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2章 囚われの魔術師
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※虎杖視点続き
深夜の男子寮、虎杖悠仁はベッドの上で膝を抱えていた。
目を閉じれば、あの生々しい熱と、シーツを汚した朱色が瞼の裏に焼き付いて離れない。
そんな悠仁の懊悩をあざ笑うように、頬に浮かび上がった裂け目から、呪いの王が愉悦に満ちた声を響かせた。
宿儺「悠仁……お前も気持ちよかっただろ、女の中は。――あのように瑞々しく、千年も純潔を守り抜いた極上の器、そうそう拝めるものではないぞ」
悠仁「……黙れよ、宿儺! お前が勝手にやったことだろ! 俺は、あんなこと……」
宿儺「ほう、肉体の反応は嘘をつけんぞ。……何より傑作だったのは、あの三人の大人どものツラだ。五条に夏油、それにあの呪力無しの肉塊……甚爾と言ったか。喉から手が出るほど欲していた獲物を、目の前で俺が蹂躙してやった時の、あの惨めで滑滑な嫉妬に狂った貌。最高のご馳走だったわ」
宿儺の低い笑い声が、悠仁の脳髄を直接かき乱す。三人の最強たちが、ナマエを犯す宿儺をどんな目で見つめていたか。その情景を詳細に語り聞かせる精神攻撃は、明け方まで執拗に続けられた。
***
翌朝。重い足取りで向かった食堂は、昨日までとは打って変わった奇妙な緊張感に包まれていた。
家入硝子に付き添われ、少し頼りなげに席に着くナマエ。その姿を見つけた瞬間、悠仁の心臓は早鐘を打った。
硝子「ほら悠仁、そんなところで突っ立ってないで、さっさと自分の分を運びなさい。野次馬はもう追い払ったんだから」
硝子が悠仁の名を呼んだ瞬間、ナマエの肩が微かに震えた。彼女はゆっくりと顔を上げ、アメジストの瞳を悠仁に向ける。
その瞳が、自分の名前を――自分という個体を認識したのだと悟り、悠仁は耐えきれなくなって彼女の元へ駆け寄った。
悠仁「……ナマエ、さん……っ」
硝子が「まだ安静なんだから」と制止しようとしたが、悠仁は構わずナマエの前に出て深々と頭を下げた。
悠仁「ごめんなさい! 宿儺が……俺の身体を使って、あんな、酷いことを……! 本当に、なんて謝ればいいか……」
絞り出すような謝罪。食堂にいた釘崎や伏黒、乙骨たちも、固唾を呑んでその光景を見守っている。しかし、返ってきたのは、拒絶でも怒りでもなかった。
ナマエ「……悠仁くん、謝らないで。君のせいじゃないことは、わかっているから」
ナマエは、震える悠仁の手にそっと自分の手を重ねた。まだ熱を帯びた、けれど驚くほど柔らかな感触。彼女は、悲しいほどに美しい、切ない微笑みを浮かべて続けた。
ナマエ「僕は……死にかけてたみたいなんだし。……昨日は、助けてくれて、ありがとう。君が、僕の命を繋いでくれたんだね」
悠仁「……っ、そんな……ありがとうなんて、言えるわけ……!」
悠仁の目から涙が溢れ出した。彼女は蹂躙された側であるはずなのに、加害者であるはずの自分を、聖母のような慈悲で許そうとしている。その「許し」こそが、今の悠仁にはどんな罰よりも残酷に突き刺さった。
釘崎「……ちょっと。あんな顔で笑われたら、こっちまで気まずくなるじゃない。……宿儺の野郎、本当に地獄に落ちなさいよ」
野薔薇がふぅと息を吐き、伏黒は苦虫を噛み潰したような顔で拳を握りしめている。
乙骨憂太は、彼女の微笑みに潜む「壊れそうな脆さ」を感じ取り、守りたいという欲求がさらに強く胸を焦がすのを感じていた。
一方、食堂の隅でその様子を眺めていた三人の大人たちは、各々に複雑な情念を昂らせていた。
五条「……ははっ。悠仁にだけあんな顔を見せるなんて、反則だよね。……ボクだってその顔見たかったのに。」
五条の言葉は軽いが、指先で弄んでいたフォークは、無意識のうちに飴細工のように捻じ曲げられていた。
夏油「……慈愛に満ちた聖女か。……だが、その優しさが彼女をさらに追い詰めることになる。……ナマエ、君を本当に救えるのは、そんな甘い言葉じゃないんだよ」
夏油は細めた瞳の奥で、彼女を自らの管理下に置くための、より洗練された「支配」の形を模索し始めていた。
甚爾「……礼を言う相手が違うんじゃねぇのか、魔術師。……あんなガキに縋ったって、何も変わらねぇぞ。……俺なら、その涙ごと全部飲み干してやるのによ」
甚爾は苛立ったように壁を蹴り、ポケットの中でナマエから奪った「空き瓶」を強く握りしめた。
ナマエの微笑みは、高専という名の檻の中にいる少年たちの心を救い、同時に大人たちの独占欲を暴走させる、あまりに甘美で猛毒な「合図」となった。
少年は、その手に残る微かな温もりを、一生の誓いとして刻み込んだ。
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