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1章 幻を追って
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セトルドームの白いソファに深く腰掛け、ナマエは新宿で購入したばかりの温泉雑誌を放り出した。
ページをめくる指が止まるたび、あの喧騒の中での不自然な視線が脳裏をかすめる。
ナマエ「……本当に、面倒なことになったな」
大きなサングラスで隠していたとはいえ、あの場には確かに「こちら側」を認識できる者がいた。
呪力が奇妙に揺らめく二人組。
知らない顔だったから、単なる通りすがりかと思って買い物を優先したが、あの白髪の男を呼び寄せるとは思わなかった。
ナマエ「街中に監視の目があるのか、それとも私の運命が呪術師を引き寄せる体質にでもなったのか。……地球に来て15年。今更人間相手にコソコソ逃げ回るなんてね」
独り言をこぼしながら、ナマエは冷めたハーブティーに手を伸ばした。しかし、その指がカップに触れる前に、部屋の空気が一変した。
コンソールの光パネルから、鋭い警告音が鳴り響く。
ナマエ「……地脈の異常? この数値、尋常じゃない」
映し出されたのは都内の廃学校を中心とした熱源マップだ。地脈から負のエネルギーが、泥濁の奔流となって噴出している。
これは地球そのものが悲鳴を上げている数値だ。放置すれば、強力な呪霊も複数生まれ学校周辺の空間ごと腐り落ちる。
ナマエ「呪霊を祓うだけなら、あの暑苦しい呪術師たちに任せればいい。でも、この地脈の汚染は私の領分だ。仕事は奪いたくないけど、バッティングは避けられないかな」
ナマエはため息を吐き捨てると、ソファから立ち上がった。
瞬時に魔法を編み上げ、男性化の術式を重ねる。
骨格が硬く引き締まり、可憐な少女は再びミステリアスな魔術師「アオ」へと姿を変えた。
身体能力を戦闘特化へと引き上げ、腰のポーチには念のためMP回復薬をいくつか詰め込む。
アオ「地点登録、完了。……任務開始」
パネルを強くタップすると、アオの姿は光の粒子となってセトルドームから掻き消えた。
***
一方、東京都立呪術高等専門学校。
窓を叩く不穏な風の音を背に、最強の面々が集結していた。
伊地知「緊急事態です。都内の廃学校にて、未確認の強力な呪力反応が複数。一級、あるいは特級に近い『真っ黒い個体』が既に数体発生している模様です」
五条「へぇ〜。依頼じゃなくて、突然湧いてきたわけ。ねぇ傑、これって前回のマロンモールの時と条件が似てない?」
五条悟はアイマスクの端を弄りながら、唇を不敵に歪めた。彼の「六眼」は、はるか遠方の空気が浄化を求めて震えているのを既に察知している。
夏油「そうだね、悟。人間の負の感情から生まれる通常の呪霊とは、根源の純度が違う気がする。……来るだろうね、あの子も」
夏油の細い瞳の奥に、獲物を待ち構える蛇のような執念が宿る。
甚爾「ガタガタ抜かしてねぇでさっさと行くぞ。あの野郎、今度こそこの手で捕まえて、責任取らせなきゃならねぇんだからよ」
甚爾は拳をポキポキと鳴らし、首の骨を無造作に鳴らした。彼の野生の勘が、あの夜に味わった「最高の快感」の主がそこに現れると告げていた。
五条「ねぇみんなぁ。今回もあの子来ちゃうかも。頑張って捕まえちゃおっか。今度こそ、逃がさないよ?」
真希「相変わらず物騒だな。呪霊を祓うのが先か、その魔術師を捕まえるのが先か」
釘崎「決まってんじゃない、両方よ! こんだけメンバーがいれば、アッチに勝ち目なんてないわよ。あのスカしたツラを拝んでやるんだから」
夏油「甚爾、殺しちゃダメだよ。あの子は貴重なサンプル……いや、大切な客神なんだから」
甚爾「誰が殺すかよ。……まぁ、抵抗するなら腕の一本くらいは折るかもしれねぇがな」
五条「えーっ! ダメだよ! キレイなまんま、お持ち帰りしなくちゃ! 傷一つつけたらボクが甚爾を埋めるよ?」
五条の言葉は冗談めかしているが、その圧は本物だ。
呪霊の討伐任務という建前の裏で、彼らの目的は完全に「一人の魔術師の捕獲」へと統一されていた。
***
廃学校の校庭。
アオがテレポートで降り立った瞬間、肺に突き刺さるような腐敗臭と負のエネルギーの重圧が襲った。
アオ「ひどいな……。地脈が完全に割れて漏れ出てる」
校舎の窓からは、ヘドロのような呪力が溢れ出し、既に数体の巨大な呪霊が校舎を食い破るようにして実体化していた。アオは法衣の裾を翻し、空中に魔法陣を描く。
アオ「まずは地脈の封印。その後、こいつらを浄化する。……急がないと、あのしつこい連中が……」
その懸念は、最悪のタイミングで的中した。
背後の空間がゆらぎ、呪術高専の「精鋭」たちが雪崩れ込んできたのだ。
五条「みーつけた。やっぱりいたね、魔術師さん♪」
アオの背中に、冷たく、そして熱狂を孕んだ五条の声が突き刺さる。
振り向いた先には、五条、夏油、甚爾を筆頭に、一年生と二年生が全員揃っていた。それはもはや、一つの国を滅ぼせるほどの異常な戦力だ。
甚爾「おいおい、逃げる準備か? 無駄だぜ。ここら一帯、俺たちの『庭』にさせてもらった」
夏油「前回は不覚を取ったけれど、二度は通じないよ。……君のその美しい力、ゆっくりと解析させてもらいたいんだ」
虎杖「あ、いた! やっぱり魔術師さんだ! 似顔絵よりずっとカッコいいな!」
釘崎「虎杖、見とれてる場合じゃないわよ! 逃げ道塞ぎなさい!」
アオは小さく舌打ちをした。地脈からのエネルギー噴出は止まっていない。このまま彼らとやり合えば、地脈が暴走して街一つが消える可能性がある。
アオ「……君たちは、状況が分かっていないのか? ここは遊び場じゃない。一歩間違えれば死ぬよ」
五条「死ぬ? ボクたちが? 面白いジョークだね。そんなことよりさ……」
五条がアイマスクを外し、蒼い六眼を剥き出しにした。
五条「その魔法の種明かし、ボクの腕の中でじっくり教えてよ。……もう、どこにも行かせないからさ」
アオを囲む円陣が、マロンモールの時よりも遥かに強固に、そして「逃走を許さない」という殺気に近い独愛を持って縮まっていく。
地脈の悲鳴と、最強たちの執着。
廃学校の静寂は、今、最も美しく残酷な捕獲劇の舞台へと変貌しようとしていた。
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