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成長

レッドに鍛えてもらうようになってから、早数ヶ月。彼の教えはまだまだバトル初心者のカルミアにとっては難しいものも多く、また数々のバトルをくぐり抜けてきたそのセンスとも言える感覚的な教えは中々上手く汲み取ることができない。
それでも、必死に食らいついてきた。
パートナーのフシギダネと共に。
たくさん教えられた、たくさん支えられた。
レッドだけでなく、リーフやグリーンもカルミアたちを鍛えてくれた。
自分がちゃんと強くなれているか不安もあったけれど、決して諦めなかった。
それらの努力は着実に実を結んでいった。目に見えない形でも、目に見える進化という形でも。
カルミアも少しずつ自信を重ねていった。常に不安の影はあったが、それでも、一歩ずつ。

それらはすべて、今この瞬間のために。


「クコちゃん!パワーウィップ!」

フシギソウの蔦が相手のポケモンを捉えた。
それは決定打となり、相手はついに膝をついた。

「く……っ!」

歯ぎしりするトレーナーの男。その顔には、例の仮面。

(勝った……!勝てた!!)

ドクドクと脈打つ心臓を胸の上から抑え、大きく息を吐く。
子供のトレーナーがブレイク団に絡まれているのを偶然見つけた時。今が勝負所だ、と咄嗟に思った。
子供を庇い、自分が代わりにバトルコートへ立った。
トラウマを振り切るように、ただがむしゃらに戦った。
それはレッド達の教えを拙くも確実に映したもので。

積み重ねた努力は、カルミアに勝利をもたらした。

「帰って……ください!」

声が震えないよう、必死に力を入れて声を出す。
この世界ではポケモンバトルの勝敗がすべてだ。この場の勝者であるカルミアの要求を、敗者はただ呑むしかない。筈だった。

「クコちゃん…!」

フシギソウがよろける。
勝負には勝ったものの、それはギリギリの勝利だったのだ。
フシギソウは立っているのも辛そうで、今にも倒れそうだ。

それを相手も分かっていた。
ひんしになった手持ちを戻したその足でカルミアへ近付いてくる。

「っな、なんですか……!?」

手首を掴まれ、ぐいと高く捻り上げられる。
ギャウ!とフシギソウが鳴いた。

「ぃ………っ!」
「……手ぶらで帰る訳にはいかねぇ!お前のポケモンはもう動けないみたいだし、お前さえなんとかすれば……!」

信じられない思いで相手を見上げる。
仮面の奥、ギラギラとした瞳が冷たくカルミアを見下ろす。

「や、やだっ離して!!」
「大人しくしろ!今すぐあのフシギソウを戻せ!」
「いた……!!」

咄嗟に肩を押さえて身をよじるも、捻り上げられた腕が軋むだけだ。

「ギャウ!ギャウッ!!」
「く、クコちゃ……っ」
「早くしろ!!」

フシギソウが必死に技を出そうとしている。それを制したい男は更にカルミアを掴む腕に力を入れた。
痛みに呻くことしかできないカルミアは、それでも。
キッと相手を睨みつける。

「嫌よ!!」

もう、負けたくない。
あの日の自分には、戻らない。

「この……!!」
「っ」

男が拳を握り、振りかぶる。
キツく目をつむった。痛みを覚悟し、歯を食いしばる。
しかし、いつまで経っても痛みがカルミアを襲うことはなかった。

「……?」

恐る恐る目を開くと、男のひどく怯えた様子が目に入る。
その視線は、カルミアではなく。その背後を捉えていた。


「…………離せ」


低く、地を這うような声がした。
それはカルミアも初めて聞く声だった。思わず肩を跳ねさせる。
カルミアさえ当てられそうな怒気をまともにぶつけられた男は、数秒呻いた後、くそっ!という小さな呟きを吐いてカルミアの腕を解放した。

