」
狭い車内、異邦の魔術師の心は、過去の慈愛と現在の略奪の間で激しく揺れ動いた。
甚爾「……泣きそうな面すんなよ。……お前がその師匠を忘れるまで、何度でも俺の事で頭いっぱいにさせてやるからよ」
信号が青に変わる。甚爾はナマエ の顎を離すと、不敵な笑みを浮かべて再び車を急加速させた。
麻生山の深緑が、すぐそこまで迫っていた。
next