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1章 幻を追って
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乙骨憂太と狗巻棘が新宿から戻ったとき、呪術高専の談話室はすでに異様な熱気に包まれていた。
グループラインに投下された「銀色の髪の女性」の盗撮写真。
画質こそ荒いものの、そこに写る
虎杖「五条先生! さっきの写真、マジ!? マジであの時の魔術師さんだったのかよ!」
釘崎「ちょっと、なんで捕まえてこなかったのよ! 五条悟なら、新宿の真ん中でひっ捕まえるくらい朝飯前でしょうが!」
談話室のドアが開くやいなや、虎杖悠仁と釘崎野薔薇が五条に食らいついた。伏黒恵も背後に控え、鋭い視線で五条の回答を待っている。
五条「いやあ、元気だねえ二人とも。新宿のど真ん中で暴れるわけにもいかないでしょ? まあ、あのエネルギーの残香は本物だったよ。ボクの六眼がそう言ってる」
五条はソファに深く腰掛け、長い脚を組んだ。その口調は軽いが、唇の端に刻まれた歪な笑みが、彼自身の焦燥と愉悦を物語っている。
乙骨「……すみません。五条先生が到着される直前に、忽然と姿を消してしまって。本当に、陽炎みたいにスッと居なくなっちゃったんです」
棘「しゃけしゃけ! おかか(本当!本当!一瞬だった。)」
狗巻が激しく首を振りながら、乙骨の言葉に同意した。あの場にいた二人にしか分からない、あまりにも鮮やかな消失劇。
夏油「……座りなよ、憂太、棘。聞かせてくれ。その『魔術師さん』は、新宿で何をしていたんだい?」
夏油傑が、冷めたコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、静かに問いかけた。
彼の瞳には、知的好奇心を装ったドロリとした執着が宿っている。五条はステーキ屋で乙骨から聞き出した詳細を、自慢げに披露し始めた。
五条「それがさ、案外普通なんだよね。地方のグルメ雑誌に温泉の特集。あとはファンタジーやミステリー小説。可愛い雑貨なんかも眺めて楽しそうにしてたってさ」
夏油「温泉にグルメ……。10年も目撃情報がなかったのは、あまりにもこの世界に、日常に、馴染みすぎていたからかもしれないね」
恵「……地方の雑誌って、具体的にどの地方でした? 温泉地を拠点にしている可能性はないですか。それとも、あちこちを転々としているのか」
乙骨「ええと、確か九州のドライブグルメ、それに青森や沖縄の特集もありました。どれか一箇所というより、日本中をリサーチしているような感じで」
釘崎「地域密着型なら、実際に行ってる可能性高くない? 温泉巡りなんて、趣味が女子力高すぎでしょ。……あーもう、今すぐ全県指名手配したいわ!」
虎杖「じゃあ、今はたまたま東京にいるだけってことか……。またどこか遠くに行っちゃうかもしれないのかよ」
虎杖の顔に落胆の色が広がる。あの夜、自分を助けてくれたあの光の主が、また雲を掴むような存在に戻ってしまうことが耐えられなかった。
五条「早いうちに仕留めたいのはやまやまだけどね。あの逃げ足でしょ? 本気で透明化されたら、ボクの六眼でも、傑の呪霊でも、香りを追うのが精一杯だよ」
夏油「ハッキリとした手掛かりは今のところ、あの甘い香りだけ、か。……だが、彼が『物語』や『旅』に興味を示しているという事実は大きい」
夏油は細い指で顎をさすり、獲物を罠に誘い出すための筋道を脳内で組み立てていた。
その様子を背後の壁際で黙って聞いていた甚爾が、重苦しい沈黙を破って鼻を鳴らした。
甚爾「ケッ、どいつもこいつもガキみたいな妄想に耽りやがって。温泉だの小説だの……そんなもん、捕まえて吐かせりゃ済む話だろ」
釘崎「その捕まえるのが難しいから、みんなで知恵絞ってんでしょうが! あんたこそ、あの時に捕まえられなかったくせに!」
甚爾「……あぁ? てめぇ、死にてぇのか」
甚爾の瞳に野性的な殺気が宿り、釘崎がわずかに身を引く。
だが甚爾の苛立ちは釘崎に向けられたものではない。実体の掴めない、あの「光」を放った不遜な獲物。
自分の肉体を溶かし、魂まで蕩けさせたあの魔術師が、今この瞬間も新宿の雑踏を笑って歩いているという事実に、腹の底が焼け付くように熱かった。
五条「まあまあ、甚爾もそんなに怒らないでよ。あの子が『普通に生活している』って分かっただけで大収穫だよ」
五条は、乙骨が撮った写真をスマートフォンの画面に映し出した。
五条「銀色の髪、白皙の肌。バケットハットの下に隠された、あの宝石みたいな瞳。……ねえ傑、今度はさ、逃がさないための『専用の罠』でも用意しなきゃいけないかな?」
夏油「罠……。いい響きだね。だが、まずはその羽を毟るための、最高に魅力的な餌を考えようじゃないか」
特級二人の視線が、スマホ越しの「銀色の髪」に集中する。
虎杖は二人の不穏な空気に首を傾げ、恵は密かに自分の手帳に「温泉」「九州」「青森」と書き込んだ。
高専の中に漂う、甘い香りの余韻と、それを独占したいという狂気。
ナマエが新宿で買い込んだ「楽しみ」は、彼女が思う以上に、怪物たちの執念を燃え上がらせるための薪となっていた。
ナマエ「(……くしゅんっ!)」
その頃、山奥のセトルドームで買ってきた雑誌を広げていたナマエは、背筋に走る言いようのない寒気に、思わず自分の肩を抱いた。
ナマエ「……誰か、私のこと噂してる? それも、相当ろくでもない内容で」
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