よろめき、へたり込みそうなカルミアを抱きとめたその人物は、しばし男の逃げて言った方向を睨んでいたが、そっとカルミアへと視線を移した。

「…………カルミア」
「レッド……さん」

その声がいつもの声音に戻り、ようやくカルミアは肩の力を抜いた。

「く、クコちゃん……が」
「おう、もう大丈夫だ」

見やれば、グリーンとリーフがフシギソウのケアをしてくれていた。ギャウ、とフシギソウも小さく鳴いた。
ほっとへたり込みそうな自分を鼓舞しながら、なんとかその場に立つ。

「トレーナーにも手を出そうとするなんて、サイテー!……カルミアちゃん、大丈夫?」

こちらを気遣うリーフの言葉に、忘れていた腕の痛みが蘇ってくる。じんじんと痛む肩を押さえ、はい、となんとか返すと、レッドに振り返る。

「レッド、さん……」
「…………」
「か、勝ち……ました」
「…………うん」
「ブレイク団、に……勝ちました……!!」

言葉にした途端ボロボロと頬を大粒の涙がこぼれ落ちていく。
怖かったけど、痛かったけど、それでも。
無我夢中で掴みとった勝利。

「〜〜うわぁぁん……!!」

大声を上げて泣きだしてしまったカルミアの頭を、レッドは優しく数回ぽんぽんと撫でた。


***


ベッドの上で穏やかな寝息を立てる少女。
その目尻に浮かんだ涙を指先で拭う。

「…………」

カルミアはよく頑張った。
彼女が助けたトレーナーが、カルミアを助けてくれ、と必死に訴えているのを聞き、急いで現場に向かったものの。
自分たちが鍛えたカルミアならば、きっと負けはしない、と信じていた。

けれど、バトルに辛勝した彼女が直接危害を加えられそうになっているのが目に飛び込んできた瞬間。
目の奥がカッと熱くなり、気付けばありったけの怒気を相手に向けていた。

「…………」

我を忘れたのはいつぶりだろうか。
ジムを制覇し、チャンピオンになり、パシオへ来て。ちょっとやそっとじゃ揺るがない精神も手に入れたと思っていたけれど。

「…………カルミア」

そっと少女の名を呼ぶ。
半袖から覗く包帯。湿布を固定するためのものだと分かってはいるが、やはり痛々しい。

柔く指を握る。
カルミアはぴくりと動くと、むにゃむにゃ言いながらこちらへ寝返りを打った。

「れっど……さん……わたひ…………かった…………へへ」
「…………」

思わず頬が緩む。
そっと、頭を数度撫でた。

「…………頑張ったな」

その呟きは、後日改めてカルミアへと贈られるだろう。


***


治療を受けるべく医務室へと向かったカルミアとそれに付き添うレッドを見送り、グリーンは長いため息をついた。

「何よ、ため息なんてついて」
「あいつがあそこまで怒ってるの見るの、何年ぶりだろうな」
「さぁ……6歳の時、グリーンがレッドのピッピ人形破っちゃった時とか?」
「……あん時もヤバかった」

遠くを見るグリーンに、今度はリーフがため息をついた。

「普段怒らない人が怒ると怖いとはよく言うけど……そっかー。レッドにとってカルミアちゃんはそこまで大きな存在になってたのね」
「なんだよ、寂しいのか?」
「ちょっとね。私たち、幼なじみだし。ずっと一緒だったじゃない」
「……まぁな」
「そっかー、恋人かぁ」
「は?まだ付き合うとは決まってないだろ」
「あれー?グリーンくんもやっぱり寂しいんだ?」
「ばっか、ちげぇよ」

やいやいと言い合う2人。
幼なじみのレッドがカルミアの元へ行くのは一抹の寂しさもあるけれど。それ以上に、2人は彼らを祝福するだろう。

しかし彼ら両方ともあまりに長く無自覚片想いを続けるものだから、痺れを切らした2人があれこれと画策することになるのは、また別の話。
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