このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

サロン

サロン。それはトレーナー同士が親睦を深めるための施設。

様々なトレーナーが訪れることを想定しているからだろうか、落ち着いた雰囲気の部屋だ。
けれどそんな調度品の中に紛れてピカチュウとナゾノクサのぬいぐるみがちょこんと座っていたり、大きなカビゴンのぬいぐるみが鎮座していたり。
女子供向けと思われるそれらを見やり、カルミアはくすりと笑みを浮かべた。

「ねぇレッドさん、カビゴンですよ」

ふかふかのそれを指でつつきながら、レッドの手持ちのカビゴンを思い出す。
あの子はキョダイマックスできる子で、初めてお腹に森林が生えている姿を見たときは驚いたものだ。

「…………」

大きな窓から中庭を覗いていたレッドは、カルミアを振り返ると優しく微笑む。
その背後ではシキジカがのんびりと日向で寝転んでいた。

「素敵な部屋ですね。ここならゆっくりできそう」
「…………」

頷くレッド。その表情もいつものキリッとしたものと比べて優しげだ。
ふと、カルミアはイーゼルに立てかけられたアルバムに視線が止まる。
なんとなく手に取り、パラパラと捲る。

「あ、Nさんとトウヤさんだ」

こちらにやって来たレッドにアルバムを示す。

「ここで撮った写真でしょうか?ふふ、楽しそう」
「…………」

示した写真を見やると、レッドも笑う。

「そういえば、レッドさんはポリゴンフォン持ってないんですよね?」
「……?」

少し不思議そうに頷くレッド。
カルミアは少し逡巡した後、勇気を出して次の言葉を放つ。

「あの……それなら、私のポリゴンフォンで……いっ一緒に撮りませんか?写真」

レッドの目が丸くなる。
顔が熱い。それでも、一緒に写りたいのだ。

「…………だ、ダメ……でしょうか?」

思わず眉が下がる。そんなカルミアを見て、レッドは優しくほほ笑んだ。
ぽん、とカルミアの頭を撫でる。これは承諾してくれたということだ。

「! ありがとうございますっ」

ぱぁと表情が明るくなる。
早速ポリゴンフォンを取り出し、カメラを立ち上げた。

「それじゃ早速………あ」

レッドに向き直り、写真を取ろうとした所でようやく思い至る。
そうだ。自撮りで一緒に写ろうとするなら、肩を寄せ合う必要がある。

「…………?」

急に黙ってしまったカルミアに対して不思議そうに首を傾げるレッド。
自分から提案した手前、やっぱり止めようとは言い難い。それに。

(………やっぱりレッドさんと写真撮りたい!)

意を決し、カルミアは顔を上げた。

「な、なんでもありません!早く撮りましょう!」

高鳴る鼓動を誤魔化すように笑って、レッドの隣に立つ。
大丈夫、ただ写真を撮るだけだ。すぐに終わるのだから。

そう言い聞かせつつ、ポリゴンフォンを掲げる。

しかし、

「あ、あれ……?」

カルミアの腕では、どんなに伸ばしても上手く2人が画面に収まらない。
上手く2人で写るには、シャッター係をレッドに代わるか……もっと密着する必要がある。

「――!!」

不意にレッドに肩を抱かれ、端正な横顔がぐっとこちらに寄った。写真を意識してだろうか、いつもカルミアに向けるような優しい微笑みを浮かべている。

一瞬で鼓動が早鐘を打つ。
そこからどうすることも出来ずに、まるで金縛りにあったかの様に立ち尽くすカルミア。

「…………?」

一向にシャッターを切らないカルミアを不思議に思ったのか、レッドがこちらを見やる。


「…………カルミア?」


カルミアでさえ滅多に聞けないレッドの声。
それが耳元で自分の名を呼んだ。
思わずポリゴンフォンを取り落とす。床に落ちる前にレッドがキャッチしてくれたが、それを気にかける余裕がない。

「ぁ――っごめ、なさ」

思わず口元を押さえ、離れようとした。
しかし、それをレッドの手が阻む。
強く掴まれている訳でもないのに、振り払えない。肩を抱かれたまま、顔を背ける。もう耳まで真っ赤だ。

「ご、ごめんなさい、レッドさん!やっぱり写真はまたの機会に――」

言葉を遮るように、肩を掴む力が僅かに増した。まるで、こっちを見て、と促されているような気がして、のろのろと顔を向ける。

「……っ」

黒曜の瞳が、こちらを見ている。
存外大きなその瞳に、ぼうと見惚れる自分が映っていた。

「レッド、さん……」

囁くように彼の名を呼ぶ。
欲目だろうか、目を細めるレッドの表情もどこか熱っぽく見える気がして、更に身体の熱が上がる。

「…………」

ゆっくりと顔を寄せてくるその様がまるでスローモーションの様に感じる。もう何もかもに耐えられず、カルミアは思わずきつく目をつむった。

永遠にも思える数瞬。
己の心音しか聞こえない空間で、不意に前髪をかき分け、柔らかな何かが触れた。

「――っ」

反射的に肩が跳ねる。それが合図だったかのように、柔らかなソレはあっさりと離れて行った。

恐る恐る目を開けると、すでにレッドの顔はいつもの距離に戻っていた。いつの間にか肩を掴む手も離れていて、まるで先程の事はすべて白昼夢だったかのような錯覚に陥る。

しかし


「…………」


そっぽを向くレッドの耳が真っ赤で。
それを見てようやく額に触れたものの正体に思い至り、カルミアは大きく身じろいだ。

「あ……っあの……その………っ!?」

額を押さえて口をぱくぱくさせるカルミアに、レッドは無言でポリゴンフォンを差し出す。
反射的にそれを受け取りはしたが、手に力が入らない。慌てて両手で握りしめ、なんとか持つことに成功した。

「れ……れっど、さん……い、いまのっ…………あのっ」

自分でも何を言いたいのか分からないが、とにかく何かを言わなければならない気がした。
それは彼も同じだったのだろうか。囁くように、レッドは言葉を紡ぐ。

「…………もう少し。この距離に、慣れてから……写真を撮ろう」

ぽかんと口を開けたカルミアを一撫ですると、帽子のつばを指先で下ろし顔を隠した。
反射的にずるい、と思ってしまった。カルミアもうつむくことで顔を隠す。

「は……はい」

やっとのことでそう返答すると、また頭を撫でられる。胸の奥がきゅうとして、下手をしたら泣いてしまいそうになる。それでも。


(なんてしあわせなのかしら)


にやける口元を手の甲で隠し、カルミアは大きな大きなこの感情を噛み締めていた。
 
1/1ページ
    スキ